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2018.01.31 10:59

オスカー大本命『シェイプ・オブ・ウォーター』ギレルモ・デル・トロ監督来日会見開催

  • T&Bear

最新作『シェイプ・オブ・ウォーター』が第70回ヴェネチア国際映画祭でメキシコ人監督として初の金獅子賞(最高賞)を受賞、3月4日(現地時間)に授賞式が開催される第90回アカデミー賞では13部門にノミネートされているギレルモ・デル・トロ監督が来日!1月30日午後、赤坂プリンス・クラシックハウスでの記者会見に登壇しました!

まずは監督からご挨拶。

デル・トロ監督「皆様今日はお越しいただき、ありがとうございます。私のとっても好きな作品を携えて、日本に来られたことを嬉しく思います。日本という国は、私の太ったハートにとても近しい場所です。この作品は美しいおとぎ話で、こういう困難な時代にはふさわしいと思っています。そしてこの映画は“感情”と“愛”について語っています。今は、こういう作品が作られにくくなっているので、是非ともこの映画を感じていただきたいと思います」

MC「この映画でファンタジックなロマンスを描こうと思ったきっかけを教えてください。また、舞台が1960年代になっていますが、その時代背景を選んだ理由を聞かせてください」

デル・トロ監督「異種の存在を恐れる。そういう時代にこそ、このストーリーが必要だと私は感じたんです。今は、自分とは違うものを信用するな、恐れろ、と言われる時代です。現代は、愛とか感情を感じにくく、いろいろなものが困難な時代です。けれど、現代の設定にしていると、なかなか人は受け入れてくれない。それが、おとぎ話として語ると人は聞き入れてくれる。携帯やメディアなどでは、語れない部分があるのです。“1960年に、ある声のない女性がいました。そしてこういう獣がいました……”というような語り口だと、人々は聞く耳を持ってくれると思ったんです。今、“Make America great again”と言われていますが、その“偉大な時代”と言うのは1960年代のこと。第二次世界大戦が終わって、人々は裕福になり、将来について希望を持っていてた。宇宙開発の競争があり、ケネディはホワイトハウスに入った。人々は車や家、キッチンやテレビを買った。そういう時代でした。しかしながら、一方で60年代は、今とまったく同じように人種差別や性差別のある時代でもあったのです。まさに60年代と言うのは今日と同じだと私は考えたのです。今日も映画業界、映画というものが衰退していますけど、60年代もテレビの台頭により、映画が少し衰退した時代でした。その時代を背景に、私の映画に対する愛を込めたつもりです」

MC「素晴らしいキャストの皆さんが揃っていますが、キャスティングの決め手は?」

デル・トロ監督「まずサリー・ホーキンスに関しては、当て書きしたんです。主人公の女性は、香水のCMから飛び出して来たような若くて綺麗な人ではない方がいいと思いました。30代後半くらいの女性を描きたかった。彼女は普通に毎日を過ごしている女性。靴を磨いたり、仕事場に行ったり、バスで隣に座っているかもしれないような、そういう平凡な女性。でも、何か輝きやマジカルな部分も持っている。ホーキンスのことは、リチャード・アイオアディ監督のイギリス映画『サブマリン』(10年)で知りました。彼女は脇役だったんですけど、彼女から目を離せなくなったんです。セリフは少ない役でしたが、彼女は、人の言葉を聞く、そして見る。そこが素晴らしかった。普通、いい俳優は、セリフを上手く言える人だと思いがちですけど、それは間違っていると思います。優秀な役者と言うのは、よく聞き、よく見ることができる人。彼女に初めて会った時に、主人公の女性は口が聞けない役だと言いました。でも、ひとつのシーンでモノローグがあり、歌と踊りのナンバーもある。そして半魚人と恋をするのだと伝えました。そしたら彼女は“Great!”と言いました(笑)彼女こそ完璧だと思いました。

マイケル・シャノンに関してですが、彼は人々に怖いと思わせるところもありますが、とても人間的なんです。

キャスティングする時に私が最初に見るのは、“目”です。オクタビア・スペンサー、マイケル・シャノン、サリー・ホーキンス。それぞれの目は、違う音楽を奏でていると思います。オクタビア・スペンサーは、とにかく人間らしさ、ユーモア、リアリティを出してくれます。そしてダグ・ジョーンズは、世界でも稀な素晴らしい俳優です。日本には文楽という芸術があります。文楽の良い人形使いは、人形を操って上手く動かします。でも最高の文楽の人形使いは、完全にその人形になりきるんです。ダグはスーツを着たら完全にそのキャラクターになってしまう。そういう特技があるんです。カメラワークやエフェクトがどんなに素晴らしくても、もしダグが、あの美しい“川の神”だと信じられなければこの映画は成立しませんし、またサリーが彼を本当に愛を込めて見つめなればければ成立しません。この2つのことがなければ、この映画は成立しなかったと思います」

MC「衣装と美術は、どのような点にこだわって作られたんでしょうか?」

デル・トロ監督「カメラワーク、装置、衣装、照明などいろいろな要素が語られますが、それは全部ひとつのものなんです。いくら照明が美しくても装置がよくなかったり、衣装が酷かったら、すべてが台無しになります。そして、装置や衣装がどれだけ美しくても、照明が悪かったら、それも台無しです。アーチェリーの的に例えると、(この作品の)核たる部分はクリーチャーでした。クリーチャーを中心とし、カメラワーク、装置、衣装、照明があって、それはすべて合わせて1つのものなんです。アーティスト達が作ったという、手作り感があります。衣装も装置も、美しく作られたものでないといけませんでした。クリーチャーがその美しい世界の中に存在する、と表現したかったのです。そして、それは美しいだけではなく、フェアリーテールがリアルに感じられるために必要なものです。単なる見た目ではなく、内容的にも。例えば、このクリーチャーを現実的な世界の中にポンと置いたら、それは場違いだと思われます。ですから、芸術的にこういう美しいクリーチャーが存在出来る。そういう世界観を作って行かなければならないんです。それが監督の仕事なんですね」

MC「作品の中で水が出てくるシーンが多いですが、撮影で苦労されたのではないでしょうか?」

デル・トロ監督「この映画のオープニングとエンディングのシーンは、一滴も水を使わないで撮影しました。これは古い演劇手法で“ドライ・フォー・ウェット”と言う名前がついた手法で撮っています。まず部屋全体を煙で充満させます。次に、俳優も、小道具も家具も全て、ワイヤーで釣ります。操り人形みたいに。そして、スローモーションで撮ります。そして送風機で風を送って、水の中にいるように見せます。それで、プロジェクターを使って水のエフェクトを投写します。そして水の中の演技のリハーサルをします。例えば、触れ合った時にはね返えると言ったような水中での動きを練習するんです。しかし、途中で出て来るお風呂でのシーンは、実際に水の中で撮影しています。ですから2つの手法を使っているんですが、それぞれに大変な部分もありました」

MC「この映画にどのような思いを込めていますか?」

デル・トロ監督「この映画は、ラブソングでシンフォニーを奏でるように作りました。車を運転していて、すごくいいラブソングがかかると一気にそのボリュームを上げて、そして自分も歌い出す。その時の気分も、感じて欲しいです。一方でハリウッドの黄金時代のようなクラシカルな映画だとも感じて欲しい。でもちょっとクレイジーですけどね(笑)」

質問「監督は25年間と言う長い間、働いていて、映画業界でも高い評価を得られています。その中で、今回はアカデミー賞に13部門ノミネートされ、ハリウッドで働く方達から評価を得たわけですけど、それについてはどういうふうに思っていますか?そして、この映画は美しいブルーという色が大変印象的に使われているんですが、ブルーという色は、切なさや悲しみの色でもありますが、監督にとってこのブルーはどういう意味を持っているのでしょうか?」

デル・トロ監督「これが2回目のオスカーのノミネーションなのですが、とても嬉しいです。1回目は『パンズ・ラビリンス』(06年)でノミネートされたんですが、『パンズ・ラビリンス』『シェイプ・オブ・ウォーター』2本とも自分を表現したので、そういう作品でノミネートされたということがとても嬉しいです。こういう物語の詩の力強さというものを、私は信じています。ファンタジーでしか表現出来ない美しさがあるんです。

そして色についてですが、すごく念密に計算されています。彼女のアパートの色が青です。常に水中の色なんですね。彼女のアパートの壁紙は、まさに魚のウロコです。北斎が描いた大きな鯉に影響を受けています。彼女の家が青ならば、科学者、悪い奴ら、すべての他のキャラクターの家は、オレンジ、アンバー、ゴールドと言った暖色なんです。そして、赤が使われているのは、“愛”と“映画”だけです。恋をした後、主人公は赤い服を着はじめます。最後には、全身赤に身を包んでいます。緑は未来を表しています。彼の載っている車、ゼリー、パイ、キャンディー、研究所。すべて未来を示すグリーンです」

質問「映画への愛という言葉が出ましたが、スタンリー・ドーネンの曲やアリス・フェイの“You’ll Never Know”という曲が何度か流れたりしましたが、その曲に込めた思いがあれば教えてください」

デル・トロ監督「映画に対する愛を表現したいと言いましたが、偉大な名作だけのことではありません。例えば『雨に唄えば』(52年)のようにものすごく重要とされている映画を観るのとはまた違って、メキシコでは“日曜シネマ”と言うんですが、そういう類のものも。自分がどん底まで落ち込んだ時、ふと見たあまり重要とされない喜劇、メロドラマ、ミュージカルで非常に気持ちが上がることがあります。そして、そういう映画にこそ私はとても愛を持っています。そういう映画は観客と繋がるということが大事。ですから、そういう映画には非常にエモーショナルな部分があるんですね。そしておっしゃった曲ですが、その歌はとても泣ける歌です。映画の中で、本当に彼女はどれだけ自分が彼を愛しているかを伝えたいんですが、そういう言葉は使えません。喋れませんから。メキシコでは、愛を伝える1番の方法は歌うことなんです。メキシコでは、愛を語る時、バルコニーの下からセレナーデを歌うんです。ですから、彼に対する彼女の思いを歌い上げて欲しかった。映画の中でも、言葉は嘘をつくことができるし、そして言葉を使えるセリフのある人達はみな混乱している。でも、言葉を発せない2人こそが1番繋がりを持てるのです。言葉であっても嘘をつけないのは、歌う時だけですね」

ここで、デル・トロ監督の『パシフィック・リム』(13年)に出演した菊地凛子さんがゲストとして登場!準備が整う間、素敵な生歌を披露するデル・トロ監督。サービス精神旺盛です!久々の再会となった菊地さんから花束を贈呈され、ご満悦の監督。

MC「『パシフィック・リム』に出演されていますが、現場での監督がどんな方なのか、お伺いしたいです」

菊地「『バベル』(06年)という作品の時、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督に紹介していただいて、お会いしたんです。私、“監督の作品に出たいんです”ってお話しました。見ての通り愛情深く、創造力も深くて説得力を持って演出、指示されるので、現場には700人か……もっといるんですけど全てのクルーが指示に従って、本当にみんな監督の愛情に応えていたと思います。水のタンクプールに、すごい重いスーツを着て入る撮影があったんですけど、スタントの監督に、“飛び込むシーンは大変危険なので凛子はやりません”、っていわれ、飛び込む練習一切やらなかったんです。でも本番では監督から、ボートから飛んでくれっていわれたんです。私やるって話じゃなかったけどどうしようと思ったんですけど、監督に出来ないなんて絶対に言えないんで、やりますって言ってやったら、一発OKをいただいて。本当に監督には出来ないとは言えないですし、やる気にさせてもらえると言うところが、この監督の素晴らしいところです」

デル・トロ監督「本当に菊地凛子さんがいたから、『パシフィック・リム』という映画を作れたんです。私にとっては、彼女が主人公でした」
おふたり揃っての写真に撮影に際しては、「実は、このジャケット閉まらなくなっちゃったんです(笑)日本に着いた時はちゃんと閉まったんです。でもしゃぶしゃぶとか色々食べて、閉まらなくなりました(笑)」とジョークを飛ばしながら愛らしい笑顔を振りまいていたデル・トロ監督。

キャスティングの理由、念密に考えられた色や撮影方法など、本作を作り上げる過程でのこだわり、そして、『パシフィック・リム』の秘話まで飛び出し、とても楽しい会見でした。

日本での公開は3月1日(木)。また、3月4日(現地時間)に開催されるアカデミー賞受賞式でもいくつのオスカーを獲得するのか楽しみです!

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『シェイプ・オブ・ウォーター』(原題:The Shape of Water)

1962年、アメリカ。政府の極秘研究所に勤めるイライザは、秘かに運び込まれた不思議な生きものを見てしまう。アマゾンの奥地で神のように崇められていたという“彼”の奇妙だがどこか魅惑的な姿に心を奪われたイライザは、周囲の目を盗んで会いに行くようになる。子供の頃のトラウマで声が出せないイライザだったが、“彼”とのコミュニケーションに言葉は必要なかった。音楽とダンスに手話、そして熱い眼差しで二人の心が通い始めた時、イライザは“彼”が間もなく実験の犠牲になると知る──。

監督/製作/原案:ギレルモ・デル・トロ
脚本/ギレルモ・デル・トロ、他
出演/ サリー・ホーキンス、オクタヴィア・スペンサー、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス
全米公開/2017年12月1日(金)

日本公開/2018年3月1日(木)より全国ロードショー!
配給/20世紀FOX映画
公式サイト
©2017 Twentieth Century Fox