Column

2017.06.26 18:54

おかえりスパイディ!『スパイダーマン:ホームカミング』への系譜

  • Akira Shijo

アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソー、ハルク、そしてウルヴァリンやデッドプール……80年近い歴史を持つマーベル・コミックスにはこれまで多くのキャラクターが登場し、世界中で愛されてきた。そんなマーベル・キャラクターたちの中でも一番といっても過言ではないであろう、絶大な人気を誇るヒーローがいる。

“あなたの親愛なる隣人”スパイダーマンだ。

©MARVEL

マーベルの象徴としてその看板を背負って立つスパイダーマンは、コミックでの人気のみならず、アニメ化、ゲーム化、舞台化、アトラクション化、そして2度の実写映画化もされた。このことからも“スパイディ”がいかに多くのファンに愛されているかがわかるだろう。

©MARVEL

「大いなる力には、大いなる責任が伴う」

日常生活と戦いとのギャップに戸惑い、その内面に葛藤を抱えながら、それでも立ちはだかる強敵たちに挑んでゆく若きヒーローの姿は、私たちに強い共感を呼ぶ。映画作品は商業的には成功を収めたものの、それ相応の重圧を背負うことになり、皮肉にもこの言葉通り、それぞれのシリーズは円満とは言えない形で幕を閉じることになった。

そんなスパイダーマンが帰ってきた!しかも、マーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)の一員として。私自身、スパイディと出会ったことが“アメコミ”、すなわちアメリカン・コミックスの世界に没頭するきっかけとなっただけに、非常に感慨深いものがある。

本記事では、これまで2度制作されたスパイダーマンの実写映画シリーズと、それに伴う当時の国内展開について振り返りつつ、来る8月11日(金)日本公開の最新作『スパイダーマン:ホームカミング』、さらにこれからのシリーズ展開について、期待と希望を込めて語っていきたい。

『スパイダーマン』シリーズ

©2002 Marvel characters,Inc.

2002年、サム・ライミ監督によって制作された『スパイダーマン』から始まる三部作は、“ライミ版”あるいは“無印”と呼ばれることもある。

トビー・マグワイア演じるピーター・パーカーに大きく関わるキャラクターとして、ジェームズ・フランコ演じるハリー・オズボーン、キルスティン・ダンスト演じるメリー・ジェーン・ワトソンが登場。本シリーズではこの二人との複雑な関係を主軸とし、友情、恋、そしてヒーローとして成長していくドラマを描いている。

©2002 Marvel characters,Inc.

『スパイダーマン』は、それまで実写映像化は不可能と言われていた、摩天楼をウェブ(クモ糸)でスイングしながら飛び回るスパイダーマンを当時最高のCG技術で表現し、アカデミー視覚効果賞にノミネートされた。続編である2004年『スパイダーマン2』では同部門で見事にオスカーを受賞、そして2007年には完結編となる『スパイダーマン3』が公開された。

TM & © 2004 MARVEL & © 2004 CPII All Rights Reserved.

本シリーズにおいて特筆すべきは、やはり日本での爆発的な人気だろう。1作目である『スパイダーマン』の国内興行収入は75億円にのぼる。当時は巨大シネコンが乱立し始め、勢いのある時期だったものの、『ダークナイト』が16億円、『アベンジャーズ』が36億円ということを鑑みると、驚異的な数字であることに疑いはない。

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映画のヒットを受け、アニメ版『スパイダーマン(新アニメシリーズ)』が地上波で放映されたほか、“アメコミ新潮”レーベルから邦訳コミックである『アルティメット スパイダーマン』が刊行(現在絶版)された。並行世界・アース1610を舞台としたこのシリーズは、広がりすぎたマーベル世界の設定を一度全てリセットし、初心者にもわかりやすく入りやすい土壌を作り上げたもの。また日本人になじみやすいよう、白黒印刷された小型版に小さなフィギュアをオマケにつけたものがコンビニなどでも発売されていた。

余談だが、これは筆者にとって初のアメコミ体験となった。緻密に描き込まれたアート、圧倒的な表現力、そして容赦のない戦闘シーンやリアルな心理描写など、初めて見る描写の連続に衝撃を受けたことをよく覚えている。日本のマンガとはまた違った、このような魅力にとりつかれたことが、現在でもアメコミや関連作品を追い続け、またこのような記事を執筆している原動力として厳然と存在し続けている。

結果的にこの邦訳シリーズは打ち切りとなりレーベルごと消滅してしまったが、マンガに比べると当時はまだまだ小規模であり、邦訳本の出版にも暗雲が立ち込めていたあの時代、創意工夫を凝らしてアメコミの魅力を伝えてくれた偉大なる先達たちには、感謝してもしきれない。

2004年には大阪USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)にて、アトラクションである『アメージング・アドベンチャー・オブ・スパイダーマン・ザ・ライド』が誕生。2013年には4K3Dにアップデートされ、現在でも大人気を博している。

© 2017 MARVEL & (R) Universal Studios. All Rights Reserved.

『スパイダーマン2』では、のちにアニメ『ディスク・ウォーズ:アベンジャーズ』でも主題歌アーティストと声優を務める西川貴教氏が、日本版主題歌である『Web of Night』を歌っていた。

しかし『3』の制作において、監督であるサム・ライミと配給会社であるソニー・ピクチャーズ・エンターテインメント(以下、ソニー)の仲は良好とは言えなかった。同作にはヴィラン(悪役)として、異星からやってきた黒い液状生命体シンビオート、そして彼がスパイダーマンをコピーした姿である“ヴェノム”が登場し、彼を主役としたスピンオフ作品も企画されていたが、これはソニー側の意向であり、ライミ氏はあまり気に入っていなかったという。

©2007 Sony Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

ピーター・パーカーの内面に潜む闇、そして親友ハリー・オズボーンとの決着を描き切った同作だが、ライミ氏は「ひどい作品だった」と言及。企画段階にあった『スパイダーマン4』では、アン・ハサウェイが女怪盗“ブラックキャット”ことフェリシア・ハーディを演じることも計画されていたと語られているが、彼の描くビジョンとソニー側の意向が折り合わなかったことから制作中止となり、同時期にソニーが企画していた“新シリーズとしてのリブート”が行われることとなった。これにより、『スパイダーマン』シリーズは三部作をもって完結した。

『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ

二転三転したシリーズ終了から数年後の2012年。新たなスパイダーマン・シリーズ作品第一弾として『アメイジング・スパイダーマン』が公開された。

©2011 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

“アメスパ”とも略される同作の監督を務めたのは、傑作恋愛映画『(500)日のサマー』(09年)のマーク・ウェブ。ミュージックビデオの監督経験も豊富なウェブ氏は、若きヒーローの恋愛模様や人間関係をロマンチックに、そしてエモーショナルに描き出した。

正義と恋に目覚めていくピーター・パーカーを演じたのは、『ソーシャル・ネットワーク』(10年)でブレイクしたアンドリュー・ガーフィールド。近年では『沈黙 -サイレンス-』や『ハクソー・リッジ』(ともに16年)でも主演を務めるなど、躍進中の俳優だ。

本シリーズでのヒロインとなったのはエマ・ストーン。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14年)、『ラ・ラ・ランド』(16年)で知られる実力派女優で、ピーターの同級生、初恋の相手であるグウェン・ステイシーを演じた。

©2011 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

同作におけるスパイダーマンは、原作通り手首に取り付けた“ウェブ・シューター”から糸を発射するほか、コスチュームも現代風に大胆なアレンジが加えられた。色味もダークに抑えられ、流線型でスポーティな雰囲気が伺える。

©2011 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

続く『アメイジング・スパイダーマン2』(14年)では、スーツのデザインがガラリと変わる。原作コミックに近い白く大きな目、そして鮮やかな赤と青のツートンカラー。コミカルかつヒロイックで、ニューヨークを守る“街の希望”に相応しい印象だ。スーツを着たまま買い物に出たりするなど、より身近で共感を呼ぶキャラクター造形にマッチしたデザインだった。

TM & ©2014 Marvel

3Dや4DXといった映画としての新しい表現方法の登場と呼応するように、同シリーズではVFX(視覚効果)が多用され、“スパイダーマン”ならではの過去にないアングルや魅せ方が追求されていた。

TM & ©2014 Marvel

前シリーズの日本での人気を鑑みてか、シリーズ2作ともに米国より先行して公開されたほか、日本版主題歌としてそれぞれSPYAIRの『0 GAME』、中島美嘉×加藤ミリヤの『Fighter』が制作され、大々的なプロモーションが行われた。

2014年から放映されたTVアニメ『ディスク・ウォーズ:アベンジャーズ』でも、子供たちを導くヒーローとして序盤から重要な役割を果たしており、依然とした知名度と人気が伺える。

また、当初からシリーズ化が想定されていたため、ピーターの両親であるパーカー夫妻や謎の男、そして前述のブラックキャットや“ドクター・オクトパス”、“ヴァルチャー”らヴィランたちの登場を示唆する描写など、様々な謎や伏線が仕込まれており、続編を期待させる作りになっている。”グリーン・ゴブリン”ことハリー・オズボーンを演じたデイン・デハーンも、儚くも凶悪なキャラクターを見事に表現してみせ、彼らヴィランによるチームを主役とした『シニスター・シックス』や『ヴェノム』といったスピンオフ作品も企画されていた。

TM & ©2014 Marvel

しかし、今回もまた暗雲が立ち込める。『2』の興行収入が(十分ヒット作とは呼べるものの)想定されていたほど奮わなかったことに加え、サイバー攻撃によるメールや個人情報の流出を受け、ソニー共同会長エイミー・パスカル氏が辞任。当時すでに『アベンジャーズ』(12年)などが公開され軌道に乗っていたMCUに合流する形で、シリーズは終焉を迎えることとなった。

TM & ©2014 Marvel

シリーズとして打ち切りにはなってしまったものの、『2』ラストで描かれた、日常と戦いを両立させようとしたことによる喪失と挫折、そして再び立ち上がるピーターの姿はまさに“ヒーロー”そのものであり、この上なく“スパイダーマンらしい”幕切れであったと言える。遂には叶わない夢となってしまった、幻の『アメスパ3』だが、この劇的なクライマックスシーンで完結したことにより、本来存在しなかった“スパイダーマンの戦いは終わらない”というメッセージが生まれた。シリーズは伝説となり、その戦いはこれからも私たちの中で紡がれ続けていくのだろう。

TM & ©2014 Marvel

MCU、そして……

2016年。奇しくも『スパイダーマン3』そして『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ同様、日本にて先行公開となった『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』にて、“アイアンマン”ことトニー・スタークはニューヨーク・クイーンズを訪れた。

© Marvel 2016

彼を出迎えたのは、若々しく美しい“メイおばさん”と、少年のあどけなさを残すピーター・パーカー。彼は自作のコスチュームを身に纏い、ニューヨークの平和を守るため“スパイダーマン”としてすでに戦っていたのだ。

© Marvel 2016

…….という初登場を経てトニーにリクルートされ、空港でのヒーローたちの衝突に参戦したスパイダーマン。戦いが激化したことで離脱させられたものの、トニーから新たなスーツに加えてマルチツールである“スパイダーシグナル”を贈られ、ヒーローとしての決意を新たにするのだった。

© Marvel 2016

そしてこの夏、とうとう彼を主役とした最新作『スパイダーマン:ホームカミング』が公開される。

15歳の高校生であるピーター・パーカーを演じるのは、新星トム・ホランド。卓越した演技力だけでなくアクロバットもお手の物で、先輩であるトビー・マグワイアアンドリュー・ガーフィールドも彼を賞賛し、その背中を押している。

©2017 CTMG, Inc.

相対するは、『バットマン』(89年)や『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』の名優マイケル・キートンが演じる鳥人ヴァルチャー。かつてニューヨークに襲来したエイリアン、チタウリの技術を転用した鋼の翼で平和を脅かす。

©2017 CTMG, Inc.

MCUという“すでにヒーローが存在する世界”での学生生活やヒーローとしての在り方がどう描かれるのか、日本では8月11日(金)となる公開日が非常に待ち遠しい限りである。

今後のシリーズ展開として、2018年に公開が予定されている『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』にも登場が決定しているほか、2019年には『〜ホームカミング』の続編が予定されている。

またスピンオフとして『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のトム・ハーディが主演を務める『ヴェノム(原題)』、そして女傭兵“シルバーセーブル”とブラックキャットを主役とした『シルバー・アンド・ブラック(原題)』が制作決定。前述の通り、彼らは本来『スパイダーマン』や『アメイジング・スパイダーマン』シリーズにて脚光を浴びるはずのキャラクターたちであり、今回のスポットライトは彼らにとっても悲願だったと言えるだろう。

MCUと同一の世界観を共有するのか、あるいはそこから分岐した別の世界観になるのかはまだ不透明だが、個人的には特定の世界観に縛られず、それぞれ自由な作風を発揮してくれても良いと思っている(もちろん、共有するのであればそれはそれで期待したい)。

©2017 CTMG, Inc.

国内展開としては、シリーズの伝統とも言える吹替版主題歌として、本作のジャパンアンバサダー(宣伝大使)である関ジャニ∞が『Never Say Never』を書き下ろすほか、この夏からはTVアニメ『マーベル スパイダーマン』も放映開始。この作品は2012年から続いていた人気アニメ『アルティメット・スパイダーマン』シリーズのリブートとなる作品で、やはり15歳のピーター・パーカーが主役。ここから観ても問題なく楽しめる。こちらは7月22日(土)より、全国無料のBSテレビ局Dlifeにて毎週放送開始。世界最速での放映となる。BSが観られない環境の方もご安心あれ。同作はDlife公式サイト、およびアプリでの“見逃し配信”サービスにも対応しており、放送後約一週間は無料で視聴できる。

©2017 MARVEL

紆余曲折、さまざまな困難に直面しながらも連綿と続いてきた『スパイダーマン』の系譜。その根底には常に、彼を支える世界中のファンの想いがあった。

新たなる道を歩み始めた彼が、これから5年先、10年先、どうなっていくのかは予想もつかない。それでも私は、このどうしようもなく不器用な、それでいて誰よりもタフで打たれ強い、愛すべき不屈のヒーローが摩天楼を駆けるのを、いつまでも応援し続けたいと願うのだ。

©2017 CTMG, Inc.

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©Marvel Studios 2017. ©2017 CTMG. All Rights Reserved.

『スパイダーマン:ホームカミング』

監督/ジョン・ワッツ(『コップ・カー』)

出演/トム・ホランド、ロバート・ダウニー・Jr.、マイケル・キートン、マリサ・トメイ、ジョン・ファヴロー、ゼンデイヤ、トニー・レヴォロリ、ローラ・ハリアー、ジェイコブ・バタロン

配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

公開/2017年8月11日(祝・金)全国ロードショー