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2017.08.05 13:11

『ベイビー・ドライバー』Fan’s Voice独占試写会、エドガー・ライト監督トークセッションを完全レポ!

  • ichigoma

6月28日の全米公開以来、世界的なヒットとなったエドガー・ライト監督の新作映画『ベイビー・ドライバー』。iPodでお気に入りの音楽を聞きながら全速力で疾走する――天才的なドライビングテクニックを買われて犯罪組織に「逃がし屋」として雇われている“ベイビー”が主人公のクライム・カーアクション・ムービーです。

エドガー・ライト監督と言えば『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』などオタク系コメディ映画を多く手掛けてきた脚本家兼監督ですが、今回はなんと音楽とシンクロするカーアクション映画!一部では“カーアクション版『ラ・ラ・ランド』”という人も。

個人的にいえば、今回は常連のコメディ俳優のサイモン・ペグはキャスティングされてないなど、とサイモン・ペグ経由で監督の名前を知った筆者としては、いくつもの謎と驚きに満ちた作品です。

まさに、新境地を開拓ともいえますが、そんなそのエドガー・ライトがなんと緊急来日!8月1日に都内某所で実施されたFan’s Voice主催のファン試写会に来場し、トークセッションが開催されました!

ということで、その模様を詳細にレポートします。

ロビーにあったポップには、中に入って写真が撮れました!

エドガー・ライト監督ともう一人のスペシャルゲスト

トークセッションにはもうひとり”スペシャルゲスト”がいらっしゃるとの事前告知がありましたが、その正体は大友啓史監督!『3月のライオン』、『ミュージアム』、『プラチナデータ』、『るろうに剣心』シリーズなどで知られる、日本が誇るヒットメーカーです。『るろうに剣心』は原作コミックの大ファンなのですが、コミックでの名シーンとも言える殺陣シーンを紙面のコマ通りに忠実に撮られていて、当時映画館で観た時は思わず唸りました。監督同士だからそこの濃いトークセッションが聞けそうで、これは期待が高まります。

監督登壇前のソファ

ライト×大友監督登場!

ワクワクしながら座席で待つこと十数分、MCの女性の呼び込みにより、いよいよエドガー・ライト監督と大友啓史監督が拍手と共に入場!ライト監督はネイビーのジャケットに黒のインナー、黒のパンツ。大友監督は共に黒のジャケットとインナー、薄いブルーのパッチワークデニムと言う装いでした。二人ともカックイイ。

着席された両監督、最前列で何かを見つけたようで視線がそちらに。なんとその視線の先に座っている女性ファンの手には、キラキラのモールで縁取りされた「Edger Wright」うちわが!す、すげぇ!名前入りのうちわだなんて、オラ、ジャニーズのコンサートくらいでしか見る機会がないと思ってただよ!ライト監督は大喜び、大友監督も「(うちわを持ってるファンがいるような)こんな監督いないよな、日本には!」と驚きを隠せません。

うちわはさておき、まずはライト監督の挨拶からスタートです。

ライト監督 「ハロー、コンニチハ?」

日本語の挨拶を受けて、会場内から上がる「こんにちはー!」のお行儀のいい返しの声。アットホームな雰囲気にほっこりです。

ライト監督「本当に今日はありがとうございます、このような場所を作っていただいて。日本は6年ぶりですが、『ベイビー・ドライバー』と共に来られた事をとても嬉しく、誇らしく思っています。上映前のQ&Aなのでネタバレは避けたいですが、少しこの作品の話をさせてください」

MC 大友監督はいかがでしょうか。ライト監督のこれまでの作品はご覧になっていらっしゃるとか。

大友監督「僕は『ホット・ファズ』も好きだし『ワールド・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』も好きなんですね。今回はどういう作品作るのかすごく楽しみにしていました。めちゃめちゃ面白くてビックリすると思いますよ、って言うくらい、本当に面白かったです」

MC ですよねぇ。本当にゴキゲンな作品です

大友監督「(同じ監督として)羨ましい。観てる間、色々刺激されました。早く観て欲しいです」

MC 大友監督も最高の映画だとおっしゃっていますが、ウォルター・ヒル監督やギレルモ・デル・トロ監督など錚々たる監督さん達、つまり同業の方達がこうしてこの映画をとても褒めてくださっています。”Good”だと言ってくださるのは予想していらっしゃいましたか?

ライト監督「予想はしていませんでいたが、やっぱり同じ監督にそういった言葉を寄せてもらえるのは嬉しいですね。大友監督もそうですが、監督だからこそ(製作にあたって)どれほどの苦労があったのか、おそらくわかっていただけるのではないかと思います。僕は他の監督作品を観て、”やられた!”って思うことがあります。最近だと『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』を観た時に ”Wow!(やられた!)” って思いました。映画としても本当に大傑作ですが、同時に、撮影中いかにに大変だったのか、観ててやっぱり分かる。そういう意味で監督同士は、なにか言葉をかけたいと思うのでしょう」

MC なるほど。実は両監督って共通点がありますね。お二人とも脚本を書いて監督もなさるという点と、また、ライト監督はBBCのご出身で大友監督はNHKのご出身。しかも、映画もドラマもお撮りになるのって、意外にあるようでない共通点なのかなと思います。脚本を書いて映画の監督もなさるのってすごい事だと思いますが、その辺のこだわりって大友監督いかがでしょう。

大友監督(左)とライト監督(右)

大友監督「僕、脚本書く時ってあまりディレクティングする事を考えずに書くんですよ。自分が書いた脚本に何が足りないのか、監督としての大友がそこを埋めたり、プラスアルファを考えたりっていうような。”脚本家の大友”と”監督の大友”って関係なんですよね。ライト監督を見ると、音楽、映像、物語、キャラクターの感情、俳優の演技の方向性とか含めて、ものすごい高いレベルで渾然一体となって成立している。やっぱり脚本に興味ありますよね、これ。どれくらいまでを脚本書いている段階でプランニングされていたのか。カーアクションも見たことのない工夫が多いし、でもカーアクション映画とだけ言い切れないミックスジャンルだし。本当に胸を打たれるドラマもある。飾り物ではない幾つものジャンルが、錯綜した作りになっている。だから語った瞬間に別の事を語りたくなる。アクションについて語った後にラブストーリーについて語りたくなる。映画がはらんでいるミステリーも語りたくなる。そして何であんなに登場人物の犯罪者がリアルなのか」

ライト監督 「それに対しての答えはいくつかあります。まず今回の脚本は、音楽に導かれるように書いたんです。どんな風に見えるのか、どんな風に聞えるのか、ビジョンはっきりとしていたんですが、これを言葉に落とし、脚本に書く作業が難しかった。僕の他作品に比べてこの『ベイビー・ドライバー』は、台詞にあまり頼らない作品に意図的にしています。音楽に導かれるように、つまりシーンがどんなものになるのかというのは音が先に来る。音楽がモチベーションとなって登場人物たちの行動が明らかになっていくのです。もちろん、彼らの行動だけでなく、アクションや恋愛の要素などエモーショナルな部分も、音楽から来ていています。映画全体を通して音楽が感情を高めるような、そんな思いで書きました。

アクションのシーンに関しては、脚本に、言葉として落とすのは本当に難しかった。カーチェイスがあればその長さだけちゃんと脚本に書きました。なまけて”カーチェイスが起きる”と一行で終わらせることは一切せず、五分間に及ぶものであれば五分の脚本にしました。その中で起きること、観客が見て聞くものはすべて脚本に書きました。

そして、みなさんもご存知のように、今回の脚本は、実は久し振りに僕ひとりで書いたものなんですが、共同脚本家がいればやりとりをしながら書けるけれど、ひとりで書くのはたいへん。ストレートなコメディではなく、今回は強盗もののアクション映画で、ジャンルもちょっと違うので、本当に執筆に苦労しました。

音楽がインスピレーションを与えてくれたのですが、それでも足りない時は、リサーチからもインスピレーションを得ました。映画専門のリサーチャーもお願いしていたのですが、彼らが送ってくれた資料の中に実際に犯罪者に会って色々インタビューしたものがあったんです。これは面白い、と実際に、犯罪歴のある人たちと電話で話したり直接会ったりしました。ストーリーに登場するキャラクターひとりずつについて、「こういう人には会った事がある?」みたいに実際に聞いてみたんです。中でもジョー・ローヤ(Joe Loya)氏は、80年代~90年代に30件の銀行泥棒を犯して10年間服役し、その後に本を書いたりしているんですが、彼のストーリーもとても役に立ちました。

彼自身、銀行泥棒で逃走車のドライバーをやっていた上に、服役中に銀行泥棒に関わるあらゆる職種の人に会ったこともある。ものすごい知識を持っていたので、脚本が書き上がったときにも読んでもらい、さまざまなアドバイスをいただきました。(なので映画に)技術コンサルタントとしてクレジットされています。また、泥棒していた彼が、逆に盗まれる側だと面白いんじゃないかと思い、強盗に押し入られるビルの警備員としてカメオ出演もしています」

ちなみに、“リサーチャー”は、一般には馴染みがないかもしれませんが、映画製作にあたって事実や史実など調査をする専門職です。リサーチャーについて詳しく知りたい方はドキュメンタリー映画『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』がオススメです。絵コンテ作家のハロルドさんとリサーチャーのリリアンさん夫婦の半生が描かれているのですが、この映画の中にも、実在の裏社会の人物に取材するため、危険を犯そうとしたリリアンさんのエピソードもありました。

MC 大友監督、これもう一回観たくなりますね。さすが監督の視点は大変面白いものですね。

ライト監督 「実は登壇する前に大友監督とTVで働いていた経験について話をしていて、大友監督は、現場で学んだ匂いがすると話していたのでうが、まさにその通りで、僕は美大に行ったんですが映画とかTVとかは学んでなかった。1本目は超低予算の長編を作り、その後、TV局(BBC)で働いた。コメディ作品だったのですが、現場で学んでいったものは大きかった。それが自分にとっての大学であったという意味では大友監督と一緒ですね。 9年掛かって『ショーン・オブ・デッド』を作ることになるワケですが、その間のTV製作、そしてPV、ミュージックビデオを製作したりしていた。脚本も書いていましたが、TVを作っていての現場での経験は勉強になりました」

大友監督 「なにかものすごく、分厚い感じがしましたよ、この映画。ミュージックとアクションと言うと、映像と音楽が合っている、テンポとかリズムっていうことだけが取り上げられがちなんだけど、登場人物の感情とか映画全体の生理と音と映像、それが全部進行していく。音と映像と物語と登場人物の感情、色々とそれらを成り立たせる要素が全て一致している感じがね、すごい分厚いですよね。どこまでが計算なのか、計算にプラスして現場で起きた生の出来事、スタッフの感情も含めて俳優の中で起きる生理的な感情、解釈を含めていい感じで取り込まれている感じがして」

ライト監督 「プランということでは、綿密にたてていましたよ。俳優のセリフは基本的に忠実なんですけれども、人によっては、特にジェイミー・フォックスのシーンは、彼自身のアドリブがかなり使われています。音楽、サウンドデザインに関しては事前に、しっかりとプランニングした通りです。俳優に関して興味深かったのは、ジェイミー・フォックスとかケヴィン・スペイシー、ジョン・ハムなどは、経験値が非常にある分だけ自分の人生経験を加味して、キャラクターに深みを与えてくれる。逆にアンセル・エルゴートやリリー・ジェームズのような若手の俳優はまだシニカルなところがない年齢のせいか、誠実さと言うものをキャラクターににじませてくれて非常に共感を呼ぶ演技をする。腕のある俳優に完成された脚本を渡せば、さらに命が吹き込まれていくのだな、と実感しました。そういうことも含めて、スタイルだけではないハートがある映画だと感じていただけたのだと思います」

さて、ここからは試写会イベントに参加しているファンからの質問タイムです。最初に当てられたのは前に座られてた女性の方。

女性 「ちょっと緊張しているんですが、よろしくお願いします。大友監督の質問とちょっと被ってしまうんですけれど、カーアクションのシークエンス以外のところについて、脚本段階で曲はすべて決まっていたのでしょうか。元々、気になっていた曲を率先して入れられたのか、カメラワークを優先されたのか。それともすべてうまくまとまっていったのか」

ライト監督 「サントラに使っている楽曲はすべて私のお気に入りではあるんですけれども、ただそれぞれのシーンに合わせて選んでいます。実際、脚本の初稿を書き始める前、10曲、お気に入りを選んでいました。でも、それだけでは映画はできません。シーンによってはまだ楽曲が決まっていない。そういう場合は、シーンにピッタリと合う楽曲が見つかるまではそのシーンをあえて書かないようにしました。例えば2分半のアクションのシーンを想定していれば2分半の尺の楽曲をまず探して、見つけてからその曲を聴きながらそれが自分をどこに導いてくれるのかという形で脚本を書き進めていきました。アクションのシーンに関して言えばテンポに合った曲や、こういうアクションを想定しているからこういうテンポがピッタリ来る、といった感じで選びました。

今回の脚本の書き方は、今までと違っていたので、非常に興味深かったですね。実は使われているすべての音楽は、物語の中で実際にかかっている曲なんです。例えばラジオから流れているとか、ステレオでかけているとか、あるいは主人公が聴いている曲とか。ということで、初稿を書き上げたときには、今回使用する楽曲はすべて決まっていました。どのシーンで使うかも決まっていたんです。つまり、好きな曲を「どうやってこれを全部入れよう?」ではなく、シーンに合う曲を、好きな曲の中から選んでいったのです」

ふたつ目の質問は、男性の方から。

男性「今回の日本滞在中、フジロック・フェスティバルに行かれたようですけれども…」

あ、そこ触れますか!ナイス質問!

男性「日本の音楽ファン、すごく喜びました。海外でも有名で、しかも特殊な色のフェスティバルですが、そこでコーネリアス、日本のミュージシャンのライブを見られたそうですが率直な感想を音楽ファンとして聞きたいです。『ショーン・オブ・ザ・デッド』でもレコードを投げるシーンがあったりとか、今回の映画も音楽に対して注力があったりとか、監督の人生において音楽は大きいものだと思うんですけれども、監督にとって音楽とはどういうものか、聞きたいです」

ライト監督 「大きな質問投げて来るね! フジロックに行ったのは2回目で、1回目は確か2005年か2006年かだったと思いますが。今回、日本に来ることが決まった時、同行していたプロデューサーが“週末、フジロックやってるよ?”と。しかもラインナップ見たら、コーネリアスやってるって話になり。それは行かねば!となったのです。

実はメキシコから飛んできて、土曜の早朝に日本に着いてホテルに直行しシャワーを浴び、そのままフジロックに直行しました。洋服、これしか持ってきてなくて、当日は雨が降っていたんです。なので皆さんSNSでご覧になったと思うんですけれども、すごい長さのポンチョ(雨合羽)を買って直行。そのまま一日中いました。

コーネリアス、最高でした。コーネリアスは今回でギグを見たのは5、6回目になるんですが、1回目は、ロンドンでのライブで「ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン」の前に演奏していました。それもヤバかった!他に(今回観た)バンドはLCD Soundsystemとか英国のバンドTemplesです。

UKやアメリカの音楽フェスは結構行きますが、一番清潔なのはフジロックだよ。世界の中でも一番清潔だし、だから最高の体験が出来る。本当に気持ちがいいフェスだと思います。もしフジロックに行かれた方でドロドロになったよ、って思っている方がいたとしたら、グラストンベリー・フェスティバルの比じゃないですよ。でもレディング・フェスティバルに比べたらグラストンベリーもまだいい方で、本当にレディングは終末世界のよう」

気になって調べてみました。はい、これがイングランドはグラストンベリー・フェスの様子。

戦場かな?(出典:karapaia.com

続いて終末の世界ことイギリスのレディング・フェス。なにか煙が上がってます。ヤバイです!

北斗の拳かな?(出典:huffingtonpost.jp

ライト監督「好きな音楽といえば、今回のサントラを聞いていただけると分かると思うんですが、本当にいろいろなタイプの楽曲が好きです。ちょっと古めのものも聴くし、もちろん新しいものも聴きます。とにかくいっぱい色々聞いています。今回の作品の主人公のベイビーにとても似ていると思います。彼にとってもそうであるように、音楽は、僕にとってエスケープ(逃避)でもあり、インスピレーションを与えてくれて、モチベーションを与えてくれるものでもある。人生においてなにをしているときでも、音楽を掛けていたいタイプなんです。ただ、音楽を聴きながら銀行強盗をしたことは、まだ一度もないですが(笑)」

Q&Aの後、なんとフォトセッション・タイムが設けられました!スマホのカメラを起動。準備完了!

MC 先に皆様にお伝えしております。フォトセッションタイムは30秒です。

マジスカ。でも一生懸命撮る!両監督が並んでる絵なんて二度と撮る機会ないですし!

最初は直立不動でポスター前に並んでいた両監督ですが、開始3秒ほど経過した辺りで手元のデジカメでこちらを撮りはじめるライト監督、つられてスマホを取り出し撮影し始める大友監督(笑) な、なにしとるんじゃーい!

冒頭での貴重なツーショット(別フォトグラファーが撮影)

が、ライト監督も大友監督も顔が見えなくなるw

ついにはライト監督を撮り始める大友監督と、お二人ともやりたい放題で30秒経過。おおおぅ、二人並んでのツーショットが全然撮れへんかった。

ライト監督 「もう数秒いいよ!」

おっしゃあああ!監督の好意でもう10秒撮影タイム追加!!

「すみませーん、こう、肩を抱いてる感じって出来ますかね?」

出しゃばりを後悔はしてないけど、(撮った写真を)公開はしている。エヘン。

大満足の撮影タイムも終わってイベント終了!両監督、ありがとうございました!ライト監督は語り始めると止まらなくなる熱弁タイプで、そんなライト監督の話を熱心に聞き入っている大友監督の姿も印象深かったです!

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『ベイビー・ドライバー』

監督、脚本/エドガー・ライト

出演/アンセル・エルゴート、リリー・ジェームズ、ケヴィン・スペイシー、ジェイミー・フォックス、ジョン・ハム、エイザ・ゴンザレス ほか

日本公開/8月19日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー

配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

2017年アメリカ映画/スコープサイズ/1時間53分

原題:BabyDriver/字幕翻訳:栗原とみ子

公式サイト