【独占インタビュー】IMAXはなぜ凄い?IMAX社グローバル・セールス最高責任者がその真髄を明かす
- Mitsuo
2019年7月に東京・池袋にオープンしたシネマコンプレックス「グランドシネマサンシャイン」の目玉として注目を集めるのが、国内最大サイズ(※)の「IMAXレーザー/GTテクノロジー」シアター。
IMAXコーポレーション(以下、IMAX社)の技術を結集し、次世代のシステムとして開発された最新の「IMAXレーザー/GTテクノロジー」シアターでは、2台の4Kレーザープロジェクターにより、 より広い色域と高いコントラストの映像を投映。 今まで再現不可能だった、現実世界に近いリアルな没入感を体感することが可能になりました。
音響面でも、12チャンネルのサウンドにサブバスを加えたシステムが設置され、天井と両サイドに追加されたスピーカーにより、繊細な音から身体の芯まで揺さぶる轟音まで、 まったく新しい感動的な音を体感できます。
高さ18.910m×幅25.849mのスクリーンを有する「グランドシネマサンシャイン」の「IMAXレーザー/GTテクノロジー」シアターでは、既に同シアター導入済みの大阪・吹田の「109シネマズ 大阪エキスポシティ」と同様、大型スクリーンにより、従来より約40%拡がった大迫力の最大画角1.43:1を実現。
クリストファー・ノーラン監督がIMAXフィルムカメラなどを使い、画角1.43:1のこのスクリーンにピッタリの画角で大半を撮影した『ダンケルク』は、オープン前日に開催された”前夜祭”で特別上映され、その反響の大きさから再上映が決定したほどです。
「グランドシネマサンシャイン」の開館にあわせ、IMAX社のグローバル・セールス最高責任者を務めるジョヴァンニ・ドルチ氏が来日。貴重なインタビューが実現しました。
(※)スクリーンの縦横の最大値が、 常設の映画館として日本最大(日本ジャイアントスクリーン協会・IMAX社・佐々木興業調べ)
──IMAX社はカナダの企業ですが、あなたはいまはどちらを拠点とされているのですか?
ドルチ氏 実はヨーロッパにいます。アイルランド・ダブリンに国際部門のオフィスがあります。私は、以前はヨーロッパ、中東、アフリカを管轄していたのですが、最近になって、グローバルでの営業と事業開発を担当することになりました。
──日本にはどのくらいの頻度でいらっしゃるのですか?
比較的頻繁に来ていますよ。今年は2月、6月に続き、今回が3度目ですね。
──今回のIMAX®シアターのオープンは、関東圏の映画ファンにとってはこの上なく嬉しいことです。これまでは多くのファンが大阪(109シネマズ 大阪エキスポシティ)まで遠征していたんですよ。
そのことはもちろん知っていますよ。様々な画角のスクリーンや上映環境を求めて観客が移動する例は、以前から見てきました。
──池袋にこのようなIMAX®シアターがオープンされたことを、どのように感じていらっしゃいますか?
非常に素晴らしいことで、興奮しています。2月に来た時はまだ工事中でしたが、その時からワクワクしていたのをよく覚えています。IMAX®に対して熱心な反応を示してくれているこの巨大市場で、このような(IMAX®シアターでの)体験がついに提供できるわけです。1.43:1画角ということで、特別なシアターであることは明らかですが、数多くのスクリーンが存在する東京に、こうした新たな選択肢ができることは、非常に大切なことだと思っています。
──「グランドシネマサンシャイン」のIMAX®シアターは、どのような経緯で誕生したのでしょうか?
日本ではこれまでも、現地スタッフがIMAX®を展開してきました。日本でIMAX®ブランドを築いてきたのは、(今こちらにいる)IMAXジャパンの髙谷氏と彼のチームです。そのためこの質問には、髙谷氏に答えてもらうのが一番ふさわしいと思いますが、ひとつ言えるのは、(グランドシネマサンシャインを運営する)佐々木興業と関係を深めていく中で、普通とは違う、ケタ違いのものを提供するというビジョンをお互いに共有していることがわかりました。
私たちには、観客に劇場へ継続的に来ていただくという共通のゴールがあります。その点においてIMAX®は成功していますが、さらなる高みを追い続ける必要もあります。自宅でいつでも自由に、即座にコンテンツにアクセスできるようになった今、我々はとにかく異なった体験を提供しなければなりません。今回の「IMAXレーザー/GTテクノロジー」シアターは、その究極版といえるものです。これが佐々木興業のビジョンでもありました。
髙谷氏 我々は(佐々木興業の)佐々木社長からアプローチを受けました。2013、14年頃だったかと思いますが、池袋に日本一のシネコンを作るのに最高のIMAX®シアターが必要だ、と。当時「IMAXレーザー/GTテクノロジー」はまだ開発中で、ほとんど知られていませんでした。それでも、IMAX®フィルムの次を担う一大プロジェクトだということで、佐々木社長はこのアイディアを気に入り、導入を決断されました。
──オープンニングまでの間、さまざまな困難や障害があったと思いますが、中でも大変だったことは?
ドルチ氏 どんなプロジェクトにも困難は付きものですよね。とてつもなく複雑なプロジェクトだったことはご想像がつくかと思いますが、ビルの上にこのように巨大な劇場を”置く”というのは、技術的に非常に難しいことです。まず、スクリーンは金属製の構造体に張られているので非常に重く、スピーカーやプロジェクターもとにかく重いんです。それから、この限られた空間でスクリーンを広げて張っていくという作業も、それだけで一大プロジェクトです。このような技術的なチャレンジが、途中たくさんありました。
髙谷氏が話したとおり、「IMAXレーザー/GTテクノロジー」が完成する前にこのプロジェクトが開始されたので、IMAX社としては、まずこのテクノロジーの開発を無事に完了させるというミッションが第一にありました。これはIMAX社の歴史の中で最も巨大な研究開発プロジェクトで、何年もかかりましたし、レーザープロジェクションシステムの開発には、6,000万ドル(約63億円)もの資金を投入しました。
──映画製作者、観客の両方にとって、IMAX®がこれまで与えてきたインパクトとはどれほどのものでしょうか?
私たちは、観客に体験を提供する側として、制作から上映まで、映画を提供するまでのすべてのステップに手を加えないと、我々が思い描くような体験を提供できないという考えにたどり着きました。完璧なプロジェクション(投映)技術を開発するだけでは不十分で、そのシステムに合わせたポストプロダクションを行う必要があり、さらには、それに合った仕様の素材が必要となります。こうしたプロセス全体を考慮し、それぞれに対して何かしらの製品などを提供しているのは、実質IMAX®のみなのです。そしてこれは、映画産業全体に確かなインパクトがあったと思います。
まず、通常上映とは異なるプレミアムシアターが、以前より強く求められるようになりました。IMAX®には52年の歴史がありますが、こうしたプレミアム体験をまさに象徴するブランドとなりました。IMAX®では、全く別世界の映像体験が得られるものだという認識が、観客に定着しています。そして我々はこれをレガシーとして、発展を続けています。
IMAX®のシステムは、もともとは科学館やテーマパークを中心にドキュメンタリーを上映するのに使われていました。ところがその技術を使うことで、映画体験を最高のものにできると気が付いたことで、IMAX社のビジネスモデルはガラリと変わりました。世界最高峰のフィルムメイカーに我々の技術とそのキャンバスを託し、最高の映画を作ってもらうようになりました。IMAX社としてはこれが最大の転換点だったと思います。
──『ダンケルク』公開時に来日したクリストファー・ノーラン監督は、70mmフィルムの解像度は12Kくらいはあると話していましたが、劇場では、まだ4K上映が広まり始めたというのが現状です。今後IMAXは技術的にどのように進化していくのでしょうか。
撮影での解像度と、プロジェクションでの解像度は分けて考えるべきだと思いますね。
撮影解像度だけで話せば、IMAX®フィルムカメラが、現在市場に出回っているものの中で、今でも最高だと思います。その上で、実際に映画を制作する側が、フィルムではなくデジタルカメラで撮影したいというのなら、我々はその選択を尊重します。撮影に対する我々のゴールは、フィルムメイカーのクリエイションに対する様々なビジョンや要求を満足させる、幅広い機材を提供することにあります。フィルムで撮りたければIMAX®フィルムカメラがありますし、IMAX®デジタルカメラも最近登場しました。ルッソ兄弟は『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』と『〜エンドゲーム』をIMAX®デジタルカメラで撮影しましたが、これは我々が様々なクリエーターのビジョンをサポートしている好例です。
プロジェクションという意味では、4Kを超えるものが市場全体のスタンダードとなる必要性がないように思います。解像度を4Kより高くしたところで、その明らかな差というものを人間の目では判断するのが難しいものです。それから、解像度だけが大きく取り上げられがちですが、投映された映像のクリアさというのは、投映システムで使用されるレンズにも左右されますし、スクリーンに投映された映像に、いかに”揺れ”がないかということにも影響されます。解像度というのは、一つの要素にしか過ぎません。
そのため今回の”レーザー”プロジェクトを進めるにあたり我々は、市場に出回っているプロジェクターとは大きく異なる、制作から上映まで一貫して革新的なシステムをどのような開発するか、そして可能な限りシャープでクリアな映像をスクリーンに映すことを究極的なゴールとした一連の機材をどのように作り上げるかを考えました。様々な面で限界に挑戦していく中で、4Kという現時点では十分に最高な解像度を引き上げるよりも、数ある他の要素に集中する方がよっぽど重要だと判断しました。
──ノーランのように、必ずしもシャープな映像というよりもフィルムの質感を大切にしたがる監督もいます。今回の「IMAXレーザー/GTテクノロジー」が目指したものと比べ、これもクリエイションに対するビジョンの違いということなのでしょうか?
その通りです。デジタルシステムは、最高にクリアで高解像度の映像が提供できますし、ポストプロダクションを通じて、”キャンバス”に投映する映像を加工していける利点もあります。もちろん、フィルムの質感を完全に再現するのは、デジタルでは不可能というフィルムメイカーもいるかもしれませんが、それはクリエイティブに対する意見で、それに対して我々が反論するつもりもありません。『ダンケルク』では各国でフィルム版の上映が行われましたが、それはノーラン監督のビジョンによるもので、我々としても、彼のビジョンを支えることができたことを、非常に嬉しく思っています。我々としては、(IMAX®の)デジタル上映とフィルム上映のどちらが優れているかといった議論は、行わないようにしています。それこそ、クリエイティブ上の大きな選択となるものですから。
──解像度だけでなく、ドルビービジョン(ドルビーシネマ)に代表されるように、広色域で幅広いコントラストを表現するHDR映像なども注目を集めていますが、それらに比較して、GTテクノロジーのパフォーマンスはどのようなものでしょうか?
他社の技術に対するコメントは避けますが、我々は自分たちが作り上げたテクノロジーに対して、強い誇りを持っています。実際のところ、コントラスト、輝度、色域といった各パラメーターが絡み合うことを考慮すると、我々のシステムが最高クラスだと思います。
コントラストを例に話すと、1,000:1、10,000:1、1,000,000:1といったコントラスト比がありますが、通常この数字は、「シーケンシャル・コントラスト」を表します。(ピクセルの)オン/オフ時を比較した、黒白の差ですね。業界ではこの数値ばかりが取り沙汰されがちですが、でも現実的には、「インターフレーム・コントラスト」の方がはるかに重要だと我々は考えています。黒色から白色が一つの画面に混在している(時のコントラスト比)、これがHDRのエッセンスなわけで、現在市場にあるプロジェクターでこの表現に最も優れているのが、「IMAXレーザー/GTテクノロジー」を含むIMAX®レーザーとなります。これはプロジェクターの基本設計に依存する部分で、現在市場にあるプロジェクターのほとんどは、その昔DLPプロジェクターが始めて登場した時のままの設計です。
簡単に説明しますが、DLPプロジェクターでは、光源となる白色光をプリズムでRGB(赤、緑、青)に分け、TI(DLPシステムを開発したテキサス・インスツルメンツ社の)チップに反射させて各ピクセルを描き、スクリーンに映像を映していきます。
我々はプロジェクター構造の光学系を根本から見直しました。もともとプリズムはガラス製で反射光が多く、インターフレーム・コントラストを高めるのには不向きでした。うまくすればシーケンシャル・コントラストを非常に高めることはできますがね。それからガラスは温度変化により膨張・収縮して、動きが発生してしまいます。我々はこの点も根本から解決しようと、チップを、ガラスではなくインバー(合金の一種)製のフレームにマウントしました。インバーは、熱変化に対して非常に安定した、膨張率が最も小さい素材の一つです。それから他のプロジェクターは、RGB光を組み合わせて白色を作りまたそれを分光する構造となっていますが、これは明らかに非効率で、不要だと判断しました。我々のシステムでは、各色のレーザー光をそれぞれのチップに直接当てるようにし、非常に効率の良い作りとなりました。こうした努力により、最高峰のプロジェクターを完成させることができました。
──その開発に6,000万ドルかかったわけですね。期間はどのくらいかかりましたか?
このプロジェクトがいつから始まったかというのを厳密に特定するのは難しいのですが、膨大な下準備の後、メインの開発に4〜5年はかかりました。一部のテクノロジーはコダック社から獲得し適用したものですが、構想には長い年月がかけられました。
正直言いまして、我々は市場での独自性、優位性というものを維持しなければなりません。IMAX®の真髄とは、常に他の上映技術のずっと先を行き、最先端であり続けることです。そして今、他が猛烈なスピードで追いついて来ていますが、この現状を否定するつもりもありません。IMAX®フィルムが全盛だった頃、35ミリフィルムとの差は歴然でした。そして時代が代わりデジタル上映が一般化したことで、標準的な上映クオリティが格段に向上しました。そのため我々は、その標準的な上映に対して今後に向けた大きな”差”を再び作り出すために、このプロジェクトに取り組んだわけです。
──”IMAX®シアターに悪い座席はない”と謳われていますが、あなた自身はどの席を選びますか?
確かに「全席が最高の座席」と言っていますね。そうあるべきだと思います。ただしこれも個人の嗜好が絡んでくる部分で、私個人は、スクリーンに少し寄り気味の席が好きです。もちろん全席が最高と謳うためには、様々な点から努力がなされており、音響システムのキャリブレーションをはじめ、スクリーン上にムラがなく、光の反射が均等になるようにするなど、可能な限り調整されています。
──ドルビーシネマや今回の池袋のようなIMAX®シアターの導入は、日本は他国に比べ遅れをとっている気がしますが、いかがでしょうか。
比較する国次第なので必ずしも遅れているとは言いませんが、プレミアムシアターや特殊な上映形式に対する反応を示すのには、他地域に比べて時間がかかったことは事実です。自画自賛するつもりはありませんが、(その昔)IMAX®の可能性を信じてくれた劇場パートナーが、IMAX®シアターを日本に開設してくださったことで、観客がこうした他とは違う体験を求めるようになり、それ以降の様々な展開を可能にしたのではないでしょうか。
観客から反応を得るのには時間がかかった一方で、今は非常に速いスピードで浸透しているという手応えもあります。既存のIMAX®シアターをIMAX®レーザーに急ぎアップグレードしたいという劇場パートナーが相次いでいます。このように、好反応が示されたものに対して俊敏に動いてもらえるというのは、映画市場にとっても良いことなのではないでしょうか。非常に早いペースで進行しています。
──今回池袋にオープンしたような、1.43:1画角の「IMAXレーザー/GTテクノロジー」シアターは、日本で他に新設計画はありますか?
この画角のプロジェクトは、現状ありません。ただこうして劇場が一つできることで、次の劇場のオープンにつながると思っています。今後なにかしらの開発計画がある他の劇場主は、今回のシアターの動向を追っていくことでしょうし。
──では今後しばらくは、新規オープンではなく、既存シアターの更新がメインということでしょうか?
どちらも、です。現在日本には34館ほどのIMAX®シアターがありますが、既存の計画で45館近くまで拡大する予定です。既存IMAX®シアターのアップグレードや、既存スクリーンのIMAX®シアターへの転換といったプロジェクトへの引き合いも、詳細は話せませんが、特に今年は数多くいただいています。
──日本で1.43:1画角のIMAX®シアターを導入する際に問題となるのは、どのような点なのでしょうか。
とにかく土地です。地価が高く、映画のスクリーンのためにあれだけの天高を……ビルの階数に置き換えて考えてみると、費用面で非常に負担のかかる施設だということがわかります。そのため、それに見合った集客力があるエリアに、場所を確保しなければなりません。それから建物も、あれだけのスクリーンを支えられるだけの構造でなければなりません。こうした点が、他国に比べて日本の難しいところですね。
──「IMAXレーザー/GTテクノロジー」がIMAX®最先端の技術とのことでしたが、その次の開発はなにか行われているのですか?
4Kデュアル・プロジェクターを備えた「IMAXレーザー/GT テクノロジー」というのは、まだリリースしたばかりです。同様の技術を使ったプロジェクター1台での上映システムも、非常に人気の高い現行商品です。これらの製品群は今後かなりの間、現役として活躍するでしょうから、別のプロジェクションシステムというものの研究開発は現段階では行っていません。IMAX社としてのゴールは、先ほども申し上げたとおり、他の上映システムに対する独自性、優位性を維持することにあります。もし仮に5年後、他の上映システムが進化した場合、我々はさらにその先を行く位置にいられるよう、努力することでしょう。
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グランドシネマサンシャイン
所在:東京都豊島区東池袋一丁目 30 番 3 号
アクセス: JR 山手線等「池袋駅」徒歩 4 分
開業:2019年7月19日(金)
スクリーン数:12 スクリーン
座席数:2,443 席
事業者:佐々木興業グループ(全国で 14 箇所のシネマコンプレックスを運営)
公式サイト、公式施設特設サイト
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