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2020.10.20 17:00

『朝が来る』河瀨直美監督、永作博美、井浦新が「ウーマン・イン・モーション」トークイベントに登場

  • Fan's Voice Staff

カンヌ国際映画祭のオフィシャルパートナーであるケリングが、映画業界における女性の地位の向上や格差是正を目的として実施している「ウーマン・イン・モーション」のトークイベントが都内で開催され、10月23日(金)公開予定の映画『朝が来る』の河瀨直美監督、主演の永作博美、井浦新が登壇しました。

永作博美、河瀨直美(監督)、井浦新

直木賞・本屋大賞受賞のベストセラー作家・辻村深月によるヒューマンミステリーの映画化である『朝が来る』は、実の子を持てなかった夫婦と、実の子を育てることができなかった14歳の少女を繋ぐ「特別養子縁組」によって、新たに芽生える家族の絆と葛藤を描いた胸を揺さぶるヒューマンドラマです。新型コロナウイルスの蔓延により開催中止となった第73回カンヌ国際映画祭で上映予定だった、56本のオフィシャル・セレクション「Cannes 2020」に選出されています。

カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)を受賞してから20年以上に渡り、世界を舞台に活躍し続ける河瀨監督。「長いようであっという間だった…」と振り返りながら、「女性=特別、という感覚になってしまうのは不思議ですよね。“女性監督”というのは特殊な表現だと思います。それでも、近年、映画や映像業界で活躍する女性は増えてきているし、この世界を志す人も増加している感覚はありますが、実際、女性監督が何人コンペに入っているか……。受賞の際、現地のパブリシティ担当だった女性から、女性がこの舞台に立つことが私達の誇り、と言われたことが印象に残っていますし、それが欧米の人たちの意識なんだな、と実感しました」と、時代の変化やそれに対する想いを語りながらも、まだまだ変わらない現状があることを指摘。

特別養子縁組の制度を利用して母親になった佐都子役を演じた永作さんは、「キャリアを積んで、順調な人生を送ってきた女性だったと思うんです。それでも、家庭に入り、家族の問題に直面するとグラグラと心が揺れちゃう。生きることって、たくさんの決断をしながら選択していくことだと思うんですが、女性として生きることの決断は、結婚してからの方が多かったんでしょうね。女性って何足ものわらじを履かないといけないから、その体力が必要なんだと思います」と、立場や生き方が変わることの大変さに言及。「そのためには周囲の理解も必要」という永作さんの言葉を受けて、父親役を演じた井浦さんは「妻であり、母である佐都子にどう向き合うかという1点に集中していました。夫として、父としての未熟さや強さ、それをどう表現して、どう佐都子が返してくれるか。それに対峙する現場だったと思います」と撮影当時を振り返っています。

作品中で大きなテーマとして描かれる“母性”について聞かれると、「誰にでもあるもの。そこに養子や実子は関係ない。それでも、どうしても埋められない隙間のようなものは、演じていて感じていました」と永作さん。すかさず河瀨監督は「ふとした瞬間に見せる表情で、それを感じられる。そこは絶対にカットしちゃいけないシーンだと思っていました」と制作時のエピソードを披露。井浦さんは母という存在について、「ずっと強い思いを抱いていますね。妻であり母である存在、自分の親である母親、双方ともに。作品の中でも、強くたくましく、優しい、そんな存在として描かれていると思います」と、自身の母親への想いを重ねながら、心境を明かしています。

本作の仕上げはフランスで行ったという河瀬監督。現地のスタッフからは、特別養子縁組にあたり、両親のいずれかが仕事を辞めて家庭に入るという条件が提示される場面で、自然と女性が仕事をやめる結論に至っていることが不思議だと、思わぬ指摘が入っていたのだとか。それに対し、「海外だとどうなるんですか?」と問いかける井浦さん。河瀨監督曰く、「海外であれば、どちらが仕事を辞めるか話し合うシーンが必要だったんじゃないかな。もしくはどちらも仕事を続けるとか。でも日本ってそれが自然に受け入れられる、そういう社会なんです」

日本の映画界で働く女性は増える傾向にありますが、河瀨監督の制作現場でもスタッフの半数が女性であり、男性社会だった現場にも少しずつ変化が起きているそう。それでもなお、多くの現場を過ごしてきた永作さんは「女性監督はやっぱり少ないです。撮影現場はすごく大変だから……タフじゃないと」と厳しい状況を明かす中、そんな現場で活躍し続ける河瀨監督が、唐突に「私の事はどう思う(笑)?」と井浦さんに一言。突然の質問に一瞬うろたえる井浦さんの姿もあり、場内には笑いが。それでも、「河瀨監督の現場は非常に純度が高く、熱くて清らかな映画作りへの想いが流れていて、みんながそれに突き動かされていると感じました。一緒に作品を作れることの喜びを感じられる現場ですし、時に神がかり的な所もあって……自然と共鳴しているというか、まるで巫女のような瞬間がありました。これは男性監督にはない能力なのかな」と、突飛な質問にも真摯に答える井浦さん。それに対し、「男性の方がプランニングして、計画をきちんと立てた上で撮影しているのかも。(女性監督は)もっと未来を考えて泳いでいけるから、そういう瞬間が生まれるのかもしれないですね」と分析をする河瀨監督。永作さんも、「女性だからこそ気付いてもらえる細かいこともすごくあったと思います。”ちょっと違う”という感覚が共有できるというか……でも、突然、『風を呼んで、スタート!』みたいな大胆さもあって(笑)。その振れ幅が大きいのが女性監督なのかもしれないですね」と続けます。

現場での制作を、「何にもないところにみんなで何かを作る作業」と語る河瀨監督。大勢のスタッフやキャストを率いる自身の姿勢については、「そこに問題が見え隠れした時に、自分は監督だからと誰かに”あれを何とかして”と指示するのではなく、本当の意味でのリーダーシップとは、その問題をどうすれば、誰が何をすれば解消されるのかということを、客観的に見れること」と表現。それを受けて永作さんも、「ある程度の目標というか、何かしらのこうしたいというものが漠然とでもある人なんだろうなと。”やり方はちょっとわかんないんだけど、でもこうしたいの!”というのが多分必要なのかと思います」と付け加え、和やかな雰囲気で展開されたトークは終了の時間を迎えました。

今回のトークイベントの模様を記録した動画は、英語字幕版なども制作され、ケリング公式サイトで世界配信されます。

「ウーマン・イン・モーション」は、グッチ、サンローラン、バレンシアガなどを擁するラグジュアリー・グループのケリングが、カンヌ国際映画祭のオフィシャルパートナーとして2015年5月に発足させた取り組み。映画界に貢献する女性に光を当てたトークイベント等を実施しており、過去には、ジョディ・フォスターやダイアン・クルーガー、ジュリエット・ビノシュなど世界の映画人たちが参加し、その活発な議論は毎回話題となっています。日本では昨年、第32回東京国際映画祭の公式プログラムとして、寺島しのぶ、蜷川実花、スプツニ子!を迎えたトークイベントが実施されています。

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『朝が来る』(英題:True Mothers)

「子どもを返してほしいんです。」一本の電話から、運命が動き出す──。
一度は子どもを持つことを諦めた栗原清和と佐都子の夫婦は「特別養子縁組」というシステムを知り、男の子を迎え入れる。それから6年、夫婦は朝斗と名付けた息子の成長を見守る幸せな日々を送っていた。ところが突然、朝斗の産みの母親“片倉ひかり”を名乗る女性から、「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」という電話がかかってくる。当時14歳だったひかりとは一度だけ会ったが、生まれた子どもへの手紙を佐都子に託す、心優しい少女だった。渦巻く疑問の中、訪ねて来た若い女には、あの日のひかりの面影は微塵もなかった。いったい、彼女は何者なのか、何が目的なのか──?

監督・脚本・撮影/河瀨直美
原作/辻村深月 「朝が来る」(文春文庫)
共同脚本/髙橋泉
出演/永作博美、井浦新、蒔田彩珠、浅田美代子、佐藤令旺 田中偉登
製作/キノフィルムズ・組画

日本公開/2020年10月23日(金)全国公開
配給/キノフィルムズ/木下グループ
公式サイト
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