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2021.09.11 21:00

今秋はアカデミー賞国際長編映画賞の各国代表作が続々公開!注目の6本を一挙紹介!

  • Fan's Voice Staff

米国アカデミー賞の「国際長編映画賞」(2019年の第92回より「外国語映画賞」から改称)は、世界各国選りすぐりの“映画見本市”ともいえる、映画ファンにとって注目の部門です。

第93回アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『アナザーラウンド』トマス・ヴィンターベア監督 Photo by Matt Petit / A.M.P.A.S.

「国際長編映画」とは、会話の50%以上が非英語、全体の尺が40分以上の米国以外で製作された映画を指し、アニメーションやドキュメンタリー作品も対象に含まれます。さらに、規定の期間内にエントリー元となる国の商業映画館で7日間以上連続して最初に上映された作品である必要があります。その上で、代表映画として選ばれるのは各国1作品のみ。

本年度(2021年・第93回)は日本を含む93か国からエントリーがあり、15本がノミネート前の最終候補(ショートリスト)入り。そのうち5本がノミネートを果たし、最終的にデンマーク代表の『アナザーラウンド』(新宿武蔵野館ほか全国公開中)が受賞しました。

そして日本ではこの秋、本年度の国際長編映画賞にノミネートされた全5本に加え、各国の代表作品も軒並み映画館で上映されます(公開中作品も含む)。本記事では一部過去作も含め、映画館で観られるジャンルも題材もバラエティに富んだ各国の代表作品6本を一挙紹介します。

アイダよ、何処へ?』(9月17日公開)

本年度ボスニア代表、国際長編映画賞ノミネート

ボスニア紛争末期の1995年夏、約8,000人のイスラム教徒が虐殺されるという戦後ヨーロッパ最悪のジェノサイド事件「スレブレニツァの虐殺」の中で、国連平和維持軍で通訳として働く女性が家族を必死に守ろうとする姿をドキュメンタリーのような迫真性とスリリングな展開で映し出し、その真実を描く衝撃のドラマ。

監督は、31歳の時に発表した長編デビュー作『サラエボの花』が2006年ベルリン国際映画祭の金熊賞を受賞した、ヨーロッパを代表する気鋭の女性監督のヤスミラ・ジュバニッチ。

2020年の第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門でワールドプレミアされ、本年度アカデミー賞では、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ映画としてはダニス・タノヴィッチ監督『ノー・マンズ・ランド』以来19年ぶり、ジュバニッチ監督にとっては初の国際長編映画賞ノミネートを果たしました。

日本公開:9月17日(金)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、他全国順次公開
配給:アルバトロス・フィルム
© 2020 Deblokada / coop99 filmproduktion / Digital Cube / N279 / Razor Film / Extreme Emotions/IndieProd/Tordenfilm/TRT/ZDFarte

TOVE/トーベ』(10月1日公開)

本年度フィンランド代表

「ムーミン」の原作者として知られるフィンランドの作家トーベ・ヤンソンの半生を描いた伝記映画。戦時中、防空壕の中で怯えた子どもたちに語った物語から、いかに原作が執筆され、そしてムーミンのキャラクター達が生み出されていったのか。トーベの人生のあり方とともに創作への情熱を描いた感動の物語です。

本国フィンランドでは、スウェーデン語で描かれたフィンランド映画としては史上最高のオープニング成績を記録。公開から7週連続で興行収入ランキング第1位になるなどロングラン大ヒットを記録しました。

日本公開:2021年10月1日(金) 新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか 全国ロードショー
配給:クロックワークス
© 2020 Helsinki-filmi, all rights reserved

コレクティブ 国家の嘘』(10月2日公開)

2021年(本年度)ルーマニア代表、国際長編映画賞&長編ドキュメンタリー賞ノミネート

ルーマニア・ブカレストのライブハウス“コレクティブ”で2015年10月に実際に起こった火災事故を発端に明らかになっていく汚職事件を描いたドキュメンタリー。命よりも利益や効率が優先される果てに起こった巨大医療汚職事件の闇と、それに対峙する市民やジャーナリスト達を追った、スリリングな現実を捉えます。命の危険を顧みず真実に迫ろうとするジャーナリストや、腐敗の中枢でもある政府の中から事件に立ち向かう現職大臣をドキュメンタリーの常識を超える“深度”で捉え、観る者を驚愕させる。そして、その先に待ち受けるものとは……

前作『トトとふたりの姉』も高い評価を受けた監督のアレクサンダー・ナナウは、自身のスタイルを“観察型ストーリーテリング”と評し、関係者へのインタビューやナレーションに頼らず、一貫して至近距離から観察していく独特なスタイルで、観客が登場人物や描かれる事象に没入できるよう工夫したといいます。「観客は、他人の人生を通して自分が成長していく過程を目の当たりにしているかのような感覚になるはずです。それが映画のあるべき姿だと思います」と、そのこだわりを語っています。

本年度アカデミー賞では国際長編映画賞に加え、長編ドキュメンタリー賞にもノミネート。ルーマニア映画として初のオスカーノミネートを果たしました。

日本公開:10月2日(土)シアター・イメージフォーラム、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
配給:トランスフォーマー
©Alexander Nanau Production, HBO Europe, Samsa Film 2019

オリーブの林をぬけて』(10月16日より上映)

1995年(第67回)イラン代表

イランの名匠アッバス・キアロスタミの名作『友だちのうちはどこ?』に始まる「ジグザグ道3部作」の完結編。イランがこの部門への出品を始めたのが1994年からという事情もあり、キアロスタミ監督作でアカデミー賞代表作品となったのは本作のみ。

大地震に襲われた傷跡の残るイラン北部の村。この村で行われている映画の撮影を手伝う地元の青年ホセインが、出演者として抜擢されます。地震の翌日に結婚した夫の役ですが、妻役を演じるのは、なんと自分をかつてフッた女性でした──。

10月16日(土)よりユーロスペースほかで全国順次開催される特集企画「そしてキアロスタミはつづく」の1本としてデジタルリマスター版を上映。キアロスタミ監督の初期の珠玉の名作7作をスクリーンで観られる貴重な機会となります。

「そしてキアロスタミはつづく デジタル・リマスター版特集上映」
10月16日(土)よりユーロスペースほか全国順次開催
配給:ユーロスペース
©1994 Ciby 2000 – Abbas Kiarostami

MONOS 猿と呼ばれし者たち』(10月30日公開)

2020年(昨年度)コロンビア代表

世間から隔絶された南米の山岳地帯で、極限の状況下に置かれた8人の少年少女のサバイバルオデッセイ。ゲリラ組織の一員である彼らのコードネームはMONOS(モノス)。組織の指示のもと、人質のアメリカ人女性を監視し、厳しい訓練で心身を鍛える一方で、恋をし、仲間の誕生日を祝い、10代らしく無邪気に戯れる日々を送っていましたが、組織から預かっていた大切な乳牛を仲間の一人が誤って撃ち殺してしまったことから、亀裂が発生。敵からの激しい襲撃も受け、ジャングルの奥地へと身を隠すことに。仲間の死、裏切り、そして人質も逃走し、MONOSの狂気が暴走し始めます──。

監督は、前作『Porfirio』(11年・未)がカンヌ国際映画祭監督週間に出品された新鋭アレハンドロ・ランデス。南米・コロンビアで50年以上続いた内戦を下敷きに、暴力の脅威にさらされ続けたコロンビアの歴史と、外界から遮断された世界で生きる少年少女兵の思春期のゆらめきを重ね合わせ、幻想的な世界観で描き出しました。

日本公開:10月30日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
配給:ザジフィルムズ
© Stela Cine, Campo, Lemming Film, Pandora, SnowGlobe, Film i Väst, Pando & Mutante Cine

皮膚を売った男』(11月12日公開)

2021年(本年度)チュニジア代表、国際長編映画賞ノミネート

恋人に会うため、タトゥーを入れた背中を“アート作品”として売ったシリア難民の男を通じて、現代美術や移民問題を風刺する人間ドラマ。

プレミア上映が行われた第77回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門では、主演のヤヤ・マヘイニが男優賞を受賞。日本でも、第33回東京国際映画祭で上映されるや「大傑作」「監督は天才か?」「最大級の驚き」「予想もつかない結末」と評判を呼び、劇場公開を望む声が多くあがりました。

監督は、『Beauty and the Dogs』(17年)でカンヌ国際映画祭「ある視点」音響賞を受賞、アカデミー国際長編映画賞のチュニジア代表に選ばれた実力派のカウテール・ベン・ハニア。『007 スペクター』『オン・ザ・ミルキー・ロード』のモニカ・ベルッチ、『Uボート:235 潜水艦強奪作戦』のケーン・デ・ボーウなど、豪華キャストが脇を固めています。

日本公開:11月12日(金)Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町 ほか全国公開
配給:クロックワークス
© 2020 – TANIT FILMS – CINETELEFILMS – TWENTY TWENTY VISION – KWASSA FILMS – LAIKA FILM & TELEVISION – METAFORA PRODUCTIONS – FILM I VAST – ISTIQLAL FILMS – A.R.T – VOO & BE TV

ほか公開中作品

アナザーラウンド』(2021年・第93回デンマーク代表、国際長編映画賞受賞&監督賞ノミネート)
9月3日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開中

モロッコ、彼女たちの朝』(2020年・第92回モロッコ代表)
8月13日(金)より全国公開中

明日に向かって笑え!』(2020年・第92回アルゼンチン代表)
8月6日(金)より全国順次公開中

名もなき歌』 (2020年・第92回ペルー代表)
7月31日(土)より全国順次公開中

日常対話』 (2018年・第90回台湾代表)
7月31日(土)より全国順次公開中

アウシュヴィッツ・レポート』(2021年・第93回スロバキア代表)
7月30日(金)より全国順次公開中

ジャッリカットゥ 牛の怒り』(2021年・第93回インド代表)
7月17日(土)より順次公開中

少年の君』(2021年・第93回香港代表)
7月16日(金)より全国公開中

83歳のやさしいスパイ』 (2021年・第93回チリ代表、長編ドキュメンタリー部門ノミネート)
7月9日(金)より全国順次公開中

ブータン 山の教室』(2021年・第93回ブータン代表)
4月3日(土)より全国順次公開中

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『コレクティブ 国家の嘘』(英題:Collective)

2015年10月、ルーマニア・ブカレストのクラブ“コレクティブ”でライブ中に火災が発生。27名の死者と180名の負傷者を出す大惨事となったが、一命を取り留めたはずの入院患者が複数の病院で次々に死亡、最終的には死者数が64名まで膨れ上がってしまう。カメラは事件を不審に思い調査を始めたスポーツ紙「ガゼタ・スポルトゥリロル」の編集長を追い始めるが、彼は内部告発者からの情報提供により衝撃の事実に行き着く。その事件の背景には、莫大な利益を手にする製薬会社と、彼らと黒いつながりを持った病院経営者、そして政府関係者との巨大な癒着が隠されていた。真実に近づくたび、増していく命の危険。それでも記者たちは真相を暴こうと進み続ける。一方、報道を目にした市民たちの怒りは頂点に達し、内閣はついに辞職へと追いやられ、正義感あふれる大臣が誕生する。彼は、腐敗にまみれたシステムを変えようと奮闘するが…。

監督・撮影/アレクサンダー・ナナウ
出演/カタリン・トロンタン、カメリア・ロイウ、テディ・ウルスレァヌ、ブラッド・ボイクレスク ほか
2019年/ルーマニア・ルクセンブルク・ドイツ/ルーマニア語・英語/109分予定/ビスタ/カラー/5.1ch/原題:Colectiv

日本公開/2021年10月2日(土)シアター・イメージフォーラム、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
配給/トランスフォーマー
公式サイト
©Alexander Nanau Production, HBO Europe, Samsa Film 2019