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2019.08.29 12:10

是枝裕和監督『真実』ベネチアでワールドプレミア!レッドカーペット&囲み取材レポート

  • Fan's Voice Staff

8月28日(イタリア現地時間)に開幕した第76回ヴェネチア国際映画祭のオープニング作品として、是枝裕和監督の『真実』がワールドプレミア上映され、レッドカーペットには是枝監督をはじめ、豪華キャスト陣が集結しました。

左より)ジュリエット・ビノシュ、是枝裕和監督、カトリーヌ・ドヌーヴ、マノン・クラヴェル、クレモンティーヌ・グルニエ、リュディヴィーヌ・サニエ © Theo Wargo/Getty Images

同日開催された公式会見に続き、大勢のマスコミや観客があふれるオープニングのレッドカーペットに登場したのは、是枝裕和監督、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、リュディヴィーヌ・サニエ、クレモンティーヌ・グルニエ、マノン・クラヴェル。

観客からは「コレエダ!」という歓声が上がり、是枝監督の国際的な人気ぶりが伺えました。またジュリエット・ビノシュ、是枝監督は会場に集まった観客の元へ駆け寄りサインするなど、ファンサービス行う様子も見せました。

レッドカーペットには、コンペ部門の審査員を務める仏女優ステイシー・マーティンや塚本晋也監督も登場。そのほか、ニコラス・ホルトなどの人気俳優も姿を見せ、映画祭のオープニングイベントを大いに盛り上げました。

塚本晋也監督(右)

ステイシー・マーティン © Theo Wargo/Getty Images

ニコラス・ホルト © Theo Wargo/Getty Images

オープニングセレモニーが開催されたキャパシティ約1,030席の会場が満席となる中、大きな拍手に迎えられながら、レッドカーペットを終えたカトリーヌ・ドヌーヴを先頭に『真実』のキャスト陣が場内に入場。最後に是枝裕和監督が着席し、オープニングセレモニーがスタートしました。『真実』はもちろんのこと、映画祭に出品された作品たちが次々とスクリーンに映し出されながら、審査員として塚本晋也監督も紹介されました。

オープニングセレモニー © Vittorio Zunino Celotto/Getty Images

セレモニーに続き、ついに本作のオープニング上映が開始。上映中はカトリーヌ・ドヌーヴ演じる我儘で奔放で、でもチャーミングで憎めない国民的大女優ファビエンヌの毒舌に笑いが巻き起こったり、豪華キャストで描き出す母と娘の愛憎渦巻くドラマに涙したりと、観客もすっかり魅了された様子。

© Vittorio Zunino Celotto/Getty Images

上映終了後は、そんな作品の温かさを反映するように6分にも及ぶスタンディングオベーションが続き、是枝監督やカトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュらは、満面の笑みを見せながら、割れんばかりの歓声を全身で受け止めました。

上映後には是枝監督が囲み取材に応じました。

──公式上映後のキャスト陣の反応はいかがでしたか?
上映が終わった後にカトリーヌさんが「とても温かい良い上映だったわ」と、すごく笑顔で語りかけてくれたので、よかったなと思いました。なかにいると、観客の反応を確認するほどの余裕がないのと、僕自身出来上がってからまた何度も作品を観ていないので、編集の事を気にして観てしまっていて(笑)。でも良かったみたいです。ジュリエットさんも、「観ていて、いろんな感情の層が厚い映画になっていて楽しめた」と仰っていたので、まず2人の感想にホッとしました。

──お客さん笑っていましたか?特にどのシーンでしたか?(※本質問の回答には本編のネタバレが含まれます)
笑ってくれてましたね。最初のファビエンヌのインタビューのシーンで結構掴めていた感じですね。最初の掴みがよくて、随所で笑って欲しいところで笑いがおきていました。

最後にリュミールが娘を使ってお母さんにお芝居をしかけて、娘が戻ってくる前に自分でセリフを繰り返しているシーンで、結構いい反応が、笑いがおきていたので、あそこで笑いが起きるという事は物語全体をちゃんと掴んで1時間40分ついてきてくれたんだなという事なので、「あっ大丈夫だ」とホッとしました。

カトリーヌ・ドヌーヴ © Theo Wargo/Getty Images

──ヴェネチア国際映画祭は『三度目の殺人』ぶりですが、レッドカーペットは改めていかがでしたか?
カンヌに比べるとレッドカーペットは階段がないので、すごくフレンドリーなんですよね。集まってきてくださった観客の方もフラットで、垣根がないので、なんとなく気楽にサインに応じられるところもあります。昔に比べるとセキュリティはきつくなっているけど、それでも緩いですよね(笑)。それが良さだなとも思います。ただ、いつ全員出揃って撮影なのかとか、観客に呼ばれているけどサインしにいってもいいのかとか、ここでテレビの取材なのかとか、いろいろ教えられないままだったのですが(笑)、それも含めて楽しみました。

──是枝監督は最初の長編『幻の光』がヴェネチアで上映されましたね。以前、「ヴェネチアの人だと思われている」と仰っていたこともあるかと思うのですが、アルベルト・バルベーラ(ヴェネチア国際映画祭ディレクター)からは、どんな言葉をかけられましたか?またオープニング作品に選ばれたことについてどんな想いですか?
アルベルトさんは映画祭に選んでくださったときだけじゃなくて、僕がカンヌに呼ばれることが多く、ここに来られない間も作品を観て感想を伝えてくださったり、この10年以上すごく親しい付き合いをさせていただいている間柄なので、作品も観ていただいて、完成する前に観ていただいて意見をいただくようなことも、この作品に限らずやっているんです。とても信頼している映画人で、嘘を吐かない方でもあるのですが、今回も正直なリアクションで「オープニングに」と言う形で呼んでいただけました。終わった後も握手を求めにきてくださって、良かったなと。映画祭のスタートを決める大役でしたので、その役割は、果たせたかなと思っています。

最初の記者会見で集まっている記者の数が、僕が経験した中でも圧倒的に多かったので、カトリーヌさんとジュリエットさんが揃うとこういうことなんだなと思って、驚きでした。

──記者会見すごくいい雰囲気だったと思います。カトリーヌさんも穏やかに話されていました。
(カトリーヌに)通訳が入るから、もうちょっと短くしゃべったほうがいいわよってあとで注意されました(笑)。

──昨年、映画祭の会場に近いホテル・デ・バンで映画祭75周年の写真展があり、黒沢監督だけでなく、錚々たる日本の監督が宝物のように扱われていました。今回の映画祭ではその先輩たちの雰囲気を感じましたか?
『羅生門』がありますからね。日本人にとっては特別な映画祭というのは承知しております。2年前に来た時は(北野)武さんがいらして、ホテルのロビーでご挨拶した時に思ったのは、やっぱり武さんの映画祭なんですよね。存在感をすごく感じて。武さんのファンがホテルの外に集まっていて。僕らの世代は武さんがリードして、国際映画祭で黒澤、溝口、小津の次は大島、今村がいて、そこから新しい監督が出てきたということで武さんが道を照らしてくれた後を歩いているって、ヨーロッパの映画祭では感じるんですが、ヴェネチアではよりそれを強く感じますね。

──授賞式も控えますが、意気込みは?
この間のインタビューで意気込まないって言ったんですよ(笑)。

言葉の選び方が難しいですが、僕はオープニングで満足ですね。作るたびにコンペで受賞を期待されるのは作り手にとってはプラスではなくて、色んなものを作りたいと思っているなかで、今回は本当に軽いタッチで秋のパリの水彩画を描くように、日差しに溢れてほかほかするような読後感で、観客の方には劇場を出ていってほしいなと思っていています。コンペの受賞に偏見を持っているわけではないのですが、三大国際映画祭のコンペの受賞って意外ともう少しこってりした油絵の方が好まれる傾向があると思うんです、いいか悪いかは別として。今作ではそことは違うところに球を投げているというか。作っている時からそう思っていて、そして実際に作りたい方向で仕上がっているです。でももし、今日のお客さんとは別の評価をしていただけることがあるのでしたら嬉しいです。

──今日、今の気持ちは今までと何が違いますか?(日本で作った作品で海外の映画祭に来ることとの違い)
難しいな……記者会見に出た時に、今回作ったのは日本映画ではないものとしてみられているなと一番感じましたね。

ヨーロッパの映画祭はヨーロッパの文化の中で育ってきたものだから、日本映画含んだアジア映画ってどこか違う目線で見られている。今回はこちら(ヨーロッパ)の土俵で作った作品だと見られているとちょっと感じました。

ジュリエット・ビノシュ © Theo Wargo/Getty Images

──違う土俵で作ったとみられていると思うのですが、自分としては本作品手ごたえは?
フランス映画だからこうしなければとか、日本映画の良さなど自分で線を引いてつくっていないので、自分が普段やっていることをどうしたら同じように意思の疎通をはかりながら、尊敬するスタッフとキャストと物が作れるかというのは考えましたし、やっぱり通訳のレアさんという方を見つけたのが凄く大きいのですが、その辺は相当用意周到に僕がやりたいことをやる為に、スタッフィングに時間をかけました。一番摩擦が起きている所は僕は知らないふりをしてプロデューサーの福間に任せているので、僕はノーストレスでした。本当に。自国ではないところで作る事に対して何か言い訳ができるような齟齬をきたしたことはないので。つまらなければ僕のせいだなと思います。異文化のせいに出来ない状況で作れたのはよかったと思います。逃げ道がない感じで。

──できた映画を見ても自分が普段やっていることを出せたという手ごたえはありましたか?
あります!ただ、最終的にはフランスの方がみてどのくらいこの映画が、もちろんフランスのスタッフが見てOKだしてくれてはいるんですけど、日本語だと最終形をみても字幕を見てでしか判断が出来ないっていうところで、どこかまだちょっと出来合上がったものに対しての自己評価が最終的にどう落ち着くのかがつかめないところはあるんですけど。現場に関して言うと、ほぼ自分の思い通りに、制作のプロセスも出来上がった作品もですけど、できたんじゃないかとそこは自信あります。

──今のところ一番印象に残っている、高揚した事ありますか?
まだ来て24時間経ってないので(笑)今日の公式上映のカトリーヌさんの衣装は素晴らしかったな。なんか君臨している感じがするな。記者会見もそうですけど彼女が会場に入った時におきる対する拍手は彼女のキャリアに対してのリスペクトだと思うんですよね。それが嬉しいですよね。僕も一緒に拍手を送りたい気持ちでしたけど。24時間の中ではあの記者会見の会場に入った時の拍手かな。あー嬉しいなと思いました。

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『真実』(原題:La Vérité)

全ての始まりは、国民的大女優が出した【真実】という名の自伝本。
出版祝いに集まった家族たちは、綴られなかった母と娘の<真実>をやがて知ることになる──。
国民的大女優ファビエンヌが自伝本【真実】を出版。アメリカで脚本家として活躍する娘のリュミール、テレビ俳優の娘婿ハンク、ふたりの娘のシャルロット、ファビエンヌの現在のパートナーと元夫、そして長年の秘書……お祝いと称して、集まった家族の気がかりはただ1つ。「一体彼女はなにを綴ったのか?」
そしてこの自伝は、次第に母と娘の間に隠された、愛憎渦巻く「真実」をも露わにしていき──。

監督・脚本・編集/是枝裕和 
出演/カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク、リュディヴィーヌ・サニエ
撮影/エリック・ゴーティエ

日本公開/2019年10月11日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給/ギャガ
公式サイト
©2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA

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© Lorenzo Mattotti per La Biennale di Venezia

第76回ヴェネチア国際映画祭

会期/2019年8月28日(水)〜9月7日(土)
開催地/イタリア・ヴェネチア
フェスティバル・ディレクター/アルベルト・バルベーラ
© La Biennale di Venezia – Foto ASAC.