Column

2018.06.04 21:12

【単独インタビュー】『最初で最後のキス』の新星リウマ・グリッロ・リッツベルガーに直撃!「同世代に観て欲しい青春映画」

  • Hikaru Tadano

イタリア・ゴールデングローブ賞、最優秀脚本賞を受賞するなど、数々の映画賞や映画賞でも話題になったイタリア映画『最初で最後のキス』。監督であるイヴァン・コトロネーオが2008年にアメリカで起こった“ラリー・キング殺人事件”に衝撃を受け、事件をベースに小説「Un Bacio(ワン・キスの意味)」を上梓。さらに脚本を書き映画化した作品です。

北イタリアの小さな都市ウーディネ。孤児のロレンツォは、愛情深い夫婦の養子となりトリノからこの街へやってきた。個性的な彼は、新しい学校で浮いた存在となるが、“トロい”とバカにされているバスケット・ボール部のアントニオや尻軽女と揶揄されている少女ブルーと次第に打ち解け合うようになる。だが、アントニオに特別な好意を抱いたことから、3人の友情に亀裂が入り始める……。

主役のロレンツォを演じたのは、2,000人以上のオーディションの中から選ばれた、ローマ大学で哲学を学ぶ21歳の大学生リマウ・グリッロ・リッツベルガー。この映画でスクリーンデビューした注目の新人です。プロモーションのため来日したリマウくんに直撃インタビューしました。

——ウィーン生まれなんですね。

「はい、ウィーン生まれですが、育ったのは北イタリアです。母親がオーストリア人で父親がインドネシア人なのですが、父が北イタリアで仕事をしていたのです」

——俳優になろうと思ったきっかけはなんですか?

「母方の叔父がウィーンで広告などの制作会社をやっていて、夏休みに母親にそこに送り込まれたんです。ビデオ関連の仕事や吹き替えとかを手伝ったりしました。そこで映像などの仕事に興味をもちました。休みが終わって学校に戻ってから、映画や舞台などのワークショップを受講したりと、演技を勉強し始めました。そんなときにこの映画のオーディションを受けたんです。なので、仕事としての俳優の仕事はこれが初めてになります。僕が映画に出たことによって、叔父も映画を撮ろうということになり、その映画はベルリンで映画祭でも上映されたんですよ!」

——この映画にはどういういきさつでキャスティングされたんですか?

「実は、このオーディションのことは、ジムに行く途中の道でチラシを見て知りました。で、興味を持ち行ってみたらイヴァン・コトロネーオ監督がいらっしゃって、ロレンツォについて話してくれたんです。ロレンツォという人物がとても興味深いと思いました。多様な要素が盛り込まれているキャラクターで、俳優としてはとてもやりがいのある役だと思いました。また、大事なメッセージを伝える役割もありますしね」

——監督は今回の作品のために2,000人もの若者に会ったそうですが、オーディションでは、すぐに役をもらえたんですか?

「即決ではなかったですね。1回目のオーディションの後、さらにオーディションを受けましたね。家で、ナポレオン・ボナパルト時代についての勉強をしていたら、電話がかかってきて、“君がロレンツォだよ”と監督に言われたんです。驚きましたが、嬉しかったですね」

——この物語は、セクシャリティ、SNSを介したいじめなど、とても今日的で複雑な問題を含んでいますが、脚本を読んでどのように感じましたか。

「そうですね。いろいろなテーマのプロトタイプが入っていますね。現代のいろいろな問題を含んでいて、この映画はある種、“容れ物”のようなものです。でも、映画ってそういったテーマが観客に届いて初めて、成り立つもの。観客が自分と関係ないもの、と思ってしまうようならそれは上手くいっていない。自分もこういったことを身近に感じてくれることが大事ですね」

——監督とはどのような話をしましたか?

「いろいろ話し合いました。監督はこの映画の設計者です。監督は、アメリカで起きた“ラリー・キング殺人事件”を元に小説を書き、それを元に映画化しています。ホモフォビアに対する法律を成立させるために役に立つとよいと思い小説を書いたそうです。それから、脚本を書いたわけです。彼にとっては、社会のコミュニケーションの中でとても大きな役割をこの映画が負っていると思います。社会闘争というような、大きな視点から彼はとらえていると思います。僕は、そういった監督が意図したすべてを理解できているかどうかわかりませんけど、僕なりに多くの学びがありました」

——主演俳優としての体験はどのようなものでしたか?

「僕は、この映画のピースのひとつでしかありません。でも、自分でロレンツォという役柄を実際に演じることによって、自分自身についても考えることができました。また、この作品はさまざまな学校でも上映したのですが、友達や同世代の若者に観てもらうことによって、この作品について、話し合あったり、考えることができました。こうしたことができたのも、この映画が今日的な作品であることの証だとだと思います。3人の主人公を演じた僕ら3人の俳優も、おそらく他の映画ではできない形で、社会問題にコミットできた作品でした。そういった枠組みをつくってくれた監督にも感謝しています」

——同世代の観客から受けたリアクションで心に残っているものはありますか?

「反応はいろいろでしたね。ネガティブなものもポジティブなものもありました。アントニオとのキスの場面では、冷やかしの口笛を吹かれたり。いくつかの学校での上映で同じような反応があったのですが、上映後、理由を聞きたいと思い、誰が口笛を吹いたのか、冷やかしの声を上げたのか、尋ねてみるのですが誰も名乗り出ません。が、ジェノバでは、ひとりの男子学生が上映後、立ち上がって“あの時、口笛を吹いたのは僕だけれど、最後までこの映画を見て、あの時僕が口笛を吹いたような行為が、このような悲劇を引き起こしたのだということがわかった”というような発言をしてくれました。これは、僕らにとってとても大きなことでした。僕らがこの映画で伝えようとしたことは、全員じゃないにしてもちゃんと伝わるんだ、と証明できたようで嬉しかったですね」

——初めて演技をして学んだことは?

「世界の見方を変えてくれたことですね。大きな地平線が見えてきたというか。それまでとは違う見方でいろいろな問題を考えるようになりましたよ」

——これからも俳優をやっていきたい?どういう俳優になりたいですか?

「好きな俳優は、昔ならバート・ランカスター、今ならキアヌ・リーブスです。彼らとおなじようになれるとは思いませんが、これからも演技は続けていきたいと思います」

==

リマウ・グリッロ・リッツベルガー

1997年4月15日オーストリア・ウィーン生まれ。インドネシア人の父とオーストリア人の母を持つハーフ。3歳の時にイタリア、トリエステに移住。演劇のワークショップに通っていた経験はあったが、本作で映画初出演。Italian National Syndicate of Film Journalistsの新人俳優に贈られる「Guglielmo Biraghi 賞」に選ばれた。TVドラマやCMにて活躍中。現在はローマ大学哲学科に通う現役大学生でもある。

==

『最初で最後のキス』(原題:Un Bacio)

不器用な僕らが誰よりも輝いていた日々

イタリア北部・ウーディネ。個性的なロレンツォは、愛情深い里親に引き取られ、トリノからこの町にやって来るが、奇抜な服装と同性愛者であることから瞬く間に学校で浮いた存在に。
ロレンツォは同じく学校で浮いている他の2人――ある噂から“尻軽女”とのそしりを受ける少女ブルーと、バスケは上手いが“トロい”とバカにされるアントニオと友情を育んでいく。
自分たちを阻害する生徒らに復讐を試みるが、それを機に少しずつ歯車が狂い始める…。

監督・原案・脚本/イヴァン・コトロネーオ
出演/リマウ・グリッロ・リッツベルガー、ヴァレンティーナ・ロマーニ、レオナルド・パッザッリ
2016年/イタリア/イタリア語/106分/カラー/シネマスコープ/ドルビー5.1ch/字幕:山田香苗

日本公開/2018年6月2日(土)より新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国順次ロードショー
提供/日本イタリア映画社
配給/ミモザフィルムズ、日本イタリア映画社
公式サイト
© 2016 Indigo Film – Titanus