Column

2021.04.04 9:00

【単独インタビュー】『パーム・スプリングス』マックス・バーバコウ監督

  • Mitsuo

アンディ・サムバーグとクリスティン・ミリオティが共演した話題作『パーム・スプリングス』は、マックス・バーバコウ監督の長編デビュー作となるタイムループ・ラブコメディです。

舞台は砂漠のリゾート地、パーム・スプリングス。妹の結婚式で幸せムードに馴染めずにいたサラ(クリスティン・ミリオティ)は、アロハシャツでエモいスピーチをする不思議な男ナイルズ(アンディ・サムバーグ)に興味を抱きます。良い雰囲気になる二人ですが、謎の老人が突如ナイルズを襲撃!負傷したナイルズは近くの奇妙な洞窟へ逃げ込みますが、ナイルズの制止を聞かずサラも洞窟に入ってしまい、一度眠りに落ちると結婚式の日の朝にリセットされる“タイムループ”に閉じ込められてしまいます。しかもナイルズはすでにループにハマっていて、数え切れないほど同じ日を繰り返しているといいます。二人で過ごす無限の”今日”は最高に楽しいもののようで、”明日”が来ない日々は本当に大切なものを気づかせていきます。果たして二人は、永遠に続く時間の迷宮から抜け出し、未来を掴むことができるのか──?

製作及び主演のナイルズ役には『サタデー・ナイト・ライブ』『ブルックリン・ナイン-ナイン』『ブリグズビー・ベア』のアンディ・サムバーグ、サラ役には『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のクリスティン・ミリオティ。さらに、度々現れナイルズを襲撃する謎の男役を『セッション』でアカデミー賞助演男優賞を受賞したJ・K・シモンズが演じ、『アメリカン・ビューティー』『The O.C.』のピーター・ギャラガーらベテランが脇を固めています。

2020年1月にプレミア上映されたサンダンス映画祭では、『リトル・ミス・サンシャイン』『マンチェスター・バイ・ザ・シー』『バース・オブ・ネイション』などを上回る1,750万ドル69セントで配給権が売買され、同映画祭における最高売買額記録を更新した本作。米国ではコロナ禍でほとんどの映画館が営業できない中、ドライブインシアターで限定公開され、新作映画に飢えていた観客たちを沸かせました。また、第1回Critics Choice Super Awards 2021ではSF/ファンタジー映画部門で作品賞・男優賞・女優賞を受賞。第78回ゴールデングローブ賞ミュージカル・コメディ部門では、作品賞・主演男優賞にノミネートされました。

公開に先立ち、マックス・バーバコウ監督がFan’s Voiceの単独オンラインインタビューに応じてくれました。

──なぜパーム・スプリングスを舞台にしたのですか?
僕はカリフォルニア・ロサンゼルスの北に位置するサンタバーバラ出身なのですが、子どもの頃からパーム・スプリングスは、息抜きをしてリラックスできるバカンス地として、なじみのある場所でした。この映画について考え始めた時も、アイディアを練るために脚本を務めた仲良しのアンディ・シアラと一緒にパーム・スプリングスに行って、ナイルズのキャラクターもそこで生まれ、その場所もアイディアの一部となりました。

パーム・スプリングスは日常から離れて自由になれるところで、昔はシナトラ軍団がいた場所でしたし、コーチェラが開催されるようになってからは、音楽フェスティバルの町として知られるようになりました。それから結婚式の場所としても定番で、アンディもパーム・スプリングスで結婚しました。でも、何度も何度も結婚式のためにパーム・スプリングスに行くうちに、ただの”繰り返し”のように感じるようになって、今回の映画を、結婚式での”長い”休暇を舞台にするというアイディアはリアルな体験から来たものです。この砂漠の風景がどこか物語に不思議な感じをもたらしている気がしますし、自然な選択だったと思います。

──他にも個人的な体験等が物語に反映されている部分はあるのですか?
たくさんあります。この映画は、恋愛やコミットメントの概念、愛の脆さなどにまつわる、人生の存在意義に悩み理解しようとしている仲良し2人(バーバコウ監督とアンディ・シアラ)の、ある種のクリエイティブなセラピーとして始まりました。

僕はアンディの結婚式で撮影を担当していたのですが、アンディ本人はその日のことを、結婚という生涯に渡る“契約”に突入する男にとっての、人生最高の夜だったと言うでしょう。反対に当時の僕は、過去の恋愛の痛みを引きずっていて、独身で望みもなく、アンディとは程遠い心境でした。この映画は、その日の僕からアンディになるまでの旅を描いたようなものですね。もちろん、もっと細かい個人的な描写もたくさんありますが、恥ずかしいものばかりなので具体的に話すのはやめておきます(笑)。

──タイムループ映画といえば『恋はデジャ・ブ』(93年)が引き合いに出されると思いますが、タイムループのアイディアはどこから来たのですか?
最初にアンディと砂漠へロードトリップに出て、超低予算長編のアイディアを考えた時は、タイムループの話ではありませんでした。人生の意義を問いかけるロードムービーで、話が広がらず行き詰まってばかりでした。でも何度も脚本を書き直すうちに、ナイルズらキャラクターに対する理解が深まり、これは結婚式が舞台のラブストーリーで、コミットメントや愛情がテーマであることに気づきました。そして、このキャラクター個人が陥りうる最悪で地獄のような状況とは何だろうと考えたときに、互いに結婚式の日から抜け出せなくなってしまうことではないかと、タイムループの概念にたどり着きました。

だから僕らは「『恋はデジャ・ブ』みたいなのを作ろう」と思っていたわけではありません。(監督のハロルド・)ライミスよりも上手く作れることなんてないのだから、対抗しようとも思いませんでした(笑)。でもタイムループの物語にしようと決めた後は、観客は『恋はデジャ・ブ』や『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(14年)を観たことがある前提で、どうやったらちょっと違ったものにできるか考えながら、意識して作りました。『ロシアン・ドール: 謎のタイムループ』(19年〜)の事は知らなかったのですが。この映画では、物語におけるタイムループの論理的な説明部分はなるべく早く済ませて、二人の関係に集中できるようにしましたね。とは言え、『恋はデジャ・ブ』は僕のお気に入りの映画の1つです。

──恋愛やタイムループ的なSF、さらには哲学的な問も含め、バランスをとる上で心がけたことは?
結局のところ、登場人物が経験する出来事に集中して、そうしたジャンルの要素は飾りとして付けていく感じでしたね。ジョークやジャンル的な描写を前面に押し出すのではなく、役者たちの演技と人間的な面に物語を牽引してもらうように。回りくどいこともせず、シンプルにね。それから、僕たちが好きなものを観客もわかってくれると信じて、気に入ってくれるといいなとも思っていました。映画の中で起きるぶっ飛んだことにもあまり気を取られずに、登場人物に自分を投影して共感してもらえたらと思っています。とにかくこの映画では人の体験を鏡に写し出して、それを見た観客が一緒に旅に出てくれるようなものにしたく思っていました。

──ナイルズ役のアンディ・サムバーグや、彼が中心のコメディグループ「ザ・ロンリー・アイランド」は、開発段階の後の方で参加したと伺いました。彼らがこの映画にもたらしたものとは?
彼らは最初に会った時からこの映画の本質を理解してくれましたね。僕たちが形にしたかったことやトーンを認識した上で、もっと視野を広げ大きく考えるよう、背中を押し続けてくれました。この映画はとても小さなアイディアから生まれたものでしたからね。特に物語の第3章の部分は、彼らが最初に読んだ脚本と完成した映画では大きく異なります。アンディ・サムバーグは、サラがタイムループから脱出する方法を見つける方がいいと助言してくれて、元々あった第3章は完全に崩れましたが、よりSF的な要素を取り入れることができたし、他のタイムループ映画とのちょっとした差別化にもつながったと思います。彼らは一緒に脚本に取り組み、この映画のトーンにある独特な熱量を維持しつつ、より面白くて良いものにしてくれましたね。本当に天才的な才能の持ち主だし、素晴らしいコラボレーションになりました。

──もともとの脚本の第3章ではどのような展開になっていたのですか?
サラがどこかへ行ってしまい、その行き先は観客に知らされない、というものでした。サラが実はエイブ(妹の結婚相手)と関係を持っていたという部分がもっと大きく描かれ、タイムループについて掘り下げることもありませんでしたね。

──アンディはコメディアンとして有名ですが、撮影中に即興のようなものも多くあったのですか?
撮影ではどのシーンも脚本に書かれているものより良くしようとしていました。もちろん脚本には本当にたくさんの手間をかけたし、とても良い仕上がりになっていたと思いますがね。とにかく撮影の時間が少なく、21日ほどで撮ったので、脚本の内容を漏れなく撮影しようと頑張りました。それから脚本には撮影当日まで手を加えて、少しでも良いものにしようと、常にいろいろな案を出し続けていました。即興は映画のいろんなシーンでたくさんありますが、一つ挙げるとしたら、ナイルズとサラがお互いにペニスのタトゥーを描いているところですね。あれは二人が考えたものです。

──撮影は順撮りだったのですか?それとも場所ごとに?
それぞれのロケーションでまとめて撮りました。物語のいろいろな部分で何度も登場する場所もありますからね。

──物語を通してナイルズとサラの気持ちは大きく変化していきますが、そうして撮影する中でシーン毎の感情を的確に捉えるのは難しくありませんでしたか?
はい、なのでアンディがプロデューサーとして参加し、また脚本にも関わっていたことはとても役立ったと思います。僕たちと同じレベルで脚本を熟知していましたからね。クリスティンも本当に才能ある俳優ですが、今回の脚本は『ビューティフル・マインド』のようだったとよく言っています。感情の変化を追うのがジョン・ナッシュの図のようだ、とね(笑)。でも本当に、撮影は面白いゲームのようなものになっていました。そのシーンは物語のどこに位置するものなのか、どんな気持ちを表現するところなのか、その感情ははっきりと見せるものなのか、暗に示すものなのか、それから物語全体における整合性など、クルーもキャストも全員がシーン毎にお互いに確認し合っていました。それから順撮りではないながらも、撮影が進むにつれて、ナイルズとサラ中心の撮影になっていったことは良かったです。結婚パーティーや他のキャストもいるシーンは始めに撮ったので。後の方では砂漠に出て、二人を中心とした撮影になったのですが、それこそがこの映画の核ですからね。この映画はラブストーリーなんです。

──この映画を作る上で大変だったことは?
とにかくスケジュールには終始困らせられましたね。砂漠の天気は過酷だし、ポストプロダクションも大変でしたね。おっしゃる通り、本当にこの映画ではトーンに様々な変化があるので、シーンごとの感情を的確に合わせるのは大変でした。でも今回一緒に制作に携わった全員が、僕たちが作りたいものをよく理解してくれていたことが、とても嬉しかったです。金儲けのために参加した人はおらず、全員が情熱を持って取り組んだプロジェクトでしたから。これはどんな物事に対する向き合い方としても、最も良い形だと思います。

──この映画を作る上であなたが最も大切にしたところは?
うーん、まさにサラとナイルズのように、感情的にとっ散らかっていながらも、幾層もの深みがあるものにしようとしました。それから、本当にいろいろなシーンがありますが、ビジュアル的にも安っぽい見た目ではなく、洗練されたものになるように心がけました。特にその点に注視してほしいわけではありませんがね。それから、愛という概念や、愛こそが自身を解き放つ力だという、脚本段階からこのプロジェクトの根底にあったテーマや感情を正しく捉え、伝わるものにすることですね。

──どちらのアンディとでも構いませんが、物語が始まるまでにナイルズが同じ日を何日繰り返していたのかという議論はしましたか?
一度も話しませんでしたね。アンディは思い出せないほど前からずっといたと言っていて、ナイルズは40歳前後なので、僕だったら40年から400万年の間のどこかだと答えます(笑)。

──この映画はサンダンス映画祭で非常に高い評価を受けましたが、そうした反響は期待していましたか?
期待は全くありませんでしたね。それから、ザ・ロンリー・アイランドと一緒に仕事をして、このようなレベルの映画を作ることになるのも全く予期せぬ事でした。とにかく僕たちは、自分らにとって偽りのないものを作ろうとしていただけです。ですので、幸運にもサンダンスでNEONとHuluが本作を買ってくれましたが、それも全く予想していませんでした。同様に、このような世界的なパンデミックが起こることも予期していなかったし、そうした状況下で生活する人々が本作を観て、共感が生まれることも。ですので、とにかく自分の仕事に対して興奮を失うことなく集中し、自身を捧げていれば、共感してもらえる人が出てくるのだろうと思います。いずれにせよ、この映画を通して得られた経験と、今回のようなヒットを成し遂げられたことには感謝しています。本当に素晴らしかったです。

──ドイツの巨匠ヴェルナー・ヘルツォーク監督と以前一緒する機会があったとのことですが、そこでの学びは今回の映画作りにどのような形で生かされているのですか?
僕はAFI(アメリカン・フィルム・インスティテュート)に行ったのですが、ここは、とにかく作り物や大きなセットで撮影することにこだわる学校でした。それから、自分の内面にある、それまで蓄積したものから物語を構築していくのだと教えられました。学校を通じてそうしたスタイルの映画作りは身についたわけですが、同時に、私的な物語をある程度の規模で描いたことで、完全に枯渇してしまった感じがしました。

そんな中で、ヘルツォークとキューバに行くという機会に恵まれました。世界から50人のフィルムメーカーが参加したワークショップだったのですが、現地の映画学校でヘルツォークが短編映画のお題を出して、それぞれが撮るというものでした。彼は”外面から”映画を作ることを唱え、”考えすぎずにとにかく撮影してどんどん作り出していくように”と言っていました。これは僕の映画学校での経験をちょうど良く中和してくれるものとなりましたね。ヘルツォークは僕にとってヒーローで、非常にインスピレーションを受けました。僕自身の感覚を再発見させてくれたというか。『パーム・スプリングス』のような映画を現場でどんどん作り上げていくというのは、常に新しいことを試し、いかなる形でもレベルを上げていくことなわけですからね。その点でヘルツォークのアプローチは、考えすぎずに自身のクリエイティビティと周囲に頼ることなので、非常に役立ちました。ヘルツォークとのキューバでの体験は本当に素晴らしいものでしたね。

撮影の様子

──初めての長編を完成させた今、この映画を撮り始める前の自分に何か伝えたいことはありますか?
そうですね、この映画は1年前にプレミアされ、今でもこの映画についてこうしてお話しているわけです。しかも日本の方たちに。本当に驚くべきことだと思います。知っておきたかった事と言えば、この”旅”はマラソンのようなものだという事。しかもただ走り続けるのではなく、そこでの体験を楽しまないといけないという事。今回のような体験は誰にでも出来ることではないというのは、自分でやりながらわかったことです。本当に長いプロセスだけど楽しめるところを見つけ、ペース配分もしながら、その瞬間瞬間でちゃんと時間をとって楽しむことですね。

──壮大な質問かもしれませんが、人生の目的とは?
うーん、他の人と共にする経験ですね。この映画のテーマでもありますが。人を受け入れ、繋がり、そして愛すること。「愛こそが真実」と言うように、それこそが人々を満たすものだと思います。

──もし自分がタイムループにはまるとしたら、どの日が良いですか?
去年婚約したのですが、たぶんその日が良いですね。とても楽しくて、興奮に満ちた日でした。でも、今こうしてパンデミックで外に出られないというのは、いわばタイムループにはまっているようなものですね。そんな中でも僕は、最愛の女性と犬と一緒に過ごすことが出来てとても幸せだし、日常にある美しさを感じています。

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『パーム・スプリングス』(原題:Palm Springs)

カリフォルニアの砂漠リゾート地パーム・スプリングスで行われた結婚式に出席した呑気な青年ナイルズ(アンディ・サムバーグ)と、花嫁の介添人のサラ(クリスティン・ミリオティ)。パーティーでナイルズはサラに猛烈アタック、最初は戸惑うサラだが不思議な雰囲気のナイルズに惹かれ二人は人目のつかないところでロマンチックなムードに。しかし、謎の老人(J・K・シモンズ)に突然弓矢でナイルズが襲撃され、肩を射抜かれてしまう。ナイルズは矢が刺さったまま、近くの洞窟へと逃げ込む。サラも後を追っていくが、洞窟の中で赤い光に引き込まれ、目覚めると結婚式当日の朝に戻っていた。状況が飲み込めないサラは、ナイルズを問い詰めると彼はすでに何十万回も“今日”を繰り返しているという。タイムループに巻き込まれてしまったサラとベテランタイムルーパーのナイルズに明日は来るのか?

監督/マックス・バーバコウ
出演/アンディ・サムバーグ、クリスティン・ミリオティ、ピーター・ギャラガー、J・K・シモンズ
2020年/90分/アメリカ・香港/英語/カラー/シネスコ

日本公開/2021年4月9日(金) 全国ロードショー
配給/プレシディオ
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