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2021.03.30 23:30

東出昌大&吉田恵輔監督が登壇『BLUE/ブルー』公開記念トークイベント開催!

  • Fan's Voice Staff

松山ケンイチ主演の青春映画『BLUE/ブルー』の公開に先立ち、3月30日(火)夜、東京・代官山の蔦屋書店でトークイベントが開催され、吉田恵輔監督とキャストの東出昌大が登壇しました。

『BLUE/ブルー』は、吉田監督が30年以上続けてきたボクシングを題材に脚本を書き上げ、「流した涙や汗、すべての報われなかった努力に花束を渡したい気持ちで作った」と語る本作は、成功が約束されていなくとも努力を尽くす挑戦者たちの熱い生き様を描いた青春映画。

主演の松山ケンイチは、脚本に惚れ込み約2年もの間じっくりと役作りに挑み、情熱はあっても才能が無い、試合には勝てない主人公・瓜田を熱演。同じジムに所属する、強さと才能を合わせ持ちながらもパンチドランカーになってしまう後輩・小川を東出昌大が演じ、固い友情で結ばれながら瓜田が憧れと嫉妬を抱くライバルとして存在感を発揮します。また、モテるために始めたボクシングにのめり込んでいく新人・楢崎を柄本時生が演じました。3人は『聖の青春』以来、5年ぶりの共演を果たしています。

さらに吉田監督作品への出演を熱望した木村文乃が、瓜田の初恋の人でありながら今は小川の婚約者という、二人の間で揺れる千佳を演じています。

会場には約30名の観客が駆けつけ、さらにトークイベントの様子はオンラインで有料配信されました。

吉田監督とたっぷり1時間も話せるとあって、東出は「普段なかなか雑誌やインタビューで書かれないようなことも突っ込んで聞きたい」と、冒頭から楽しそうな様子。

今回の役のために約半年間かけて準備し、「体作りをしたりボクシング技術を学ぶことによって、ボクサーというのがちょっとずつわかるようになった」と言う東出。「栄光と挫折、努力しても報われない結果というのがこの映画では描かれている。準備稿を読んだ時は、観終わったお客さまが暗い気持ちになるんじゃないかと、どこか思った。今考えると小川という役は決してバッドエンドではないけれど。小川という人物を演じることに複雑さとかがあるのかと先に予測していたけれど、身体を作って、ボクシングして、ボクサーの友人がいっぱいできて…とやっていくうちに、ボクサーの精神性というのはたぶん身体と同時に培っていって、その時に小川ってこんな良い役なんだと(いう思いが)どんどん広がっていった」

また、役作りをしていくうちに、パンチドランカーは人間性も変容していくことを学んだと言う東出は、「いろいろなところから話を聞いてリサーチしていったのだけど、小川は本当にその通りになっていく。だから監督が30年かけてのものだったんだろうなと思った」とコメント。「ドランカーにはいくつか症状がある。怒りっぽくなる。滑舌が悪くなる。ちょっとずつ”斜め”になっていく。まさしく全部でした」

それを受けて監督は、「ボクシングは格好良くて華やかで、爽やかな青春映画ってしたいところなのだけど、現実で言うと危険性もあるし、そのリスクを背負って戦うということなので、自分がずっとやっていると、カッコいい人だけをくり抜いて映画を作れないと思った。ボクシングをやっていない、ボクシングを夢見てる作家さんだったら、その夢を見たような作品として届くと思うが、俺はそれが作れなくなっちゃっている。だからなるべく現実と向き合う作品にしようと思ったら、こうなった」と、本作に至った経緯を語りました。

また東出のボクシング上達ぶりについて監督は、「練習期間短くてそんなにうまくなった人を見たことない」と絶賛。「吸収するのが異常に早い。趣味でボクシングをやるより、役が来ている状況でやるほうが、早いんだろうな」「物覚えがいいんだよ、みんな。だから売れてるのかもしれないよね(笑)」

「平成元年からボクシングをやっている」という吉田監督についてMCが、「『純喫茶磯辺』や『麦子さんと』といった女性主人公の映画を撮った監督のキャリアと結びつかず驚いた」と指摘。監督は、「基本的に女好きだけど、女の子になりたい。女子になりたい。魔法少女になりたい。自分の中のプリキュア性が、女子な映画を作っている気がする」と話すと、会場にはドッと笑いが。

また東出が、撮影現場で吉田監督が監督ブースの横にぬいぐるみを置くことを引き合いに出し、「今回はポケモンだった。”はい、カット”と言った後に、ポケモンのぬいぐるみをずっと撫でながら、”まあいいっしょ、今のOKで”みたいな感じで、ずっとポケモンのぬいぐるみを愛でていらっしゃる」と暴露。監督が「毎現場にぬいぐるみを持っていっている。いつもは同じぬいぐるみを抱いていて、今回の『BLUE/ブルー』だけ、いつものぬいぐるみが無かったから、慌てて2日目に手配した」と続け、「ぬいぐるみを持っている人って、怒鳴りづらくない…?」「若手の生意気な役者とかをビビらせてやろうと思って。ぬいぐるみを持っている時点で、こいつヤバそうだなという」とその理由を明かすと、会場は大爆笑。さらに「海外の役者が来た時は、日本の監督はだいたいぬいぐるみを抱いているんだよ、とガセを流している」「ぬいぐるみの種類によって、キャリアがわかるんだよ」とも話し、観客を沸かせていました。

撮影現場では、松山の方が役作りの期間が長かったことから、東出や柄本に対しては「”こういう風にやった方がいいよ”、”ミット持つよ”と声をかけ、アドバイスしてくれた」そう。「空き時間に、垣根なくしてくださった。その姿が瓜田に重なる感じで、だから役作りとはどこまでの事を言うのかわからないが、松山さんと瓜田の背中がダブったというのは、完全にあった」と東出は振り返りました。

また東出は、モテたくてボクシングを始める楢崎を演じた柄本の演技にも言及。「現場で見てる時生くんはコメディリリーフだと思っていた」と言いながらも、「映画を観た時に、おばあちゃんとのシーンでストレートプレイのお芝居をなさっていて、無茶苦茶良くてそこでぼろぼろ泣いちゃった。時生くんすごいなって思った」

楢崎(柄本時生)、瓜田(松山ケンイチ)

赤髪の洞口を演じた守谷周徒とは仲が良く、その後も親交があるという東出。以前書いた「4人のボクサーの人生が息づいていた」というコメントの”4人目”とは洞口を指していたことを明かし、それを聞いた監督は、「4人目ってそういうことだったんだ」と合点がいった様子を見せました。

イベント冒頭で、本作について「現実のリアリティやヒリヒリする感じがあって、やりすぎていない、様式美に頼っていない、見得を切りすぎていない映画が僕自身も好きで、そういうものに携われるのが光栄で嬉しい」と話していた東出は、監督に向かって「”リアリティ”とは何ですか?」と質問。監督は、「やっぱり説得力だと思う。お芝居にしても、キャスティングにしても、撮り方にしても。本当はリアルじゃないかもしれないけど、リアルに見えるというのは、説得力なんだろうな」と返していました。

また東出は、松山との初日で「喋り方が普段の松山さんのトーンだったのが印象的だった」と振り返り、「役者って芝居となった瞬間に声を作っちゃう人が多いし、僕自身もそういう癖があるのかなと思った。今回はマイク乗りの悪い声というか、気を抜いて喋っている声、カメラ前でなかなか出さない声をみんな出していたんじゃないかなと。松山さん、時生くん、僕にはそういう挑戦があって、それが一種のリアリティに裏付けになれるのかな、と」

一足先に本編を鑑賞した方からは、余韻が残るラストだという声が多い本作ですが、「正直な意見からすると、先のことはなんにも考えてない。作り手でもあるけど、一人のお客さんでもあるか。お客さんにとってはそこ(映画のラスト)で終わっているから、そこで自分の中で物語は終わって、どうなんだろうという気持ちを、自分もお客さんと同じように持って終われる書き方をしている」と監督。

また登場人物の後ろ姿も印象的で、「背中を撮るのが上手い」という声を受けた監督は、「ごめんなさいね、(役者が)正面ですごい良い顔をしていたら」と笑いを誘いつつ、「(脚本を)書いているときから、”後ろ姿”って書いちゃったりとか。それは、撮っている俺にも見えていない。どういうふうな顔しているかな、という風に見たかったりするところもあって、結構背中が多い」と回答。また「後ろ姿を撮ることを”ドラゴン”と名付けた」そうですが、3本ほどの撮影でその言葉を使っても、他には「全然広まらない」そう。

イベントは終盤に差し掛かり、これから本作を観る観客に向けて監督は、「ボクシング映画ってとっつきづらいとか怖そうと思う方もいるかもしれませんが、大丈夫です。『タッチ』を観ている感覚で。ものすごい熱い男のドラマも待っています。両方に良い顔をした、ちょうどいい映画です」とメッセージを送りました。

さらに東出が、「僕自身この映画が大好きなのですけれども、原作もないしそれに謳われるスローガンもないし、こういうのをお伝えしたいというのも、正直ない。オリジナル脚本だし、吉田監督が30年温めてきたものだから、お客さまの思うように持って帰っていただけるのが、この映画の真価じゃないかなと思っている。下手すると感動すらお届けできないかもしれない。でも決してそれはマイナスではなく、忙しかったり情報過多な中で、ただこうやって漠然と良い映画をご覧になった後、これがテーマだとか一言で表せられない、そういうものだから2時間の尺をかけて吉田監督は作品化したんじゃないかと思う。今観るのと、5年後、10年後に観るのでは全然観え方も違うけど、それぐらい味わい深いものになっていると確信を持っている」と締めくくり、イベントは盛況のうちに幕を閉じました。

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『BLUE/ブルー』

出演/松山ケンイチ、木村文乃、柄本時生、東出昌大
監督・脚本・殺陣指導/吉田恵輔
製作/「BLUE/ブルー」製作委員会
製作幹事/東映ビデオ
2021年/カラー/ビスタ/5.1ch/107分
※撮影期間2019年10月〜11月

日本公開/2021年4月9日(金)より新宿バルト9他、全国ロードショー
配給/ファントム・フィルム
公式サイト
©2021「BLUE/ブルー」製作委員会
※吉田恵輔の「吉」は”つちよし”が正式表記