『ワンダーウーマン』、ヒーロー映画乱立時代に輝く新星
- kanio
『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(16年)や『スーサイド・スクワッド』(16年)に続くDCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)シリーズの最新作『ワンダーウーマン』が8月25日(金)に日本公開される。すでに公開されている全米では、米大手批評サイト「Rotten Tomatoes」においてプロの批評家および一般観客から絶賛されており、公開から2ヶ月が経過した今なお90%以上の支持率(フレッシュ度)をキープしている。日本国内でも、SNSやレビュー投稿サイトなどを見る限り、試写会でいち早く観た人たちから、高い評価と圧倒的な支持を獲得していることが伺える。
本記事では、なぜ本作品がこれほどまでに多くの人々からの評価を得るに至ったのか、その魅力について考えてみたい。
DCEUの新たなる出発点
本作は、DCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)と呼ばれるDCコミックス原作の映画が共有している同一世界観で描かれる作品群のひとつである。最近では『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』や『スーサイド・スクワッド』が記憶に新しい。ちなみに、MarvelでもMCU(マーベル・シネマティックユニバース)と呼ばれる同じ世界観で描かれる作品群があり、『アイアンマン』シリーズや『キャプテン・アメリカ』シリーズなどが10年ほど前から製作されている。このフランチャイズ展開を、作品群を網羅して楽しんでいるファンも多いが、一方で「どれから見ればいいかわからない」と困惑している人たちも一定数存在していると思う。
しかし本作『ワンダーウーマン』は、DCEUの他作品を観ていないと理解できないネタがあったり、他作品との繋がりが物語に干渉したりする作品ではない。ここで描かれるドラマは、あくまでも主人公、ダイアナの物語としてある種、完結していて、時系列として『バットマンvsスーパーマン〜』に続くことはあっても、それ以前のドラマが持ち出されることはないのである。つまり、誰もが楽しむことができる単作品として完成されているのだ。
なので、これから観る人はまずは小難しいことを考えずに、ヒーローとしての王道フォーマットを地で行く”ワンダーウーマンの冒険”に注目して楽しめると思う。さまざまな世界観で描かれるスーパーヒーロー作品乱立時代において、本作品はすべて観客に優しい作品であると同時に、日本のアニメや漫画で育った層に直感的に訴えかけるような王道演出がテンコ盛りの、紛れも無い「本物のヒーロー作品」なのである。
MCUとの差別化、DCEU独自のヒーロービジョン
DCEUには「超人的な力を持ってしてもこの世界は1人の存在が全てを守るには広すぎる」というテーマが作品の共通概念として存在しており、過去作品でもそれらが様々な方法で描かれていた。MCUではフェーズ2以降「世界や人々の繋がり」を軸に、それぞれの物語に落とし込んでいるのに対して、DCEUではこの「世界の広大さを知るヒーロー」をコンセプトとして、その活躍を描いている。これらの行く先は双方同じ「ヒーローの集結」だとしても、内包するテーマの観点から見ると異なるカタルシスを持つ。『マン・オブ・スティール』(13年)や『ワンダーウーマン』で描かれるのは、自分たちの生きてきた外の世界を認識した時に芽生える”ヒーロー誕生の瞬間(正義の目覚め)”である。
今後のDCEU作品が徹底して本作と同じトーンで描かれるのならば、そこで活躍するヒーローというのはMCU以上に「英雄」としてではなく「正義の味方」としての側面が強調されるだろう。それぞれの経験から「正義」を見出し、それを抱いて奮闘するヒーローたち。そしてそれこそが、これから続くDCEUのヒーロービジョンとなるのかもしれない。
プリンセス・ダイアナ、自分が何者なのかを見つける旅
本作の主人公は「ダイアナ」という名の女性である。彼女は、隔離された島「セミスキラ(パラダイス)」に住む王妃だ。セミスキラ島はアマゾン族と呼ばれる女性のみからなる民族が暮らしており、ダイアナは幼い頃からここでアマゾン族の戦士になることを夢見ていた。母である女王ヒッポリタは、そんなダイアナに対し平穏なセミスキラ島で淑やかに育ってもらおうと娘を諭す。
しかし、このセミスキラ島で描かれるのは、自分の目標の為に必死に努力し、心身ともに未熟ながらもただひたむきに憧れや好奇心を原動力に突き進むダイアナの姿だ。冒険心や好奇心を燻らせている子供が親の制止を振り切り、不器用ながらもがむしゃらに努力を積み重ねて憧れを掴もうとするダイアナの姿に、観客の心は強く打たれる。やがて彼女は、島に流れ着いた陸軍の男性スティーブ・トレバーと出会い、島の外を目指すようになるのだが……。
しばらくして、世間知らずの女の子の冒険は幕を開け、セミスキラ島では味わうことのなかった苦難や経験を経て、限りなく広がる世界とそこに住む人々の営みを知ることとなる。超人的な力を持つ彼女だが、”外の世界”では常識や考え方の違いに苦悩し、時に衝突しながらもスティーブ・トレバーやその仲間たちと熱い冒険活劇を繰り広げる。
そしてワンダーウーマンへーー正義の夜明けとヒーローの誕生
本作におけるワンダーウーマンの活躍は、第一次世界大戦下のヨーロッパが舞台である。戦争というフィルターを通して描かれるヒーロー像は、兵士たちにとって正に起死回生の象徴であり、また理不尽に蹂躙される人々にとっての希望の象徴だ。超人的な力を持って敵をなぎ倒していくダイアナだが、やがて彼女は戦争に巣食う人間の「悪意」と向き合うことになる。”大海を知った井の中のダイアナ”は、人間の世界の洗礼を受け、そこに「自らの存在」を見出した時、誰もが新たなる「正義の夜明け」を目撃するだろう。人々が紡ぐこの世界が脅威に脅かされる時、ヒーローは1つに集い、そして物語は《正義の同盟=ジャスティスリーグ》へと集束することになる。
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『ワンダーウーマン』
女性だけが暮らすパラダイス島。アマゾン族のプリンセス、ダイアナ/ワンダーウーマン(ガル・ガドット)は、ある日、不時着したアメリカ人パイロット、スティーブ(クリス・パイン)を救出、初めて外の世界を知る。やがて傷の癒えたスティーブとともに、戦争の早期終結のためにロンドンへ向かうが……。
監督/パティ・ジェンキンス
出演/ガル・ガドット、クリス・パイン、ロビン・ライト、コニー・ニールセン ほか
配給/ワーナー・ブラザース映画
公開日/2017年8月25日(金) 全国ロードショー 3D/2D/IMAX
2017年、米国映画、2時間21分