Column

2020.12.05 21:00

『燃ゆる女の肖像』が大トリを飾る!2020年に公開された必見の女性監督映画8本

  • Atsuko Tatsuta

2020年は、女性の生き様を描いた女性監督の秀作が驚くほど多く劇場公開された。#MeTooムーブメントから3年、フランシス・マクドーマンドによるジェンダーギャップの是正を訴えるアカデミー賞での感動的な受賞スピーチから2年。映画界における女性監督たちは、急速に存在感を増しつつある。映画監督という仕事に男女の隔たりはないはずだが、それでも女性の視点で描かれた女性たちが織りなす物語は、大きなインパクトをもって観客たちに訴えてくる。“ガラスの天井”が破られたとは言わないまでも、確実に映画界の女性たちの声は大きくなっている。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

アカデミー賞6部門にノミネートされたグレタ・ガーウィグの『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(衣装デザイン賞受賞)、主演のオークワフィナがゴールデン・グローブ賞で主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞した『フェアウェル』は、まだまだ男性監督作品が優位の賞レースで気概を見せた作品だ。

グレタ・ガーウィグ監督、シアーシャ・ローナン(次女ジョー役)

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』は、ルイーザ・メイ・オルコットの時代を超えたベストセラー「若草物語」の映画化だが、いわゆる文芸モノの枠にはまらない現代的なメッセージを内包したドラマだ。マーチ家の4姉妹それぞれの生き様を描くが、多くの人と同じように原作を読んで育ったガーウィグ監督は、小説をモダンにアレンジするのではなく、物語の中に内包されていた革新性を目ざとく見つけ出し、引き出し、スクリーンに投影してみせた。

『フェアウェル』

『フェアウェル』は、北京生まれ、アメリカ育ちのルル・ワンが自分を祖母との関係をベースに撮ったヒューマンコメディ。劇中話される言語がほとんどが中国語の作品ながら、サンダンス映画祭で注目されたことにより、米国の気鋭映画会社A24が配給権を取得。わずか4館という小規模で公開されたにも関わらず、たちまち拡大公開され大ヒットしたという逸話は伝説的ですらある。

『ハスラーズ』

ハリウッドからはパワフルなガールズ・エンパワーメント映画も上陸した。リーマンショックで仕事が枯渇したストリップクラブのダンサーたちが富裕層の男性たちから大金を巻き上げた実話をベースにした『ハスラーズ』は、搾取され続けてきた女たちの逆襲を描く、痛快なクライムムービー。ストリッパーたちの競争や嫉妬ではなく、女たちの連帯にフォーカスしているシスターフッド映画であるあたりも女性監督ならでは。『クレイジー・リッチ!』でブレイクしたコンスタンス・ウーとダブル主演したジェニファー・ロペスがエグゼクティブ・プロデユーサーも務めている。

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』

シスターフッドといえば、『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』は女同士の友情を軸にした珠玉の青春映画である。一流大学への進学を決めた優等生の主人公ふたりが、失われた”リア充”な青春を取り戻すべく卒業パーティへ繰り出すという学園コメディだが、女子目線のリアルが秒刻みで描きこまれた秀逸な脚本が共感を得て大ヒット。本作で監督デビューした女優オリヴィア・ワイルドも一躍注目のフィルムメーカーとなった。

『はちどり』

『82年生まれ、キム・ジヨン』

『パラサイト 半地下の家族』のアカデミー受賞で世界中から脚光を浴びた韓国からは、ふたりの大型新人監督の話題作が相次いで日本公開された。米名門コロンビア大学でも学んだキム・ボラの長編デビュー作『はちどり』は、急速に変化しつつある90年代の韓国社会を背景に、14歳の少女ウニの孤独と成長を描くドラマだ。もうひとりの新人キム・ドヨンは、初監督にして韓国で大ベストセラーとなった「82年生まれ、キム・ジヨン」の映画化という大役を担った。こちらは、結婚・出産によって仕事を辞めた主人公ジヨンが、個としての自分を見いだせず、壊れていく様子が赤裸々に描かれる。新世代の女性監督が、いみじくも女性の生きづらさや葛藤を描いていることは興味深い。

『パピチャ 未来へのランウェイ』

女性の生きづらさやジェンダーギャップの問題は、それぞれの国の歴史や社会情勢とも深く関わってくる。アルジェリア出身でフランス在住のムニア・メドゥール監督の長編デビュー作『パピチャ 未来へのランウェイ』は、ファッションデザイナーを目指す女子大生の視点から、アルジェリアの“暗黒の10年”と呼ばれる90年代を描いた社会派ドラマだ。イスラム過激派勢力による弾圧が激化する中、フランスへ亡命した自らの体験が反映されているというが、内部からの告発という意味でも貴重な作品といえる。

『燃ゆる女の肖像』

2019年のカンヌ国際映画祭で脚本賞&クィア・パルム賞をダブル受賞した作品が、セリーヌ・シアマ監督の『燃ゆる女の肖像』である。デビュー作『水の中のつぼみ』でセザール賞新人監督作品賞にノミネートされるなど、独自の世界観を築いてきたフランスの気鋭監督の長編映画4作目となる本作は、19世紀のフランス・ブルターニュ地方の孤島にある貴族の館を舞台に、望まぬ結婚を控えた貴族の娘エロイーズと招かれた女性肖像画家マリアンヌのひとときの恋が描かれる。異性同士の結婚や恋愛でさえ自由が許されていなかった時代に、女性と女性が惹かれ合う様は、恋愛とはそもそも対等な立場でなければ成立しないものであるはずという監督の意思表明だ。また、主人公の画家は父の名前でしか作品を発表することは許されてない。つまり、個としての名前を持てない女性という立場で、芸術活動を続けていくことの困難さとそれに立ち向かう意思も凛として描かれているあたりは、監督自身の実感の反映なのだろう。

『燃ゆる女の肖像』

また、男性がほとんど登場しないこの物語の中で、もうひとり重要な存在が使用人のソフィである。彼女の窮地を救うためにふたりが奔走し、貴族、雇われ画家、使用人という立場を超えて言葉を交わすくだりは、女たちの連帯に敬意を払った美しいシーンである。LGBTQの文脈で語られがちな本作だが、セクシュアリティを内包する、もうひとつ大きな枠組みでの多様性についての深い洞察がこの作品の魅力でもある。

ノエミ・メルラン、セリーヌ・シアマ監督、アデル・エネル(第72回カンヌ国際映画祭にて)Photo: Foc Kan/FilmMagic

今後の待機作では、9月に開催されたベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したクロエ・ジャオ監督の『ノマドランド』や、オスカー女優レジーナ・キングの監督デビュー作『One Night in Miami…』なども、来年4月に開催予定のアカデミー賞の有力候補として名前が取り沙汰されている。来年も女性監督の躍進が続きそうだ。

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『ハスラーズ』(2月7日公開)

母親に捨てられ祖母に育てられたデスティニー(コンスタンス・ウー)は、祖母を養うためにストリップクラブで働き始める。そこで知り合ったカリスマ性のあるダンサーのラモーナ(ジェニファー・ロペス)と親しくなる。が、リーマンショックによる不景気により、職を失ったダンサーたちは、富裕層の男性たちから大金をせしめるために再び結託する。

監督・脚本/ローリーン・スカファリア
原案/ジェシカ・プレスラー(ニューヨーク・マガジン記事「The Hustlers at Scores」)
出演/コンスタンス・ウー、ジェニファー・ロペス、ジュリア・スタイルズ、キキ・パーマー、リリ・ラインハート、リゾ、カーディ・B
2019/アメリカ/110分/5.1ch/シネスコ
配給/リージェンツ
© 2019 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(6月12日公開)

19世紀の米国ボストン。気丈な母(ローラ・ダーン)の元、控えめな長女メグ(エマ・ワトソン)、病弱な三女ベス(エリザ・スカンレン)、わがままな四女エイミー(フローレンス・ピュー)とのびのび暮らしていた次女ジョー(シアーシャ・ローナン)は、作家になる夢を叶えるため、隣人の資産家の一人息子ローリー(ティモシー・シャラメ)のプロポーズを断り、ニューヨークへ渡る。

監督・脚本/グレタ・ガーウィグ
原作/ルイーザ・メイ・オルコット
出演/シアーシャ・ローナン、ティモシー・シャラメ、フローレンス・ピュー、エリザ・スカンレン、エマ・ワトソン、ローラ・ダーン、メリル・ストリープ
配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©2019 Columbia Pictures Industries, Inc., Monarchy Enterprises S.a r.l. and Regency Entertainment (USA), Inc. All Rights Reserved.

『はちどり』(6月20日公開)

1994年のソウル。両親と姉と一緒に団地で暮す14歳のウニ(パク・ジフ)は、学校にも馴染みきれず孤独を抱えていた。ボーイフレンドや下級生と付き合ってもその孤独は埋められない。塾で知り合った若い女性講師ヨンジに心を開き始めるが、ある日、ヨンジは突然塾を辞めてしまう。ほどなくして、漢江にかかるソンス大橋崩落のニュースが入る。

監督・脚本/キム・ボラ 
出演/パク・ジフ、キム・セビョク、イ・スンヨン、チョン・インギ
2018年/韓国、アメリカ/138分/原題:벌새/PG12
配給/アニモプロデュース
© 2018 EPIPHANY FILMS. All Rights Reserved.

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(8月21日公開)

生徒会長のモリー(ビーニー・スタインフェルド)と親友のエイミー(ケイトリン・デヴァー)は、高校時代のすべてを勉学に費やし、それぞれ一流大学に合格。けれど、スポーツやパーティに明け暮れていた同級生たちもみなハイレベルな進路が決まっていることを知って愕然。卒業式前日、失われた青春を取り戻すためふたりはパーティへ繰り出すが……。

監督/オリヴィア・ワイルド
製作総指揮/ウィル・フェレル、アダム・マッケイ
出演/ケイトリン・デヴァー、ビーニー・フェルドスタイン、ジェシカ・ウィリアムズ、リサ・クドロー、ウィル・フォーテ、ジェイソン・サダイキス、ビリー・ロード、ダイアナ・シルヴァーズ、モリー・ゴードン、ノア・ガルヴィン、オースティン・クルート、ヴィクトリア・ルエスガ、エドゥアルド・フランコ、ニコ・ヒラガ、メイソン・グッディング
2019年/アメリカ/英語/102分/スコープ/カラー/5.1ch/日本語字幕:髙内朝子
配給/ロングライド
© 2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

『フェアウェル』(10月2日公開)

幼い頃に両親とともにアメリカに移住したビリー(オークワフィナ)は、中国に暮らす大好きな祖母が病に冒され余命わずかであることを知り、祖母の元を尋ねる。病のことを祖母に悟られぬよう、従兄弟の偽装結婚式が計画されるが──。祖母と孫の絆というハートフルなテーマのヒューマンコメディだが、米中の文化異差、移民問題など現代的なテーマも孕んだ深みのある作品。

監督・脚本/ルル・ワン
出演/オークワフィナ、ツィ・マー、ダイアナ・リン、チャオ・シュウチェン
2019/カラー/5.1ch/アメリカ・中国/スコープ/100分/字幕翻訳:稲田嵯裕里
配給/ショウゲート
© 2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『82年生まれ、キム・ジヨン』(10月9日公開)

結婚・出産を機に仕事を辞め、育児と家事に追われるジヨン(チョン・ユミ)。常に誰かの母であり妻である彼女は、時に閉じ込められているような感覚に陥ることがあった。「疲れているだけ、大丈夫」。夫のデヒョン(コン・ユ)にも自分にもそう言い聞かせる彼女だったが、ある日から、まるで他人が乗り移ったような言動をとるようになる。なぜ彼女の心は壊れてしまったのか。少女時代から社会人になり、現在に至るまでの彼女の人生を通して見えてくるものとは──。

監督/キム・ドヨン
出演/チョン・ユミ、コン・ユ、キム・ミギョン 
原作/「82年生まれ、キム・ジヨン」チョ・ナムジュ著、斎藤真理子訳(筑摩書房刊)
2019年/韓国/アメリカンビスタ/DCP/5.1ch/118分
配給/クロックワークス
© 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

『パピチャ 未来へのランウェイ』(10月30日公開)

1990年代のアルジェリア、ファッションデザイナーになることが夢の大学生ネジュマ(リナ・クードリ)。イスラム過激派勢力の台頭によりテロが頻発する首都アルジェだが、ある悲劇的な出来事をきっかけに、ネジュマは自分たちの自由と未来のため、立ちはだかる障害と死の匂いに屈せずに、命がけでファッションショーを行うことを決意する──。

監督/ムニア・メドゥール
出演/リナ・クードリ、シリン・ブティラ、アミラ・イルダ・ドゥアウダ、ザーラ・ドゥモンディ
2019年/フランス・アルジェリア・ベルギー・カタール/スコープサイズ/109分/アラビア語・フランス語・英語/映倫G
配給/クロックワークス
© 2019 HIGH SEA PRODUCTION – THE INK CONNECTION – TAYDA FILM – SCOPE PICTURES – TRIBUS P FILMS – JOUR2FETE – CREAMINAL – CALESON – CADC

『燃ゆる女の肖像』(12月4日公開)

ブルターニュの貴婦人から、結婚を控えた娘のエロイーズ(アデル・エネル)の肖像画を密かに描くことを依頼された画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)。本人には気づかれないよう肖像画を完成させるが、エロイーズはその出来栄えを否定する。描き直すと決めたマリアンヌと、モデルになると申し出たエロイーズは、貴婦人が本土へ出かけている5日間に肖像画を完成させようとする──。

監督・脚本/セリーヌ・シアマ
出演/アデル・エネル、ノエミ・メルラン
英題:Portrait of a Lady on Fire/2019/フランス/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/122分/字幕翻訳:横井和子/PG12

日本公開/2020年12月4日(金) TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマ 他全国順次公開
配給/ギャガ
公式サイト
© Lilies Films.