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2025.01.23 7:00

『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』山中瑶子登壇!試写会トークレポート

  • Fan's Voice Staff

第81回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した、ペドロ・アルモドバル監督初の長編英語作品『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』のFan’s Voice独占最速試写会が1月17日(金)に都内で開催され、上映後トークに映画監督の山中瑶子が登壇しました。

『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』は、病に侵され安楽死を望む女性と彼女に寄り添う親友の最期の数日間を描いた物語。

山中監督が生まれた時(1997年)にはすでに国際的な監督として活躍していたアルモドバル監督ですが、そんな大先輩について山中監督は「名前は皆聞いたことがあっても、作品を観たことがないという若い方も多いのでは?と思います。私がアルモドバル監督を知ったきっかけは『オール・アバウト・マイ・マザー』でしたが、毒気が魅力の監督だと思っていました。でもこの『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』はその毒気がなく、まっすぐに描かれた作品で意外でした。尊厳死を描く映画はいくつもありますが、本作はどのように最期を生きたいかについてポジティブなエネルギーで描かれた作品で、楽しく鑑賞しました」

主演のティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーアの演技について、「ティルダは、性別や人間らしさを超越していて圧巻の存在感がありました。主人公マーサはティルダにしかできない役だと思います。そしてジュリアンは昨年日本でも公開された『メイ・ディセンバー ゆれる真実』が去年のトップ3に入るくらい好きだったのですが、重い病を抱えるマーサの話にとにかく耳を傾けるというイングリッドの役に完璧に寄り添っていました」と絶賛。「大親友ではなく、若い頃に知り合ったきり疎遠になっていたふたりが再び近づいていく関係性がとてもよかった。親友ではないからこそ、お互い素直に気持ちを打ち明けられることができたのだと思います。“親しい間柄の人よりも、精神的に遠い距離がある人の前のほうが素直になれる”という絶妙な人と人の距離感。実はこれ『ナミビアの砂漠』で描きたかったことでした」と自身の作品との共通点を明かしました。

アルモドバル監督の映画術について話が及ぶと「アルモドバル作品は、いつもカラフルでポップだし、調度品がこだわり抜かれていて目が忙しくて楽しいです。昨年スペインに行きましたが、街中が実際にあの色使いで“本当だったんだ”と驚きました。そしてフレームの捉え方が素晴らしいです。登場人物の動きに適したさすがのフレームサイズ、ずっと二人で喋っているだけなのに同じような印象に陥らないフレームの作り方がすごかったです。さらっと見てしまうのですが、実はとても考え抜かれている。私はまだまだ緩慢だなと、尊敬します」と感嘆しきり。

物語の構成については「アルモドバル監督は人間のリアルな関係性を映画としてフィクショナルに構成する力が見事。“難病モノ”や“余命僅かモノ”の映画で良く描かれる、泣いて想いを伝えるシーンは全くない。危篤状態の時にギリギリ間に合って顔を見て涙ながらに和解した、というのは欺瞞であって、本当の和解ではないと私は思うので、手を握って看取るという嘘くさいことはしないというアルモドバル監督の冷静でいて暖かい眼差しが好きです」

一番好きなシーンについて聞かれると、「ティルダが演じるマーサにあるハプニングが起きて激しく取り乱しているシーンですね。私は映画で、人が取り乱しているところを見たいので(笑)。マーサが取り乱してしまった原因はあまりにも日常のあるあるすぎる出来事で、逆に映画で描かれることはあまりないと思います。その点も含めよくできた脚本だなと思いました」

“死”を描きながらも重苦しくなることなく軽やかに物語が進行していく映画について「アルモドバル監督の作品では、前作『パラレル・マザーズ』然り、よく人の死が描かれます。でも彼の映画から感じとれるのは、“人は亡くなったら終わり”ではないということ。今日もデヴィッド・リンチ監督の訃報があって、とても残念な気持ちでいるのですが、彼の素晴らしい作品が残っていると思うと不思議と悲しくはない。人は亡くなっても、それまで周囲に及ぼした影響だとかが何かしら継承され、残るものがある。そうやってこの映画も、死を前向きなものとして捉えているので、どんな人にもパワーと勇気をくれる映画に仕上がっているんじゃないかなと思います。大好きな映画なのでぜひ多くの方に観ていただきたいです」と熱く映画の魅力を伝えました。

山中監督は、昨年『ナミビアの砂漠』が第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で上映され、国際批評家連盟賞を受賞した気鋭。

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『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』(原題:The Room Next Door)

重い病に侵されたマーサ(ティルダ・スウィントン)は、かつての親友イングリッド(ジュリアン・ムーア)と再会し、会っていない時間を埋めるように病室で語らう日々を過ごしていた。治療を拒み自らの意志で安楽死を望むマーサは、人の気配を感じながら最期を迎えたいと願い、“その日”が来る時に隣の部屋にいてほしいとイングリッドに頼む。悩んだ末に彼女の最期に寄り添うことを決めたイングリッドは、マーサが借りた森の中の小さな家で暮らし始める。そして、マーサは「ドアを開けて寝るけれど もしドアが閉まっていたら私はもうこの世にはいない」と言い、最期の時を迎える彼女との短い数日間が始まるのだった。

監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
原作:シーグリッド・ヌーネス「What Are You Going Through」
出演:ティルダ・スウィントン、ジュリアン・ムーア、ジョン・タトゥーロ、アレッサンドロ・ニボラ
2024年/スペイン

日本公開:2025年1月31日(金) 公開
配給:ワーナー・ブラザース映画
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©El Deseo. Photo by Iglesias Más.