『遠い山なみの光』原作者カズオ・イシグロのインタビュー映像が解禁!
- Fan's Voice Staff
第78回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で上映された石川慶監督のヒューマンミステリー『遠い山なみの光』の原作者であるノーベル文学賞受賞作家のカズオ・イシグロのインタビュー映像が解禁されました。
日本人の母とイギリス人の父を持つニキ(カミラ・アイコ)。大学を中退して作家を目指す彼女は、長崎で原爆を経験し戦後イギリスへ渡った母の悦子(吉田羊)の半生を作品にしたいと考える。次女に乞われ、ずっと口を閉ざしてきた過去の記憶を語り始める悦子。それは、戦後間もない長崎で出会った、佐知子(二階堂ふみ)という女性とその幼い娘と過ごしたひと夏の思い出。ところが、ニキは次第にその物語の食い違いに気づき始め──。
今回到着した映像は、撮影地のイギリスで、イシグロが本作と戦争、自身が育った長崎への想いなどを語るもの。
長崎で生まれ、5歳の時にその地を離れたイシグロ。「よく人は、そんな幼い頃の記憶など残っていないだろうと言いますが、実際にはそうではありません。幼いながらも、心の奥に刻まれた風景や感覚は、むしろ鮮明で、今でもはっきりと思い出すことができます。幼少期に離れた場所だからこそ、その記憶を失わないよう、無意識のうちに守り続けてきたのかもしれません」

カズオ・イシグロ
原作を書いて40年が経ち、戦後80年となる年にこの作品が日本公開されることについて、イシグロは「適切な時期だと思います。日本だけでなく世界的に節目となる年で、我々は世界が混乱に陥っていた時代があったことを思い出さなければならない。特に若い世代の人たち、戦争が終わって何年も経ってから生まれた日本の人々はそう。今の日本は豊かさだけでなく、安定性を持った偉大な自由民主主義国家のひとつです。欧米諸国が経験してきたような不安定さは経験していないかもしれない。そんな中、この映画は、その平和な日常が当たり前のものではないことを思い出させてくれる」と語り、「ほんの数世代前は違いました。当時の日本はとても暗い時代で、恐ろしい世界大戦も経験しました。だから今こそ思い出すべきで、こんなふうにそれぞれの世代が、私たちは幸運なのだと忘れないことが大切だと思う。同時にこの平和と民主主義を守り続けなくてはいけない。そんな思いもあって、この映画がこの節目を過ぎてからも、ずっと残っていくことを願っています。そして、何とかこの40年以上残ってきた僕が書いた原作のように、石川さんの映画も何十年も続いて、普遍的で時代を超えた作品として受け入れられると期待しています。なぜなら本作は最悪の状態からどのように人々が立ち直るかを描いているからです」
長崎がイシグロにとってどのような存在かについては「私が子どもの頃、イギリスでは私が長崎出身と言うと大勢が一つのことを連想しました。原爆です。長崎は“死と破壊の街”だと思われていました。それを聞いてとても不思議でした。私にとって長崎は、希望と明るさの場所だったからです。当時の長崎の雰囲気は、人々が自信を高めていた時期で感嘆と驚きに
包まれていたんです。あの頃は毎月のように見たこともない電化製品が登場していました。新しい建物も建てられました。物事がよくなっていると感じていましたし、経済は上向きで人々も明るかった。もちろん長崎そのものもとても美しい街です。街は たくさんの海や山の景色にあふれて、その両方を楽しめました」と語り、「だから私が覚えている長崎のイメージは、太陽、海、広い空、そして山と木々の風景です。街は再生と前進の雰囲気に包まれていたんです。それは、イギリスの人々が抱く『破壊された街』という印象とはまったく異なるものです」
「私にとって長崎は、皆が将来に対して希望を持つ街でした。多くの産業が回復して造船所も活気を取り戻し、全て復興していきました。父はアメリカで研究を行った後、イギリスでの生活を望んでいました。外に目を向ける時代でしたね。長崎は古くから“世界への架け橋”で、その伝統は長い歴史に根ざしています。私にとって長崎は“近代への扉を開いていった街”です。現代の日本、そして世界への扉をね」
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『遠い山なみの光』
原作:「遠い山なみの光」カズオ・イシグロ/小野寺健訳(ハヤカワ文庫)
監督・脚本・編集:石川慶
出演:広瀬すず、二階堂ふみ、吉田羊、カミラ・アイコ、柴田理恵、渡辺大知、鈴木碧桜、松下洸平、三浦友和
製作幹事:U-NEXT
制作プロダクション:分福/ザフール
共同制作:Number 9 Films、Lava Films
日本公開:2025年9月5日(金) TOHOシネマズ 日比谷 他 全国ロードショー
配給:ギャガ
助成:JLOX+ ⽂化庁 PFI
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