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2021.06.14 12:00

『Arc アーク』石川慶監督&科学映画ライターJoshua登壇!”理系トーク”イベント開催

  • ichigoma

人類で初めて永遠の命を得た女性の人生を描いた、21世紀を代表するSF作家ケン・リュウの傑作短編小説「円弧」を実写映画化した『Arc アーク』の公開に先立ち、Fan’s Voice独占試写会が6月13日(日)に都内で開催され、上映後に石川慶監督と科学映画ライターのJoshuaを迎えたトークイベントが行われました。

東北大学で物理学を専攻し、卒業後はポーランド国立映画大学で演出を学んだ経歴を持つ『愚行録』(17年)、『蜜蜂と遠雷』(19年)の石川監督と、東京大学で宇宙物理学の研究に従事する科学映画ライターJoshuaという”超理系”の二人。普段のイベントとは少し違った視点で語られる『Arc アーク』の世界が垣間見れました。

上映直後の興奮収まらない観客たちに大きな拍手で迎えられた石川監督からは、最初に「コロナが拡大する直前で撮り終えて、仕上げて…なんとか公開できる運びになりました」と短い挨拶を終えると、Joshuaからも「ケン・リュウ原作の『円弧』が日本で映画化されると聞いてまず驚いて、映画を見てみたら瀬戸内海が出ていて『(あの原作から)これを想像するのか!?』とさらに驚いて、非常に面白いと思いました。この作品は<不老不死>というテーマを描きながらも決してディストピア的に語るわけでなく、かと言ってユートピアでもない。作品全体に通底するバランス感覚がリアリティを彷彿させるところが気に入っています」と石川独特のオリジナリティを絶賛。

本作に関するインタビューでも度々<ディストピアに描きたくない>と語っていた石川ですが、「実はそうはいっても最初はディストピア調ではありました」と明かし、「一度出来上がった脚本をケン・リュウに送った時に、『不老化技術のような新しいテクノロジーはこれから開発されるかもしれないけど、それを今の時点で<良い・悪い>というジャッジはしたくない。それは人間の強い部分も弱い部分もさらけ出すかもしれないけど、将来的には良いものになっていくと信じてフィクションを書いている』というアドバイスがあり、この考え方は自分の科学への姿勢と共感する部分でもあったので、この作品の大きな柱になりました」と、脚本開発時のエピソードを披露。

17歳から100歳以上まで生きる主人公・リナを演じた芳根京子について話が及ぶと、石川監督は「芳根さんは最初、『30歳の自分もイメージできないのに100歳以上は、無理です』と至極全うなことを仰ってたんですけど、芳根さんは共演する相手でガラリと変わる人。そう考えると、この時はこうだと決めるのではなく、分からないからこそ作れるものがあるんじゃないかとお話させていただきました」と説明。さらに芳根の“心の支え”になったという岡田将生については、「岡田さんは実際に会ってみると本当に美しい容姿をされていて、この世のものじゃないような雰囲気をまとっている。それなのに話すととても人間味溢れる方で、(天才科学者である)天音にぴったりだと思いました」と、岡田のキャスティング経緯を明かしました。

また本作は近年の日本映画には珍しく、物語後半はモノクロ映像を中心に描かれます。この演出について石川監督は「カラーグレーディング(色の補正作業)はポーランドでやりました。カラリストは『COLD WAR あの歌、2つの心』(18年)や『イーダ』(13年)をやっている方で、『蜜蜂と遠雷』の時に仕上げをどういう風にやっているのか見せてもらったんです。そしたらモノクロなのにカラーで撮影していて、しかもグリーンバックを立てて結構ヘビーなCGで作られていて。ちょうどその年に『ROMA/ローマ』(18年)がアカデミー賞にノミネートされていて、デジタルで作る<モノクロ>を使って細かいディテールを表現することが、結構SF的だと思ったんです。それが今回の『Arc アーク』を作る時に自然に浮かびました」と、ポーランドに縁のある石川監督ならではのアイディアを披露。「カラーで見るとロケ地は小豆島なんですけど、モノクロにすると、“いつでもない”異国観溢れる風景に変わって、これはうまく行きますよ、とプロデューサーを説得しました(笑)」と、アメリカを舞台に描かれた原作を日本で映画化するにあたっての挑戦を明かしました。

話題は劇中で描かれる”ストップエイジングによる不老不死”が、実際の世界でどこまで現実的なのかに及び、まず”死”についてJoshuaは「生命が誕生した数十億年前に遡ると、最初の生物は単細胞生物で、細胞分裂しても1つが2つになるだけで『老化』や『死』という概念自体がなかった。これが進化の過程で多細胞生物になって、酸素濃度が必要になり、体格も大きくなって、性も獲得した。その過程の中で人間は『死』という概念を途中で獲得した」と説明。さらに劇中でも言及されるテロメアという細胞については、「人間は細胞分裂するたびにテロメアという“回数券”のようなものが減っていくんです。最終的にテロメアがなくなると細胞は自死する。このプロセスが人間の身体全体で起こると『老化』し、生物は死にます」と簡潔に解説。

続けて、なぜ生物は死ぬ必要があるかという問いに対してJoshuaは、「<多様性>という仮説があります。オスとメスが存在することで有性生殖としてより複雑な個体を生み出すことができる。例えば新型コロナのウイルスは一瞬で進化していくけど、生物は<多様性>があるから一部分の人が死んでしまったとしても他は生き残ることができる」と話し、一連のJoshuaの解説を聞いた石川監督は、「実は劇中で天音(岡田将生)にもこの話をしてもらったんです。長い台詞でやむなく本編ではカットになりましたが、岡田さんに一生懸命読んでもらったのが、いまJoshuaが話してくれた内容です」と明かしました。

そして「テロメアを再生して細胞を若返らせることで老化を遅らせる技術は既に現実世界で行われていて、『Arc アーク』の世界はそんなに遠い未来の話ではない」とJoshuaが付け加えると、石川も「劇中で天音が作る“ピンクの液体”は”テロメア初期化細胞”をイメージして作った細胞です」と裏設定を語り、そのリサーチの過程でさらに“目からウロコだった”こととして「いままで『死』は『生』の対極の概念だと思ってきたのですが、生物は進化の過程で、昔は生きることしかできなかったのに、死ぬことを“選択できるようになった”ということでした。死を選択することによって、実は種としてはもっと強く生きることができる、それが生物だ、という基本的な概念に触れた時に、”不老不死”の定義がガラっと変わった感覚がありました」と、劇中で描かれる『死』と『生』の考え方と、実際に生物が経てきた過程の深い関係性について語りました。

MCから”ストップエイジング”によって若くあり続けることの意味を問われると、石川は「今回老いとは何なのか、と考えました。すでに『老いは病気』だと言っているお医者さんもいて。その結果、普段自分たちが言ってる“老い”は“身体の老い”を意味しているだけじゃないかと気づいて。果たして身体が若いままだったら、精神は老いていくのか?芳根さんと最終的に答えらしきものが出たのは、人間は身体が老いなければ、精神は“老いていく”のではなく、“成熟していく”のではないかということでした」と、実際にリナとして長い人生を生きた芳根とともに作り上げていった部分であることを明かしました。

見た目が変わらないまま歳を重ねていく表現について、Joshuaは「昨今のSFブームでは、今まで映像技術が追いついていなくて作品化できなかったものを作品化しようという流れがあって、莫大な予算をかけて、それはそれで面白いのですが、この『Arc アーク』のように、個人の精神世界という宇宙の変革を描くことがSFの真骨頂だと思います」と、日本で製作された本作の挑戦に最大級の賛辞送りました。

終わりに石川は「やっと公開できるようになりました。意図したわけではないですが、コロナの状況とも重なって見える映画になったなと実感しています。映画館もやっと通常に戻ってきた時期でもあるので、ぜひ周りの方に広めていただけましたら嬉しいです!」とアピールし、イベントを締めくくりました。

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『Arc アーク』

舞台はそう遠くない未来。17歳で人生に自由を求め、生まれたばかりの息子と別れて放浪生活を送っていたリナは、19歳で師となるエマと出会い、彼女の下で<ボディワークス>を作るという仕事に就く。それは最愛の存在を亡くした人々のために、遺体を生きていた姿のまま保存できるように施術(プラスティネーション)する仕事であった。エマの弟・天音はこの技術を発展させ、遂にストップエイジングによる「不老不死」を完成させる。リナはその施術を受けた世界初の女性となり、30歳の身体のまま永遠の人生を生きていくことになるが…。

原作/ケン・リュウ「円弧(アーク)」(ハヤカワ文庫刊 「もののあはれ─ケン・リュウ短編傑作集2」より)
脚本/石川慶、澤井香織
音楽/世武裕子
監督・編集/石川慶   
出演/芳根京子、寺島しのぶ、岡田将生、清水くるみ、井之脇海、中川翼、中村ゆり、倍賞千恵子、風吹ジュン、小林薫
製作/映画『Arc』製作委員会 
製作プロダクション/バンダイナムコアーツ
2021年/日本/127分/スコープサイズ/5.1ch

日本公開/2021年6月25日(金)全国ロードショー!
配給/ワーナー・ブラザース映画
公式サイト
©2021映画『Arc』製作委員会