Column

2024.04.03 12:00

【単独インタビュー】『ゴッドランド/GODLAND』フリーヌル・パルマソン監督がアイスランドの自然を舞台に描いた人間の存在

  • Atsuko Tatsuta

※本記事には映画『ゴッドランド/GODLAND』のネタバレが含まれます。

第96回アカデミー賞国際長編映画賞のアイスランド代表作品に選出された北欧発の人間ドラマ『ゴッドランド/GODLAND』が3月30日(金)に日本公開されました。

19世紀後半、植民地アイスランドへ布教の旅に出た、若きデンマーク人の牧師ルーカス。任務は、辺境の村に教会を建てること。アイスランドの浜辺から馬に乗り、陸路ではるか遠い目的地を目指す旅は、想像を絶する厳しさに。アイスランド人の年老いたガイドのラグナルはデンマーク嫌いでルーカスと対立、予期せぬアクシデントにも見舞われる。やがて瀕死の状態で村にたどり着くが──。

第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で上映され、各国でロングランヒットを記録した本作。第96回アカデミー賞国際長編映画賞のショートリストに選出、第39回インディペンデント・スピリット賞では外国映画賞にノミネートされました。

監督・脚本は、アイスランドの気鋭フリーヌル・パルマソン監督。日本ではトーキョーノーザンライツフェスティバルで紹介された『ウィンター・ブラザーズ』(17年)、『ホワイト、ホワイト・デイ』(19年)で国際的に高く評価されてきた、北欧で最も注目を集めるフィルムメーカーのひとりです。

日本公開に際し、Fan’s Voiceのオンラインインタビューに応じてくれました。

──映画の冒頭で、何枚かの写真がこの作品のインスピレーションのもとになっているというテロップが登場しますね。この写真についてお話しいただけますか?
あれは、脚本を書く過程で私が創り上げたフィクションです。史実ではありません。2013年にこの脚本を書き始めたのですが、物語が膠着してしまって上手く書き進められない時期がありました。その時に思いついたのが、このアイディアです。神父がカメラを持ち歩き、湿板写真を撮ってまわるというアイディアです。それを思いついた後、映画がまた動き始めました。文字通り、映画に息が吹き込まれたのです。

──本作の中では、アイスランドとデンマークの歴史における興味深い関係が描かれますね。このテーマはどこから出てきたのですか?
これは私が自分のルーツに興味を抱き、検証したいという思いから始まったものです。私はアイスランドで生まれ、育ち、その後デンマークに長く住みました。つまり、私はこの二つの国の間に存在しているともいえます。その感覚を探求してみたかったし、二つの国の歴史も探求したいと思いました。特に興味があったのが、二つの文化圏における言語およびコミュニケーションの違い、さらにはミスコミュニケーションについて。これはよくあることですよね。

──物語の後半では、文化の衝突というモチーフが浮かび上がってきます。異なる文化圏が出会ったときの軋轢は世界中で起こっていることで、今日に続くテーマともいえると思います。この物語を語る上で、現代性を意識していましたか?
すべてのことは、我々の周りで起こっていること、つまり今この時代に起こっていることから影響を受けているのは明らかです。私自身も、ものを作る際には、世界で起こっていることに自然と色付けられている。でも同時に、とても開かれた状態でいたいと常に思っています。ある特定の出来事や体験に限定されるのではなく、自分自身が感じたままに理解し、演出することを大切にしたい。例えば、モノローグよりも会話を大事にするとかも感覚的なことです。なので、アイルランドとデンマークのことを知らない人であっても、そういった人間的な感覚でこの物語を理解して欲しいと思います。人としてどう感じるかが、私自身が探求したいことです。

──若きデンマーク人の牧師を主人公にするという案はどこから来たのですか?
この物語では、自然に近い人間の姿を描こうという考えがまずありました。そして、デンマークとデンマークの支配下にあるアイスランドの関係性や両国の対比を考えた時に、神父という存在が浮かび上がってきました。主人公のルーカスは、アーティストでもなく銀行員でもなく、神父です。ガイド役の男は自然に根付いた人間で、モダンな世界からやってきた神父と対比されます。映画の冒頭で、赤い旗と青い旗があります。それも対比ですが、実際にこの作品の基本に、対比という考え方があります。

──この作品に映し出されるアイスランドの荒野、火山、氷河といった自然に魅了されました。あなたにとって、この荒々しい自然を描くことはどれほど重要だったのでしょうか?アイスランド映画にとっての自然とは?
これはあくまで私のまわりにある環境ともいえます。今作の撮影場所に選んだアイスランド南東の沿岸地帯は、私が慣れ親しんだ好きな場所です。他のアイスランド映画にとって自然が何を意味するのかは正直わかりませんが、私にとっては、よく知っている風景です。例えば、ルーカスが亡くなった場所は、私が毎年夏にキノコ採りに行くところです。季節ごとに私がよく行く場所で撮影しました。

──ルーカスは、なぜ死ななければならなかったのでしょうか?
ルーカスがすべてを失っていく過程を見たいと思いました。それは言葉であったり、気が変になったり、あるいは、カメラ、服、信仰……すべてを失っていく。人間として大切だと思っているものを、ひとつひとつを彼から引き剥がしていくような感覚。例えば、海に出ている時に船酔いをしたら最悪ですよね。自分の感覚が失われ、海に身を投げてしまいたいような気持ちになります。私は、彼がひとつひとつ失っていく、すべての過程を描くことが必要だと思いました。馬が死んだ後、土に還るまでを映した映像が出てきますが、あれは実際に父が飼っていた馬が死んだ後、2年間かけて撮影しました。大きな時間、大きな自然、大きなランドスケープの中で、我々がどれだけとるに足らない存在であるかということを表現しています。

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『ゴッドランド/GODLAND』(英題:Godland)

監督・脚本:フリーヌル・パルマソン
出演:エリオット・クロセット・ホーヴ、イングヴァール・シーグルソン、ヴィクトリア・カルメン・ゾンネ ほか
2022年/デンマーク、アイスランド、フランス、スウェーデン/デンマーク語、アイスランド語/1.33:1/5.1ch/143分/日本語字幕:古田由紀子

日本公開:2024年3月30日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
配給:セテラ・インターナショナル
後援:駐日アイスランド大使館
公式サイト
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