Column

2019.02.22 17:01

【単独インタビュー】名優クリストフ・ヴァルツが初来日!『アリータ:バトル・エンジェル』を語る

  • Hikaru Tadano

『タイタニック』、『アバター』で知られるハリウッドのメガ・ヒットメーカージェームズ・キャメロンが20年以上をかけて構想した木城ゆきとによる漫画「銃夢」の実写映画化『アリータ:バトル・エンジェル』。キャメロンが自ら脚本、製作を手がけた本作が、ロバート・ロドリゲス監督の手によってついに完成、2月22日(金)に日本公開されました。

舞台は数百年先の未来。〈アイアン・シティ〉のスクラップの山の中で意識を失った状態で発見されたサイボーグの少女アリータ(ローサ・サラザール)は、サイバー・ドクターのイド博士(クリストフ・ヴァルツ)によって助け出される。目を覚ましたアリータだが自分の過去も、自分がいる世界についての記憶も一切ない。ある時自分が持つ並外れた戦闘能力に気付き、自らの出生の秘密を見つけようと決意する。その過程で世界の腐敗に気づき世界を変えようと挑むが…自分は一体何者なのか?並外れた戦闘能力の意味するものとは?サイボーグの少女アリータの旅が今、始まる──。

アリータの父親代わりのサイバー医師イド役を演じたクリストフ・ヴァルツは、オーストリア出身の俳優で、クエンティン・タランティーノ監督『イングロリアス・バスターズ』(09年)と『ジャンゴ 繋がれざる者』(12年)にてアカデミー賞助演男優賞を二度受賞。2015年公開の『007 スペクター』では、悪役フランツ・オーベルハウザーを演じています。

『アリータ:バトル・エンジェル』公開に先立ち、クリストフ・ヴァルツが初来日。Fan’s Voiceのインタビューにて、ジェームズ・キャメロンやロバート・ロドリゲスとの関係、自身が演じたイドについて、日本についてなどを語ってくれました。

──タランティーノ作品では、2度のアカデミー賞に輝いていますね。本作の監督ロバート・ロドリゲスとタランティーノは友人で知られていますが、この作品以前から、ロドリゲス監督とは面識があったのでしょうか?

「いいえ、面識はありませんでした。ロバート・ロドリゲスとクエンティン・タランティーノは同時に話題にされることが多いですが、彼らは比較することのできない、別々の人物なのです。二人はたまたま友人なだけで、いつもベッタリな相棒同士というわけではありません。ロバートはオースティンに住んでいて、クエンティンはロサンゼルスにいます。友人同士ですので、もちろんお互い連絡も取り合っていると思いますが、それだけのことです。私はこの作品の前はロバートと面識はなく、普段どおりキャスティングの告知が出て、エージェントが動き出し、制作側の代理人とのやり取りが始まり、そしてロバートに対面したわけです。その後ジェームズ・キャメロンと話し、またロバートに会って、そしてやっと脚本を読ませてもらいました」

──ロドリゲスとの仕事はどんな感じだったのでしょうか?

「ロバートは非常に物静かで落ち着いた、集中力のある人。私もある意味で似ています。ロバートも私もこの業界に長年いて、その中で様々なことをしてきたわけで、お互いの”やり方”をリスペクトしています。非常に大人な、成熟した関係でしたよ。彼は言いたいことを遠慮なく言い、私は自分の理解が合っているか彼に確認する。それだけのことで、感情的になったり心が痛むようなやり取りは全くありませんでした。非常にシンプルです」

──この作品はジェームズ・キャメロンが非常に長い年月をかけて構想を練ってきましたが、そうしたプロジェクトに関わってみた感想を教えてください。

「そういった詳細を私が知ったのは、後になってからでした。撮影が始まった時、製作準備にそんなに長い時間がかけられていたことや、ジム(ジェームズ・キャメロン)が20年前にこの作品の権利を取得していたとは、知りませんでした。ジムは、自身の脚本とメモ、それから監督という職をロバートに託し、任せたのです。撮影現場に来たのは1度きりでした。でもそれが、遠くから様子を見守っていなかったということにはなりません。ジムは本当に多忙なので、ロバートが引き受けてくれたことを喜んでいましたよ」

──ジェームズ・キャメロンのビジョンをどんな風に解釈しましたか?

「物語の根底にある”心”を失うことなく、技術的に新たな境地を目指すのがジムのゴールです。この点は『アリータ』でも明確に見て取れると思いますが、これだけの巨大スペクタクル作品なのにも関わらず、物語には心と魂が宿っています。ジムにとって、それから本作ではロバートにとって、感情が最も重要な要素です。キャラクター同士の関係──彼らは”人間的側面”と呼んでいますが──まずこれが第一にあり、他の要素はこれを手助けするに過ぎません。『タイタニック』でも『アバター』でも『ターミネーター』でも、これはジムの映画に共通しています。『ターミネーター』でも、母親と子どもとの関係が最も大切に描かれていますよね。これこそがジムの描くビジョンだと思います」

──本作は日本の漫画『銃夢』が原作ですが、あなたは漫画やコミックには興味はありましたか?

「全くありませんでした。けれど、アプローチは他の映画と全く変わりません。例えば『戦争と平和』を映画化するとなったら、まずトルストイ(の原作)を買いに行くのです。それと同じで、コミックにはあまり興味がなく漫画もよく知りませんでしたが、簡単に手に入るものなので、原作を買って読みました。でも、演技をする上で、漫画をベースにすることは出来ません。作品の背景を知る興味深い資料になりますが、俳優には脚本が必要なのです」

──脚本で最も興味が惹かれた部分はどこでしょう?

「ジムが当初思い描いた本作のイメージは知っていました。巨大で、未来感漂う、ディストピア社会。これはこれで興味深いし非常にワクワクすることですが、今話したように、俳優としてこれを元に演技をすることはできません。作品のストーリー、他のキャラクター、物語を通じて本当に伝えたいことは何なのかを知る必要があります。(脚本を読むと、)社会に対し非常に批評的な視点を持っていることがすぐにわかり、興味を持ちました。未来ではなく今日現在に対して、私も同じ見方を持っているので、自分としても付け加えられることがあるのではないかと思いました」

左より)キズナアイ、クリストフ・ヴァルツ、ローサ・サラザール(アリータ役)、ロバート・ロドリゲス(監督)、ジョン・ランドー(製作)

──劇中ではサイボーグのアリータと登場するシーンが多くありますが、実際にどのように撮影されたのでしょうか?

「アリータ役のローサはパフォーマンス・キャプチャー用のスーツを着ていただけで、全く問題ありませんでしたよ。他の衣装と何ら変わりはありません。共演相手が変な衣装を着ているのなんて、よくあることですからね。相手が17世紀の侍の格好をしていたら、まああなた方にとってはそんなに違和感はないかもしれませんが、今どきの子どもの目からすると、そんな格好をした俳優は一風変わったように見えることでしょう。なので、様式が違う、というだけです。パフォーマンス・キャプチャー用のスーツは、見た目はそんなに目に優しいものではありませんが、結局のところ、ただの衣装です」

──普段どおりローサと演技していた、ということですね。

「そうです。パフォーマンス・キャプチャーと呼ぶくらいですから、キャプチャー=取り込むためのパフォーマンス=演技が絶対に必要なのです。そういった意味で、俳優としては普段通りのことをするだけです」

──アリータを観ていると人間のように思えてきますし、それがこの映画の素晴らしいところだと思いますが、完成した本作をご覧になって、最も気に入った点があれば教えてください。

「先ほど話したような重要な要素が、全て反映されていたことが最も良かったと思います。本作の批評的側面やそのアプローチは、うやむやにされることなく非常に明確です。そんなに大事なことでないと思う人もいるかも知れませんが、この映画では重要なことなのです。それから、本作のような巨大スペクタクルVFX映画で、こんなにも感情のこもった意味深い映画は観たことがないと思いました。一般的なスーパーヒーロー映画は”見世物”にしか過ぎず、私は興味がありません。そこに意味のある主張があると、話は変わってきます」

──イドとはどのような人物だと理解していますか?

「イドにはダークサイドがあり、必ずしも”親切で優しい人”ではない点が気に入っています。どんなキャラクターでも、まともに描くには両側面が必要なのです。本編を観ればわかりますが、ある意味まだ物語は終わっておらず、よくわからないミッションや謎が残っています」

──あなたと同世代の観客はこの映画を楽しむと思いますか?

「興味深い質問ですね。というのは、私自身、この映画を見て気に入った事に驚きを感じました。普段このような映画は好きではないので。同世代の観客が楽しんでくれるのは良いことですがね。あなた(=記者)は、仕事じゃなくてもこの映画を観に行きますか?

──本作の続編は期待できるのでしょうか。

「そうですね、興行次第ではないでしょうかね。非常にコストの高い映画ですからね。ですが、ストーリー自体には続きがあると……彼(=ジム)が何作分の権利を取得しているか知りませんが」

──オーストリア生まれで、ドイツ育ち、ロンドン在住のあなたは、フランス語などいくつもの言語が話せますね。とても文化的にカラフルな背景をお持ちですが、これは俳優として役に立っていると思いますか?

「ヨーローッパで生まれ育った経験がどのように役に立つのか、具体的にはよくわかりませんが、子ども時代、アメリカでは絶対に受けることができなかったであろう基礎教育を、ヨーローッパでは受けることができました。アメリカの進歩的な学校とは違い、私が通ったヨーローッパの学校は古風なところでした。ですので私は、教育というものの役割や存在理由に対し、ある意味、伝統的な考えを持っていると思います。特に文学と歴史に関してはね。ヨーロッパには、芸術の歴史や背景があります。私が育った街は──おそらく2000年前ほどからあるのではと思いますがー毎朝学校に行く時に、14世紀の建物や、ベートーベンが住んでいた二つの家や、シューベルトが生まれた家の横を通って行きました。まるで、モーツァルトが、すぐそこに住んでいたようなものなのです。つまり、他とは違う伝統があるのです。一方、アメリカにはこうした伝統がないわけで、ある意味それは解放感のあることです。長年に渡る重い伝統があると、気が滅入ることもありますからね。日本の方ならよくおわかりだと思いますが。「これだけの歴史があって今の君が存在しているんだ」と言われると、身動きしづらくなってしまいますが、アメリカでは長い伝統への縛りがない分、自由があります。その一方で、アメリカではあらゆることが商業的なことが過酷だと思います。すべてに値段がつけられ、いつでも誰でも売ることに努力し、絶え間なく売買が続く完全に商業的な精神は、消費することしか考えていません。私は日本のように伝統を持ったところの出身で、生産することを意識します。生産して、消費する。アメリカは消費するだけです」

──ハリウッドでは今ダイバーシティが声高に扱われていますが、あなた自身は、ある意味、ダイバーシティを体現されているともいえるのではないでしょうか。

「言ってみれば、そうですね。でも、私自身が選べることじゃありませんからね。ユニークなバックグラウンドがあることは、有利な面もあります。私の経験は私のもので、自分の人生に活かすことができますし、誰もそれを奪う事は出来ません。どのように生きるかも私次第で、これはアメリカの自由なところの一側面ですね。私を多少エキゾチックな存在だと思っているのか、アメリカでは、私が私でいることが許されるどころか、奨励してくれるのです。自分の居場所がある感じがしますよ。ちょっと脇のニッチなところですが、それでも良い場所です」

──今回が初来日とのことですが、日本の来る前と来た後で、どのような印象をお持ちですか?

「日本には昔から非常に強い興味がありました。それは歴史や芸術に関することで、日本には、芸術分野で世界中どこにも存在しない独特の生き方があると思います。日本では古い伝統が未だに重んじられ、人生をかけて、世代を超えて受け継がれています。私に言わせれば、これこそが文化というものです。どのようにすれば、意思疎通しながら互いに干渉することなく共に人生を歩むことができるか。
それから、”マスター”(名人、達人)について。”マスター”と聞くと私がいつも思い浮かべるのは、日本の名人です。分野は何でもよくて、陶芸、書道、剣道、演劇、瞑想などがあるでしょうが、とにかく、”マスター”と聞くと最初に考えるのは、日本です」

==

『アリータ:バトル・エンジェル』(原題:Alita: Battle Angel)

舞台は、“支配する者”と“支配される者”の2つの世界に分断された、謎めいた遠い未来。サイバー医師のイドは、瓦礫の中から少女の人形の頭部を拾い上げる。彼女は300年前のサイボーグであり、なんと脳は生身のまま生きていた。イドは、過去の記憶を失っていた少女に新たな機械の身体を与え、アリータと名付けて成長を見守る。ある日、自分の中に並外れた戦闘能力が眠っていることに気づいたアリータは、自分が300年前に失われたテクノロジーで創られた“最強兵器”だということを知る。逃れられない運命に直面した少女は、与えられた自分の命の意味を見つけるために、二つの世界の秩序を揺るがす壮大な旅に出る──。

原作/「銃夢」木城ゆきと
脚本・製作/ジェームズ・キャメロン
監督/ロバート・ロドリゲス
出演/ローサ・サラザール、クリストフ・ヴァルツ、ジェニファー・コネリー、マハーシャラ・アリほか

日本公開/2019年2月22日(金)全国ロードショー
配給/20世紀フォックス映画
公式サイト
© 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation