『ジョーカー』ベネチア金獅子賞の受賞理由を審査員団が明かす!トッド・フィリップス監督も会見に登壇
- Atsuko Tatsuta
第76回ヴェネチア国際映画祭がイタリア現地時間9月7日(土)に閉幕。授賞式に続き開催された記者会見では、最高賞である金獅子賞を受賞した『ジョーカー』について、審査員団が受賞理由を解説、トッド・フィリップス監督が受賞の喜びを語りました。
コンペティション部門の審査員団は、審査員長のアルゼンチン監督のルクレシア・マルテルを筆頭に、ステイシー・マーティン(イギリス;女優)、メアリー・ハロン(カナダ;映画監督)、ピアース・ハンドリング(カナダ;歴史学者、批評家)、ロドリゴ・プリエト(メキシコ;撮影監督)、塚本晋也(日本;映画監督)、パオロ・ヴィルツィ(イタリア;映画監督)の7人。
メアリー・ハロン「90年近い歴史があるコミックは様々な形で描かれてきましたが、『ジョーカー』は完全にひっくり返し、現代社会や、アメリカの政治すら完璧に当てはまる形で、新たな力を与えました。クリエイティブ面でも、これまでは悪役として扱われてきたキャラクターのオリジンストーリーを、信じられないほどの同情を持って展開させています。人は抑圧されたり虐待されると、危険な人物にもなり得るというのを、忘れてはなりません。また(俳優の)見事な演技にも圧倒されました。金獅子賞を授賞したため、(ホアキンによる)その演技に賞を贈ることはできませんでしたが。脚本や美術なども含め、本当に多くの要素がこの作品を本格的な映画と言えるものに成し上げたのだと思います」
ルクレシア・マルテル「ビジネス面を重視するこの業界でリスクを取り、敵なのは個人ではなく社会の仕組みや体制だと訴えかける映画を撮ったのは、アメリカに限らず今日の世界全体にとって価値のあることだと思います。映像も音楽も、あらゆる面で卓越した確かなクオリティを備えており、『ジョーカー』は素晴らしい作品です」(※本回答はスペイン語からの翻訳のため粗訳です)
パオロ・ヴィルツィ「『ジョーカー』は、コミック映画の域を優に超えた、現代を非常に力強く捉えたポートレートです。強烈なアプローチで、憤り、疎外、孤独、精神不安、痛みといったものを描くのにとどまらず、スーパーヒーロー映画ではない、『キング・オブ・コメディ』や『タクシードライバー』といった映画に対する明らかなトリビュートが見られます。映画というものへのラブレターでもあるのです。ホアキン・フェニックスに限らず、彼の同僚や近所の住人などを演じた俳優たちの演技はずば抜けていて、我々はこの映画の芸術的な面からも、現代の風潮を捉えるその力強さからも、本当に衝撃を受けました」
審査員団による会見に続いて行われた受賞者会見には、『ジョーカー』のトッド・フィリップス監督が登壇しました。
──『ジョーカー』は本当に衝撃を覚える映画でしたが、作り終えた時はどのような感じでしたか?ホアキン・フェニックスによる演技も含め、非常に濃い映画で、映画というものにおける表現を変えていくようなものでした。映画を観た時はどのような感情を持ちましたか?
フィリップス監督「映画が完成した時の感情というのは複雑で、観客が映画の意図を理解してくれるだろうかと不安もあります。『ジョーカー』のワールドプレミアが行われたここヴェネチアの観客は、それをよく理解してくれました。あなた(質問者)が言ったことを私の口から繰り返すようなコメントは控えますが……”映画の法則を書き換えた”でしたっけ……、とにかく、みなさんが我々の映画をよく理解してくれたことを嬉しく思いますし、アメリカや他の国の観客にも、同様にうまく伝わることを願っています。ホアキンも私も、この映画をこの上なく誇りに思っています。本当に一生懸命作りました。信じられないかもしれませんが、この映画を作ろうとする上で、たくさんの抵抗もありました。ですので、本当に誇りに思っていますし、褒めていただきありがとうございます」
──作品の公式会見では本作に政治的メッセージはないとおっしゃっていましたが、先ほどの審査員団会見では、個人ではなく体制が敵だというという話がありました。これは政治的な意見に思えますが、あなたはどのようにお考えですか?
フィリップス監督「先日の会見でも話したように、どの視点で観るかによって変わってくると思います。様々な人に受け入れてもらえるような映画を作ろうとしたので、我々から定義づけることは絶対にしたくありません。マルテル氏の見方はそれはそれで正しいと思いますし、私も同じ様な見方であったりもします。でも難しいのは、”これはこうだ”と決めつけることはしたくないのです。アメリカで既にこの映画を観た人の中には、そうした見方をしないで、驚くほどに狂ったキャラクターのオリジンストーリーだと捉えた人も多くいました。見方を決めつけるというのは、フィルムメーカーとして私はとにかくやりたくないことなのです。ですがはっきり言っておくと、彼女(マルテル氏)の解釈はとても好きです」
──これまで多くのコメディを撮ってきたあなたにとって、『ジョーカー』はまさに新時代といえるでしょうが、10年後、20年後にはどのような映画を撮っていると思いますか?
フィリップス監督「私にとってはどれもストーリーテリングで、コメディから大きなステップを踏んだという感じはありません。(周りが)そういう風に思いたくなるのは理解できますが。一般的に、コメディとは”真実”だと思います。そしてアメリカでは、真実とは不愉快なもの、攻撃的なものになってきました。人々はもはや真実を対処できなくなり、そのため私はコメディから離れ、異なったタイプの映画で真実を伝えることができるのではと考えました。それがこの映画のゴールだったわけです。私はドキュメンタリー監督としてキャリアを始めたのですが、その時から、真実というものに強い興味がありました。馬鹿げたようなコメディ映画もいくつも撮りましたが……、繰り返しになりますが、コメディのベースになるのは、真実だと思います。でも時は変わり、物事も変わり、真実は不愉快なものになりました。これから5年、10年先がどうなっているかはわかりませんね」
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『ジョーカー』(原題:Joker)
監督・製作・共同脚本/トッド・フィリップス
共同脚本/スコット・シルバー
製作/トッド・フィリップス、ブラッドリー・クーパー、エマ・ティリンジャー・コスコフ
キャスト/ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ、ほか
日本公開/日米同日 2019年10月4日(金)全国ロードショー
配給/ワーナー・ブラザース映画
© 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. TM & © DC Comics.
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第76回ヴェネチア国際映画祭
会期/2019年8月28日(水)〜9月7日(土)
開催地/イタリア・ヴェネチア
フェスティバル・ディレクター/アルベルト・バルベーラ
© La Biennale di Venezia – Foto ASAC.