Report

2020.09.19 9:00

【全文レポート】『マーティン・エデン』初日オンライン舞台挨拶に主演ルカ・マリネッリ&ピエトロ・マルチェッロ監督が登壇!

  • Fan's Voice Staff

冒険小説「野性の呼び声」で世界的名声を獲得した作家ジャック・ロンドンの自伝的小説を、イタリアを舞台に映画化した『マーティン・エデン』の公開初日となる9月18日(金)、東京・シネスイッチ銀座にてピエトロ・マルチェッロ監督と主演ルカ・マリネッリ登壇によるオンライン舞台挨拶が開催されました。

舞台挨拶はZOOM経由で実施され、マルチェッロ監督はパリ、マリネッリはベルリンから参加。同日3回目上映の後と4回目上映の前にそれぞれ行われ、さらにその間の入れ替え時に二人は、メディアからの質問に回答してくれました。

『マーティン・エデン』は、労働者階級出身ながら若き日の破天荒な生活を経て大作家になるというアメリカン・ドリームの体現者である作家ジャック・ロンドンの自伝的小説を、イタリア・ナポリを主な舞台に映画化した感動巨編です。

マーティン役を演じたマリネッリは、本作がワールドプレミアされた2019年のベネチア国際映画祭で、『ジョーカー』(19年)のホアキン・フェニックスを抑えて男優賞を受賞。Netflixオリジナル映画『オールド・ガード』ではシャーリーズ・セロン率いる特殊部隊の一員のニッキーを演じるなど、今最も注目のイタリア人俳優です。

舞台挨拶1回目(上映後)

──まずはご挨拶をお願いします。
監督 新型コロナウイルスが蔓延し大変な時に、配給のミモザフィルムがこの映画を公開してくださったことを非常に嬉しく思っています。また、主演してくれたルカも、ここに一緒に出演することができて、とても嬉しいです。

マリネッリ 私もとても嬉しいです。映画と一緒に日本に来ることができなくて、非常に残念でした。一緒に映画と旅をすることができれば、非常に素晴らしい旅になったことだと思います。旅といえば、この映画の制作は、ピエトロと一緒の大きな旅で、冒険であったことも、とても嬉しく思っています。この特別な時期に映画が公開されることを非常に嬉しく思っていますし、特別な形でのご紹介となってしまいますが、ピエトロとこの映画を紹介することができてとても幸せです。

──(観客より)ポスターを見てこの映画を観ました。物語自体すごく見入ってしまい、またもう一度観たいと思いましたし、またこういう風な機会で監督や役者の方と直接交流出来る機会を設けてくれたスタッフの方に心よりお礼申し上げます。素晴らしい作品でした。ありがとうございました。
監督 こちらこそ、ありがとう。とても嬉しいです。

──(観客より)イタリアの風景が本当に美しくて、マーティンの希望や絶望が心に響いて、本当に素晴らしい映画でした。マーティンは作家になって成功を収めましたが、苦しい思いをしたこともわかるわけですが、俳優になって良かったことや苦しんだことがあれば、教えてください。
マリネッリ マーティン・エデンとまったく同じというわけではありませんが、自分自身も彼と同じような感情を感じることができました。ベネチア映画祭に出席したときも言いましたが、この人物像に自分を近づけてくれた秘密があるのですが、それは自分の胸の中にとどめておきたいと思います。ただ彼の魂というものは、自分としては感じることができたと思います。まったく同じことを経験したというわけではなく、実際に彼が経験したことは自分からは遠いものでしたけれども、それでも、自分のものとして感じることができた。それは原作の本の助けもあり、感じることができたと思います。

──(観客より)舞台挨拶を楽しみにしてきました。今回の映画はいろいろな映像などがコラージュのように入ってましたが、現場ではどのように、脚本通り演じたのか、それともアドリブが多かったのか、また役作りをする上でどういった…最初に本を読まれたのか、結構現場で作っていったのか、お聞かせください。
マリネッリ ピエトロが監督なので、その質問はピエトロにしてもよろしいでしょうか。

監督 脚本というのは、映画が撮り終わるまで完璧なものではありえず、編集の段階でも手が加えられ、完成されていくのが、映画の脚本だと思います。特にこの作品に関しては、イタリアを描きたいということと、イタリアをベースにして世界を描きたいということもありました。それからルカという非常に優れた役者を得て、彼に結構任せていったというところもありました。彼にマーティン・エデンという人間を任せたというところがあります。ルンペンプロレタリアートの彼が作家になっていくという、非常に大きな変貌を遂げるわけですが、その中には、本の中で描かれていた倫理観やそういったものも組み込まれていて、それと、ルカという役者を得たことで、マーティン・エデンという人物像が出来上がりました。

──(観客より)とても美しいイタリアの風景が撮影されていますが、原作から舞台をイタリアに移す中で、ナポリをその場所に選んだのは?美しい風景の中で撮っている中で、撮影の裏話とか雰囲気を教えていただけると嬉しいです。
マリネッリ 小さなことになりますが、監督とこの作品について言いたいことがありまして、風景が素晴らしいという言葉は皆さんからいただいていますが、風景の選択というのは自分にとって非常に大事な、基本的なものです。中には、ロケハンを一緒にしたということもあったりするんですけれども、例えばこの映画の中で郊外の家に行って、窓を開けて平原を見るというシーンがあったと思うんですけども、そこの窓を開けて、私自身が非常に大きな感動を受けたんですね。羊が見えたり、あの風景は自分にとっても非常に大きなもので、マーティン・エデンという役を演じるにあたって、非常に自分の助けになりました。

メディアからのQ&A

──ベネチア国際映画祭の男優賞受賞から1年経って改めて、今回の映えある受賞がルカさんにとってどのようなものになったのか、教えてください。
マリネッリ すばらしい思い出、感動で、あの場でもできるだけ多くの方に感謝の気持を表したのですが、やはり自分の仕事はいろんな人の助けがあってできることです。特に今回は、ピエトロの助けがなかったらできなかったことです。これからももっと進んでいきたいと思っています。とにかく素晴らしい思い出です。

──受賞後の環境や心境の変化はありましたか?
マリネッリ これだけ大事な賞をもらうということは非常に大きなことですし、やはり名前を知られるということでもあります。自分にとって非常に大きなことですね。

──監督は脚本の段階からルカさんが念頭にあった、またルカさんは以前から監督の作品を観ていたということで、今回初めて一緒に仕事をしてみて、お互いの印象がどう変わったか、また驚いたことがあれば教えてください。
監督 ルカの方が順応がはやいけど。

マリネッリ 映画を一緒に撮ることは、観るのよりもさらに素晴らしかった。別に彼の映画を観るのがつまらなくなるというわけではありませんが、だけど非常に素晴らしいものでした。

監督 ルカは出来上がっている役者ですし、彼以外にこの仕事を頼むことはできなかった。撮影の時もお互いを理解し合っていたので、目で通じ合うことができて、私はずっとカメラを回していて、目で通じ合うことができた。ルカは非常に完成された男優ですし、だからサジェスチョンとか、ああしろこうしろということを言う必要がまったくなかった。この映画に関しては、役を演じるというよりは、マーティン・エデンという人物を描くことが重要だったので、倫理的な、モラリスティックな部分の構築が非常に重要だったわけです。一緒に彼と仕事をすることは至福の感情を味わうことができましたし、非常に楽しみながら仕事をすることができました。

──ルカさんは、『オールド・ガード』のような大きな予算のあるハリウッド映画と、本作のような予算が限られたアート映画の両方で演じてみて、どのような感想をお持ちですか?
マリネッリ
 機材やプロダクションという意味ではまったく違うレベルものですけど、自分にとっては、監督がいて、役者がいて、他の役者たちと仕事をするという意味で、自分の中ではまったく同じ感覚で仕事をしました。

──ちなみに、監督は『オールドガード』をご覧になったのですか?
監督
 観ていません(笑)。

──再び一緒に作品を撮ると思いますか?
マリネッリ ピエトロ次第ですが、ぜひ。

監督 きっとやるだろう。お金さえ集まれば。

舞台挨拶2回目(上映前)

──本日はお忙しい中ご参加いただきありがとうございます。
監督
 この非常に困難な状況下で、配給の方々が日本で公開にこぎつけてくださったことに感謝したいと思います。いま私と一緒にルカがいることも非常に嬉しく思うんですけれども、この映画を撮るという冒険を、最初から私はルカに委ねるつもりでいました。それでとうとう実現することができたんですけれども、撮ってる間、彼との関係は素晴らしいもので、恍惚状態で仕事をすることができました。この映画に関しては、自分は監督でもあり、プロデューサーとしても仕事をしたわけですけども、プロデューサーの部分では非常に困難がありました。どんなに難しい瞬間でも、挑戦していって、最後まで撮ることができました。いまは非常に幸せな気持ちでいますけど、どうか日本でも”マーティン”が長生きしてくれるように祈っています。というのは、映画はどういう風に年をとっていくかということで、その価値が決まるからです。どうもありがとうございます。

マリネッリ 皆さんありがとうございます。いまピエトロが言ったように、非常にドラマティックな状況下ですが、その中でも皆さんがこうやって観に来てくださっていることを見るのは、非常に感動を誘われます。あんまり長くお話ししないようにしますけど、今回の経験に関しては、自分にとって非常に忘れがたいもので、役者としても、人間としても非常に忘れがたい経験になりました。あとは、映画が皆さんに何かを語りかけてくれること、何かを伝えてくれることを祈っています。ありがとうございます。

──監督へ、ジャック・ロンドンの原作との出会いから20年を経て映画化が実現したということで、思い出の詰まった作品かと思いますが、監督からみた本作の見どころを一言いただけますでしょうか。
監督 この原作を20歳の時に読んで、それで20年経って映画化することができました。映画を撮るのにも何年かかかったわけですけれども。物語の魅力は、普遍的なテーマを扱っているということだと思います。舞台は日本でもイタリアでもあり得たものだと思いますし、ある意味マーティン・エデンというのは、ハムレットのような典型的な人物像と言えると思います。彼の、ルンペンプロレタリアートから作家になるという経緯を演じきれるのは、強い力を持った役者が必要だと思いましたので、ルカに委ねました。この作品の良さというのは、自分としては語ることができなくて、それはやはり、観るお客さんたちの手に委ねられるものかと思います。作品というのは、いろんな映画祭で受賞してから消えてしまうものがあれば、観客から最初は歓迎されなくても、生き残っていくものもあります。時間が経っていかないと、その作品の本当の価値はなかなかわからないと思います。マーティン・エデンの冒険が皆さんの心に届くことを、私たちは気にしています。ですから、映画の運命は皆さんに委ねたいと思います。

──ルカ、本作の演技で昨年のベネチア国際映画祭で男優賞を受賞しましたが、マーティン役を演じたルカからみた本作の見どころを教えてください。
マリネッリ 自分にとってこの映画の素晴らしさというのは、撮影の間、この映画を作ることが非常に素晴らしかったということがあります。やはり、自分たちが作ったものに対して、その良さを語ることは難しいんですけども。特にこの映画については、自分自身がこの映画の人物とか物語に対して恋をしたということがありますので、それについてずっと話し続けることはできますけど、その良さについて語るというのはなかなか難しいと思います。ただこの映画の美点の一部というのは、この映画は2つの映画が重なっているような部分があると思います。一つは映画の物語のところですし、もう一つには撮影の間に起こったことが、この映画の中に入っている。そういったことで、マーティン・エデンの冒険、旅というのが、この映画の中に入っていると思います。

ちょっと今のは、パゾリーニか誰かが言った話なんですけども、自分が言ったことではないので、訂正したいと思います。

==

『マーティン・エデン』(原題:Martin Eden)

イタリア、ナポリの労働者地区で生まれ育った貧しい船乗りのマーティンは、ブルジョワの娘エレナに恋したことから文学の世界に目覚め、独学で作家を志すようになる。幾多の障壁と挫折を乗り越えてついに名声と富を手にするが…。果たして彼を待ち受けるのは希望か、絶望か──。

監督・脚本/ピエトロ・マルチェッロ
脚本/マルリツィオ・ブラウッチ
原作/「マーティン・イーデン」ジャック・ロンドン(白水社刊)
出演/ルカ・マリネッリ、ジェシカ・クレッシー、デニーズ・サルディスコ、ヴィンチェンツォ・ネモラート、カルロ・チェッキ
2019年/イタリア=フランス=ドイツ/イタリア語・フランス語/129分/カラー・モノクロ/ビスタ/5.1ch/字幕:岡本太郎

日本公開/2020年9月18日(金)よりシネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
配給/ミモザフィルムズ
後援/イタリア大使館、イタリア文化会館、在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本
©2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR -ARTE