【単独インタビュー】『ヘルドッグス』MIYAVIが演技で昇華させるミュージシャンとしての存在感
- Atsuko Tatsuta
岡田准一主演 × 原田眞人監督の3度目のタッグとなるノンストップクライムエンターテイメント『ヘルドッグス』が9 月16日(金)より公開されました。
闇落ちした元警察官の兼高(岡田准一)は、その獰猛さを警察に目をつけられ、関東最大のヤクザ組織・東鞘会が持つ秘密ファイルを奪取するため、組織に潜入することに。制御不能なサイコボーイ・室岡(坂口健太郎)とタッグを組み、猛スピードで組織内で上り詰める兼高ですが、次々に新たな真実が明らかになり──。
深町秋生のベストセラー小説「ヘルドッグス 地獄の犬たち」を、『関ヶ原』(17年)や『燃えよ剣』(21年)などで知られる原田眞人監督が映画化。主人公・兼高が潜入する東鞘会の七代目会長・十朱義孝(とあけ・よしたか)を演じるのは、世界的ギタリストとしても知られるMIYAVI。アンジェリーナ・ジョリー監督作『不屈の男 アンブロークン』(14年)を始め、『キングコング:髑髏島の巨神』(17年)といったハリウッド作品にも出演し、俳優としてもカリスマ性を発揮しているMIYAVIが、新作の公開に際し、Fan’s Voiceのインタビューでその魅力を語ってくれました。
──『ヘルドッグス』のどこに魅力を感じて出演されたのですか?
原作では、僕が演じた十朱はもう少し年配のイメージだったので、どのようにキャラクターを作り上げられるのか不安もあったのですが、お話をいただいた時点ですでに原田監督の中でイメージが出来上がっていて、兼高と十朱が対峙する時の構図や、十朱の独特な歩き方といったことまで、一つひとつのシーンの話も具体的にされていました。役者の個性を大事にしつつ、その個性を研ぎ澄ませてキャラクターを作り上げていく。そういう中で、僕しか出せない味や色とは何だろう?と、興味が湧いてきました。兼高と十朱の関係は美しく、それをこの映画の中で自分達なりに掘り下げられたら面白いと思いました。
十朱と岡田くんが演じている兼高との関係は、ある種のラブストーリー。同性愛という関係ではありませんが、人として、男として惹かれ合い、ある種の愛情が芽生えていく。男同士ならではの熱というか、抱擁の仕方のようなものを、どのキャラクターに関しても、この作品はとても大事にしていると思います。
──役を作り上げるにあたり、リサーチをしたり参考にしたものはありますか?
原田監督からいくつか映画の観て欲しいと言われました。『東京暗黒街・竹の家』(55年、サミュエル・フラー監督)や『冬の光』(62年、イングマール・ベルイマン監督)、『地獄の黙示録』(79年、フランシス・フォード・コッポラ監督)などですが、『地獄の黙示録』はちょうどリバイバルで上映されていたので、映画館へ観に行きました。そこにもまた縁を感じましたね。『東京暗黒街』のロバート・ライアンの歩き方はかなり参考にしています。
──役に入り込む、自分なりのメソッドのようなものはありますか?
原作のある作品だったら、キャラクターのバックグラウンドが大抵書かれているので、参考にします。今回なら、十朱がこれまでどのように生きてきたのか、なぜその境地に至ったのか。それと僕の場合は、音楽を使ってキャラクターの世界観に没頭したりもします。現場では、役柄に合うと思うサウンドトラックなどを聴くことが多く、カメラが回る直前までイヤホンで音楽を聴いています。
──ご自身でプレイリストをお作りになるのですか?
そうですね。今回は、それこそ『地獄の黙示録』のサントラや、吉原光夫さん演じる熊沢というキャラクターが(映画中で)歌うオペラを聴いていました。音楽と紐付けて役に入っていくのは、僕にとってすごく大事です。
監督からいただくこともあります。特に海外の監督は、音楽のプレイリストを参考にくれることも多いですね。『不屈の男』の時は、『戦場のメリークリスマス』のサントラとかを聴いていました。まだリリースされていないある作品(の撮影)では、『ジョーカー』のサントラを聴いていたり。
──完成した『ヘルドッグス』をご覧になった感想は?
ぶっ飛んだキャラクターたちがバチバチと衝突し合う、スリリングな展開がすごいと思いました。俗にいうジトッとした展開のヤクザ映画も多いと思いますが、この作品はスピーディで息つく暇もない。爆発力があるというか、それぞれのキャラクターが衝突したときの熱量が素晴らしいですね。また、ビジュアルが絵画的に構成されていて美しいことも印象的でした。正直、僕は役者としてそれほど自信がないので、自分の演技は客観的に観られません。
──俳優としては自信がないとおっしゃいましたが、主役を演じた『不屈の男 アンブロークン』の頃から、スクリーンを圧倒する存在感がありました。
ありがとうございます。俳優としてだけでなく、ミュージシャンとしてもなのですが、ライブもレコーディングも演技も、終わった途端から自分のパフォーマンスの粗が見えてしまいます。
個人的なことで言えば、例えば、ミュージシャンとしてステージに上がるときのテンポ感と、俳優としてカメラの前で演じるときのテンポ感は違います。音楽でステージに上がる時は、どちらかというとボクシングやアスリート的な感じで、爆発感を大事にします。映画は反対にマラソン的な感じで、自分でペースをコントロールして物語の起伏をイメージしながらじっくり作り上げていく。闘い方が違う。
岡田くんは俳優でもありますが、武術家のよう。今回も撮影現場で、自分が出ていないシーンでも現場に来て、アクションを見ていたりしました。そういう取り組み方には感心させられたし、勉強になりました。
──クライムアクションというジャンルは、観客としてもよくご覧になりますか?
好きですね。それにこの作品は、ヤクザ映画やアクション映画など、いろいろなジャンルが合わさったところが面白い。この作品では、北村一輝さん演じる漢気ヤクザの土岐とか、脇を固める俳優陣もめちゃくちゃキャラが濃い。そういう中で、ミュージシャンである僕の存在が、一つのスパイスになればと思いました。
──今後も音楽と並行して俳優業は続けていくおつもりですか?
お話があれば、スケジュールが合う限りできるだけやりたいですね。僕にオファーが来る役は、ミュージシャンとしての僕のイメージにハマるというか、そう遠くないというか、ちょっと切れ味が鋭い役が多くて、あまりポジティブな役はない(笑)。
──もっと平凡な男の役だったり、柔らかいキャラクターも演じてみたいですか?
そういう思いはありますけれど、おそらくそういうオファーは来ないですね。僕よりもそういう役を上手く演じられる役者さんは、他にたくさんいますから。僕にはある種、音楽家としての存在やロックスターとしてのイメージがあります。それを踏まえて、こうした作品の中でも演じられるキャラクターに重ねられるのだと思います。
例えば、ギターの音色と似ているかもしれません。僕がエリック・クランプトンみたいに(ギターを)弾きたいと思っても、実際に弾けないし、同じように弾いても仕方がない。僕としてそこに存在する意味がない。僕が役者として、『シャイニング』(80年)のジャック・ニコルソンとか『バットマン ビギンズ』(05年)のモーガン・フリーマン、『ダークナイト』(08年)のヒース・レジャーのようなトリッキーでエッジーな演技に魅力を感じたとしても、同じように演じられるわけではありません。
それと、いつも思うことですが、やはり主役を演じている方々の集中力はすごい。何ヶ月もかけてひとつのキャラクターを作り上げて撮影を続けるというのは、僕には到底無理です。サクッと出てサクッと死ぬ方が性に合ってる(笑)。
──やっぱり音楽があってこそ、役者としての仕事が成り立つ?
そうですね。音楽はやはり僕の中のコアの軸。表現するという意味では、音楽も映画も同じという言い方もできるかもしれませんが、俳優として演じる場合、自分をニュートラルにして、いかに役のポテンシャルを最大限に活かして、物語の中でその役割を担っていくのか、がより大事になります。
──役者の仕事をすることによって、ミュージシャンとして得るものはありますか?
それはありますね。映画は総合芸術なので、色んな面で勉強になることは多い。原田監督はストーリーや映像だけでなく、音楽やアートにもこだわりがあり、今回もそうした監督のこだわりからインスピレーションを受けました。
実際のところ、自分が出演した映画を基に曲を作る機会はなかなかありませんが、それでも音楽を視覚的に捉えるという意味では、すごく糧になっています。自分が広がるというか。音楽家というのは、永遠に深く自分を掘っていく作業です。その濃度をどんどん濃くしていくプロセスを切り売りしてるというか。役者として演じるときは、まず自分をニュートラルにするので、その中で再度、自分の持っている色でどうペイントできるかを考えるのが興味深いです。
──ちなみに、普段はどういう映画を観ていらっしゃるのですか?
結構一般的な映画を観ていると思いますよ。最近では、『DUNE/デューン』、『ハウス・オブ・グッチ』とか。ジャレッド・レトやレディー・ガガはミュージシャンでもあるので、彼らのスタンスには近いものを感じます。コーチェラ(4月にLA近郊で開催される音楽フェス)で、ジャレッド・レトに久しぶりに再会しました。彼はどちらかというと音楽よりも俳優をメインに活動していると思いますが、彼の活動はいつも参考にしていますし、インスパイアされています。それから(自分には)子どもがいるので、彼女たちと一緒に『SING/シング』や『ミラベルと魔法だらけの家』など、ファミリー映画やアニメもよく観ます。
Photography by Aya Kawachi
Styling by Masayuki Sakurai [casico]
Hair&Makeup by Takahiro Hashimoto (SHIMA)
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『ヘルドッグス』
出演/岡田准一、坂口健太郎、松岡茉優、MIYAVI、北村一輝、大竹しのぶ
脚本・監督/原田眞人
原作/深町秋生「ヘルドッグス 地獄の犬たち」(角川文庫/KADOKAWA刊)
PG12
日本公開/2022年9月16日(金)
配給/東映、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト
©2022「ヘルドッグス」製作委員会