Review

2016.11.05 13:35

【最速レビュー】『ドクター・ストレンジ 』〜MCUの”魔法”〜

  • Aquila

マーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)14作目にして、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』から始まったフェイズ3の第2作目である映画『ドクター・ストレンジ』。
公開前から軒並み高い評価を受け、全世界が注目する本作品を、日本最速試写会にて鑑賞させて頂いた。
日本での本公開まではまだ3ヶ月の空白がある(記事執筆当時)ため、本記事ではネタバレ一切無しにてレビューする。

2008年の『アイアンマン』から始まったMCUも、8年の積み重ねを経てシリーズが拡大。その勢いは映画だけに留まらず、TVドラマやコミック、さらにはインターネット配信のドラマにまで及ぶ。映画作品としても、またひとつのエンターテインメントコンテンツとしても”現象”と呼べるほどに成長したと言えるだろう。
多数のヒーローや様々なサブキャラクターたちがひとつの作品世界を共有し、同じ歴史を刻む物語。もちろん原作であるマーベル・コミックスやMCUシリーズを追いかけ続けているファンにとっては喜ばしいことであるものの、やはりここまでくると飽きがきてしまったり、また新しくこの世界に入門しようとする人々からするとハードルが高く見えたりしてしまうのも事実である。
ところが、マーベル・スタジオはこの『ドクター・ストレンジ』で見事に我々を裏切ってくれた。MCUにおいてはじめて”魔法”や”魔術”の世界を描き出し、作品世界のスケールを拡大しながらも、ニューヒーローの王道オリジンものとして”ここから観ても楽しめる”一本の映画を作り上げたのだ。

これまでのMCU作品においても、トニー・スタークをはじめ天才たちが作り出すハイテクなガジェットや、神話の世界から飛び出してきたようなアスガルドの技術や兵器が幾度となく現れた。しかしそれはあくまで”高度に発達した技術”に過ぎない。

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今回描かれた”魔術”はそれらとは一線を画し、人間の持つ”魂”から生まれる正真正銘の魔法である。『ドクター・ストレンジ』では、設定として語られる以上に我々の”視覚”に訴えかけることによって説得力を持たせている。
極彩色の光が乱れ飛ぶ異次元空間、万華鏡のように歪む摩天楼。最新の技術によって描かれるそれらの映像は、否応無しに信じさせてくれる。MCUの世界に”本物の魔法”が現れたのだと。

これまでMCUに現れたヒーローたちとは文字通り”次元の違う”戦いに身を投じるドクター・ストレンジの誕生譚である本作のストーリーを理解するに当たって、他のシリーズ作品を観ておく”予習”は全く必要ない。
また、魔術をテーマに扱うとはいえ重厚で暗いストーリーでは決して無く、適度に挟み込まれるコメディタッチなシーンが笑いを誘ってくれる。このようなところもMCU、ひいてはマーベル・コミックの強みであると感じられる。『ドクター・ストレンジ』は、この大きな作品世界への入口のひとつとして十二分に機能する作品となっているのだ。

もちろん、これまでのMCU作品や原作コミックを愛してきたファンにはうれしい要素も盛り込まれている。これまでにない魔術の世界を描きながら、他の作品群との繋がり、そしてこれからさらに繋がっていくであろう予感も感じさせてくれる。恒例のサプライズも健在だ。

また、本作はキャストもたいへん豪華な顔ぶれが揃っている。MCUの映画作品において、これだけの著名俳優が名を連ねるのもシリーズ初に近い。
特に主演であるベネディクト・カンバーバッチはイギリスでナンバーワンの人気を誇ると言っても過言ではなく、本作においても最高のストレンジを演じてみせた。全てを失いながらも諦めることなく新たな道に歩き出す元・天才外科医。観たあとだからこそ自信を持って言えることだが、この独特で奇抜で型破り、それでいて正統派なニューヒーローは彼にしか務まらなかったであろうことに疑いはない。
また、彼ら魔術師たちを導く師であるエンシェント・ワンを演じたティルダ・スウィントンも評価したい。
原作コミックでは白髭を蓄えた老人の風貌をもつチベット人の男性キャラクターであるのに対し、今作ではまるで尼僧、あるいは菩薩のような若き(もちろん、数百年の時を生きている設定だが)ケルト人女性となった。大変挑戦的なキャスティングであり、公開前から不安の声が上がることも少なくなかったと感じる。
しかし彼女は、この圧倒的な強さ、そして厳しさと優しさを兼ね備えた摩訶不思議な導師を、性別や年齢の垣根を越えた超現実的な存在、キャラクターとして見事に演じきったのだ。これもまた前述の”魔術というものへの説得力”に一役買っている。

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日本公開は来年1月。MCUに現れたニューヒーローとして、また一本の映画としても歴史に残るであろう『ドクター・ストレンジ』。この作品の”魔法”に、あるいはMCUという広大な宇宙に、飛び込んでもらいたい。