【レビュー】『21ブリッジ』チャドウィック・ボーズマンがスクリーンで貫いた最期の正義
- SYO
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(16年)、『ブラックパンサー』(18年)、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18年)、そして『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年)──これらのMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)作品で”表の顔は国王、もう一つの顔はヒーロー”というカリスマ性溢れるブラックパンサー/ティ・チャラを演じたチャドウィック・ボーズマン。2020年の8月に43歳の若さで世を去った彼は、遺作である『マ・レイニーのブラックボトム』(20年)で第93回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされるなど、ますます評価を高めている。
そんなボーズマンが、製作・主演を兼ねたクライムアクション『21ブリッジ』が、4月9日より劇場公開を迎える。2020年にリリースされた『ザ・ファイブ・ブラッズ』と『マ・レイニーのブラックボトム』は共にNetflix独占配信作品であるため、純粋な劇場公開用の映画という意味では、本作が最後の出演作である。
あらすじはこうだ。職務中に殉職した父親の背中を追い、自らも刑事となったアンドレ(チャドウィック・ボーズマン)。過去のトラウマから、犯罪者を決して許さない彼は、情け容赦ない捜査のやり方で、警察内でも浮いていた。そんなアンドレがある日担当することになったのは、警官殺しの凶悪犯罪。犯人を追い詰めるため、アンドレは「マンハッタン島に掛かる21の橋すべてを封鎖する」という大胆な作戦を実行しようとする──。
ボーズマンのほか、『アメリカン・スナイパー』(14年)のシエナ・ミラー、『ビール・ストリートの恋人たち』(18年)のステファン・ジェームス、『バトルシップ』(12年)のテイラー・キッチュ、『セッション』(14年)のJ・K・シモンズといったキャストが集結。スタッフ周りも、豪華な面々が揃った。『アベンジャーズ/エンドゲーム』のルッソ兄弟が製作を手掛け、イドリス・エルバ主演の人気ドラマ『刑事ジョン・ルーサー』(10~19年)の共同クリエイター・監督を務めたブライアン・カークがメガホン。撮影は、『コラテラル』(04年)でLAの夜景を美しく切り取った撮影監督ポール・キャメロンが担当した。
ルッソ兄弟は、クリス・ヘムズワース主演でNetflixオリジナル映画『タイラー・レイク -命の奪還-』(20年)、トム・ホランド主演でApple TV+オリジナル映画『チェリー』(21年)、クリス・エヴァンス主演でNetflixオリジナル映画『The Gray Man(原題)』と、アベンジャーズ俳優たちと共に多くの作品を手掛けており、『21ブリッジ』もそうした彼らの絆を感じられる作品群のひとつ、という見方もできそうだ。
ではここからは、『21ブリッジ』の中身について紐解いていこう。本作は、アンドレの父親の葬儀シーンから幕を開ける。志半ばにして散っていった父の無念を思い、犯人を憎み、涙を流すアンドレ。そして、19年後の現在。NY市警の刑事に成長した彼は、「9年で8人射殺」したことで内務調査を受けていた。毅然とした態度で「正義の代価だ」と言い放つアンドレ。この二つのシーンからは、本作が主人公の内面に迫るドラマ重視のクライムアクションであることが伝わってくる。威厳や風格すら感じさせる堂々たる演技は、ブラックパンサー/ティ・チャラ役で「陛下」と親しまれているボーズマンならでは。開始わずか数分で、はまり役の予感が漂ってくる。
父の死を引きずるアンドレと、兄を亡くした犯人マイケル(ステファン・ジェームス)を対比させる構造も興味深い。アンドレは父と同じ刑事になり、マイケルは兄を追って海兵隊に入隊するが、己を律したアンドレは正義を貫き、己に屈したマイケルは犯罪者の道に転落するという展開がほろ苦い。その後も、刑事たちの脆さを描くドラマが紡がれ、作品全体がアンドレの成長を促すものになっている。父の後継者=正義の番人としてどう振舞うべきかが、テーマとして全編を貫いているのだ。
そして、もうひとつ重要な要素が、街。冒頭でアンドレの人となりを描くパートが終わった後には、マンハッタン島全体をなめるように「昼の顔」「夜の顔」の両方を映し出す空撮が続く。『コラテラル』の撮影監督であるキャメロンらしい色気のある映像を経て、マイケルとレイ(テイラー・キッチュ)が犯罪に及ぶシーンでは、『コラテラル』と同じマイケル・マン監督の傑作『ヒート』(95年)を彷彿とさせるような銃撃戦が展開。音楽を廃し、乾いた銃声だけで魅せるサウンドデザインは、まさに通好みといえる。
また、このシーンに代表されるように、美術班の仕事ぶりが、リアリティを底上げした点も重要だ。本作のプロダクションデザインを手掛けたのは、『デッドプール』(16年)のアートディレクターも務めたグレッグ・ベリー。そこに『パニッシャー』(17~19年)のアートディレクターを担当したマッテオ・デ・コスモや、『アイリッシュマン』(19年)の装飾を手掛けたレジーナ・グレイブスが加わった。いずれも「街での銃撃戦」を得意とするメンバーだ。ほぼ全編が夜間のシーンで構成されている本作において、こうした職人たちによるチームワークが効いている。
本作のハイライトといえる「マンハッタンを完全封鎖」のシーンにおいても、設定自体はやや荒唐無稽なものに思えてしまうかもしれないが、細部まで現実感を追求した映像によって説得力を担保し、観る者が興味を失ってしまうことがない。ボーズマンら出演陣も、リアリティを付加するべく腐心したといい、ニューヨーク市警の夜間勤務の警官に同行して“警官の思考法”や“着眼点”、さらには“立ち振る舞い”を学んだそうだ。また、本作ではニューヨーク市警の退職警官を技術顧問として招き、彼らが連日セットを訪れ、“本職のリアル”を助言したという。銃の持ち方から犯罪現場での所作に至るまで、つぶさにインプットしたボーズマンたちの無駄のない動きは、一見の価値ありだ。
また、街の“暗部”も描かれるのが本作流。NYを守る市警が家賃や物価の高騰によってその地に住めなくなり、退役軍人が犯罪者となってしまう。こうした社会問題を潜ませることで物語の奥行きが増し、ただのスター映画に終わっていないのがミソだ。
ストーリー面においては、本作がタイムリミットサスペンスの要素を持っている点も大きい。マンハッタン島の封鎖は、午前5時までの期限付き。アンドレたちは、それまでに犯人を逮捕せねばならないのだ(要所要所で現在時刻が表示され、緊迫感をあおる演出も効果的だ)。
スタッフとキャストが一丸となり、物語も映像も演技も“信憑性”にこだわり抜いたという『21ブリッジ』。アクションとスペクタクルの中にある、適度な重量感が心地良い快作だ。
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『21ブリッジ』(原題:21 Bridges)
ニューヨーク市警の殺人課に所属するアンドレ・デイビス刑事(チャドウィック・ボーズマン)は、警官だった亡き父親への想いを胸に忙しい日々を過ごしていた。そんな折、真夜中に大量のコカインを奪って逃げた犯人2人組が、警察官8人を殺害する凶悪事件が発生。マッケナ署長(J・K・シモンズ)の指令により、アンドレは麻薬取締班のフランキー刑事(シエナ・ミラー)と組んで捜査を開始。そしてマンハッタン島に架かる21の橋を全て封鎖し、追い詰める作戦に出た。夜明けまでには犯人の居場所を突き止め、逮捕しなければならない。だがアンドレは追跡を進めるうち、表向きの事件とはまったく別の陰謀があることを悟る。果たしてその真実とは──?
監督/ブライアン・カーク
脚本/アダム・マーヴィス、マシュー・マイケル・カーナハン
製作/ジョー・ルッソ&アンソニー・ルッソ、チャドウィック・ボーズマン
出演/チャドウィック・ボーズマン、シエナ・ミラー、テイラー・キッチュ、J・K・シモンズ ほか
2019/中国・アメリカ/99分
日本公開/2021年4月9日(金)より全国ロードショー
配給/ショウゲート
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