【全文レポート】『パラサイト 半地下の家族』来日会見にポン・ジュノ監督&ソン・ガンホが13年ぶりに揃って登場!
- Fan's Voice Staff
※本記事には映画『パラサイト 半地下の家族』に関する若干のネタバレが含まれます。
2019年のカンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞した『パラサイト 半地下の家族』。その後も映画賞を総なめにし、目下、第92回アカデミー賞でも受賞が有力視されている注目作です。
『パラサイト 半地下の家族』は、全員が失業中のキム一家の長男が、ある日、IT企業の社長パク一家の娘の家庭教師の職を得たところから始まる物語です。格差問題といった現代社会への鋭い洞察、想像を絶する物語の展開、俳優たちのパフォーマンスなどが絶賛を浴びています。
その爆発的な盛り上がりに応え、1月10日(金)の全国公開に先駆けて、12月27日(金)より東京と大阪の2館で先行公開される本作。公開に合わせて来日したポン・ジュノ監督と、主演として半地下の家に住む低所得のキム一家の父親を演じた韓国を代表する名優ソン・ガンホが、12月26日(木)に都内で記者会見に登壇しました。
──まずはご挨拶をお願いします。
ポン・ジュノ監督 こんにちは、監督のポン・ジュノです。皆さん、お目にかかれて嬉しいです。本日はお越しいただきましてありがとうございます。多くの国ですでに公開されているのですが、ついに日本で皆さまと『パラサイト』についてお話しできることになって、とても嬉しく思います。ありがとうございます。
ソン・ガンホ お会いできて嬉しいです。ソン・ガンホです。私は3年前に日本でご挨拶させていただきましたが、このようにまた3年ぶりにお会いできて嬉しく思っています。特にポン・ジュノ監督と『パラサイト』でこのように来日してご挨拶できることを、本当に嬉しく思っています。
──お二人が一緒に仕事をするのは、『殺人の追憶』(03年)、『グエムル-漢江の怪物-』(06年)、『スノーピアサー』(13年)に続いて、今回が4度目ですね。ソン・ガンホ氏、ポン・ジュノ監督、揃っての来日はどんなお気持ちでしょうか?
ポン監督 ソン・ガンホ先輩と初めて東京に来たのは2003年です。東京国際映画祭で『殺人の追憶』が上映されまして、またその時公開がありました。その次が2006年、『グエムル』の公開の際に一緒に日本に来ました。また今回こうして『パラサイト』でガンホ先輩と一緒に13年ぶりに来ることができて、とても意味のある、意義深い時間になったと思います。
ソン ポン・ジュノ監督とは、『パラサイト』を含め4作品をご一緒しました。他の監督作で日本に来たこともありますが、(日本の)みなさんは、特にポン・ジュノ監督がお好きなようで、彼の作品じゃないとなかなか愛されないという現状があります。ということで、ついに今回、監督と一緒に来日できて、愛される準備もできました。
──ゴールデン・グローブ賞で3部門にノミネートされたのを始め、オスカーでも最有力視されていますが、世界中での大きな反響についてはどんな風に受け止めていますか?
ポン監督 まったく予想していませんでした。今回も、ガンホ先輩や素敵な俳優の皆さんと一緒に、これまで通り淡々と映画を撮ったつもりでした。しかし撮り終わった後、予期せぬさまざま出来事が沸き起こっています。アメリカや他の国でもいろいろなことが起きていて、私としては、楽しい騒動、楽しいアクシデントだと思っています。日本でもそうした“騒動”が起こってくれると嬉しいなという欲もあります。今回はガンホ先輩と日本に来ましたが、この作品は、ガンホ先輩だけでなく、全キャストが見事なアンサンブルとなっています。俳優の魅力も(成功の)大きな要因となっていると思います。俳優が表現している感情の言語。人間の感情は、万国共通の言語だと思いますので、その感情が上手く俳優によって表現されたことによって、世界中で同時多発的に良い反応が起きているのではと思います。
──(ソン・ガンホ氏へ)ロカルノ国際映画祭で「エクセレンス・アワード」を受賞されましたが、この作品がこれだけ世界で話題になっていることをどう受け止めていますか。
ソン 今、監督も言いましたが、この物語は特定の国に限られた話ではありません。日本をはじめ、アメリカや西洋の国に通じる、私たちが生きている地球上すべての人の物語だと思います。それをポン・ジュノ監督が、とても温かい視線で描いてくださったので、多くの共感を得られたのではないかと思います。監督が俳優の手柄だと言ってくださいましたが、これはポン・ジュノ監督の約20年にわたる長い間の努力、そしてポン・ジュノ監督だけが持っている作家としての野心がこの『パラサイト』で実を結んだと思います。そう考えますと、これはひとえに、ポン・ジュノ監督がすべてひとりで叶えたものではないかと思っています。
──この物語の着想についてお話いただけますか。
ポン監督 映画は、大学生の息子が裕福な家に家庭教師に行くところから始まります。日本でも、大学生が家庭教師をするというのは、よくあるのではないでしょうか。韓国でも同じく、大学生が家庭教師をすることはよくあり、私も大学生のときに、本当に裕福な家の中学生の男の子を教えたことがあります。その時、故意にではないのですが、その裕福な家の中の様子をすみずみまで見る機会ができました。悪意はなかったのですが、結果的に、他人の私生活を覗き見することになりました。ちなみに、そのアルバイトを紹介してくれたのは当時の彼女だったのですが、それは今の私の妻です。私の経験は映画と似ていますが、幸いにも私は2ヶ月で家庭教師をクビになったので、映画の後半のようなおぞましい展開にはなりませんでした(笑)。でも、シナリオを書いている時は、その当時の記憶が少しずつ蘇っていました。後半のおぞましい展開については、皆さん、秘密にしていただければとても有り難いです。
──ソン・ガンホさん、このストーリーの構想をいつお聞きになったのですか?初めて聞いたときはどう思われましたか?
ソン 約4年前だったと思います。監督は『殺人の追憶』の時から、シナリオを書き終わってからではなく、構想を練っているときからひとつひとつ小出しにするという巧妙なやり方で、私に話をしてくれました。その4年前に初めて『パラサイト』の話を聞いた時には、貧しい家族と裕福な家族、2つの家族が出てくる話だということだったので、私は当然ながら、裕福な家庭のパク社長の役を演じるのだと思いました。私はもうそこそこな年齢ですし、それなりの品位も備わってきたはずですからね。当然パク社長の役だろうなと思っていのですが、まさか半地下に連れていかれるとは、想像もしていませんでした。
ポン監督 (日本語で)どうもすみません……。
ソン なので次からは、大雨が降るとか、階段が出てくる映画には決して出演したくないと思っています。
──これまでも格差と貧困を扱う映画を撮られてきたと思いますが、この作品がこれほどまでに国境を超えて人々から受け入れられたのは、どういう理由からでしょうか。そうした映画に共感するという状況が強まっているということなのか、世界各地を回られた感想を含めて教えてください。
ポン監督 もちろん是枝裕和監督の『万引き家族』やジョーダン・ピール監督の『アス』のように、(貧困や格差といった)テーマに共通点のある映画が多く作られていると思います。今回『パラサイト』について多くの国でよく聞かれたのは、この映画では富裕層と貧困層に対する善悪の区別がない、悪党とヒーローに二分しているわけではない、という反応でした。明確な悪党や、明確な善人が出てこない。だから物語の展開を予測するのが難しかったという話を聞きました。悪党は間違いなく出ていませんが、物語の終盤になると、おぞましい悲劇が起こります。間違いなく悪魔や悪党は登場しないにも関わらず、そういう状況が起こっていく。そこがまさに、この映画が伝えようとしていること、また問いかけているものに通じるところではないかと思います。善人と悪人に分かれていない、その方向性やこの映画の持つレイヤーが、共感を得ている理由なのではないかと思います。
ソン・ガンホ この映画は、貧しい人と裕福な人の葛藤を描くだけではありません。表面的にはそう見えるかもしれませんが、結局のところポン・ジュノ監督が語ろうとしているのは、私たちがどう生きるべきか、ということだと思います。韓国をはじめ、日本、アメリカ、ヨーロッパ、今の時代に生きているすべての人が、同じように考えさせられるところが、多くの人々の共感を呼んだのではないかと思います。
──(監督へ)ソン・ガンホさんの役は当て書きだったのですか?脚本を書くときは常に俳優を想定しているのでしょうか。またソン・ガンホさんは、ポン・ジュノ監督の作品ならば絶対に出演しようという強い意思が始めからあったのですか?
ポン監督 『グエムル』も4人家族が登場しますが、その時もシナリオの執筆段階から、4人の俳優の構想がありました。ソン・ガンホさんをはじめ4人の俳優には、事前に話をして、シナリオを書き始めています。『母なる証明』でも同じでした。キム・ヘジャさんを念頭に置いて、シナリオを書いていました。『パラサイト』の時は、ソン・ガンホさんとその息子としてチェ・ウシクさんは、事前に話をした状態でシナリオを書きはじめていました。チェ・ウシクさんは『Okja/オクジャ』でも小さい役ではありましたが、出演していただいた俳優さんですね。俳優さんの姿や表情、話し方をわかった状態でシナリオを書くと、その人物を描写するのに、とても役立つことが多くあります。最初にソン・ガンホさんに話したときは、複雑な話はほとんどしておらず、裕福な家族と貧しい家族が登場する、すごく変な映画だという話をしました。チェ・ウシクさんには、今は身体がずいぶん細くて痩せていますが、今後太る予定はないですよね?この体型を維持して欲しいですと、本当に簡単なことを伝えてスタートしました。
ソン ポン・ジュノ監督とは20年くらい一緒に映画を撮っています。ファンとして、同志として、同僚としてずっと一緒にやってきました。初めて彼の作品に出たのが『殺人の追憶』でしたが、私は監督のデビュー作『ほえる犬は噛まない』も観ていました。とても非凡で、独特で、作家として素晴らしい芸術性を持っている、そんな芸術家だと思って20年間、ご一緒してきました。なので、いつも期待を寄せています。同僚として、同士として、新しいポン・ジュノ監督の世界を見たいし、深まっていく作家としての野心を見たいと、俳優としてずっと心待ちにしていました。でも今は違います。雨が降ったり、半地下が出てきたら、やはり考え方が変わるのはもう明らかなことです(笑)。
ポン 来年シナリオをひとつ(ソン・ガンホ氏に)お渡ししようと思っているのですが、『梅雨時の男』というタイトルです(笑)。
ガンホ (日本語で)ありがとうございます。でも、シナリオを読んだらまた、考え方は変わってくると思います(笑)。
──一緒の仕事は4回目とのことですが、改めてそれぞれが凄いと思ったところはありますか?
ソン 繰り返しになるところがありますが、韓国で最初の『パラサイト』の会見で私は、これはポン・ジュノ監督の進化の形だと話しました。監督の作品はデビュー作の『ほえる犬は噛まない』から観てきて、私が出演した『殺人の追憶』や『グエムル』、出演はしていませんが『母なる証明』や『Okja/オクジャ』も観てきました。(ポン・ジュノ氏は)20年間ずっと、監督として、作家として、自分が生きている社会を鋭い視点で見つめてきました。ときに温かい眼差しで、ときに冷淡な眼差しで。いずれにしても、そういう状況をすべて抱えて生きていかなければならないという叫びを感じました。監督の世界がどんどん深まっていき、そして拡張していくという状況を、ずっと見守って20年になります。この『パラサイト』は、ポン・ジュノ監督の芸術家としてのひとつの到達点であり、彼が成就したひとつの地点に達していると思います。ポン・ジュノ監督の進化の終わりはどこなのだろうか、『パラサイト』の次にどんなリアリズムの発展があるのか、それを考えると怖いようでもあり、一方で心待ちにもしています。とにかく、ドキドキさせてくれる唯一の監督だと感じています。
ポン監督 演出家、監督の立場から話すと、私はソン・ガンホという俳優の演技を、この世界で最も早く、モニターの脇やカメラの隣で目撃できる立場にあります。まったく予想していなかったディテールや、動物的というか本能のような生々しい演技が目の前で繰り広げられ、その演技の瞬間と真っ先に目撃できる状況というのは、本当にゾクゾクさせられます。撮影中は毎日のように起こっていることなので、ひとつを取り上げるは難しいですがね。根本的に驚かされたり重要だと考えられる点は、ガンホ先輩を撮影する前の、シナリオを書く段階ですでに感じられます。クライマックスの部分で、議論にならざるを得ない、とてもあいまいな難しいシーンがあります。その部分のシナリオを書いているときに、私はいろいろなことを考えて、悩みました。果たしてそのシーンが、観客を納得させられるだろうか。観客はどう受け止めるだろうか。悩みながら書いていて、キーボードで作業している手が止まってしまう瞬間もありました。でもその時、そのシーンを演じる俳優がソン・ガンホさんだと考えたときに、安心して書くことができました。議論になり得る難しいシーンを、ソン・ガンホであれば観客を説得できるだろうという信頼、それがあったからこそ書き進めることができました。シナリオを書きながら、恐れを感じたり、躊躇して気が小さくなってしまう部分を突破させてくれる。この俳優であればきっと観客を説得させるだろうという信頼を与えてくれる。シナリオを書きながらそれに気づいた時に、とても驚かされました。本当に根本的な意味で、私にとって(ソン・ガンホ氏は)そうした存在であり、意味を持つ俳優なのだと気付かされました。
──(ソン・ガンホ氏へ)これまでポン・ジュノ監督と作った作品で大変だったもの、無茶振りだと感じたものがあれば、具体的なシーンを教えてください。ポン・ジュノ監督の演出が他の監督と違うところはどこでしょうか?
ソン 実際に俳優の前で、自分で演じて例を見せてくれるんですね。俳優はそれと同じようにやればいいので、とてもやりやすいですね。
ポン監督 (日本語で)嘘だ!(笑)
ソン それくらいユーモアに溢れている監督ですし、他の監督とは違う雰囲気を持っていますね。詳しくはわかりませんが、おそらく多くの俳優たちが一緒に撮りたいと思っているのが、ポン・ジュノ監督ではないでしょうか。その理由を考えてみると、ポン・ジュノ監督には、撮影現場で出演者やスタッフと一緒に仕事に臨む上での、彼なりの姿勢があります。そこからも感じられることですし、その姿勢を見ると、感動を覚えます。立派な監督はもちろん大勢いらっしゃいますが、その点では本当に特別な監督だと大勢の人に知られていると思います。監督は、俳優に対してできないであろう注文をすることはないですし、今までもそうしたことは無かったのですが、なぜか太って欲しいと望まれます。本人が太っているからかもしれませんね(笑)。普通の監督は、俳優に対して痩せて欲しいとか、骨格がシャープにカッコよく見えるようにと言うのですがね。その点がちょっと、理解できないところですね。ポン・ジュノ監督の一番良いところだと思いますが、痩せろと言わない唯一の監督ではないかと思います。
ポン監督 『殺人の追憶』のときは、ぽっちゃりした田舎の刑事の雰囲気を出したかったので、急に太ってもらわなければならず、苦労されたと思います。でも体重をいきなり増やすと、関節が痛んだりして、大変なことが多いですからね。ですが『パラサイト』では、太る必要はありませんでした。『パラサイト』では、奥さんの役を演じた方が体重を増やしたので、側でその苦労を見ていたと思います。そんな状況が起こる度に、私の家族からは、俳優にそういうことを言う前に自分が痩せたらどうかと言われています(笑)。
──最後に、映画を楽しみしている日本の方々へメッセージをお願いします。
ソン ポン・ジュノ監督の『パラサイト』で日本の観客の方にご挨拶できるのが、明日に迫っています。本当に期待していますし、楽しみです。日本の観客の皆さんがどういう風に感じてくださるのか、ドキドキしています。まさに万感胸に迫る思いですが、日本の観客の皆さんには、楽しく盛り上がって、そして深くこの映画を楽しんで欲しいと思います。十分にそれができる作品です。
ポン監督 多くの国での公開を経て、ついに日本で公開になりました。とても興奮していますし、期待しています。映画のタイトル通り、不滅の寄生虫のように、観ていただいた皆さまの、身体や頭、そして胸に長く留まり、永遠に寄生するような映画になって欲しいと思います。
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『パラサイト 半地下の家族』(英題:Parasite)
全員失業中で、その日暮らしの生活を送る貧しいキム一家。長男ギウは、ひょんなことからIT企業のCEOである超裕福なパク氏の家へ、家庭教師の面接を受けに行くことになる。そして、兄に続き、妹のギジョンも豪邸に足を踏み入れるが…この相反する2つの家族の出会いは、誰も観たことのない想像を超える悲喜劇へと猛烈に加速していく──。
出演/ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン
監督・共同脚本/ポン・ジュノ
撮影/ホン・ギョンピョ
音楽/チョン・ジェイル
2019年/韓国/132 分/2.35:1/原題:Gisaengchung/PG-12
日本公開/2019年12月27日(金)よりTOHOシネマズ日比谷、TOHOシネマズ梅田にて先行公開|2020年1月10日(金)、TOHO シネマズ日比谷ほか全国ロードショー!
配給/ビターズ・エンド
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