Column

2019.10.12 9:00

【単独インタビュー】『クロール ―凶暴領域―』製作サム・ライミ&クレイグ・フローレス

  • Mitsuo

最大級のハリケーンに見舞われたフロリダで、大量発生したワニから脱出を図るサバイバルスリラー映画『クロール ─凶暴領域─』。

大学の競泳選手のヘイリー(カヤ・スコデラリオ)は、疎遠になっていた父デイブ(バリー・ペッパー)が、最大級のハリケーンが迫りくる中、連絡が取れなくなっていることを知り、実家へ向かいます。地下で重傷を負った父を発見しますが、すでにハリケーンによる浸水によって、家はワニの巣窟に。最大級のハリケーンと地球最強の捕食生物=ワニという自然の脅威が容赦なく襲いかかる中、ふたりは決死の脱出を試みますが……。

サメを遥かに超える獰猛さで水陸で人間に襲い掛かるワニと、巨大ハリケーンという最悪の組み合わせが同時に襲ってくるという極限状態からのサバイバルを描いた本作。

監督に起用されたフランス出身のアレクサンドル・アジャは、女子大生が殺人鬼と戦うスプラッタホラー『ハイテンション』(03年)の生半可でない残酷描写が話題を呼び、日本でもカルト的人気を誇ります。本作では普通の女性が突如、危機的状況に立ち向かうという、アジャが得意とするジャンルで、彼の感性が遺憾なく発揮されています。

製作を務めたのは、クレイグ・フローレスとサム・ライミ。クレイグ・フローレスは、『300』シリーズや『インモータルズ -神々の戦い-』の製作総指揮を手掛けたプロデューサーです。サム・ライミは、コアな映画ファンをうならせた『死霊のはらわた』(81年)やトビー・マグワイア主演『スパイダーマン』シリーズ(02年〜07年)の監督で知られていますが、プロデューサーとして多数のスリラ-やホラー映画にも携わっており、2016年末に日本でもスマッシュヒットした『ドント・ブリーズ』もそのひとつです。

『クロール ─凶暴領域─』の日本公開に先立ち、クレイグ・フローレスとサム・ライミがFan’s Voiceの電話インタビューに応じてくれました。

クレイグ・フローレス、サム・ライミ

──(クレイグへ)この映画の製作は、ラスムッセン兄弟があなたのところへ脚本を送ってきたことがきっかけで始まったということですが、受け取った脚本を読んだ時の反応は?
クレイグ 映画のプロデューサーは、自分も含めた観客がまだ観たことのないものを常に探しています。私が受け取る脚本の中で、読みながら実際に恐怖を感じて、飛び跳ねてしまうようなものはほとんどないのですが、この脚本は他とは違いました。女性主役に加え、ハリケーンとアリゲーターという組み合わせを、シリアスなトーンでこれほどしっかりと描いたものはこれまで見たことがありませんでした。とても心に残りました。

それから、アレックス(=アレクサンドル・アジャ)と一緒に仕事をしたいとずっと前から思っていました。前にとある映画を一緒に作る話があって、開発プロセスを通じて仲良くなったのですが、結局その映画は実現しませんでした。『ピラニア3D』も作っていたアレックスは、本作を任せたいと思う監督の一人で、脚本を読んでもらった後に話したら、彼はまず「”ログライン”(※)を読んだだけで虜になった」と言っていました。”ハリケーンに襲われるフロリダの家の地下で、最も凶暴な動物と共に身動きが取れなくなった父親を、若い娘が救おうとする”。オリジナルなホラーとして、非常に魅力を感じました。

※ログライン=作品についてを1文程度で簡潔にまとめたもの。

──(サムへ)あなたは脚本についてどう思いましたか?この作品にはどのようにして関わることになったのですか?
サム
 魅力的だと思ったところは3つあります。クレイグの話と重なりますが、サスペンスの流れは素晴らしかったし、オリジナル性についても、これまで見たことのない要素の組み合わせでした。でも脚本を読んでいて最も強く感じたのは、これは実際に起き得ることだということ。アメリカでは、熱帯気候に近いニューオーリンズやフロリダといった地域で、ハリケーンに襲われて街が完全に水没し、家の屋根に上って救いを待つ人々の姿を、昔よりも頻繁にテレビで見かけるようになっている気がします。(この映画の舞台は)非常に賢いと思いました。それに、嵐や洪水の後に家に帰ってきてみたら、中にアリゲーターがいたという例も、実際に映像で残っています。ですので、現実に起き得ることが脚本のベースになっていることは見事だと思いましたし、非常にリアルで恐怖感を与えるものになったと思います。

どのように私が関わるようになったかと言えば、脚本を読んだクレイグがアレクサンドル・アジャを起用して、資金調達を行っていたところ、私との共通の知人であるローレン・セリグから「サムとチームを組んでみたら?彼は多くのスタジオと繋がりがあるし、この映画みたいなホラー映画を作ってきた実績もあるし」と言われたそうです。中規模予算の、ジェットコースターのように恐怖が襲ってくる映画のことですね。そして私が脚本を読んだのですが、とても気に入りました。

それと、アレクサンドル・アジャとはもともと一緒に仕事をしたく思っていました。14年ほど前に一緒に仕事をしようとしたのですが、その時は彼が忙しく実現しなかったので。クレイグもはじめに会った時から素晴らしい人物でした。私の家でランチしたのですが、その時にもう”一緒にこのプロジェクトをやろう。関わっている人みんなが最高だね”という感じになり、そこから話が進んでいきました。

クレイグ せっかくだから、『ゴースト・ハウス』の時のアレックスからの手紙の話もしたら?

サム そうだね。14年ほど前の話ですが、私が製作に入っていたソニー配給の『ゴースト・ハウス』(07年)という映画を作っていた時、アレクサンドルに監督してもらおうとオファーしたことがあります。でもウェス・クレイヴンとの映画(『ヒルズ・ハブ・アイズ』)で忙しかった彼は、最終的にオファーを断り、私はパン兄弟を起用しました。

『クロール』のポストプロダクション作業中、私はオフィスの模様替えをしていたのですが、昔の資料を整理していたら、アレックスから送られた手紙が出てきました。そこには「サムへ。あなたの映画を引き受けることが出来なくて、ごめんなさい。今はウェス・クレイヴンと一緒に仕事をしています。でもいつか、あなたと仕事ができることを願っています」と書いてありました。14年後、実際に一緒に映画を作っている最中にこの手紙が偶然出てきたのが、とても面白く感じられました。遂にその日が来たわけですからね。

──あなたから見て、アレクサンドルが監督として突出しているのはどういったところでしょうか?彼の過去作と比べると、本作では”血が少なかった”と言えるかと思いますが。
サム アレクサンドルの最も突出したところと言えば、脚本が持つ強みを最大限に活かそうとする点ですね。私が思うその強みとは、”これは実際に起こり得ることだ”というところです。アリゲーターが生息する地域での洪水を舞台に、これまでのアメリカ映画でまだ描かれていないシナリオを、あらゆる面で可能な限りリアルに描く。演技も撮影も、血の量も。実はアリゲーターの襲撃をもっと激しく残虐に、もっと血腥く撮影したりもしたのですが、アレクサンドルはそうしたカットを使わないことにしました。スリルと引き換えにそこまで痛々しい描き方にしてしまうと、その攻撃から実際に人が生き残られるとは思えなくなってしまいますからね。アレックスはスリル以上に、物語として信憑性があるものを求めていたのだと思います。その結果が、今回のような描写なわけです。

カヤ・スコデラリオ(ヘイリー役)、アレクサンドル・アジャ監督、バリー・ペッパー(デイブ役)Photo by: Marion Curtis / StarPix for Paramount Pictures

──ジャンル映画はハリウッドでもますます人気になっていますが、作り手としてどのような魅力がありますか?

サム エンターテイナーとしては、自分が監督やプロデュースしたホラー映画に、観客が飛び跳ねたり叫んだり、くすくす笑ったり服を被って隠れたりといった反応を見られることを上回る興奮を感じられることはありません。上手く出来たホラー映画は、観客がその映画を心から気に入ってくれるのを実際に感じることができますし、これにはとても感動させられます。これに勝る体験はありませんよ。

クレイグ 私もサムと全く同じ動機で、体験を共にするということなのですが、現在では、2つのタイプの映画でしかこれが出来ないように思えます。観客が熱心に声援を送るマーベルやDCといったスーパーヒーロー大作と、劇場で全員が一緒に”ジェットコースターに乗る”体験をするホラーやサスペンススリラーといった映画ですね。ホラー映画の展開をすべて知った上で、映画館の後ろに立って観客が飛び跳ねたりするのを見るのは、最高に面白いんですよ。

──ホラー映画では怖がらせる様々な演出が次々と登場しますが、そうしたアイディアをどのように生み出し、ストーリーにしていくのですか?
クレイグ
 そうですね、今回の我々の手順を話しましょう。もちろん、ラスムッセン兄弟が書いた脚本には、ワニのいる地下室を中心に素晴らしい演出が数多くありましたが、物語をさらに発展させるために、アレックスと一緒に脚本を書き直し始めました。アレックスの、観客の体験をコントロールするセンスは素晴らしくて、何かを隠したり、(間を)引っ張って焦らしたり、強い衝撃を与えるのにふさわしいのはどこか、はたまた、主人公が安全になったと観客が安心したところに追い打ちをかけるタイミングといった判断に、非常に長けています。こうして、もともとの脚本やリライトを通じて、怖がらせる要素は十分にあったのですが、それからサムが製作パートナーに加わりました。彼のチームの開発プロセスは非常に厳しくて、脚本の隅々から怖さを”一滴残らず”絞り出していきました。そして実際に撮影を開始しました。アレックスのストーリーボードはとても詳細に描かれていて、彼は最低1週間前には綿密なショットリストを用意していました。このようにしてユニークで独特な恐怖を演出していきました。

もう一つサムの話をしたいのですが、サムと私はデイリーを見たりしながら、プロデューサーとしてどのように撮影や編集をサポートするのが良いかも話していました。アレックスの持ち味を限界まで引き出し、さらにはそれを超えさせるよう、彼を刺激し続けるためにね。我々が思ったほど怖くなっていなかったら、『刑事コロンボ』のように、「もしかしたら、これはもう少し怖くできるんじゃないかな……」といった具合でアレックスに話しかけます(サム、笑い)。彼は「ノー、ノー、これで良いと思うよ」と返事をするのですが、だいたいは30分〜48時間ほど経つと戻って来て、「やっぱりあなたたちの言ってることは一理あるので、こうしてみようと思う」と言うのです。その後に彼が作り上げてくるものは、少なくとも我々の期待通り、時には想像をはるかに上回る出来栄えでしたよ。

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『クロール ─凶暴領域─』(原題:Crawl)

大学競泳選手のヘイリーは、疎遠になっていた父が、巨大ハリケーンに襲われた故郷フロリダで連絡が取れなくなっていることを知り、実家へ探しに戻る。地下で重傷を負い気絶している父を見つけるが、彼女もまた、何ものかによって地下室奥に引き摺り込まれ、右足に重傷を負ってしまう──。

監督/アレクサンドル・アジャ
製作/サム・ライミ 
キャスト/カヤ・スコデラリオ、バリー・ペッパー
全米公開/7月12日(金)
PG-12

日本公開/2019年10月11日(金) 究極のサバイバルスリラー、日本上陸
配給/東和ピクチャーズ
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