【単独インタビュー】“オモ写”の第一人者、ホットケノービさんにインタビュー!
- Akira Shijo
人はヒーローに憧れ、フィギュアで遊ぶ。
彼らが自ら動くことは決してないが、私たちの夢の中では大空を自由に飛び、荒野を駆け抜け、火花を散らして戦い、そして時には手を取って語り合う。誰しも子供の頃、人形を使って“ごっこ遊び”をした経験があるだろう。
また筆者である私自身を含め、いまだに童心を忘れていない人たちは、数々のアクションフィギュアをコレクションしながら、日々ドリームマッチを開催していることだと思う。
そんな“子供の遊び”を、芸術の域にまで高めたことばがある。“オモチャの写真”略して“オモ写”だ。
2015年末に生まれたこのことばは、タグとしてSNSを駆け巡り、瞬く間に日本中に広まっていった。海外で盛んだった“作品としてのオモチャ写真”に名前が与えられたことで、誰もが参加し交流できる礎が築かれたのだ。そんなオモ写の名付け親であり、新しい表現方法として確立させ続ける第一人者、ホットケノービさん。
ただ広まっただけではない。昨年はディズニーが『スター・ウォーズ オモ写投稿コンテスト』を開催したほか、『アイアンマン』で主演を務めた俳優ロバート・ダウニー・Jr氏や、マーベル・コミックスの生ける伝説スタン・リー氏もFacebookで幾度となくオモ写をシェア。いまやオモ写は世界中に波及しているのだ。
同じ関西に住むオタクとして、筆者は以前から氏と親交があったのだが、今回は縁あってインタビューさせて頂けることに。オモチャとの出会いから写真を撮りはじめたきっかけ、そしてこれからの“オモ写”についてもたっぷりと語って頂いた。
――よろしくお願いします。まずは簡単に自己紹介をお願いします。
大阪在住のホットケノービです。アクションフィギュアを使って、オモチャの写真“オモ写”を撮っています。
――オモ写はいつも拝見しているのですが、構図といい光の当て方といい、そのクオリティの高さに驚かされます。写真関係のお仕事をされてるんですか?
いえ、完全に趣味です(笑)仕事でカメラは扱いません。むしろ、写真を撮りはじめたのもオモチャに出会ってからですね。
――そうだったんですね。では、オモチャとの出会いを教えてください。
昔から映画やアニメが好きだったので『新世紀エヴァンゲリオン』のフィギュアなども買ってはいたんですが、あまりハマらなかったというか……なかなか満足できるものが見つからなかったんです。
何年か前、フィギュア雑誌か何かだったと思うんですが、そこに載ってたホットトイズの宣伝広告の写真を見て、これは何だ!?と。値段も2万円くらいで、最近のと比べたらまだまだ安い頃の物だったんですが、自分の理想のフィギュアはこれくらいするんだと衝撃を受けて。これは自分が知っていた“オモチャ”じゃない、と感じて買ったのが最初ですね。だから、オモチャをコレクションし始めたのも結構最近のことなんですよ。
――最近のオモ写にはMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)関連のフィギュアがよく登場しますね。やはりマーベルがお好きで?
アメコミ(アメリカン・コミックス)に関しては、正直そこまで知識はないんです。邦訳されたものをそこそこ持ってはいるんですが、どちらかというとキャラクターの描写やイラストを見る方がメインです。やっぱりMCUにハマってるのが大きいですね。
X-MENのゲーム(96年『エックスメン VS. ストリートファイター』)は知ってましたし、『スーパーマン』や『スパイダーマン』、『ダークナイト』なども映画好きとして観てはいたんですが、アメコミやマーベルなどを意識したことはなくて。
昔、グアムに旅行に行った時に、大雨が降って外に出られなくなったことがあって、テレビで『アイアンマン』のCMがずっと流れてたんです。腕からスコン!ってミサイルを撃ったあと、背後で戦車が大爆発するシーンが印象的で。日本に帰ってからすぐに調べて、そこからMCUにドハマりしました。
――なるほど。では、最初にフィギュアの写真を撮ろう!と思ったきっかけは何だったんですか?
まず、フィギュアをただ飾っておくのはあまり自分の中でしっくり来なかったんです。飾るにしてもショーケースとかじゃなく、テーブルのそばとかに置いて、ヒマな時はちょっとポーズを変えてやったりして。
最初のきっかけはTwitterで、ホットトイズの写真を撮ってるhan_shenさんという人の写真を見た時ですね。こんな世界があるってことを知って、自分もこんな写真を撮りたい!と思いました。それと、仮面ライダーのフィギュアをよく撮ってるクロネコ零式さん。構図も照明の当て方も素晴らしいですね。この二人がいなかったら、間違いなく今の写真は撮れてないと思います。
――ちなみに、一番初めに撮ったのは何のフィギュアだったんですか?
ホットトイズの『マン・オブ・スティール』版スーパーマンです。ただ机の上に置いて、何か工夫をするでもなく撮っただけですが(笑)
――ありがとうございます。お気に入りのフィギュアシリーズや、気になっているフィギュアはありますか?
ホットトイズはやっぱり、価格が高い分クオリティも高くて好きですね。買いたいと思いつつ、なかなか手に取れてないのがMEZCO(メズコ)です。1/12スケールで、ちゃんとコスチュームに布とかを使ってるシリーズ。まだちょっとマイナーなんですが、これから来るんじゃないかなあと思っています。自分のイメージしてるキャラクターのスタイルとはちょっと合わないような気もして、まだ購入に踏み切れていないんですが。(このインタビューの直後、念願の初MEZCOを手に入れたそう。大満足とのこと)
写真として一番自分の希望を叶えてくれるのはやっぱりフィギュアーツ(バンダイ、S.H.Figuarts)です。撮りたい写真と親和性が高いというか。もうすぐ届くドクター・ストレンジも期待してますし、マーベルじゃないけどジャック・スパロウは凄まじいクオリティでしたね。この間、梅田で開催されてたイベント(TAMASHII NATIONS 10th ANNIVERSARY WORLD TOUR)で見ました。
――イベント、行きました。仮面ライダー1号と本郷猛もスゴいクオリティでしたね。
アレはヤバかったですね!同シリーズのウルトラマンもそうですが、スーツのシワや凹凸、背中や胸の厚みまで再現されてて。前に出た1号も持ってるんですが、“人が着て入ってる”感が段違いにスゴい。さすが真骨彫(S.H.Figuartsのシリーズのひとつ。本物のスーツに近い造形が特徴)ですね。
――少し脱線してしまいました。普段、撮影にはどんなカメラを使っておられますか?
キヤノンのEOS 70Dです。もともとEOS Kissの古いやつを使ってて買い替えたんですけど、別にそのことで撮れる写真が変わったとかはないように思います。
カメラというより、どちらかというとレンズの方が重要ですね。それを取られると何もできなくなってしまうくらいです。僕が使ってるのはTAMRONの単焦点マクロレンズ SP AF60mm F2 DiII MACRO 1:1ですが、大事なのは“マクロレンズ”(物を大きく撮れる、接写向きのレンズ)を使うことです。フィギュアは小さいものなので、ちょっとスケール感をダマして撮るためにはマクロレンズの方が優れてると思います。
――なるほど。レンズやカメラを選ぶポイントなどはありますか?
よくカメラのオススメを聞かれるんですが、安いものを中古でもいいからひとつ買って、とにかく使い倒すというか。そうしていくうちに腕も上達しますし、自分が撮りたい写真の方向性や、次に欲しいカメラが決まって来ると思います。
――ありがとうございます。SNS上で“オモ写”タグを見かけることも多くなりましたが、そのきっかけとなった一枚について教えてください。
やっぱり“空き缶”の写真のおかげだと思います。あの空き缶、なんで撮ったかっていうと……
オモチャの写真ってまだまだ日本ではメジャーじゃなくて、僕はだいたいInstagramで海外から投稿された写真を見てるんですが、向こうってやっぱり広大な土地というか、基本的に家も広くて、人も多くて、環境が整ってるんですよね。簡単にそういう良いロケーションで写真が撮れちゃうんで。そんな中、こっちはまあ……家も狭くて、街の中だから撮りに行くような場所もなくて、結構フラストレーションが溜まってた時期があったんです。ストーリー仕立てのものを撮るにしても、広いロケーションや太陽光がないと撮れないようなアイデアばかり浮かんできて……
どうしようかな、と思いながら家でビールを飲んでたんです。そんな気持ちをぶつけるように缶をペコン!と潰した時、いい感じで曲がってるのを見て、ちょうどそこにあったアイアンマンのフィギュアと合わせて撮ってみたのが上手くいったんです。
――すごい……『ドラえもん』誕生秘話を聞かされたような感覚です。
(笑)。アレに関しては、そういうフラストレーションというか、自分の外側、違うところから来たパワーが元になってますね。偶然かもしれませんが。
バットマンとスーパーマンの写真は、そこに自分らしいストーリーを少し乗っけてみた感じです。
――たしかに、CDプレイヤーで遊ぶヒーローたちなど、あえてフィギュアならではの小ささを活かしたオモ写も多いですね。
ひとつのアイデアに頼りっきりにはならないようにはしています。毎回ちょっとずつ考えながら、違う写真違う写真……そうじゃないとアイデアが広がってもいかないと思うので。ただ、空き缶を使ったバットマンとスーパーマンの写真に関しては他にもアイデアがあって。近々続編を撮影する予定ですので、お楽しみに!
――ホットケノービさんのオモ写の魅力といえば、やはり一枚の写真に込められたドラマや世界観だと思います。特に心に残っている一枚はありますか?
以前、個人で制作した写真集……“オモ写真集”をTwitter上の企画でプレゼントしたんですが、その最後のページに載せた写真ですね。スパイダーマンがムジョルニアを持ち上げて、ソーとトニーが驚いてる、っていう写真なんですけど、これがいつも僕の中でのベースになっています。
ちょっと面白おかしく、キャラクターが活きているというか……誰も傷付けない、“平和な世界”とはちょっと違いますけど。あと、こっちから声を当てなくても、見ている人がそれぞれ想像できるような。こちらからの情報が6割、残りの4割は見た人が自分の中で声を当てたりして10割にする。わざと曖昧な部分を残して、見る人それぞれが楽しめるような写真を心がけています。
そういうことを考えながらいつも撮ってるんですが、それをやっていこうと思ったのがこの一枚です。今のすべての原点というか。別に特別な技術を使った写真ではなくて、今の方が全然上手く撮れると思うんですけどね。
――“オモ写”ということばや概念は、いまや日本中、世界中に広まる勢いですね。
“オモ写”って名前がついたことで、敷居が高く感じられる方もいるかもしれません。でも特にルールや許可はいらないし、良いカメラや技術を使う必要もありません。構図も、オモチャのジャンルも、自由に撮ってもらえたらうれしいです。
もともとこの言葉を作ったきっかけとしては、まず“会えなかった”んですよ。自分の求めるような写真を撮ってる人が、Twitterでなかなか見つからなかったんです。仮面ライダーのフィギュアとか、あと“ねんどろいど”(2.5頭身のデフォルメアクションフィギュアシリーズ)とかを撮ってる方は結構いたんですが、アメコミ系のフィギュアを撮ってる人ってなかなかいなくて。
そんな時、Twitterで出会ったToMo菌さんに「インスタ(Instagram)やった方がいいよ!」って言われたんですよ。でインスタやり始めたら、海外にそういう写真を撮ってる人がたくさんいたことに驚きました。日本はどっちかというと、カッコ良くブースで撮った写真か、4コママンガ系の写真が多かったんですが、海外では映画やドラマのワンシーンを切り取ったような写真を、屋外で遊びながら作る、みたいなものがたくさんアップされてて。どちらかというと僕はそういう写真に惹かれてたんです。
ただ、そういう人たちとインスタで繋がっても、コミュニケーションは取れますが、普段会うわけでもないですし。何か国内でも繋がっていける方法はないかな、と思ってまず初めに考えたのがやっぱり“タグ”ですね。みんな #フィギュアーツ写真部 などのタグで盛り上がってるのは知っていたので、ちょっと何か考えてて、ある夜パッと思いついてツイートしたのが始まりです。
――ロバート・ダウニー・Jr.氏やスタン・リー氏も、数々のオモ写をInstagramで紹介しておられました。このことで心境の変化などはありましたか?
ファンとして単純にうれしい、ってのはありますね(笑)ただやっぱり、オモチャの写真を撮るのってまだまだマイナーな趣味なので、それまで気にも留めていなかった人たちに「あれ?」と思わせてくれたというか。これからどんどん広がっていくことを期待させてくれたので、とてもありがたかったですね。
――そうかもしれません。これからもさらに多くの人がオモ写を見て楽しんだり、自分で撮ってみたりするようになると思います。
僕の中では、とりあえずもっと広まってほしいですね。何より純粋に自分が楽しい写真を見たいから(笑)海外ではコミコンなどのイベントで自分の写真を売ってる人もいるし、ハズブロ(Hasbro)なんてブースの一角で展示してたり、コンテストを開催してる所もあります。日本のメーカーさんでもそういう動きがあるとうれしいですね。
誰でも簡単に手を出せるような、ユーザー主導の新しい遊び方としてもっと提案していってもらえたら面白いと思います。
――なるほど。これからオモ写を始めてみよう、という方にアドバイスなどはありますか?
撮り始めの頃って、台座やスタンドを使わずに撮っちゃうと思うんです。それだとやっぱりショーケースに飾ってあるものを撮るのと変わらないので、やっぱり写真として楽しむなら動きを重視して、スタンドを使わないと出来ないようなポーズとかを撮ってみる。そうするとまた楽しさが違ってくるので、一度挑戦してみてほしいです。
あと、もし一眼とかミラーレスとか、シャッタースピードを変えられるカメラを持っているのであれば……砂を投げてほしい(笑)
――「オモ写は砂を投げろ」ですね!
海外の写真を見て、自分でも外に出て、砂を投げて撮ってみたんです。その時の感動ったらなかったですね。こんな写真が撮れるのか!って。あとはライトを使った演出とか、写真ならではの遊び方をやってみて楽しんでほしいです。
――ありがとうございます。それでは最後に、オモ写をやってみたいけどなかなかきっかけがない、あるいはもっと楽しみたいけど方法がわからない、という人にひとこと頂けますか?
まずはInstagramで、世界中のオモチャ写真を一度のぞいてみてほしいです。そこにはもう、見たことのないような世界が広がっています。
僕自身、自分の衝動からやってることなので、ロジカルに説明するのはちょっと難しいんですが、まず色々見てみて、ちょっとでも興味があったら自分でもやってみてほしいと思います。最近だと、Instagramにご飯や旅の写真を載せてる人も多いと思うんです。そういう時、例えば写真の端っこにオモチャを添えて、自分の感情に合わせてポーズをつけてみるとかもいいかもしれません。
最近はスマホで色々な加工アプリが出てるので、そういうのを専門にする人が出てきても面白いですね。僕はほぼ一眼でしか撮ってないので、「やっぱり一眼じゃないとダメなんでしょ?」みたいなことを思われる方もいると思うんです。だから“スマホの達人”みたいな人に出会いたいですね。スマホのカメラや加工でしか出せないテイストは絶対にあると思うので、ぜひ型に縛られず、自由にチャレンジしてみてほしいです。
――ありがとうございました!
フィギュアとカメラさえあれば、誰でも撮れる”オモ写“。そこに堅苦しいルールは存在せず、どんなアイデアでも自由に発揮することができる。先駆者のアドバイスを参考にしつつ、固定観念に囚われない、あなただけの遊び方をぜひ見つけてほしい。
――……そういえば、アイコンの刀は誰のものなんですか?
ホットトイズのウルヴァリンです。『ウルヴァリン:SAMURAI』の時の。斬られてるのは『アメイジング・スパイダーマン2』のスパイダーマンですね。アイコンだとよく見えませんが、刀にも“不老不死不滅”って書いてあります(笑)
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ホットケノービ(@hotkenobi)|Twitter
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