ブラッド・ピット主演『アド・アストラ』ベネチアでワールドプレミア!公式会見で新作への想いを語る
- Fan's Voice Staff
ブラッド・ピット主演作『アド・アストラ』がイタリア現地時間8月29日(木)、第76回ヴェネチア国際映画祭でワールドプレミアされ、主演・製作を兼ねるブラッド・ピット、ジェームス・グレイ監督らが公式会見に出席、この作品に込めた想いを語りました。
会場には開始2時間以上前から列ができ、多くの記者が入場できないほどの人気ぶり。早くもブラッド・ピットのアカデミー賞候補の呼び声も高い、この作品の注目の高さを感じさせました。
映画は、近未来を舞台にしたSFアドベンチャー。宇宙飛行士ロイ・マクブライドは、地球外知的生命体の探究に人生を捧げた科学者の父クリフォードを見て育ち、自身も宇宙飛行士の道を選ぶ。しかし、父は探索に出発してから16年後、太陽系のはるか彼方の海王星で行方不明となってしまう。だが、父は生きていた──ある秘密を抱えながら。父の謎を追いかけて地球から43億キロ、使命に全身全霊をかけた息子が見つけたものとは?
ブラッド・ピット率いる製作会社Plan Bがプロデュースを担当。そのピット自らが、初の宇宙飛行士ロイ・マクブライド役に挑み、キャリア史上最高峰の演技を映画史に刻んだと絶賛の声を集めています。ロイの父親で宇宙探索中に消息を絶った宇宙科学者クリフォードには、『メン・イン・ブラック』シリーズで世界中にその名を轟かせたオスカー俳優のトミー・リー・ジョーンズ。不世出の大スター二人の初共演にして親子役が実現しました。
監督は、ピットが「以前から彼の作品が大好きだった。名匠であることは明らかだ」と最上級の敬意を贈るジェームズ・グレイ。長編映画デビュー作『リトル・オデッサ』でベネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞し、『アンダーカヴァー』や『エヴァの告白』などでカンヌ国際映画祭でも常連の逸材です。
近未来の宇宙のリアリティを究極まで追及するために、NASA、元宇宙飛行士、現役かつベテランの航空宇宙エンジニアの協力を得ると共に、宇宙船開発製造会社にも徹底的なリサーチが重ねられたという本作。撮影監督は、クリストファー・ノーランの『インターステラー』で知られ、『ダンケルク』でアカデミー賞にノミネートされたホイテ・ヴァン・ホイテマが担当しています。
──この映画は、宇宙というこの上なく大きな舞台で、非常に個人的な物語を描いていますが、なぜそのようにしたのでしょうか?
グレイ監督 まさにそれが我々が追求したかったことだからです。製作が始まる前に見たとある展示で、「歴史も物語も個人の小さな世界から始まる」と壁に書かれていて、私は写真を撮ってブラッドに送りました。これがきっかけで、出来る限り小さな物語を、最大の背景に語ってみようと決めました。小さいものが普遍になるわけです。この映画全体の原動力となりました。
──(ピットへ)主演にとどまらず、製作として参加された理由は?
ピット ジェームズと私は90年代、ジェームズがデビューした『リトル・オデッサ』(95年)の頃からの友人です。何か一緒にしたいと長年話し続けていて、幸運なことにこの映画がうまくはまりました。ジェームズはちょうど『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』(16年)を終えたところで、個人的にはこれは見事な映画だと思いますが、『アド・アストラ』を実現させるべく、私と私のパートナーのところに脚本を持ってきてくれました。ジェームズは、自身の主張や視点を込めながらも、いわゆる映画的なヒーローをベースにしたストーリーテリングの頂点に達していると思います。繰り返しになりますが、ジェームズと私は以前から非常に親しくいつもオープンに話していて、その中でこの映画は私にとって非常に惹かれるものでした。父親として、息子として、また一人の人間としてね。そして製作が始まりました。
──繊細なストーリーにも関わらず、文学や映画へのレファレンスが込められていて、ジョゼフ・コンラッドの「闇の奥」的なところもあれば、ハーマン・メルヴィルも触れられていますね。
グレイ監督 映画が素晴らしい理由の一つに、様々なアート形式が融合したようなものであることが挙げられます。絵画、シーンをアレンジするという意味でダンス、それからもちろん写真や舞台、戯曲。そして文学は、ナラティブ(物語)という形で関わってきます。ちょっと時代遅れな考えかもしれませんが、私はナラティブを強く信じています。
ナラティブについて考える時、私は一流から”盗む”ことが好きで、おっしゃるとおり(メルヴィルの)「白鯨」には特に夢中になりました。それほど有名ではない本なのはわかっていますが、そうした人目についていないネタをとってきて……映画の中でトミー・リー・ジョーンズが「30年間もこの空気を吸い、これを食べてきた」というのは、「白鯨」でアハブが言っていたことです。私にとって古いものは再び新しく感じられ、一から作り直すのではなく、先に進むために前に戻るというか。昔ながらのテーマは陳腐と言われるかもしれませんが、私は典型になるものだと考えます。そうした物語が持つ力を使い、自分たちなりの方向へ進んでいく。昔からあるベーシックな典型の要素を、この映画では使うようにしました。
──この映画の映像や音楽は圧倒的で、素晴らしい仕上がりになっています。ビジュアルや音響、音楽についても話していただけますか。
グレイ監督 ありがとうございます。ビジュアル面で決め手となったは、1989年のドキュメンタリー『宇宙へのフロンティア』です。まだ観ていない方にはぜひお勧めしますが、アポロ計画の宇宙飛行士が月面で撮影したカラーの16ミリフィルム映像をレストアした、とても美しい映画です。これを観て私は、月面からは星が見えないことに衝撃を覚えました。空には無限の黒が広がっているのです。そして地球はとても小さく見えて。地球を他の天体から見たことがあるのは、この12人の白人男性の宇宙飛行士しかいないということで、”それは一体どんな感じなのか”と考えずにはいられませんでした。映画というもの大きな要素に、感情や雰囲気を作り出すことがありますが、このドキュメンタリーを観て、その驚くほど濃密な、恐ろしく果てしない”黒”に私は驚き、スリルと美しさも感じました。これがガイドとなり、撮影監督のホイテ・ヴァン・ホイテマに私は「ホイテ、この黒をもっと黒くできるか?」と言い続け、彼も「今まさにそれをやっている」と答えていました。アポロ計画の16ミリのアーカイブ映像から始まったというのは変な感じもするかもしれませんが、我々にとってはとても良いガイドになりましたし、素晴らしい映像が完成しました。もちろんリサーチも行いましたし、画家や他の映画から引用したところもありますが、実際の科学が出発点にあったわけです。
音響に関しては、我々はミュジーク・コンクレート(具体音楽)に強くこだわり、映画の中では膨大な量のループが使われています。冒頭で聞こえる「バババッ、バババッ」という超音波のような音は、トミー・リー・ジョーンズが「I love you, my son」と言っているのを、60年代中期のスティーヴ・ライヒのような感じで細かくループさせたものです。
話しすぎていたらすみませんが、とにかく、常に心がけていたのは、すぐにわかってしまうあからさまなものにならないようにすることでした。最も黒い空の黒も、隔離部屋で繰り返し聞こえる声も、頭の中で何度も流れる声も。
最後に音楽ですが、音楽が難しいのは、シンフォニー的な音を使うと、他の映画の真似をしたように聞こえてしまいます。クラシック音楽だとスタンリー・キューブリック、電子音楽だと『ブレードランナー』。そのため、自分なりの”音色”を見出す必要があります。今回は電子音楽とクラシック音楽のシンフォニー的な要素を混ぜ合わせ、この映画なりの音にたどり着きました。
──(ピットへ)『ゼロ・グラビティ』には友人のジョージ・クルーニーが出演していましたね。体を使った演技という意味で、彼と何か話しましたか?この映画であなたは、四方八方に”飛び跳ねて”いますが。
ピット そうですね、宇宙が舞台の映画を撮るのは、ワイヤーに吊られてピーターパンの舞台をやっているようなものですね。ジョージとは“不快な体験”については話しましたが、それ以上は特に話していません。
──すでにオスカー候補との声もあがっていますが、初の主演男優賞を狙っていたりするんですか?
ピット とにかく映画を観てもらいたいだけです。このステージ上にいる全員が大変な努力をして作り上げた、挑戦的で繊細な映画で、様々なことに触れています。我々は何者なのか、魂というものや、我々の目的は何なのか、なぜ頑張ってやり続けるのか。なので、この映画がどのように受け止められるか、とても興味があります。
毎年(オスカーでは)素晴らしい才能の持ち主が認められたり、認められなかったりします。その順番が自分のところにが回ってきたらそれはとても楽しいことですし、他の人に行ってもたいていは友だちなので、それはそれで楽しいことです。うまく(話題を)かわせたかな?
──以上、公式会見より抄訳──
公式会見後には本作の公式上映が行われ、レッドカーペットの周りは、ブラッド・ピットをカメラに収めようとするプレスと多くのファンで溢れ返りました。
黒いタキシードに蝶ネクタイ姿のブラッド・ピットや、黒のロングドレス姿のリヴ・タイラー、そしてルース・ネッガらが登場すると、会場からは地鳴りのような歓声が沸き起こり一斉にフラッシュが焚かれ、ピットらは集まったファン一人一人に丁寧にファンサービスをしながら、スクリーニング会場へ向かいました。
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『アド・アストラ』(原題:Ad Astra)
『アド・アストラ』の物語の舞台は、近未来。
人類は地球外知的生命体との出会いや豊かな資源を求めて、宇宙へと旅立っていた。ある時、巨大な“サージ電流”が地球を襲い、各地で火災や飛行機の墜落事故を引き起こす。国際宇宙アンテナの製造チームを率いていた宇宙飛行士のロイ・マクブライド少佐(ブラッド・ピット)も巻き込まれ、命を落としかける。回復したロイは、アメリカ宇宙軍の上官から、信じがたい“極秘情報”を告げられる。初の太陽系外有人探査計画、通称“リマ計画”の司令官で、探索に出発してから16年後に消息を絶った父、クリフォード(トミー・リー・ジョーンズ)が生きているというのだ。しかも軍は、世界中を混乱に陥れたサージは、父が海王星周辺で行っている“実験”のせいで、このままでは太陽系のあらゆる生命体が滅びてしまうと主張する。
英雄だった父に憧れて同じ道に進んだロイは、仕事に人生を捧げる父を崇拝してきた。だが一方で、父は家族には冷たく、ロイはいつも孤独を抱えていた。突然、父が消えたショックで、さらに心を閉ざすようになったロイは、人との関係をうまく築けない大人になり、恋人のイヴ(リヴ・タイラー)も、離れて行ってしまった。
そんなロイに、「父を探し出せ」というミッションが与えられる。父の旧友であるプルイット大佐(ドナルド・サザーランド)と、まずは経由地点の月に到着するロイ。そこでは、地球各国から移住した人々が、資源を巡る争いを繰り広げていた。さらに国境も法律もない無法地帯があり、ロイの一行も略奪者に襲われる。
プルイットからの「軍は君を信用していない」という警告を胸に、火星へと向かうロイ。波乱に満ちた飛行の果てに、ようやくたどり着いたロイは、基地の責任者のヘレン・ラントス(ルース・ネッガ)の案内で、用意されたメッセージを父へと発信する。だが、何の応答もなかった。意を決したロイは、今度は自分の言葉でメッセージを送る。いったい父に何があったのか──?
監督/ジェームズ・グレイ
製作/ブラッド・ピット、ほか
脚本/ジェームズ・グレイ&イーサン・グロス
出演/ブラッド・ピット、トミー・リー・ジョーンズ、ルース・ネッガ、リヴ・タイラー、ドナルド・サザーランド
日本公開/2019年9月20日(金)全国公開
配給/20世紀フォックス映画
© 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
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第76回ヴェネチア国際映画祭
会期/2019年8月28日(水)〜9月7日(土)
開催地/イタリア・ヴェネチア
フェスティバル・ディレクター/アルベルト・バルベーラ
© La Biennale di Venezia – Foto ASAC.