Column

2019.08.23 18:00

【単独インタビュー】マシュー・ヴォーン、『ロケットマン』を成功に導いた手腕とは

  • Mitsuo

音楽界の最高峰グラミー賞を5度受賞、「ローリングストーン誌が選ぶ歴史上最も偉大なアーティスト100組」にも選ばれた伝説的ミュージシャン、エルトン・ジョンの半生を描くミュージカル映画『ロケットマン』。

主演エルトン・ジョン役を演じたタロン・エジャトンは、『キングスマン』シリーズでエグジー役を演じ大ブレイクした29歳の英俳優。『ロケットマン』では全編の歌唱シーンを吹き替えなしで歌い、エルトン本人も舌を巻いたといいます。

監督のデクスター・フレッチャーは、昨年の大ヒット映画『ボヘミアン・ラプソディ』では製作総指揮を務め、監督のブライアン・シンガーが撮影中に降板した後には監督を代行し、作品を完成させたことでも話題を呼びました。

タロンとフレッチャー監督は、実在のスキージャンプ選手マイケル・エドワーズの伝記映画『イーグル・ジャンプ』(16年)で既にタッグを組んでおり、この映画のプロデューサーを務めたのが、マシュー・ヴォーンです。

『キック・アス』シリーズの監督・脚本・製作で知られるヴォーンは、『キングスマン』で、俳優デビューしたばかりのタロン・エジャトンを主役に抜擢。シリーズ2作目『キングスマン:ゴールデン・サークル』ではエルトン・ジョンを本人役として登場させ、観客の度肝を抜きました。

エルトン・ジョンと夫のデヴィッド・ファーニッシュが企画を進めていた『ロケットマン』の脚本が完成から10年近くが経つ中で、『キングスマン』で知り合ったマシュー・ヴォーンがタロンとデクスター監督を紹介したことで、映画は実現に向けて一気に前進します。

様々な出会いが重なり完成した『ロケットマン』の日本公開当日となる8月23日(金)朝、そのキーパーソンとなったマシュー・ヴォーンに電話インタビューを敢行しました。

左より)マシュー・ヴォーン(プロデューサー)、デクスター・フレッチャー監督

──あなたはこのプロジェクトにタロンとデクスター・フレッチャー監督を紹介し、”バンド”を完成させたキーパーソンですよね。最も忙しく携わったのは初期だったのかもしれませんが、各製作ステップでのあなたの関わりを教えてください。
プリプロダクションでは、映画を作るのに小切手を切りましたよ。それからその”バンドメンバー”を集め、エルトン、デヴィッド(・ファーニッシュ)、タロン、デクスターというチームを固めました。それから音楽面のガイダンスにも深く関わり、無事レコーディングが完了するよう見届けました。脚本は元から完璧だったので、デクスターが助けを必要とした時にはサポートし、そうでない時は、彼の自由を邪魔しないようにしました。編集には私はいつも参加するので、今回もそうしました。この映画では、”普通のプロデューサー”を務めましたよ。

──その中で大変だったこと、タフだったことは?
最も大変だったのは……映画作りはいつもタフですが、そうですねえ……。脚本はバッチリで、音楽も素晴らしくて、キャラクターも良く、演技も監督も良いという今回のような映画で大変になるのは、上映時間が長くなりすぎたりしないよう、自分たちを律することです。

でも実を言うと、最大のチャレンジは、エルトンにこの映画を気に入ってもらうことでした。これが私が最も恐れていたことです。(完成した映画を)彼に観てもらった時は……人に映画を見せるのに、あんなに不安になったのは本当に久しぶりのことでした。彼は涙を流して大変気に入ってくれて、私をハグして「ありがとう」と言ってくれました。その時私は、「自分の仕事は終わった。エルトン・ジョンが大喜びする、エルトン・ジョンの映画を作ることができた」と思いましたよ。自分が敬愛する生ける伝説を、本人の気分を損ねることなく映画化するというのは、本当に大きなチャレンジでした。特にエルトンは、「悪い面もどんどん見せてね」と言っていたので、映画を観た彼が「なにしてくれたんだ、オレをヤク中にしやがって」と言い出さないかと心配でした。そのようなことは幸いありませんでしたがね。

──あなたはタロン・エジャトンを、映画デビュー初期から知っているわけですが、当時の彼に何を見たのでしょうか?またその時と比べ、タロンの変わっていないところや、一方で変わったところは?
タロンが興味深いのは、彼は私と一緒に、映画を通じて成長してきているところです。当時のタロンは、映画の撮影現場に初めて足を踏み入れる少年で、蝶ネクタイの結び方すら知らなかったんですから(笑)。『キングスマン』は彼自身の変化、変貌ぶりをよく反映しています。彼はよく「歳の割には心が老けている」(=精神年齢が高い)と言うのですが、彼は有能だし学び続けながら、謙虚な姿勢を保ち続けています。そしてこの映画でやっと……、彼は歌うのが大好きだし、今までとは違ったタイプのキャラクターも演じられることを見せたがっていました。タロン=エグジー、アクションヒーローというイメージが定着し始めていたのでね。でも実際の彼はもっともっと繊細で穏やかだし、エグジーよりはエルトン・ジョンに近い性格ですから。

──エルトンとタロンは『キングスマン:ゴールデン・サークル』の現場で顔を合わせたわけですが、二人の繋がりはそこからもう生まれ始めていたのでしょうか。
そうですね。我々は皆エルトンに畏敬の念を抱きますが、彼自身は我々を安心させ、非常にリラックスできる雰囲気を作ってくれました。脚本を読んだ私は彼に向かって、「あのねエルトン、タロンは歌えるんだよ。彼はあなたを演じるのにパーフェクトだと思う」と言いました。そしてエルトンはタロンの歌声を聞き、「Fuck me!(なんてことだ!)」と言いました。これがそのままの彼の言葉です。そして「タロンは本当に歌える!」と言ってとても喜んでいました。

──歌唱シーンは吹き替えにして、歌えることを条件にしないという考えは……
そんな考えは当時の私にありませんでしたが、大間違いだったようですね。お金を払って口パクロックスターの演技を観に行く人がどこにいるんだと思っていましたが……『ボヘミアン・ラプソディ』が登場し、私は完全に違っていましたね(笑)。

でも、本当に歌った時にしか表現できない感情というのがあると思います。だからこそアン・ハサウェイは、『レ・ミゼラブル』(12年)でオスカーを受賞したのだと思います。その声や声色、震えや息づかい、そしてそのパフォーマンスでの表現に観客は圧倒され、タロンにエルトンを見るのです。タロンが実際に歌っている時は、歌手としてのエルトンに近づいている状態なのです。個人的な意見ですが、『ボヘミアン・ラプソディ』も実際の歌声を取り入れていたら、もっともっと良い映画になったと思いますよ。

──タロンは来日時のインタビューで、”同じ役柄は2度としたくない、新しい挑戦になる役をトライしていきたい”と言っていました。今後もあなたの作品に彼は登場すると思いますが、彼にどんな苦難困難を科していきたいと思いますか(笑)?
そうですね。彼とは来年また『キングスマン』の新作を作りますからね。エグジー役から始まり、『イーグル・ジャンプ』もできるだろうと思って出てもらったし……、彼とは4本も映画を作ったのですよ。考えてみたらとんでもない話ですよね(笑)。あれ、4本だっけ?1、2、…4本ですね。

私は自分でも脚本を書いていますし、外部のプロジェクトも探しているので、タロンにピッタリな役があれば、電話して「ヘイ、これやりなよ」と言いますよ。

──そもそも『キングスマン:ゴールデン・サークル』でのエルトン登場は、どのようにして実現したのですか?
エルトンは『キングスマン』1作目をとても気に入ってくれていました。なので彼に、「クレイジーな役を書いてみた。特に演技はしなくてよくて、あなた自身のままで大丈夫だから……とっても楽しいことになるはず」と言うと、彼は「イエス」と返事してくれました。本当にほっとしましたよ。

ロックのアイコン的アーティストを登場させたく思っていて、エルトン・ジョンは大好きだったし、彼を癇癪持ちでコントロール不能な”最悪な囚人”にするのは、とても面白いのでは思いました。それから、彼とアクションシーンを撮るともっと面白くなるんじゃないか、とね。

──先ほどもありましたが、エルトンを傷つけないようにしながら、彼の人生の暗部を描くことは大変なことだったと思います。エルトンとはどのような話し合いがなされたのでしょうか?
彼はぜひそうした面も映画に入れてくれと言っていました。R指定の自分の人生を描いた映画にして、観客には自分の欠点も知ってもらいたい。そうした困難を通じて、みんな同じような問題を抱えているし、克服することだってできるんだと、観客をインスパイアしたい、と。

──エルトンは1984年からしばらく、レネーテ・ブリューエルと結婚しますが、そのシーンを本作に入れようというのはあなたの提案だったそうですね。これはなぜですか?
エルトン・ジョンの人生にとって、象徴的な瞬間だったと感じたからです。とにかく愛に飢えた彼は、ゲイであっても女性と結婚することで幸せになることが出来る、愛を受けられるようになると考えたのだと思います。レネーテと結婚した当時、ニュースで”エルトン・ジョンが女性と結婚、何があった?”といった見出しが並んだのを、私も覚えています。ドラッグ、セックス依存、買い物、アルコール……あらゆることを試したのに満たされず、堕ちるところまで堕ちた彼の、最後の悲痛な叫びだったのではと思いました。

──デクスター・フレッチャー監督とは『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(98年、マシュー・ヴォーン製作、デクスター・フレッチャー出演)で出会ったとのことで、ずいぶん昔からの付き合いですね?
1997年だったと思います。資金調達のためにオーディションをし始めていた頃でしたね。なので彼と知り合って……なんと、22年!凄いですね。

──デクスターの監督として優れているところは?
彼は俳優や感情の扱いに長けていて、俳優を安心させるのが非常に上手です。良いストーリーを語ること、皆をハッピーでポジティブなムードに保つことが、彼は大好きです。それから、彼の熱意はまわりに伝染していくんです。

左より)マシュー・ヴォーン、デクスター・フレッチャー監督、マシュー・マージソン(オリジナルスコア)/2019年5月、ニューヨークプレミアにて

──あなた自身も映画監督なわけですが、『ロケットマン』の監督をしたいと思ったことはありましたか?
はい。この映画の監督ができていたら、それは素晴らしかったことでしょう。でもデクスターが監督を務め、このような素晴らしい映画が完成したことを嬉しく思っていますし、彼には感謝しています。でもミュージカルの監督は私もやってみたくて……エルトン・ジョンを凌ぐ音楽を見つけてくるのは大変でしょうね。

──本作に限らず、先ほどの『ボヘミアン・ラプソディ』といった音楽映画が最近多く登場していますが、次にこうした映画を作るとしたら、どのアーティストをテーマにしたいですか?
自由に選んで良いのなら、『デヴィッド・ボウイの人生』に勝るものはないでしょうね。ぜひ作ってみたいと思いますが、デヴィッド・ボウイの遺産財団は誰にも作らせないでしょうね。この財団は管理が非常に厳しいので。とはいえ、厳しいからこそ今でもボウイが素晴らしい存在でいられるところもあるのですが。彼らが商業主義のために妥協することはありません。

──そうした意味で、『ロケットマン』は商業的なのでしょうか?
いいえ。それにエルトンは今も生きているので、彼自身がコントロールできる状況にあります。エルトンが商業主義に走るというのなら、この映画をPG-13で作っていたでしょうね。人気の曲を寄せ集めて、自分を凄い人物に描き上げる典型的なミュージカル。ゲイセックスやドラッグ描写、依存には一切触れずにね。

もしボウイが生きていたら、私は直接話すことで彼を説得できる気がしますが、財団はボウイのレガシーを守ることにとてもとてもとても真剣です。だからこそエルトンと一緒にこの映画を作れたのは、素晴らしいことだったのです。この映画はPG-13にすれば何億ドルも多く稼げたわけですが、エルトン自身は誠実に描くことを望み、直接的に支持してくれたので。

──ところで、あなたが関わる映画のタイトルには”〜man”がよく入りますよね。『Rocketman』『Kingsman』『X-Men』…
また一つ、タイトルに”man”が付く作品が出てきますね。自分でも笑ってしまいます(笑)。

──”Woman”になることは…?
さあ、どうでしょう。”wo/man”になったりして(笑)。

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『ロケットマン』(原題:Rocketman)

監督/デクスター・フレッチャー
脚本/リー・ホール
製作/マシュー・ヴォーン、エルトン・ジョン
キャスト/タロン・エジャトン(タロン・エガートン)、ジェイミー・ベル、ブライス・ダラス・ハワード、リチャード・マッデン
全米公開/2019年5月31日

日本公開/2019年8月23日(金) 全国ロードショー!
配給/東和ピクチャーズ
公式サイト
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