Column

2019.01.31 18:00

【インタビュー】正義の男ヒュー・ジャックマンが、スキャンダルで失脚した1988年大統領選の『フロントランナー』を語る

  • JOSHUA

1988年のアメリカ大統領選挙において史上最年少46歳で民主党の大統領候補となったゲイリー・ハート上院議員。ジョン・F・ケネディの再来といわれ、国民からも人気のあった彼だが、マイアミ・ヘラルド紙の報じたとあるスキャンダルによって、ハートは一気に窮地に追い込まれた……。

政治家とスキャンダル、そしてマスコミ報道のあり方。今日の政治家とマスコミとの関係の原点ともいえる実在の事件の顛末を追ったポリティカル・サスペンスが『フロントランナー』である。

公開に先立ち来日したヒュー・ジャックマンにインタビューを敢行。ハリウッド一のナイスガイが、スキャンダルで失脚した政治家に思うこととは?

──実際にゲイリー・ハートに会ったそうですが、具体的にどんなことをアドバイスされましたか?

「ゲイリーは空港まで迎えに来てくれたんだ。確か彼の家に3日間滞在したんだけど、彼はとても気さくでオープンな人だ。彼には、今世界で起こってる様々なことについて沢山質問をしたね。オーストラリアの政治についてはもちろん、世界の政治についてだったり、彼の生い立ちに関しても。あと、彼には僕がどれだけこの役を本気で引き受けていたのかを理解して欲しかったし、それと同時にゲイリーという人物を演じることの難しさ、そして彼の人生で最悪だったともいえる3週間を僕が再現するということは彼にとって大変難しい決断だったと思うが、僕が文字通り全力でやったということも彼には知って欲しいと思ったよ」

──1988年の選挙戦で共和党副大統領候補のブッシュ陣営を率いていたリー・アトウォーターが、ゲイリー・ハートのスキャンダルは自分が仕込んだことだったと死に際に告白したと報道されていますね。

「ゲイリーはいろいろ話してくれたよ。僕がコロラドで彼に会ったとき、僕はそれについて知らなかったんだ。僕が思うに、我々はみんな政治の舞台裏では何らかの汚い工作が行なわれてたことは分かっていた。実際ブッシュがCIAのトップだったんだから。僕はゲイリーに訊いてみたんだ。いつ彼は気づいたのか、自分の家の外やワシントンに沢山の人がいるのを見たのか。彼はそうした人々をジャーナリストと思ったのか。共和党が送り込んだ人間だと思ったのか。彼らは知っていたんだよ。非常に興味深いよね。調査が必要なのは明らかだ。いくらか真実もあったと思うよ。でも全てが真実だったとは言えないんじゃないかな。

いいかい、この映画は彼が不倫をしていたか、していなかったのかを伝えるものではないんだ。この映画は、実際に彼が不倫をしたのかどうかとはあまり関係がない。そもそも我々がこの問いかけ(彼が不倫をしたのかどうか)をするのは適切ではないんじゃないだろうか?もし君が明日、心臓の手術を控えているとしよう。君は君の担当外科医に“あなたの結婚生活はうまくいっていますか?”なんて聞くことはしないだろう、と断言できるね。そんな質問しようなんて考えもしないだろう。君は命の危機に直面しているんだからね。君が知りたいのはその医師が腕のいい外科医かどうかだけだ。それなのに、事が政治家になると、我々は彼の結婚生活がうまくいっているのかどうか知りたがる。彼が政治家として我々のリーダーにふさわしいかどうか知りたがるのと同じくらいにね。要するにこの作品は、その点について語ったものなんだ。

ゲイリーはアメリカがかつて得たことのない素晴らしい大統領になり得た。でもその機会は永遠に奪い去られてしまった。世界はより良く変われたかもしれないのに。ここにこの映画の魅力がある。特に君がゲイリー推しの民主党員ならね、だろ?

ジェイソン・ライトマン監督

ジェイソンはこの映画で、いろいろと異なる側面を見ようとする人々(観客)に、明確な答えを与えることを拒んだんだ。ドナ・ライスの観点からこのストーリーを見ることも出来るよね。実際、ドナには共感できるところが多いんじゃないかな。これを主人公(ゲイリー)の転落劇と呼ぶ人もいるだろう。誰もドナの転落劇とは言わないだろうね。でも22だよ?その歳で世界中から自分のことを”bimbo”(ふしだらな頭からっぽの成り上がり女)って呼ばれたんだ。人々は彼女の名前なんか覚えちゃいない。”あのブロンドの娘”ってくらいだろう。でも彼女の人生はその若さで滅茶苦茶にされてしまった。この転落劇については誰も重視していない。なぜだい?なぜゲイリーの生活はドナのより重要なんだ?分かるだろ?これがジェイソンが重視した点なんだ。だからこそ、一歩下がってこの点について様々な見方をするべきなんだ。

僕はとあるレビューを読んだんだけど、そこにはこう書かれていた。“これはすごくいい映画だ。だが現代において役には立たない”ってね。それって変な表現な気がしたんだよね。どうして映画製作者が現代の政治の問題点を解決しないといけないんだ?この映画は、政治の問題点を解決する答えを与えるストーリーというわけではないんだ。僕はジェイソン・ライトマンの考え方に賛同してる。我々はストーリーを作る、表現する。でも我々だってストーリーの中にある問題の解決策を知っているわけじゃない。現代に生きる我々の疑問をストーリーに表しているんだ。語り合うことによって、光を当てることによって、我々に何が起きているのか考えさせる、気づかせるためのものだ。こう考えるべきだ、という答えを押し付けるものではないんだよ。日本のみなさんがこの映画からどのように考えるか、とても楽しみにしているよ」

──ゲイリーは、メディアと最悪の関係になりますが、あなた自身は、プレスとの良い思い出はありますか?

「もちろんだよ。僕は大学でジャーナリズムを専攻したんだ。勉強していくうちに、自分にはどうも向いていないということが分かったんだけどね(笑) 。でも、ジャーナリストになるのはすごく難しいことだし、(原稿の)締切時間も今日ではどんどん早くなっている、政治家たちからの圧力も厳しくなってきているだろうし、質問は叫ばなければ届かないから、聞いてももらえない。そういったジャーナリズムの様々な困難を考えると、僕にはとても無理だと思ったんだ。俳優になって沢山のジャーナリストたちと会ってきたけれど、僕は心からジャーナリストたちに共感しているし、彼らを尊敬しているんだ。だからきちんと時間をとってジャーナリストたちと過ごしたいと思っている。だって、“今から15分間です、どうぞ”と言われて、どうやって話の核心にまで持っていくんだい?本当君らには同情するよ(笑)。僕は役者として聞かれるだけだから、どうとでも答えられるけれど、君たちに与えられた時間は15分間でしょ?インポッシブルだ。だから僕はこういう場はなるべく時間をとって、君たちのようなジャーナリストたちと深い話ができるよう心がけているんだ」

──ゲイリーの“一見興味深いものであっても、それが本当に重要なことだとは限らない”という台詞は『フロントランナー』にとってどのような意味のあるものですか?

「そう、それがこの映画の核心なんだ。人は刺激的でセンセーショナルな、興味深いモノを好む。他人の生活を覗きこんで暴露したくなる気持ちとかね。様々なことに興味をかきたてられる毎日だけど、ゲイリーの言うように、だからといってそのことが本当に重要(important)とは限らない。たとえば、僕のスマホをここで見てみようか。4つのトップニュースがここに載ってるよね。(スマホを指差しながら) 政府閉鎖のニュースや”Calls escalate for Trump to end shutdown and trade war.(政府閉鎖の収束を求める声、トランプに集まる)”なんてニュースの下には、”Trump’s relationship is not what people think.”というニュースがあるね。その次は台湾でのクライマーの事故についてのニュース。さて、ここで僕は4つのニュースを知ることが出来たわけだけど、一体どれが一番”重要”だったんだろうか?政府閉鎖のことだろうか?それともアリアナ・グランデの恋愛事情のことだろうか?ニュースサイトはこれら全てのニュースを”重要”だとして、僕に伝えてくる。こんな状況では、本当に”重要なこと”を決定するのがどんどんと難しくなってしまう。それこそがこの映画の究極的な核心なんだ。──そしてこの映画を通して、今日私たちが暮らしているこの社会がどうしてこうなったかが分かるはずだ」

──ドナルド・トランプ氏によるTwitterなどSNSの使い方についてはどう思いますか?

「そうだね、政治家がSNSを使うか使わないかよりも、彼らがどうSNSを使うかが重要であるべきだ。今世界で何が起こってるんだろうって関心があることはたくさんあるし、その中にはジャーナリストの興味を引くものもあるよね。僕は、国家にとってそれは健全だと思うんだ。正しい情報をきちんと伝えることのできる健全で独立した報道っていうのは、民主主義には不可欠だと思う。絶対になくてはならないよね。もっと言えば、我々の生きる世界には不特定多数の情報があると思うけど、人々が正しい情報に行き着くためにはそれもとても重要なんだよね。僕はこういうインタビューでは混乱を招かないためにも、政治に関しての主観的な見解を挟み過ぎないようにしてる。僕はオーストリア人だからアメリカの選挙には投票しないし、既に自分の意見を持ってる人たちにとって、他の人の意見ってそれほど役立たないと思うんだよね。だから僕が貢献できることといえば、僕が重要だと思うストーリーを伝えていくことなんだ」

──学生時代、ゲイリー・ハートのように、クラスの代表や役員などに率先してなった経験はありますか?

「日本の学校にそういう制度があるかは分からないけれど、僕の学校にはスクールキャプテンというのがあって、僕はそのスクールキャプテンだったんだ。でも別にそれは選挙で決まったようなものじゃなく、先生に指名されて決まったようなものでね。たしか兄も副キャプテンだったんだ。だから成り行きでキャプテンになったという感じかな。皆に好かれたかったって?もちろん(笑)役者だからね」

──「フロントランナー」という作品は若い世代に観てもらうことは重要だと思いますか?

「もちろんだよ。というのも、ゲイリー・ハート本人も44歳という若さで出馬したわけだし、多くの若者が彼に熱狂したわけだ。ただそれはあくまでも、物語の一面に過ぎなくて、我々の世代では当たり前じゃなかったことが、君らの世代では当たり前になってきている。現代では大統領が1日に40回もツイートをする。これも若い世代にとっては当たり前のことだよね。僕の時代の「昔の政治」というのは、現代では完全に失われてしまった。昔の政治機構が失われてしまったからといって、今ある政治がベターなものとは限らない。だから、かつてどういった政治が行われてきたかを見るのはとても重要なことだと思うんだ。この作品は「本当に重要なことはどこにあるのか?」という究極的な問題提起を世界中の人々に行ったものだと思うんだ。全ての年代に対してね」

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『フロントランナー』(原題:The Front Runner)

監督/ジェイソン・ライトマン
脚本/マット・バイ&ジェイ・カーソン&ジェイソン・ライトマン
原作/マット・バイ著「All the Truth is Out」
キャスト/ヒュー・ジャックマン、ヴェラ・ファーミガ、J.K.シモンズ、アルフレッド・モリーナ
全米公開/2018年11月6日(限定公開)/11月21日(ワイド公開)

日本公開/2019年2月1日(金)全国ロードショー
配給/ソニー・ピクチャーズ
公式サイト