Column

2019.08.21 21:30

【インタビュー】タロン・エジャトン 主演作『ロケットマン』と優れた俳優の条件を語る

  • Mitsuo

音楽界の最高峰グラミー賞を5度受賞、「ローリングストーン誌が選ぶ歴史上最も偉大なアーティスト100組」にも選ばれた伝説的ミュージシャン、エルトン・ジョンの半生を映画化したミュージック・エンターテイメント超大作『ロケットマン』。

全編の歌唱シーンを吹き替えなしで歌い、エルトン本人も舌を巻いたという主演を務めたのが、英国ウェールズ育ちの俳優タロン・エジャトンです。

2012年に英国王立演劇学校を卒業後、『オックスフォードミステリー ルイス警部』(13年)で俳優デビュー。翌年『キングスマン』(14年)のエグジー役で大ブレイクし、声優を務めた『SING/シング』(16年)ではエルトン・ジョンの曲で、その歌声を披露し絶賛されました。本作のデクスター・フレッチャー監督による、実在のスキージャンプのオリンピック選手を描いた伝記映画『イーグル・ジャンプ』(16年)では、ヒュー・ジャックマンと並び主演を務めています。

今年5月のカンヌ国際映画祭でプレミア上映されて以来、高い評価を受け、米英でもすでに大ヒットしている『ロケットマン』公開に先立ち、初来日を果たしたタロン。羽田空港では600人のファンに出迎えられ、初めての日本での夜は銀座で寿司を食べたといいます。「どれも素晴らしかったけど、ウニだけは苦手だった」と振り返りながら、Fan’s Voiceのインタビューに応じてくれました。

──デクスター・フレッチャー監督が、演技だけではなく、歌も踊りも素晴らしくて、あなたは本当にこの役にピッタリだと大絶賛していました。ミュージカル映画での主演は、他の演技だけの時と比べ、やはり違いましたか?
違ったと思います。ミュージカルは、10代の時にはユースシアターでたくさん演じたし、その後に通った演劇学校も含め、これまでも歌う機会は多くありました。が、今回は非常に著名な人物を演じるといった意味でも、プレッシャーがありました。でも僕はプレッシャーに対して変わった向き合い方をしている、というか、むしろ好きなので楽しんでいます。今回のプレッシャーも、心地よかったですね。それから僕は、デクスターと一緒だととても安心できるんです。お互いの良いところを引き出し合う関係にあると思っていて、一緒に仕事をするのが楽しいです。

──本編にも登場するエルトンの代表作でもある「Your Song(ユア・ソング)」は、あなたが英国王立演劇学校への入学に向けたオーディションでも歌ったそうですね。その時はなぜこの曲を選んだのですか?
この曲を通じて“演技”ができると思ったからです。この点が、オーディションに選ぶ曲には重要だと感じました。「ユア・ソング」はある人に宛てた曲なので、スピーチのように語りかけることができますからね。それから曲自体も、とても美しいですし。

──この映画に向けて、再び練習したのですか?
(自問するように)「ユア・ソング」を練習したっけ……?いや、しませんでしたね。ほとんど練習しなかった曲の一つです。どこかにすでに存在していた曲を、探し出すような感じで演じるアプローチにしたかったので。練習を重ねてしまうと、驚きや喜びを歌詞に乗せて歌いたいのに、驚きが減ってしまいますからね。

──この映画は彼の人生と音楽が素晴らしいコンビネーションで表現されていますが、エルトンの曲の中で、本当は映画で歌いたかったという曲はあるのですか?
はい、実は数曲あるんです。特に気に入っているのは「Someone Saved My Life Tonight(僕を救ったプリマドンナ)」ですね。映画の中で、「I’m Still Standing(アイム・スティル・スタンディング)」のすぐ前にこの曲を入れようとデクスターに提案したくらいです。でも500くらいあるエルトンの曲を、2時間の映画にすべて詰め込むのは無理な話ですからね。でもこの曲はやりたかったので……今年後半、イベントで歌う機会があるので、そこで歌えないかと思っています。

──エルトン自身はとてもオープンで、どんな質問でもしてくれという姿勢だったとのことですが、彼から聞いた話で特に感銘を受けたものは?
本当にたくさんあります。とにかく暗い薬物乱用の話もいくつもありましたが、今はあまり深追いしないほうが良さそうですね……。特に印象に残ったのは、父親についての話です。彼はもうずっと前に亡くなったのに、エルトンは今でも彼を感服させようとしているというのが、とても心に残りました。これは映画の中で、僕が”父さん”に会いに行くシーンに深くつながり、演じる時はエルトンが言っていた事を考えていました。親に認めてもらうのがどんなに大切なことなのか、そして認めてもらえないのがどんなに悲しいことなのか。

──現在のエルトンとの関係は、当初と比べてどのように変化しましたか?
そうですね、もはや彼は家族のように感じられて、とても近い存在となりました。それなりに彼のことも知っている気がするし、とてもリラックスしたカジュアルな関係に発展したと思います。

第72回カンヌ国際映画祭でのタロン・エジャトンとエルトン・ジョン(右)

──この作品はスターの名声と孤独について語っていると思いますが、俳優にも同じようなことが言えると思います。あなたはそういう意味で、似たような経験はありましたか?
いいえ、特にありませんね。あれほどの名声……というか、突如自分のまわりにクルーや組織が出来て、事業が展開されるようになってくると、複雑で危険なものが孕んでくると思います。仕事として”イエス”と言う人に取り囲まれるようになってくると、破滅の可能性も秘めてくるというか。

僕にとって大変なのは、決まったスケジュールやルーチンがなく、毎日違うことをする、ということです。滅茶苦茶に忙しい時もあれば、週4日間なにもやることがないという時もあり、これが僕にとっては一番難しいことです。でも孤独感があるわけではありません。単に、まだたいして有名ではないのかもしれませんね(笑)。

──俳優にとって、役になりきるため、その時代に入り込むために、衣装はとても助けになると思いますが、今回エルトンになりきるために、衣装はどのくらい役に立ちましたか?
とても役立ちました。今までの僕が演じた役の中で、最も役に立ったかもしれません。衣装はエルトンのアイデンティティにおいて、非常に大きなものです。特に、彼を「エルトン・ジョン」としてステージ上へ後押しするものの大きな要素が衣装で、本当に代え難いものです。ヒールを履くだけでも身長が高くなって心持ちが変わり、いつもよりパワフルな感じがします。

──そうした派手な衣装を選ぶのは、彼の自信のなさから来ているものなのでしょうか?
その通りですね。不安感や自信のなさから来ていると思います。それと、ミック・ジャガーやデヴィッド・ボウイ、マーク・ボランといった同時代のアーティストの多くは、とても美しいセクシーな男性でした。自分のことをセクシーだと思えなかったエルトンは、こうした衣装を纏うことで、より自分をセクシーに感じたかったのだと思います。

──ちなみに、現代の若いポップシンガーは、あまりそういった衣装を選んでいないようですね。
個人的な意見かもしれませんが、正統派のポップスター、ロックスターはもはや存在せず、過去のものになってしまった気がします。ポップスターはいるけど、昔とは違うというか。もはや映画のスターが生まれなくなったというのと同じ気がします。「スター」ではなく、今はただの「俳優」で……、別モノです。

──そうなってしまった原因はなんだと思いますか?
インターネットでは?なんでもすぐに手に入り、ロマンスやミステリー、不可解さといったものが失われてしまいました。好奇心をそそるよりも、インスタグラムですべてを見せてしまうのが、今ですよね。

──普段はどういう音楽を聴かれるのですか?
日常的に聞くのは、ジョニ・ミッチェルやデヴィッド・ボウイ、オーティス・レディング、ケンドリック・ラマー。フォー・トップスやザ・ドリフターズみたいなモータウン・サウンドも大好きです。ニック・ドレイクという、26歳で亡くなったイギリス人アーティストがいて、3枚しかアルバムがないのですが、最高に美しい音楽だと思います。

──『キングスマン』や『フッド:ザ・ビギニング』ではアクション、『ロケットマン』ではミュージカルやドラマと、様々な役柄を演じてこられましたが、俳優としてどのような目標がありますか?
家のローンを払い(笑)、それから、これまでとは異なるおもしろいことをやり続けながら、自分のやることに興味を持って、熱心に取り組み続けられる状態であり続けることですね。役柄という意味では、とにかく同じものを2度はしたくありません。これまでとは異なった感じのする、なにかしらの挑戦になる役をやりたいですね。多少の不安を覚える時こそ、クリエイティビティが活かされる環境なので、そうしたことをトライしていくつもりです。

──あなたにとって、良い演技、良いパフォーマンスとはどのようなものでしょうか?
それはですねえ……うーん、その役と自分が繋がっている演技ですね。どういう意味かというと、喉からではなく、腹から声を出すということです。人の声とは、(お腹を触りながら)ここから出るのです。(喉を触りながら)ここではありません。これを理解しようとしない俳優を見かけますが、それだと、自分を信じていない気がします。

それから、多少の”脆さ”という意味で、セリフだけでなく、自己陶酔に陥らない程度の適度な演出とスタイルを見せることですね。この点においてゲイリー・オールドマンは非常に上手く、ブライアン・クランストンも。フィリップ・シーモア・ホフマンは達人ですね。それから、ホアキン・フェニックス。ほんの少しのスタイルと、演出術です。

あと、不格好で醜い姿を見せることを厭わない役者が好きです。常に良い格好しかしない俳優ほど興醒めなものはありません。

──キャリアを築いていく上で、こういう俳優になりたいといったロールモデルはいますか?
尊敬する俳優はいますが、自分がそうなりたいと思う人はいません。自分は自分にしかなれないのですから。俳優のキャリアとして尊敬するのは、先ほど話した方たちと、あとはトム・ハンクスもかな。

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『ロケットマン』(原題:Rocketman)

監督/デクスター・フレッチャー
脚本/リー・ホール
製作/マシュー・ヴォーン、エルトン・ジョン
キャスト/タロン・エジャトン(タロン・エガートン)、ジェイミー・ベル、ブライス・ダラス・ハワード、リチャード・マッデン
全米公開/2019年5月31日

日本公開/2019年8月23日(金) 全国ロードショー!
配給/東和ピクチャーズ
公式サイト
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