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2020.08.01 9:00

『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』から紐解く、A24のこだわりとは?

  • Fan's Voice Staff

『スイス・アーミー・マン』で長編デビューを飾り、世界中の映画祭で絶賛を浴びたダニエル・シャイナート監督最新作『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』と、A24とプランBが『ムーンライト』以来のタッグを組んだ『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』。

両作品の製作を務めたのは、『ムーンライト』や『ミッドサマー』を手掛け今や世界中の映画ファンから注目を集める新進気鋭の映画スタジオA24です。『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』はアラバマ州の小さな田舎町、『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』はタイトルの通りサンフランシスコと、それぞれ全く異なる街が舞台となっていますが、その製作過程を紐解いていくと、リアリティを追求するA24の撮影に対するこだわりが見えてきました。

『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』

『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』は、事件も何もない平和な町で起こった“とある怪死事件”の顛末を描いたダーク・コメディ。「南部の地域性や南部人を揶揄するだけのような映画は作りたくなかった」と話すのは、自身もアラバマ州出身のダニエル・シャイナート監督。実際の撮影もすべてアラバマ州で行われ、準備段階でも撮影中でも、リアルに感じたものは積極的に映画に取り入れたといいます。劇中に登場する、煙草を吸いながらエアロバイクでトレーニングする上半身裸の男性や、斜面の上からロープにつないだ芝刈り機で芝生を刈ろうとする女性といった街の住人らは、「実際に現地で目撃したおかしな人たち」だそう。

さらに、本作のキャスト、そしてスタッフまでもが、テネシー州、ケンタッキー州、ヴァージニア州などアラバマ州周辺の南部出身者で固められたという徹底ぶり。おかげで、通常は南部訛りを指導する方言コーチが就くところ、本作では全くその必要がなかったといいます。そのキャスティングには監督も自信を持っており、「A24が、超大物スターの起用を条件としなかったのが幸運だった」とその背景を明かしています。

『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』

そうしたこだわりは、都市開発により変わっていく街で、かつて家族と暮らした記憶の宿る家を取り戻そうと、たったひとりの親友とともに奔走する青年の姿を描いた『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』でも活かされています。サンフランシスコといえば、ゴールデンゲートブリッジや坂道を走る路面電車、優雅に佇むヴィクトリア様式の美しい家々などが印象的ですが、こうしたランドスケープだけでない街と、そこに住む住人たちの魅力を最大限に伝えることがスタッフの一番のミッションとされました。

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』

そこで、本作と同じ実体験を持ち主人公を実名で演じたジミー・フェイルズと、彼の幼なじみで親友のジョー・タルボット監督らは、生粋のベイエリア在住の人間を中心にキャスティングすることを目指しました。「A24は積極的に映画作りをサポートしてくれて、多くの力を注いでくれた」と監督は振り返ります。そのかいあって、彼らの友人やアーティスト仲間、ベイエリア在住のラッパーらが街にたむろする若者役として出演していたり、主人公をそばで支える親友モントが劇中で描くイラストも、地元の友人であるイラストレーターが描くなど、その徹底ぶりはスクリーンの細部にまで及んでいます。

さらに、サンフランシスコが生んだ名優ダニー・グローヴァーにも、5年の歳月をかけ本作への出演を熱烈オファー。制作中には、自身の撮影がない日にも現場にやってきては、サンフランシスコ人の気質を映画に吹き込むアドバイスをくれたといいます。

主人公の親友の祖父アレンを演じるダニー・グローヴァー

全く異なるジャンルながら、大物スターの出演に頼りすぎず地元の住民を積極的に起用した両作。それは、そこに暮らす人々に敬意を払い正確に描くことを重視した、A24をはじめとする製作陣の撮影への強いこだわり、作品への愛であり、地元住民はもちろん世界中の映画ファンの心を掴む所以ともいえるでしょう。

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『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』(原題:The Death of Dick Long)

ヤバい、大変なことになった!ディックが死んでしまった。
舞台はアメリカ南部の片田舎。この事件の真相、深堀り厳禁──。
ジーク、アール、ディックの3人は売れないバンド仲間。ある晩、練習と称しガレージに集まりバカ騒ぎをしていたが、あることが原因でディックが突然死んでしまう。やがて殺人事件として警察の捜査が進む中、唯一真相を知っているジークとアールは彼の死因をひた隠しにし、自分たちの痕跡を揉み消そうとする。誰もが知り合いの小さな田舎町で、徐々に明らかになる驚きの“ディックの死の真相”とは…?

監督/ダニエル・シャイナート
脚本/ビリー・チュー
出演者/マイケル・アボット・ジュニア、ヴァージニア・ニューコム、アンドレ・ハイランド、サラ・ベイカー、ジェス・ワイクスラー、ロイ・ウッド・ジュニア、スニータ・マニ
2019年/アメリカ/ビスタサイズ/上映時間:100分/映倫区分:PG12/字幕翻訳:佐藤恵子

日本公開/2020年8月7日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国ロードショー
提供:ファントム・フィルム、TCエンタテインメント
配給/ファントム・フィルム
公式サイト
©2018 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

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『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』(原題:The Last Black Man in San Francisco)

変わりゆく街・サンフランシスコで、変わらない大切なもの。
家族の記憶が宿る家とたった一人の友。それだけで人生はそう悪くない──。
サンフランシスコで生まれ育ったジミー(ジミー・フェイルズ)は、祖父が建て、かつて家族と暮らした記憶の宿るヴィクトリアン様式の美しい家を愛していた。変わりゆく街の中にあって、観光名所になっていたその家は、ある日現在の家主が手放すことになり売りに出される。この家に再び住みたいと願い奔走するジミーの思いを、親友モント(ジョナサン・メジャース)は、いつも静かに支えていた。今や”最もお金のかかる街”となったサンフランシスコで、彼は自分の心の在り処であるこの家を取り戻すことができるのだろうか。多くの財産をもたなくても、かけがえのない友がいて、心の中には小さいけれど守りたい大切なものをもっている。それだけで、人生はそう悪くないはずだ──。そんなジミーの生き方が、今の時代を生きる私たちに温かい抱擁のような余韻を残す、忘れがたい物語。

監督・脚本/ジョー・タルボット 
共同脚本/ロブ・リチャート
原案/ジョー・タルボット、ジミー・フェイルズ
音楽/エミール・モセリ 
出演/ジミー・フェイルズ、ジョナサン・メジャース、ロブ・モーガン、ダニー・グローヴァー
2019年/アメリカ/英語/ビスタサイズ/120分/PG12/字幕翻訳:稲田嵯裕里 

日本公開/2020年10月9日(金)より、新宿シネマカリテ、シネクイント他全国ロードショー
提供/ファントム・フィルム、TCエンタテインメント 
配給/ファントム・フィルム 
公式サイト
©2019 A24 DISTRIBUTION LLC.ALL RIGHTS RESERVED.