【単独インタビュー】『テルマがゆく!』フレッド・ヘッキンジャーが語る、高齢者を主人公に据える物語の意義
- Mitsuo
オレオレ詐欺師に立ち向かうおばあちゃんを描いた前代未聞のスローアクションコメディ『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』が6月6日(金)に全国公開されます。
仲良しの孫ダニー(フレッド・ヘッキンジャー)が逮捕されたと聞き、1万ドルの保釈金を送るように指示されたテルマおばあちゃん(ジューン・スキッブ)。典型的“オレオレ詐欺”に引っかかってしまった彼女は、そこでヘコたれない。何とか犯人を突き止め大金を取り戻すことを決意し、トム・クルーズの「ミッション:インポッシブル」にも背中を押され、テルマにとって人生初の大冒険が始まる──!
主人公のテルマ役を務めたジューン・スキッブは、『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(13年)でアカデミー賞助演女優賞ノミネート。本作では、映画の初主演としては史上最高齢となる当時93歳(現在は95歳)で同じ93歳のおばあちゃん役を演じ、電動スクーターでのカーアクションや銃撃などのアクションもすべて自身でこなしました。第78回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に選出されているスカーレット・ヨハンソンの初監督作『Eleanor the Great』ではタイトルロールのエレノア役に抜擢。2025年3月の第97回アカデミー賞授賞式にはスカーレット・ヨハンソンと共にプレゼンターとして登場し、注目を集めました。
孫のダニーことダニエル役を演じるのは、ジューン・スキッブ同様に今最も脚光を浴びているフレッド・ヘッキンジャー。1999年、ニューヨーク州出身のヘッキンジャーは、エミー賞を受賞した『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』(21年)シーズン1でブレイク。2024年には本作以外に、『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』、『クレイヴン・ザ・ハンター』、アカデミー賞作品賞ノミネート『ニッケル・ボーイズ』と話題作に立て続けに出演し、いま最も波に乗っている若手スターの一人です。
監督は、自身の愛する祖母テルマとの実体験を基に脚本を書き上げたジョシュ・マーゴリン。長編デビュー作ながら2024年のサンダンス映画祭で上映されるや話題沸騰し、Rotten Tomatoesでは98%を記録しました。
公開に先立ち、フレッド・ヘッキンジャーがFan’s Voiceのオンラインインタビューに応じてくれました。
──この映画は、ジョシュ・マーゴリン監督のお祖母さまが実際に巻き込まれた振り込め詐欺に着想を得た物語とのことですが、最初に脚本を読んだとき、どのような印象を持ちましたか?
とても心を揺さぶられました。温かさや人間味、ユニークなアクション、そしてさまざまなジャンルが完璧に融合していて、とても感動しました。本当に特別な脚本だと思いました。それからすぐにZoom越しで初めてジョシュと会ったのですが、脚本の中に感じた思慮深さやユーモア、そして優しさを、ジョシュ本人から感じました。それから、彼が明確なビジョンを持っていることはすぐに分かりました。長編デビュー作で、ここまで思いやりがあって面白くて、しかもアクションにも富んだ映画を作れるというのは本当にすごいことだと思います。
──ダニーはマーゴリン監督自身がどのくらい投影されたキャラクターなのでしょうか?
良い質問ですね。ジョシュは自身の人生の細かなところまですごくオープンに共有してくれました。と同時に、それを好きに使って良いという自由を俳優たちに与えてくれました。脚本や彼自身の人生から好きなだけ使って良いし、俳優として僕が大切に思う部分は優先して良い、という感じ。もちろん、脚本の中には自伝的ではないフィクションの部分もたくさんあります。彼が最優先したのは、とにかく素晴らしい物語を語ること。実際の出来事がそれに役立つなら、きちんと取り入れていました。だから、実体験とフィクションが不思議なブレンドで入り混じっています。
──ご自身の性格がダニーに反映されたと思う部分はありますか?
それはもっと不思議な、謎に満ちた問いかもしれません。俳優として、演じるキャラクターと自分との狭間は、いつもどこか謎めいているように感じます。俳優にとって重要なのは、毎回新しい人物を作り出すこと。同じことの繰り返しではなく、常に違う人物をきちんと見つけていくこと。でもまあ、自分が何者なのか、はっきり分かっていればもっと簡単に答えられるかもしれませんが……正直、自分のことがよく分かっていないんです(笑)。どんな役でも、「自分とどこが似ていて、どこが違うのか」を考え続けることが、俳優の仕事の一部だと思っています。その問いには終わりがないですね。
──ダニーの内面的な葛藤や優しさにはどう向き合いましたか?
彼とテルマの友情が絶対的なものだった、というのが鍵だと思います。彼にとって、それが心の拠り所でした。それ以外のことはよくわからなくて、不安で混乱していて、どこか行き詰まりを感じている。でも、この友情だけは唯一確かなもので、疑う余地がなかった。大きな不安を感じるとき、彼はテルマの目を通して自分を見つめ直します。それが自信の源になる。これは多くの人々にもいえることかもしれませんが、少なくとも僕の経験にはすごく近くて、友だちの視点から自分を見つめ直すことで、自分のことがよりはっきりと見える、ということがあります。
──ジューンさんとの共演はいかがでしたか?すごく仲良くなったと伺いましたが、祖母と孫という関係性をどう築いていったのでしょう?
本当にあっという間に仲良くなりました。撮影が始まる数週間前、プリプロダクションの段階でジューンが僕を自宅に招いてくれて、一緒に脚本を読んだり、キャラクターについて話したりしました。でも気づけば、脚本を開くこともなく何時間も、お互いの人生について語っていました。そこでもう、自然と友情が生まれました。彼女は俳優としてはもちろん、人としても本当に素敵な方です。ジョシュの脚本も、人と人の間にある“つながり”を大切に描いていて、そこにすでに化学反応のようなものが詰まっていましたし、僕たちの相性もとても自然だったと思います。彼女の演技には本当に刺激を受けます。僕は、自分を奮い立たせてくれる俳優とだけなるべく仕事をしたいと思っているのですが、ジューンは、どんな演技をしても僕をそのシーンに引き込んでくれます。ずっと一緒に演じていたくなります。
──ジューンさんといえば、次の主演映画『Eleanor the Great』がちょうどカンヌでワールドプレミアされますね(※カンヌ現地時間5月20日にプレミア上映)。
そうなんです!初期の編集段階のものを観ましたが、本当に素晴らしい作品ですよ。彼女がその映画の撮影をしていたとき、僕も同じくニューヨークで別の仕事をしていて、毎週のように一緒に夕食をしていました。今回、彼女が主演を務めているのも本当に嬉しいし、スカーレットが監督しているというのも素晴らしい。スカーレットにとって監督としての素晴らしいキャリアの始まりだと思います。そしてジューンの演技も、いつも通り、心を打つ力強さに満ちていました。
──『テルマがゆく!』は、日本では“高齢者版ミッション:インポッシブル”とも紹介されています。補聴器やスクーターまでアクションの一部になっていましたが、こうした新しい“高齢者アクション映画”のジャンルについてどう思いますか?
ジョシュはアクションやスタントについて本当に深く考えていました。パロディっぽくは絶対にならないように、それから、キャラクターを見下すようなことも絶対にしないようにしていました。アクションシーンには『ミッション:インポッシブル』と同じくらいの緊張感と勇敢さが込められていると思います。アクションの内容こそ違えど、それぞれ覚悟を持って立ち向かっている、ということですね。
ジョシュがよく言っていたのは、「祖母がベッドに入るのを見ているだけで、トム・クルーズがヘリから飛び降りるのを見るのと同じくらい緊張する」と。スケールこそ違っても、そこにある感情的な強さ、大変さは同じということ。だから、補聴器やスクーターの細かなディテールまで、とても重要でした。それらこそ、彼らが生きていく上で必要不可欠な“道具”であり、成し遂げたいことを実現するためのものでもあるのですから。
──ダニーも物語を通して成長を遂げていきますが、どの瞬間が彼の転機になったと思いますか?
両親との関係が複雑ですよね。彼は両親のことを深く愛しているけれど、その愛が時には重く、締め付けられているように感じることもある。彼は成長する中で、どう人に頼るのか、どう他人を思いやるのか、どのタイミングで自分のスペースを守るのか、といったことを学ぶ必要がありました。どんなに人のことを愛していても、その人の人生を代わりに生きることはできない。自分で失敗を経験することも必要だし、両親から離れて、自分で人生を選んでいかなければならないと、ダニーは学ばなければならなかったのだと思います。
──ダニーはテルマにパソコンの使い方を教えたり、送り迎えをしたりと、若者が年長者を支える姿にも見えます。高齢化社会の中で、若者とシニア世代がどう共存していくべきだと思いますか?
共存することは本当に大切だと思います。この映画が成功したことは、どんな世代の物語にも関心を持ってくれる観客がたくさんいるという証だと思います。映画の中で、年配のキャラクターが脇に追いやられているのを見ると、すごく悲しい気持ちになります。そしてそれは、現実の社会にも影響を与えてしまいます。僕の大切な友人や家族に年配の人がたくさんいますが、物語の世界で彼らが軽んじられたり排除されたりすると、恐怖を感じます。だからこそ、この映画のように彼らを物語の中心に据えることはとても意義深いと思います。
──撮影中、特に印象に残っているシーンや瞬間はありますか?
たくさんありますが、特にジューンとの墓地のシーンがとても印象深いです。あの日は特別な一日でした。撮影前にジューンとそれなりに話し合ったのですが、物語のテーマが凝縮されたようなシーンだったと思います。今作に限らず、脚本を読んでいると物語全体を象徴するようなワンシーンを見つけられる時がありますが、まさにこのシーンがそうでした。
──最近では『グラディエーターII』や『ニッケル・ボーイズ』など大作にも出演されていますが、どのような視点で出演作を選んでいますか?今後やってみたい役や作品は?
自分を奮い立たせてくれるような監督や、唯一無二のビジョンを持ち、自分自身に忠実で、独自のテンポで映画を作る人たちと仕事がしたいと思っています。そして、少し怖さを感じるくらいの、自分を押し広げてくれるような、リスクのある役を探しています。やったことのないことに挑戦したいし、最終的には、人間味があって、自分たちをもっと理解し、もっと人とつながりたくなるような物語に惹かれます。脆さを見せるのは怖いことですが、僕の限られた人生経験の中で言うと、その一歩が人生をより深く、豊かにしてくれる、重要なものだと思います。もっと観客を惹き込み、人ともっと深いつながりを生む映画を作っていきたいです。
──共演してみたい監督や俳優はいますか?
数え切れないほどいます。世界中の、あらゆる年代の作品を観ていますが……、観た作品をメモしているのですが、去年観たマイク・リーの最新作『Hard Truths』は素晴らしかったです。マリアンヌ・ジャン=バティストの演技がとにかく圧倒的で完璧で、他の俳優たちも全員素晴らしかった。本当におすすめの作品です。
──昨年11月には『グラディエーターII』のプロモーションで来日されていましたが、印象に残っていることはありますか?
本当に楽しい時間でした。またすぐに戻りたいです。日本で映画を撮るのが夢です。日本映画が本当に大好きで、たくさんの日本の映画監督からインスピレーションを受けています。『グラディエーターII』で訪れた時は、通訳の方がまたすごく素敵な方で、映画への情熱を持っていて、彼女のおかげでたくさんの良い会話ができました。感謝しています。街を歩き回って、おいしい料理を食べて、映画の話をして……またぜひ行きたいです。今度は日本中を旅したいと思っています。
この映画が日本で公開されることは本当に嬉しいですし、『ミッション:インポッシブル』最新作と同時期に公開されるというのが、最高だと思います。
==
『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』(原題:Thelma)
93歳テルマは夫に先立たれ、寂しくも気楽な一人暮らしを謳歌していた。心優しい孫のダニエルがベストフレンド。いつもと変わらないはずのある日、一本の電話がテルマの運命を変える。「おばあちゃん、オレオレ。事故を起こしてしまったよ!」。刑務所にいるという愛する孫を助けるため、テルマは急いで保釈金の1万ドルをポストに投函する。しかしそれは無情にも、オレオレ詐欺だったのだ……。落胆する娘夫婦を見て、居ても立っても居られないテルマは、詐欺師たちからお金を取り戻す、93歳ミッション インポッシブルの遂行を決意!旧友の老人ベンを巻き込み、電動スクーターでロサンゼルスの街を駆け巡る、大冒険に出発する!果たしてミッションは成功するのか……?
監督・脚本:ジョシュ・マーゴリン
出演:ジューン・スキッブ、フレッド・ヘッキンジャー、リチャード・ラウンドトゥリー、
パーカー・ポージー、クラーク・グレッグ、マルコム・マクダウェル
2024年/アメリカ・スイス/英語/99分/シネスコ/5.1ch/カラー/日本語字幕:種市譲二
日本公開:2025年6月6日(金)TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー
配給:パルコ ユニバーサル映画
公式サイト
© Courtesy of Universal Pictures