日本のインディーズ映画界の雄、塚本晋也監督初の新感覚時代劇『斬、』がベネチア国際映画祭でプレミア
- Hikaru Tadano
開催中の第75回ヴェネチア国際映画祭。コーエン兄弟やデイミアン・チャゼル監督の新作と並んで21本のコンペティション部門に選出された塚本晋也監督の新作『斬、』が、現地時間の9月7日(金)にプレミア上映されました。
脚本、監督、編集、製作、そしてほとんどの作品で出演までひとりで手がけ、一貫してインディペンデント作品として製作を続けている塚本監督。1989年に映画『鉄男』で長編映画デビュー以来、アクション・ホラーというジャンル路線で独自の世界観を築き、世界中に熱狂的なファンを持つカルト監督としても知られています。そのファンの中には、クエンティン・タランティーノやダーレン・アロノフスキー、ギャスパー・ノエなどそうそうたる名前も。
ヴェネチア国際映画祭に作品を上映するのは8回目。コンペ部門への参戦は、『鉄男 THE BULLET MAN』(09年)、前作の『野火』(14年)に続いて3度目となります。『六月の蛇』(02年)ではコントロ・コレンテ部門で審査員特別大賞、『KOTOKO』(11年)ではオリゾンティ部門で最高賞のオリゾンティ賞を受賞しています。また、北野武監督が『HANA-BI』で金獅子賞を受賞した1997年にはコンペティション部門で、また2005年にはオリゾンティ部門の審査員を務めています。
『斬、』は、そんな塚本監督にとって初めての時代劇です。
江戸時代末期。250年に渡り戦がなく、貧窮した流浪の武士、浪人となる者も多かった時代。武士・都築杢之進(池松壮亮)は、藩から離れ、江戸の近郊の農村で農家の手伝いをしていた。隣の農家の息子、市助(前田隆成)に木刀で剣の稽古をつけている。市助の姉ゆう(蒼井優)は、市助が剣術を習うことに一抹の不安を覚えるものの、杢之進には想いを寄せている。
3人はある日、類まれな剣の使い手である澤村次郎左衛門(塚本晋也)に出会う。澤村は、江戸に組を組織し、京都の動乱に参戦するため、仲間を探していた。都築の腕に惚れ込み、江戸行きを誘うが、出発の直前で都築は病に倒れるが、その頃、村には浪人集団が流れ着く……。
剣術の使い手でありながら、人を斬る=殺すことに疑問を覚え、葛藤する主人公・都築には、武器を持って人を殺すこと=すなわち戦争時代に懐疑的な現代人の感覚をそのまま投影させているといいます。
「黒澤明監督のマスターピースである『七人の侍』はもちろん、『用心棒』や『椿三十郎』なども好きで、ほとんど『椿三十郎』などは殺陣のモノマネを友達相手によくやっていました。『座頭市』も好きな作品ですが、TVでは70年代にカルト的な『新・座頭市』が放映していたんですけれど、毎回原田三枝子さんとか根津甚八さんとかクセのある俳優さんが出ていて面白かった。一方で、市川崑監督の『股旅』という映画があるんですが、ショーケン(萩原健一)が70年代の若者の感覚そのまま浪人になってしまっている。自分がもし時代劇をつくるなら、様式美としての時代劇じゃない時代劇に飛び込んでいったら、今の若い人が飛び込んでいったらどうなんだろう?と。特に、池松さんが今の若いものをリアルな若者を体現していると思ったので、彼が江戸時代にいたらどうなったのだろう?と。それがベースでした」
かつてホラーのジャンルに新風を吹き込んだ塚本晋也だが、時代劇でもその斬新さで世界を魅了できるのか、今後の世界展開も楽しみです。
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『斬、』
監督、脚本、撮影、編集、製作/塚本晋也
出演/池松壮亮、蒼井優、中村達也、前田隆成、塚本晋也
2018 年/日本/80 分/アメリカンビスタ/5.1ch/カラー 製作:海獣シアター
日本公開/2018年11 月 24 日(土)よりユーロスペースほか全国公開
配給:新日本映画社
公式サイト
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