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2023.07.12 18:00

ケイト・ブランシェットが見た、映画界における男女格差【カンヌ国際映画祭】

  • Atsuko Tatsuta

第76回カンヌ国際映画祭期間中の5月20日(土)に開催されたケリング主催「ウーマン・イン・モーション」のトークイベントに、ケイト・ブランシェットがプロデューサーのココ・フランチーニと共に登壇しました。

ココ・フランチーニ、ケイト・ブランシェット Photo by Vittorio Zunino Celotto/Getty Images

「ある視点」部門に選出されたワーウィック・ソーントン監督『The New Boy』のためにカンヌ入りしたケイト・ブランシェット。夫で演出家のアンドリュー・アプトンとともに製作会社「ダーティ・フィルムズ」を設立したブランシェットは、『The New Boy』では出演だけでなくプロデューサーも務めています。また、『The New Boy』でブランシェットと共にプロデューサーを務めているのが、朋友のココ・フランチーニです。

今回のトークイベントでは、映画業界の表も裏も知り尽くしたブランシェットとフランチーニが、互いにリスペクトしている部分や、業界における女性躍進の実情について熱く対談。その模様をお届けします。

──昨日のプレミア上映、おめでとうございます。劇場で観客と一緒に観たご感想は?
ブランシェット スカーレット・ピクチャーズと共同製作した『The New Boy』は、私たちが大好きな監督の一人で、オーストラリア先住民でもある素晴らしいワーウィック・ソーントンによる作品です。彼は15年ほど前に『サムソンとデリラ』(09年)でカンヌのカメラドールを受賞しています。なので彼にとっても、また彼の後を追う私たちにとっても、この映画祭に戻ってこられたことは本当に意味深いですし、この作品を誇りに思っています。上映もうまくいったと思います。

『The New Boy』

──『The New Boy』についてのお話も伺いたいのですが、まずはお二人がプロデュースパートナーになった経緯についてお聞かせください。ドラマ『ミセス・アメリカ~時代に挑んだ女たち~』(20年)で知り合ったのですよね?
フランチーニ はい、私たちはあの作品で出会い、約3年前にケイトとアンドリューの「ダーティ・フィルムズ」のメンバーに加わりました。“3”は私たちのラッキーナンバーです。今年は映画が3本公開されますしね。サンダンス映画祭で『Shayda』が上映され、ここカンヌで『The New Boy』がプレミアされ、そして秋にはApple TV+で『Fingernails』が配信されます。『ミセス・アメリカ』には優秀なスタッフが大勢関わっていて、私たちは共に、周りの製作スタッフに対して真剣に向き合ってきました。そうした姿勢に惹かれ合い、ドラマシリーズが終わったときにパートナーを組むことになりました。

ブランシェット ココとは最高の対話を重ねられました。それぞれ仕事に意欲的に取り組んできましたが、映画作りでは“対話”が重要です。アンドリューは仕事でも人生においてもパートナーですが、ココとの対話からも、本当に元気をもらえます。思いもよらない質問をしたり、仕事のやり方や思い込みに対しても、いつも違った方法を提案してくれます。そういう人が側にいることはとても良いことですし、物事がより確実なものになると感じます。

『ミセス・アメリカ』での仕事は、まさにそれを体現していました。ココは、ロール・ドゥ・クレルモン=トネール、そしてジャニクサ・ブラヴォーという素晴らしい監督たちを起用してくれました。私たちは似たような感覚を持っているのですが、一緒に進化できたのがとても良かったと思います。

フランチーニ そうですね。私はケイトのような映画製作者たちをサポートするために働いています。プロデューサーの仕事は、製作者のビジョンを100%サポートすることですからね。だから私たちはチームを組みました。

Photo by Vittorio Zunino Celotto/Getty Images

──ココのプロデューサーとしてのこれまでのキャリアを教えてください。
フランチーニ 私はこれまで色々な仕事に就いてきましたが、それはプロデューサーとして良いことだったと思います。特にクエンティン・タランティーノとは何年も仕事をしましたが、その経験が映画製作での仕事の仕方に大きな影響を与えました。私はプロデューサーですが、時に宣伝担当のように動くこともあります。10年前にはザック・ブラフの映画のために、インターネットで310万ドルを集めたこともありました。プロデューサーの仕事は、物事を成立させるための方法を見つけることが全てです。私のキャリアのはじまりから現在に至るまで、そのことにずっと取り組んできました。

──ケイトはいつ頃からプロデュースに興味を持ち、そういった仕事をしたいと思うようになったのでしょうか?
ブランシェット アメリカでよく使われる、ある素晴らしいフレーズに興味がありました。“from soup to nuts”(はじめから終わりまで)という言葉です。

私はよく「なぜその役を演じようと思ったのか?」と聞かれますが、そういうことではないんです。その役が重要だと感じたことはこれまで一度もなく、誰と対話して作品を作り上げるのか、ということを重要視してきました。だから作品を作り出すまでの工程、つまり、撮影やポストプロダクションから配給、マーケティングに至るまでのすべてに興味がありました。

アンドリューと私は約10年間シアター・カンパニーの運営に携わりましたが、新進のパフォーミングアーティストや中堅からベテランのアーティストたちの作品を製作し、彼らを互いに対話させる経験は、本当に素晴らしいものでした。そういった仕事は私にとって、俳優の仕事の延長線上にあるものです。

私とアンドリューは、映画製作においても大小問わずさまざまな仕事をこなしてきました。オーストラリアではそうやって映画を製作してきたのですが、ココと一緒に映画作りについて話す中で、改めてその方法を認識できたのは良かったですね。プロデューサーとは、色んな役割を担って働かなければいけない、ということを。

フランチーニ コーヒーを配ったりとか。

ブランシェット はい、コーヒー配りもやりますよ。

映画製作の現場においてしばしば失われがちなのは、関わる人たちとのクリエイティブな対話だと思います。その部分を守って行かなければいけない。重要で意味のある質問を投げかけ、製作者たちのクリエイティブなビジョンをサポートすること。その視点が、俳優としての仕事の延長線上にあると感じています。

Photo by Vittorio Zunino Celotto/Getty Images

──ココにお聞きします。ケイトは俳優として多くの経験を積んでいますが、そのキャリアは、彼女のプロデューサーとしての仕事にどう影響を与えていると思いますか?
フランチーニ ケイトが言っていたように、映画製作には長いプロセスがあります。一つが終わったとしても、その次のプロセスが生まれていく。ケイトはこれまでの長いキャリアの中で、その全体像を現場で実践的に見て学んできたわけですよね。だから彼女は、映画のマーケティングにも非常に長けている。クリエイティブな洞察力があるので、『ミセス・アメリカ』を撮ったときには、一緒に作品の核を浮かび上がらせていくことにも協力してくれました。彼女には、それぞれのキャラクターが何を必要としているのか、何を言おうとしているのか、微細な部分から大きな部分まで、その核心を掴む力があります。だから私もプロデューサーとして、俳優である彼女と仕事をするのはとても興味深いことです。私とは物の見方が違うから、いつもとても勉強になります。

──ケイトは『The New Boy』に俳優として出演もされていますが、「ダーティ・フィルムズ」が手がける作品にはほぼ出演せず、カメラの裏側にいますよね。演じるか裏方に回るかは、どう選択しているのでしょう?
ブランシェット 私は俳優業に執着していません。これまでプロとして生きてきた間ずっと、演技をやめようと思ってきました。思い出深いのは、キャリアの本当に初期の頃、あるオーストラリアの映画監督に、「小さな役を演じるのはやめたほうがいい」と言われたことです。私は「なぜ?」と思いました。その役はかなり面白い役でしたし、主役ではないけれどその役が良いと思いました。その役で色々と試してみて、あのセット、あのロケーション、あの俳優、あの監督と対話がしたいと本当に思いました。

アンドリューと私がシドニー・シアター・カンパニーの運営を任されていた頃の話ですが、私たちは大小さまざまな作品を演出し、プロデュースしていました。それらの作品の初日の夜、幸運を祈りながら送り出した俳優たちが舞台に上がったのを客席から見届けて、ようやく深い安堵感を覚えたことを思い出します。その時に感じたのは、仕事の緊張感は、俳優でも製作でもどれも全く同じだということです。

先ほども言ったように、私は演じること云々よりも、仕事では何より“対話”を重視しています。その対話は、レンズの前で生まれることもあれば、後ろで生まれることもある。それは私にとってどちらも同じくらいクリエイティブなことです。

──『ミセス・アメリカ』は、エピソード監督のほとんどが女性でしたね。あのストーリーで女性を起用したことは特別な取り組みだったように感じます。それについて少しお話いただけますか?
ブランシェット ある日テーブルを囲んで、監督のリストを作ろうとなった時、あっという間に17人の女性監督のリストができあがりました。彼女たちは皆、完璧な適性のある、有能でインスピレーションを与えてくれる人たちばかりです。そして、「ああ、どうしよう。誰が引き受けてくれるかしら。8話しかないのに」となりました。そう、最初は8話だったのですが、最終的に9話になりました。

フランチーニ まずは6話で、それから8話、9話になりました。

ブランシェット そうですね、どんどん拡大しました。とてもエキサイティングでしたね。あの番組を作っている女性たちは、常に自分のベストを尽くしていたし、業界がこれまでいかに怠慢で、無視してきたか、それによっていかに女性たちが不利益を被ってきたかということに気づいていました。ドラマの物語にも、深い倦怠感と同質性がありました。作品も、それを作るレンズの向こう側の製作者たちも、同質的な状況に置かれていたのです。

多様な視点……つまり性別や性的指向、文化の多様性、感情の多様性、世代的な多様性まで。そういった視点は間違いなく重要です。その視点さえあれば仕事は本当に素晴らしいものになりますし、だからこそ『ミセス・アメリカ』はあのような作品になったのだと思います。

フランチーニ クルーもそれを理解していました。撮影監督の一人であるジェシカ・リー・ガニェがまさにそうでしたね。当時31歳のフランス系カナダ人で、ベン・スティラーと仕事をしていますが、素晴らしい撮影監督です。

私たちはクルー全員、一人ひとりに対して、どのポジションでも必ず採用の際に女性と有色人種の方に面接するというルールを設けました。その結果、それまで見つけることもできなかった非常に優秀な人たちと出会うことでき、素晴らしいクルーに恵まれました。そしてカメラの後ろにも、もちろん監督だけでなくたくさんの女性スタッフがいます。

──すべてのプロジェクトで、女性や非白人の方と面接しているのですか?
フランチーニ その通りです。

ブランシェット 重要なことだと思います。「なぜ今までしなかったの?」とさえ思います。「この会話をすること自体正しいの?」と。あなたを叱っているわけではありませんよ(笑)。

──この会話は本来不要であり、でも今はする必要がある。なぜならこういった議論をしなければ、今後も状況は改善されませんよね。
ブランシェット “映画界における女性について”というテーマのインタビューが世の中からなくなることを楽しみにしています。そうなるということは、もうそれは問題ではなくなったということですからね。

私たちは二人とも、撮影現場に入った時、疎外感を感じたりイライラした経験があります。例えばキャストの中で女性が私1人、男性が62人、ということもありました。その時、「この比率はまずいな。また明日やってみよう」となって、「よし、男37人、女3人だ。まだダメか」なんてね。7対3くらいの比率ですらないのですよ。本当に不釣り合いです。そうすると、常に(男性による)同じジョークで笑うことになります。本当にいつも同じジョークでね。そうやって時が過ぎていく。

Photo by Vittorio Zunino Celotto/Getty Images

──この仕事を始めてから、業界で働く女性の変化はありますか?
ブランシェット 多様性は最重要課題だと思いますし、人々が多様性について会話をする場面も増えたと感じます。そして、製作の全てのプロセスで多様性が実現するまで、私たちは議論し続ける必要があります。

ここ数年、私が俳優として映画界に入った頃よりも多くの変化が起きていると、確かに実感しています。正直、メディアがそう広めていったようにも感じますが、以前は「女性は女性にとっても競争相手であり、協力者ではない」という感じでした。でも、そうではない。私たちは自然と協力し合えるし、女性たちがお互いに背中を押し合えることに私は気づきました。

例えば賃金を引き上げる力を持つ女性たちと、自分の意見を主張する立場にない女性たちがいるとする。その場合、双方の女性たちが一緒に協力して、現場で声を上げるようになることが大事ですよね。

──まさにその通りですね。さて、いま映画業界ではかつてないほどコンテンツに溢れ、新しい意見を取り入れる雰囲気も生まれています。それはポジティブなことでもありますが、作品が飽和状態の中で、目立つことの難しさもあるのではないでしょうか?
ブランシェット 製作資金を得やすい状況かもしれませんね。でも、ビジネスパートナーとしてその相手が適切か、という不安もあります。確かにたくさんの作品が作られていますが、上手く作られていない作品も多くあります。多少出資額が少なかったとしても、本当に勇気のあるパートナーに協力してもらえれば、良い作品が生まれると思います。

フランチーニ 国際的な作家や女性の映画製作者による作品に触れる機会が増えた思います。今はかつてないほど、そういった作品を作ることに重点が置かれていると思いますし、私たちにとっても非常に喜ばしいことです。でも、生み出されるだけではなく、それを観てもらうことが重要です。

ブランシェット そういった作品がどのように観られているのか、ということもですね。

フランチーニ そう、どのように観られているのか。映画館で映画を観ることは、間違いなく素晴らしい体験です。ここ数年は確かに大変な時期を過ごしましたが、映画製作における変化、つまり新しい視点が芽生えたという点では、素晴らしい変化だったと思います。

──映画館といえば、いま好調なのは大型フランチャイズのスーパーヒーロー映画ですね。
ブランシェット そうなんですか?

──そうですよ。
ブランシェット 良いことですね。

──それについてはどう思われますか? ハリウッドはより新鮮なアイデア、新しい発想で成功を掴む必要があると思いますか?
ブランシェット 実は“ハリウッド”の意味が分からないんです。“ハリウッド”はTシャツのスローガンみたいなもの、つまり、“捉え方”だと思うんです。オーストラリアでもフランスでもドイツでも、ハリウッド的な考え方をする人はいますから。

健全な産業とは、規模が多様であることだと思います。メディアでよく言われることですが、「リンゴとオレンジ」のようなものですよ。だって、2億5,000万ドルで作られた映画と150万ドルで作られた映画の狙いやリソースを、どうやって比較できるのでしょうか? 私は俳優として、さまざまなスケールの作品に出演することを楽しんできました。

興行収入の話をするのであれば、それらの映画が上映されるスクリーンの数も見なければなりません。例えば、昨年トッド・フィールドと一緒に作った映画(『TAR/ター』)がそうです。彼はこの作品の公開方法にもとてもこだわりました。アメリカでは、最初は4スクリーンでしか公開されませんでした。みんなその興行収入を見て、「ああ、あまり上手くいかなかったね」と言っていましたが、でも、4スクリーンでの公開だったんですよ。驚異的な数字です。1,000スクリーンでスタートしたわけではありません。そうやってニッチなところから始めた方が、成功する場合もあるのですから。作品が最終的にどうなったかを見ることは、とても重要なことです。いわゆるブロックバスターと呼ばれる作品が、本当にブロックバスターなのかどうかも。

ちなみに私は、ジュリア・ロバーツやジョージ・クルーニーの作品を観に行くのが好きです。二人とも大好きです。好きじゃない人はいないでしょう?

『TAR/ター』© 2022 FOCUS FEATURES LLC.

──誰もが好きですね。では、女性としてプロジェクトに資金提供を受けるのは難しいと感じますか?
フランチーニ 間違いなくそうですね。

ブランシェット 女優としてお金をもらうのも難しいですよ。

フランチーニ はい、間違いありません。つまり、まだそのレベルまでは達していない。それでも前進しているとは思います。

ブランシェット 透明性が非常に重要ですね。いつも「お金について話してはいけない」と言われますが、なぜお金の話をしないのでしょう? 私たちはいつも、製作過程に関わる全てについてしっかり話しています。そうやって透明化することは、良いことだと思います。結果、お金がどのように流れていて、どこに流れる必要があるのか、どこにまだ流れていないのかを知ることができますから。

──最後に観客からの質問に答えていただきましょう。「今後、一緒に仕事をしたいと思う映画監督はいますか?また、ココさんはプロデューサーや他の仕事もされてきましたが、監督という仕事にも興味はありますか?」
ブランシェット 私はルクレシア・マルテル監督です。

フランチーニ 私はジャニクサ・ブラヴォー監督ですね。『ミセス・アメリカ』で一緒に仕事をしましたが、素晴らしい経験でした。なので彼女とはまた仕事をしたいと思っています。また、アントネータ・アラマット・クシヤノヴィッチ監督は、数年前にカンヌでカメラドールを受賞した『ムリナ』(21年)という素晴らしいクロアチア映画を監督しています。彼女とも仕事をしたいです。男性ももちろんいますよ。あとは、ジェニー・シュン。彼女とは香港で映画を作る予定です。仕事をしたいと思う人は尽きないですね。

監督はやってみたいと思っています。実際に話が出たこともあります。普段から、数多くの素晴らしい映画製作者と仕事をしていますから。

Photo by Vittorio Zunino Celotto/Getty Images

──ありがとうございました!

※本記事は、トークイベントの抄訳です。