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2019.05.11 19:30

【インタビュー】『RBG 最強の85才』の監督が語る、アメリカ最高裁の女性判事ルース・ギンズバーグの素顔と、我々が学ぶこと

  • Fan's Voice Staff

ドキュメンタリー映画としては全米で異例のヒットとなり、第91回アカデミー賞では長編ドキュメンタリー部門、歌曲賞にノミネートされるなど高く評価された『RBG 最強の85才』。米国の現在9人いる最高裁判事のひとり、ルース・ベーダー・ギンズバーグ(現在は86歳)、通称“RBG”のドキュメンタリーです。

若かりし頃から法律家として活躍してきたギンズバーグは、男女差別や人種差別など多くの社会問題と戦い、米国の法曹界に大きな影響を与えてきました。クリントン政権時代の1993年に、史上2人目となる女性最高裁判事となったギンズバーグですが、80歳を超えた今、そのラディカルな姿勢は若者たちの絶大な支持を得て、“ノトーリアス(悪名高き)R.B.G.”(※ラッパー、ノトーリアス・B.I.G.に由来)と呼ばれ、彼女の顔のイラストがついたマグカップなどのグッズが売り出されるほど大ブレイク。フェリシティ・ジョーンズ主演で伝記映画『ビリーブ 未来への大逆転』も製作されました。

まさに社会現象ともいえるRBGの軌跡と真実を描き出す『RBG 最強の85才』。監督・製作を務めたふたりの女性ジュリー・コーエンとベッツィ・ウェストに、電話インタビューしました。

ベッツィ・ウェスト(左)とジュリー・コーエン © Kristin Hoebermann/Storyville Films

──まず、なぜRBGについてのドキュメンタリーを撮ろうと思ったのですか?

ウェスト 数年前、ギンズバーグは「ノトーリアス R.B.G.」という呼び名で、彼女の名前や似顔絵がついたマグカップやTシャツが、若い人たちの間で大流行しました。彼女は、最高裁判所というたいへん権力のある場で、保守化が台頭する中で対抗している判事ですが、その行為や姿勢に若い人が感銘を受けたのです。

ギンズバーグ判事と孫のクララ

ウェスト それ以前に、私もジュリーも別々にですが、判事(ギンズバーグ)にインタビューしたことがありました。今の女性たちの立場を変えた彼女に興味をもち、いろいろ調べていくうちに、彼女がまだ若いときに、性差別に対してどのように活動してきたかについて知り、とても興味深いと思ったのです。また夫マーティン・ギンズバーグとのラブストーリーにも惹かれました。彼はまさに、“フェミニスト・ハズバンド”だったのです。当時としては、かなり珍しい人だったのではないでしょうか。そういった彼女の知られざる面を映画化し、ノトーリアス R.B.G.のムーブメントで彼女のファンになった若い人たちに伝えれば、興味を持ってくれるのではないかと思ったのです。

US版ポスター ©Magnolia Pictures/ CNN Films

──『ビリーブ 未来への大逆転』で若き日のルースを演じたフェリシティ・ジョーンズにインタビューしたとき、実際のルースはとてもユーモアのある人で、突然のノトーリアス R.B.G. 現象と人気を楽しんでいるようだと言っていました。80代になってから、法曹界とは違う場所で脚光を浴びることを、彼女はどう思っていたのでしょうか。

ウェスト すごいことですよね!シャイで控えめな彼女が、人生の後半になってロックスターのような注目を浴びるなんて!講演会など彼女が登場する場には、大勢の若い人たちが並んでいるのを私たちも目にしました。(ギンズバーグ)判事は実際に、この現象をとても楽しんでいますよ。映画中にも出てきますが、彼女がオペラに出演したとき、目の輝きがまったく違った。彼女自身も新しい機会を得たことを楽しんでいると、撮影監督も言っていました。

裁判の時とはまるで違う表情だったんです。御本人は、「若い人が80代の私と一緒に写真を撮りたいなんて、どういうことなのかしら?」と驚いてはいるものの、これは啓発の機会であり、今まで彼女が大事に思ってきた理念を多くの人に伝える、良い機会だと捉えているのだと思います。

──先ほどおっしゃったように、この作品では夫マーティンとの関係にもフォーカスしていますね。日本には、夫の成功を影で支える女性のことを表す“内助の功”という言葉がありますが、彼の場合、自分のキャリアよりも彼女のキャリアややりたいことを優先しました。なにが彼のモチベーションだったのでしょうか。

コーエン 米国でも、“ウーマン・ビハインド・ア・マン”という言葉がありますよ。フェミニストという以外にも、彼の性格によるところが大きいのだと思います。彼自身、とても知的な人で、背が高くてハンサムだということもあったかもしれません。彼女によって、自身の存在が脅かされるという不安がないからです。性格も明るくて、陽気でムードメーカーのようなポジティブな人。彼女だけでなく、周囲に脅威を感じる人じゃなかったということがいえますね。彼女を愛していたと同時に、彼女の資質を見極めて、法曹界のトップに昇り詰めることができる人だと、彼は見通した。それを見たいし、それを見るためだったらできることはなんでもやりたいと、腹をくくったのだと思います。

米カーター大統領とギンズバーグ(1980年)

──成功した女性のパートナーは、“彼女の夫”でいることに我慢ができないようです。妻の成功を喜べず、関係が上手くいかなくなってしまうこともありますね。男性は、同じ成功しても、自分よりは下であって欲しい。これまでは、それが常識としてまかり通っているところもありましたが、#MeTooムーブメントが起こる何年も前に、こうした価値観を持った男性がいたことに感銘を受けますね。

ウェスト 映画のエンドクレジットの最後に、女性のパートナーの成功を脅威に感じない夫、マーティン・ギンズバーグ・アワードの受賞に値する人ということで、私たちの夫と、編集のカーラ・グティエレスの夫の名前が記載されています。私たちも(ギンズバーグ)判事と同じように、とても幸運だと思います。私たちも、このような男性により光が当たってしかるべきだと思います。日本にもこの賞に値する男性が増えればいいと思いますね。

コーエン この作品は、男性からも「勇気づけられた」という感想を多くもらっています。マーティンを見て、自分ひとりじゃないんだと共感したという男性や、マーティンのようになりたい、と尊敬する男性もいました。

ウェスト ここ2年くらい、こうした男性をヒーローとして取り上げる風潮が出てきたと思います。マーティンのような人が高く評価されることは、女性だけでなく男性にとっても良いニュースだと思います。

日々ワークアウトに励むギンズバーグ判事

──2年前の#MeTooムーブメントは、あなた方のような女性のフィルムメーカーになにをもたらしましたか?

ウェスト #MeTooムーブメントは、私たちの国に大きなインパクトを与えました。今までは女性が見下され、ハラスメントや暴力を受けてきた。見過ごされてきたこと、気にもとめてもらえなかったのが、それでいいのか?という疑問が生まれた。女性が声を上げることによって、男性にも、これは許されないことだという気付きがありました。変わってきてはいるけれど、変化は遅遅として進まないというジレンマもあります。映画界においても、高い地位につく女性が増えると良いと思いますが。フィルムメーカーに関しては、女性監督は、全体の4%くらいといわれています。数年前のデータなので今は少し変わっているかもしれませんが。ドキュメンタリーの分野では女性監督やスタッフは多いですね。というのは、劇映画に比べて、ドキュメンタリーは儲からないから。利権がからむ劇映画には、なかなか女性は入れてもらえないのが実情です。

──儲からないなら女性がやってもいいけど、利権は男性が独占したいという風潮があるということでしょうか。

ウェスト まさに、そういうことです。フィクション映画は、予算も大きい。大金がからむ部分は、男性にいってしまう。バジェットの少ないドキュメンタリーのほうが、女性が入り込みやすいです。これは、映画だけではなくて、財界においても同様だと思います。サラリーの低いところでは女性の活躍の場があるけれど、それが高いポジションや分野になると男性ばかりになるんですね。

──ルースは、クリントン大統領やオバマ大統領の支持を得て、高いポジションを得ましたね。現在の政権下では、どうでしょうか?

ウェスト 判事(ギンズバーグ)はクリントン大統領に最高裁判事に任命されました。この職は、自分で辞めたりしなければ生涯続けられる、終身の地位です。トランプ大統領時代になってから任命された判事は、みんな保守系です。現在9名の最高裁判事の中で、ルースを含め進歩派の判事が4名、残りの5名が保守派です。ルースらは、保守に対して反対意見を述べるという構図です。が、これからまだ1年半あるトランプ大統領の任期中に欠員ができたら、果たしてどうなるのか……。

米最高裁判事(1993年)、ギンズバーグ判事は右から2番目

──この作品は米国でも話題となりヒットしましたが、保守派の反応は?

コーエン ご想像の通り、観客の多くはリベラル派でしたよ。でも、保守的な考えを持っている人たちの中にも、作品に感銘を受けたと言ってくれる方もかなりいらっしゃいました。特に、”レッド・ステイツ”、保守層の地盤である中部でもとても共鳴して、判事にとても繋がりを感じたという声も聞きました。というのも、女性は自分が共和党員であったとしても、差別を受けてきたという側面もあるわけです。ルースの言っていることすべてに同意をしなくても、判決に気に入らない部分があったとしても、女性の権利が守られていないという人たちからの共感は強かったですね。

──ルースはずば抜けて頭脳明晰で、良い夫に恵まれるという幸運もありました。人々や後進はどこに学べばいいのでしょうか?

ウェスト 確かに法曹界で活躍できるような才能は、誰にでもあるわけではありません。が、教訓として私たちが学べるものは、どう人生に立ち向かうか。判事は、とても楽観的で前向き。現実的に物事に対処します。映画にも出てきますが、ルースの母親のアドバイスが大きかったのだと思います。怒りに時間を浪費しない。怒りを超えて、戦略的にどう対峙するかということ。困難にぶつかったときに、どうやって状況を打開して、前に進めるのかということ。自分がこうありたい、こうあるべきだという方向に、どのように向かうか。そういう姿勢は、とても学ぶところがあると思います。

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ジュリー・コーエン(監督・プロデューサー)
コルゲート大学を卒業した後、イェール大学ロースクールで博士号を取得。コロンビア大学でも修士号を取得し、現在は同大学のドキュメンタリー課程で非常勤教授としても教壇に立つ。NYのベーグル店「ラス&ドーターズ」についてのドキュメンタリー『The Sturgeon Queens』(14年、日本未公開)が、ベルリン国際映画祭を始めとする国際映画祭で高い評価を得るなど、これまでに8作品を製作している。

ベッツィ・ウェスト(監督・プロデューサー)
映像作家、ジャーナリストとしても活躍。ブラウン大学卒業後、シラキュース大学でコミュニケーション学の修士号を取得。ABCニュースで20年以上プロデューサー、幹部として勤め、「プライムタイム・ライフ」などの数々の番組やドキュメンタリーを製作してきた。エミー賞21回受賞。

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『RBG 最強の85才』(原題:RBG)

1933年ニューヨーク、ブルックリンで生まれたルース・ベイダー・ギンズバーグ。弁護士時代から一貫して女性やマイノリティの権利発展に努めてきた彼女は、1993年にビル・クリントン大統領に女性として史上2人目となるアメリカ最高裁判事に指名される。以降も男子大学の女性排除、男女の賃金差別、投票法の撤廃などに、弁護士時代と変わらぬ視点から、法の下の平等の実現に向けて果敢に切り込んでいく。若者を中心に絶大な支持を得るポップ・カルチャー・アイコン“RBG”はいかにして誕生したのか?家族、友人、同僚らが母として、友人として、働く女性としてのルースの知られざる素顔を語り、彼女を支え続けた夫マーティンとの愛溢れるエピソードも描かれるドキュメンタリー。

監督・製作/ジュリー・コーエン、ベッツィ・ウェスト
出演/ルース・ベイダー・ギンズバーグ、ビル・クリントン、バラク・オバマ
主題歌/「I’ll Fight」ジェニファー・ハドソン
2018/アメリカ/カラー/英語/98分/映倫:G

日本公開/2019年5月10日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMA他公開
配給/ファインフィルムズ
後援/アメリカ大使館
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