Column

2020.01.15 9:00

【インタビュー】『リチャード・ジュエル』サム・ロックウェル

  • Fan's Voice Staff

名匠クリント・イーストウッド監督が、1996年アトランタ爆破事件の実話を映画化したサスペンスドラマ『リチャード・ジュエル』。

『アメリカン・スナイパー』(14年)、『ハドソン川の奇跡』(16年)、『15時17分、パリ行き』(18年)、『運び屋』(18年)と、実話を基に“衝撃の真実”を描いてきたクリント・イーストウッド監督。40本目となる監督最新作で新たに目を向けたのは、いったんは英雄とされながらもマスメディアや捜査機関の暴走で容疑者となった名もなき一人の警備員です。

彼の名はリチャード・ジュエル。1996年、アトランタでのイベントを警護中に、いち早く爆弾の存在に気づいたリチャードは、多くの命を救った英雄として取り上げられます。しかし、「FBIが疑惑の目を向けている」という一本の実名報道によって、彼の人生は一変。過熱するマスメディアの報道合戦、FBIをはじめとする捜査機関の容赦ない追及にさらされ、世論からも第一容疑者のレッテルを貼られてしまいます。

「事実」とされた報道の「真実」はどこにあるのか。その先にある人間の尊厳はどこまで保たれるのか。SNSが人々の生活に根付き、姿なき誹謗中傷が蔓延する現代社会、いつどこで被害者、あるいは加害者になってもおかしくない混沌とした時代に警鐘を鳴らす切実なテーマを、イーストウッドはサスペンスをふんだんに盛り込みながら普遍的なドラマとして描き出しました。

潔白を証明する機会も与えられず、心身ともに疲弊していくリチャードの無実を信じ続けた母親のボビ・ジュエル役には、キャシー・ベイツ。本作で第92回アカデミー賞助演女優賞にノミネートされました。

そしてもう一人、異を唱えたのが、リチャードの汚名をすすごうと国家権力と世論に立ち向かった弁護士のワトソン・ブライアント。演じたのは、『スリー・ビルボード』でアカデミー助演男優賞に輝いたサム・ロックウェルです。

『コンフェッション』(02年)でベルリン国際映画祭銀熊賞(最優秀男優賞)を受賞したサム・ロックウェルは、数々の作品で感情を揺さぶる印象的な役や、複雑な役を演じ、同世代のなかで最も多才な俳優として名声を確立。『バイス』ではジョージ・W・ブッシュを演じ、英米アカデミー賞、ゴールデングローブ賞にノミネートされました。今後の待機作として、タイカ・ワイティティ監督『ジョジョ・ラビット』や、声の出演をしたアニメ作品3本『Trolls World Tour』、『The One and Only Ivan』、『The Adventures of Drunky』が控えています。

本記事ではそんなハリウッドきっての人気俳優のインタビューをお届けします。

──爆破事件から人々を救った男から、一転して爆弾テロの容疑者にされてしまったリチャード・ジュエル。彼を信じてFBIに立ち向かう弁護士ワトソン・ブライアントの人間味は、この映画の良心でもあります。まず、あなたがこの引き受けた理由はなんですか?
クリント・イーストウッド監督がいちばんの理由ですね。また『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』で目を奪う演技を見せたポール・ウォルター・ハウザーも出演すると聞き、ワクワクしました。僕はワトソン・ブライアントの役柄がとても気に入ったんです。素晴らしいキャラクターだと思いましたし、今まで演じてきた役とも違うと感じました。ワトソン役に最も近い演技経験は『フロスト×ニクソン』のジェームズ・レストン役ではないかと思います。ワトソンはとても興味深いキャラクターです。そして、脚本も素晴らしいものでした。ふたり芝居のようにも感じましたし、同時に主役リチャードを演じるポールとのアンサンブルのようにも感じました。

──本物のワトソン・ブライアントさんとはお会いしましたか。
会いました。彼はまるでテネシー・ウィリアムズの劇の登場人物のようで、素晴らしい人物でした。とても賢く、熱狂しやすい性格で、自分の意見を強くもっている人。彼は議論を好むタイプですが、それは弁護士にとっては良い資質だと思います。

──撮影の前にニューヨークでリチャード・ジュエルを演じたポール・ウォルター・ハウザーとお会いになったそうですね。
はい。僕らはホテルに滞在して、3日間ほぼずっと一緒に過ごしました。脚本を一緒に音読したり、脚本家のビリー・レイとコーヒーを飲んだり。また方言指導のコーチとともに話し方を習得していきました。僕らにとってとても有益な時間でしたね。この経験のおかげで、僕らの間に絆が生まれました。

──本物のリチャードとワトソンも早い段階から絆で結ばれます。彼らの関係は1996年の事件より前に始まったのですか。
そうです。映画のほぼ全編に渡って、ワトソンは負け犬の立場にいます。彼は政府を敵に回し、リチャードのために戦う唯一の男なのです。彼らが事件以前から知り合いだったことも描かれていますが、ワトソンがリチャードの弁護人に適任だった理由は、事件前のふたりの関係にあると思います。彼らの間にあるのはただの友情ではありません。リチャードにとってワトソンは父親または兄のような存在なのです。ふたりの間には常に信頼がある。そんな彼らの関係性はこの映画の核のひとつだと思います。

──クリント・イーストウッド監督とは今作で初めて一緒に仕事をされました。一緒に働いてみていかがでしたか。
俳優としても仕事をしている監督は、とても俳優に気を配ってくださいます。彼ら自身もカメラの前に立つということがどういうことか知っていますから。クリント・イーストウッド監督も例外ではありません。彼は役者を信じ、俳優に演技を委ねます。しかし同時に、とても鋭い感性をもち合わせていて、ごく小さいことにも気づくんです。そして彼の発言は、彼の映画界での経歴の長さに比例し、思慮深い。僕が好きだったのは、イーストウッド監督が撮影をしながら、編集を考えていることでした。監督はときどき「ドアをもっと素早く通り抜けて」や「車のエンジンをもっと素早くかけて」などという指示をしました。それは撮っているのがシーンとシーンをつなぐ短い瞬間だとわかっているからで、『ドクトル・ジバゴ』のようなシーンである必要はなかったんです。

クリント・イーストウッド監督(左)

──映画中ワトソンは、リチャードの母ボビと交流することが多いですね。ボビを演じたキャシー・ベイツとの共演は楽しみましたか。
キャシーは本当に素晴らしかったですね。記者会見シーンの撮影のときに、休憩もなく6時間ぶっつづけで感情的な状態を保つ彼女を目の当たりにしました。とても感情的なシーンでしたが、あれほどの演技を見せる俳優を今まで見たことはありません。キャシーは本当に大きな力をもつ女優です。彼女の演技には圧倒されました。

──実在する人物を演じることや、実際の事件が起こったジョージア州アトランタでのロケ撮影はいかがでしたか。
実在する人物を演じるときは、彼らを適切に表現する大きな責任が伴います。怖気づきますよね。また実際のロケーションで撮影をできるのは、類まれない機会だと思います。そうすることで物語の真髄や実在の人物の経験を実際に感じることができます。それは常にできることではないので、できるときは大きな助けになります。特に、このような物語にとっては非常に重要なことだと思います。

──それは、具体的にはどういう意味でしょうか。
例えば、リチャード・ジュエルのような人は、過小評価されているし、明らかに誤解されています。しかし彼は直面した現実に対して立ち上がり、困難に立ち向かっていきました。彼は英雄であったと同時に、FBIだけでなくメディアからも不当に糾弾を受け、不当な扱いを被った被害者でもあります。だから俳優としては、彼を正しく表現したいと強く思います。そしてそれは、リチャードとともにこの事件を経験したワトソンやボビにも同様に感じる責任ですね。

──英雄でありながら、ごくふつうの人であるリチャードのような人にクリント・イーストウッド監督は、常に興味があるようですね。
そうですね。彼は正義が曲げられてしまう出来事に興味があるのだと思います。彼の映画のなかにはそのテーマが見え隠れします。過小評価されながらも困難に立ち向かい、英雄的な行動を示した人に光を当てるのです。メディアは暴走し、彼らを包囲していくわけですが、世論が下す判断とは恐ろしいものです。リチャードに起こったように、今でも同じようなことが現実に起こり続けています。だからこそ、これは決して古くならない大切なテーマなのだと思います。

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『リチャード・ジュエル』(原題:Richard Jewell)

監督・製作/クリント・イーストウッド
原作/マリー・ブレナー バニティ・フェア 「American Nightmare―The Ballad of Richard Jewell」
脚本/ビリー・レイ
製作/ティム・ムーア、ジェシカ・マイヤー、ケビン・ミッシャー、レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・デイビソン、ジョナ・ヒル
出演/サム・ロックウェル、キャシー・ベイツ、ポール・ウォルター・ハウザー、オリビア・ワイルド、ジョン・ハム
全米公開/12月13日

日本公開/2020年1月17日(金)全国ロードショー
配給/ワーナー・ブラザース映画
© 2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC