【レポート】『窮鼠はチーズの夢を見る』行定勲監督&カツセマサヒコ氏トークイベント
- ichigoma
水城せとなの傑作コミックを映画化した『窮鼠はチーズの夢を見る』の公開に先立ち、5日連続で実施される夏休み限定試写会の初日として、8月24日(月)、Fan’s Voice独占最速試写会が東京・汐留で開催。本編上映後に行定勲監督と、デビュー作「明け方の若者たち」が6万部を超えるヒットを記録し話題のライター・小説家のカツセマサヒコ氏が登壇しました。
新型コロナウイルス感染予防のため、座席の間隔を空けての実施された今回の試写。行定監督は冒頭の挨拶で、「コロナ禍がなかなか終息せず、果たして公開出来るのだろうかと不安な日々でしたが、皆さんが今日この場に来てくれたことで、公開出来そうだなと実感が湧きました」と、来場者に感謝の意を述べました。カツセ氏も来場者に御礼を伝え、「行定監督の作品を観て育ってきたので、今日は一ファンとしていろいろと伺いたいことでいっぱいです」と行定監督との初対面を果たした喜びを滲ませました。
恋愛に関する名言が多い原作としても知られている「窮鼠」シリーズを映画化するにあたり、どのような点を意識したのかという司会者からの質問を受け、行定監督は「最初はBLマンガだと言われて読んだのですが、読み進めていくうちに、これは個人の恋愛の話だと思いました。10年以上前に描かれた作品ですが、非常にリベラルな内容で今日的だなと感じたんです」と振り返り、「脚本家が映画として描くためにまとめてきたものを読んだ時に、自分自身が恭一と同じような気持ちになって体験するような感覚になりました。恭一の気持ちがかなり分かるんですよ(笑)。女性たちの在り方を描くのが大変だとも思いましたが、それが(映画化する際の)ひとつのモチベーションにもなりましたね。そして結果として、今ヶ瀬の気持ちがよく分かるようになりましたね」と語りました。
7月に公開された行定監督の映画『劇場』と、本作『窮鼠はチーズの夢を見る』は、どちらも「どうしようもない愛の行方」を描いているのは偶然なのか、意図的なのものか。行定監督は「本当は時期を離して公開したかったが、いろいろなことが重なり、立て続けに公開することになりました」と本音を漏らしながら、「初期の作品ではポリフォニックというか、群像劇が多かったのですが、ある時から、二人が良いと思うようになりました。できればあまり人が出てこず、部屋の中で繰り広げられる物語が良いなと。(登場人物が)二人になると物語に起伏がないけれど、そこで生まれる退屈さを役者の力を借りて面白くするというのが、最近の(自身が撮る映画への)考え方。『劇場』と『窮鼠はチーズの夢を見る』は同時に準備をしていたので、それぞれの影響を受けていると思います」と、制作に対する考えを明かしました。
カツセ氏は「一人の人間が抵抗しながらも、沼のような恋にちょっとずつ入っていく様をものすごく丁寧に描かれていて、男女問わず誰しもが経験したことがある恋愛だと思ったので、恋愛映画の傑作として広まると嬉しいです」と本作への熱い想いを語りました。さらに印象的なシーンとして、屋上で恭一(大倉忠義)と今ヶ瀬(成田凌)戯れるシーンを挙げ、アドリブなのか?と尋ねると、行定監督は「脚本上では何も指定されていなかった」と話し、何をやらせれば楽しそうな笑顔のカットを撮れるだろうかと考えた結果、生まれたシーンであると教えてくれました。「成田くんの方が演出の意図を汲んで、積極的に演技をしていたと思います。大倉くんは無邪気に楽しんでいただけじゃないかな」
「原作にはないオリジナルのシーンが光っているという要素が、行定監督の作品には多い印象」と話すカツセ氏に対し、行定監督は「オリジナルのシーンに関しては、ふとしたことで幸せを感じるみたいなのを引き立たせるにはどうしたらいいか?と考えていく中で生まれたものです」と、シーン誕生の背景を明かしました。また名言の多い原作の中で意識的に残したセリフについて、行定監督は、今ヶ瀬の“心底惚れるって、すべてにおいてその人だけが例外になっちゃうってことなんですよね”を挙げ、「ここに向けて作られる映画にしたかった」と語りました。
さらにカツセ氏は、「恭一がどれだけ受け身で流されてきたのかを思い知っていく様の描き方、セリフひとつひとつで、どんどん開化していく恭一の感じが観ていてしんどかったです。僕自身も昔は流され侍だったので同類嫌悪しかなかったです(笑)」と茶目っ気たっぷりに自身の過去とシンクロしたと打ち明け、行定監督は「登場人物たちそれぞれに矢印があって、恭一と今ヶ瀬だけが一瞬向き合えるのに、すぐ離れてしまう。登場人物たちはお互いの感情が分かっていないけれど、観客の方は彼らの感情が伝わってくるという作りにしたかった」と、映画に込めた想いを語りました。
恭一に共感する部分が多かったというカツセ氏。「恭一が今ヶ瀬に優しくする時に、今ヶ瀬が怯えたような顔を毎回するんですけど、優しくされると浮気を疑うというか。僕の歴代の彼女たちも同じだったので、今ヶ瀬の表情に痛いほどリアルを感じましたね」と話すと、行定監督も「大倉くんから滲み出ていた後ろめたさが上手いよね。言い訳するシーンが素晴らしい!」と同調。
最後にカツセ氏は、「人の感情の隅に置いてあるものを拾い上げていくような作品であることが広まっていくと嬉しいです。コロナ禍でも映画を観に来てくれる人のおかげで(映画は)広まっていくと思いますので、皆さんの力が必要です」と来場者に語り掛け、行定監督も「僕は今まで様々なラブストーリーを撮ってきましたが、胸を張って、これが本当のラブストーリーだと言える映画を作ることが出来たと思います。劇場の空間でこそ感じられるものがあると思うので、スクリーンで映画を観ていただきたい!」と思いの丈を語り、会場が盛大な拍手で包まれる中イベントは幕を下ろしました。
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『窮鼠はチーズの夢を見る』
7年ぶりの再会 突然の告白 運命の歯車が動き出す──
学生時代から「自分を好きになってくれる女性」と受け身の恋愛ばかりを繰り返してきた、大伴恭一。ある日、大学の後輩・今ヶ瀬渉と7年ぶりに再会。「昔からずっと好きだった」と突然想いを告げられる。戸惑いを隠せない恭一だったが、今ヶ瀬のペースに乗せられ、ふたりは一緒に暮らすことに。ただひたすらにまっすぐな今ヶ瀬に、恭一も少しずつ心を開いていき…。しかし、恭一の昔の恋人・夏生が現れ、ふたりの関係が変わり始めていく。
原作/水城せとな「窮鼠はチーズの夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」(小学館「フラワーコミックスα」刊)
監督/行定勲
脚本/堀泉杏
音楽/半野喜弘
出演/大倉忠義、成田凌、吉田志織、さとうほなみ、咲妃みゆ、小原徳子
映倫区分:R15
日本公開/2020年9月11日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ファントム・フィルム
公式サイト
©水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会