【単独インタビュー】『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』ブレット・モーゲンが共有した不出世の天才との時間
- Atsuko Tatsuta
デヴィッド・ボウイ財団初の公認ドキュメンタリー『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』が3月24日(金)に公開されました。
1969年にシングル「スペイス・オディティ」で注目を集め、1972年にはアルバム「ジギー・スターダスト」を発表、グラムロックの旗手として脚光を浴びたデヴィッド・ボウイ。1983年に発表した「レッツ・ダンス」は世界的に大ヒットし、1996年にはロックの殿堂入り。世界で最も影響力のあるロックスターのひとりとして不動の地位を確立しました。
ニコラス・ローグ監督の映画『地球に落ちてきた男』(76年)では主演に抜擢され、大島渚監督の映画『戦場のメリークリスマス』では北野武、坂本龍一らと共演するなど、多くの映画で俳優としても異彩を放ったボウイは、2004年に病に倒れた後、長い休養を経て、2013年に10年ぶりの新作「ザ・ネクスト・デイ」を発表。しかしながら2016年1月10日、69歳で肝癌により逝去。2017年には、遺作となった「ブラックスター(★)」がグラミー賞で最多5部門で受賞しました。
不出世のロックスター、デヴィッド・ボウイの人生と才能に焦点を当てた『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』は、ボウイが保管していたアーカイブから寄りすぐった未公開映像と40におよぶ名曲、ボウイ自身のモノローグで構成された珠玉のドキュメンタリー。
監督を務めたブレット・モーゲンは、ハリウッドの伝説的なプロデューサー、ロバート・エヴァンスについてのドキュメンタリー『くたばれ!ハリウッド』(02年)や伝説のロックバンド、ニルヴァーナの故カート・コバーンを題材にした『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』(15年)などで知られるドキュメンタリーの名手。
日本公開に際し来日したブレット・モーゲン監督が、Fan’s Voiceの単独インタビューに応じてくれました。
──あなたとは20年前に『くたばれ!ハリウッド』のインタビューで、LAのロバート・エヴァンスさんのご自宅でお会いしましたね。その時にいただいた『Kid Notorious』のイラストは、大切に飾っています。
翌年のアカデミー賞授賞式の追悼コーナーでボブ(=ロバート・エヴァンス)が紹介された時には、胸に迫るものがありましたよ。そのイラストは、僕も同じものを持っています。数の少ない、とても貴重なものです。
──ロバート・エヴァンスの他にもカート・コバーンなど伝説的な人々についてのドキュメンタリーを多く作っていらっしゃいますが、今回も伝説的なロックスター、デヴィッド・ボウイについての素晴らしい作品を作られましたね。今作は、ボウイの伝記的なドキュメンタリーというより、むしろあなたの視点で描いたポートレイトという印象を受けました。あなたは1968年生まれなので、物心ついたときにボウイはすでにスターだったわけですが、彼はどのような存在だったのでしょうか?
彼が活躍した70年代は、おっしゃったように僕はまだ子どもでした。ハロウィンで隣の家の子が、宇宙から来たロックスター“ジギー・スターダスト”の仮装をしているのを見て、「それ、誰?」と聞いたことがきっかけで、僕はボウイを知るようになりました。そして思春期を迎えた頃に、初めて自分の意思で選んで聴くようになったアーティストが、ボウイでした。81年ぐらいのことです。だからボウイは、僕の知的な成長においても、アイデンティティの確立においても、ものすごく大きな存在でした。思春期の僕に直接語りかけてくれるようなアーティストは、他にいませんでした。この映画中でも、“火星から来たような”とファンが言っていますが、それは僕が当時感じていたことでもあります。そして時は流れて、47歳の時に再びボウイは僕に大きなインパクトを与えてくれました。
──そのインパクトとは?
この映画を作ろうとしていた2017年1月5日に僕は心臓発作を起こして、1週間ほど昏睡状態が続くという生死の際を彷徨いました。その経験をした後に改めてボウイのインタビューをいろいろと見ていくと、彼の言葉や行動が、クリエイティブな人生をより良く生きるためのロードマップを示しているように思えました。
僕には3人の子どもがいるのですが、僕が2017年に倒れた時に死んでいたら、まだ若い彼らにどんなメッセージを遺せたのだろうかと考えてしまいました。僕はボウイのような言葉を持っているわけではないけれど、ボウイの言葉を、僕の想いに代わるメッセージとして遺すことができるのではないかと思いました。生きる上でなんらかの指針になるような考え方や物の見方を、ボウイの映画を通して子どもたちに伝えたい、と。
──なるほど。この映画は、お子さんたちへの個人的なメッセージでもあるわけですね。
はい。去年、この映画は彼らのために作ったのだと力説して、子どもたちをスクリーニングに連れて行きました。特に2番目の息子はアーティストなので、おそらく僕の想いを理解してくれていると思います。
──この作品は2022年の第75回カンヌ国際映画祭でワールドプレミアされて以来、高い評価を受け続けてきました。観客の中には、デヴィッド・ボウイをリアルタイムでほとんど知らない若い世代もいたと思いますが、さまざまな観客の反応をどのように受け止めていますか?
この映画は主に3つのタイプの観客に響くように作りました。一つはハードコアなデヴィッド・ボウイのファン。つまり、ボウイに関するあらゆる本を読み、あらゆる映像をすべて観ているような人たち。でも、そんな彼らですら見たことがないような映像が詰まった作品になっていると自負しています。音楽はよく聞くけれど、ボウイの熱烈なファンではない人たちにとっても楽しめる作品になっています。デヴィッド・ボウイというアーティストがどのような人生を辿ってきたのかがよくわかるので、この映画を観た後にはきっと、より興味を持ってデヴィッド・ボウイの芸術に浸れるようになると思います。
また、この映画の中のボウイのメッセージは、アートを超えるものになっています。より充実した人生を送れるよう、すべての人に向けたメッセージですから。たとえ音楽ファンでなくても、ロックが好きであろうとなかろうと、どんな職業に就いていようと、心に響くと思います。
──デヴィッド・ボウイご本人とも何度もお会いになったと思いますが、実際の彼の印象はどのようなものでしたか?
最初に出会ったときの印象と、この映画を作る中で触れてきたデヴィッドに自分が抱いた気持ちを分けて話すのは、今となっては難しい。でもあえて言うならば、彼は一緒にいる「その瞬間を共有している」と確かに感じられる人だということ。私たち人間がこの世に存在する時間は短い。だからこそ一瞬一瞬を大事にする。彼がどれだけ人生というものを大事にしているのかを、実際に本人にお会いして強く感じましたね。
──2013年にロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館で開催された回顧展「David Bowie Is」にはたいへん感銘を受けました。その後、この回顧展は世界を巡回しましたが、日本に来る前の2016年にボウイは残念ながら病に倒れ、逝去しました。たいへん驚きましたが、あなたは彼の早すぎる死をどう受け止めたのでしょうか?
私も多くの人と同じように、「ブラックスター(★)」のMVを何度も何度も繰り返し観ていました。どうしてこんな傑作を死の直前にリリースしたのか、そのタイミングに戸惑いました。「ブラックスター(★)」は大きなステートメントのようなものだったのだと思います。とても触発されました。死に際に至っても彼は偉大だったのです。
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『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』(原題:Moonage Daydream)
監督・脚本・編集・製作/ブレット・モーゲン
音楽/トニー・ヴィスコンティ
音響/ポール・マッセイ
出演/デヴィッド・ボウイ
2022年/ドイツ・アメリカ/カラー/スコープサイズ/英語/135分/字幕:石田泰子/字幕監修:大鷹俊一
日本公開/2023年3月24日(金)IMAX/Dolby Atmos 同時公開
配給/パルコ ユニバーサル映画
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