【インタビュー】『ジョン・ウィック:パラベラム』チャド・スタエルスキ 監督が語る、アクションのリズムとテンポ
- Mitsuo
キアヌ・リーブスが魅せる銃と体術を組み合わせたキレ味鋭い流麗なアクションと、独特の世界観で人気の『ジョン・ウィック』シリーズが遂にクライマックスを迎える第3弾『ジョン・ウィック:パラベラム』。
孤高の殺し屋の復讐劇を描いた過去シリーズから一転、全てを奪ったマフィアへの壮絶な復讐の先でジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)を待っていたのは、裏社会の秩序を厳守する組織〈主席連合〉からの粛清だった。膨大な数の刺客たちの襲来に満身創痍となったジョンは、生き残りをかけて、かつて“血の誓印”を交わした女、ソフィア(ハル・ベリー)に協力を求め、モロッコへ飛ぶ。しかし最強の暗殺集団を従えた組織は、追及の手をコンチネンタルホテルまで伸ばしていた……。
監督には、これまでシリーズを手掛けてきたチャド・スタエルスキが続投。スタントマン出身のスタエルスキは、『マトリックス』シリーズでは主演キアヌ・リーブスのスタントダブルや、スタントコーディネーターを務めました。『ジョン・ウィック』ではこれまでも古今東西の格闘術をミックスした驚愕のアクションを取り入れてきましたが、本作ではさらにパワーアップ。第1作目での拳銃を使った”銃(ガン)・フー”、第2作目での車を使った”車(カー)・フー”に続き、本作では馬上で敵と闘う”馬(マー)・フー”、犬と共に闘う”犬(ドッグ)・フー”、刀やナイフ、本までも駆使した戦いが展開されます。
『ジョン・ウィック:パラベラム』は5月に全米公開され、初登場No.1を記録。その後、第1作目『ジョン・ウィック』の倍の成績となった前作『ジョン・ウィック:チャプター2』のさらに倍という、シリーズを重ねるごとに数字を大幅更新する驚異のヒットとなり、新たな展開を視野に入れた続編の製作が早くも決定しています。
シリーズ最高傑作の呼び声高い『ジョン・ウィック:パラベラム』の日本公開に先立ち来日したチャド・スタエルスキ監督が、Fan’s Voiceのインタビューに応じてくれました。
──本作ではこれまでのシリーズ過去作より近接格闘も多く登場し、より暴力的で刺激的なアクションを見せてくれます。一人対多人数のCQCを取り入れたのには、どのような意図があったのですか?
今までとは違うことをしたいと思いました。「アクションデザイン」と呼んでいるのですが、一つのシーンの演出ではなく、映画全体の”リズム”をどのように展開させていくかを考えました。今回のアクション演出に取り掛かった時にあったアイディアは、ちょっとずつをたくさん見せることでした。いろんなものをあちこちで全部見せたい。一つの大規模なカーチェイスや殴り合い、撃ち合いシーンを見せるのではなく、一つの映画の中にいろいろなタイプのアクションを盛り込むことで、変化をみせたかったのです。銃撃戦や合気道、柔術を使ったシーンがありますが、一対一だとどうしても、一人が相手を投げて、今度は相手がこちらを投げ返し、というものの繰り返しになってしまい、ちょっとつまらないとも思います。でも相手が複数いると、そうした動きに流れが出てくるというか、大きなダンスパフォーマンスのようになってきます。それに銃は、バンと撃ってしまうともう終わりで、短かすぎるんです(笑)。ですので私達は、ダンスのルーチン、あるいは音楽を演出するような感じで、リズムを変えたり、よりテンポに合わせたアクションにしました。これには、大人数の敵がいる方がやりやすいんです。
──『ジョン・ウィック』シリーズでは作品を重ねるごとにアクションがより大胆で過激になってきているように思いますが、そうしたアクションの要素は、どこからインスパイアされているのですか?実際のアクションに発展させていく上でチャレンジになるのは、どのようなところですか?
それは良い表現の仕方ですね。アクションを”大きく”していくのではなく、より特別で、ユニークなものにすることを考えていました。あなたがライターだったら、長々とたくさんの文章を書けば良いということではなく、より簡潔な良い表現を目指したり、文章に感情を込めて展開させようとしたりするのと同じです。それがチャレンジなのです。私はスタントマンをやっていた頃からずっとコレオグラファーだったので、監督をしている時でも同様に、優れたダンスの振付師が持つような視点で、向き合うようにしています。一連のアクションシーンで大事なのは、動きそのものと、キャストの身体的な行動を使って観客に感情的反応を引き起こすことです。観客に「ワオ!」とか「それはひどい…」とか、何かしらの反応をしてもらえるのが良いことで、とにかく退屈して欲しくないんです(笑)。
シンプルなこと……。私が格闘技に深く取り組んでいた頃、ダン・イノサントという素晴らしい師匠から学ぶことができました。非常に有名な格闘技の指導者で、身体的な訓練だけでなく、考え方や教え方といった、”学びの技”も教えてくれました。これは非常に重要なことです。彼がよく話した理念の一つに、”時にはシンプルなやり方がベストだ”ということがあります。時にはとても小さな箱の中にいるようなシンプルな状況に身を置いてクリエイティビティを発揮してみろ、時には好きなようにやってみろ、とね。
こうして彼から教わったことを、『ジョン・ウィック』でも実践するようにしました。例えば、本作にはニューヨーク公共図書館が登場しますが、以前ここで本を読んでいた時、ふと、この場所はアクションシーンにとても良さそうだと思いました。でも、そのアクションをどうやって難しいものにするのか。なるべく背の高い人を、なるべく天井の低い場所に配置して、そして図書館にあるものと言えば、もちろん本ですよね。本は誰もが手にした経験があります。この映画で、ジョン・ウィックが本を使って敵を殺すのを観た人はその後一生、本を手に持つ度に「おお…これで誰かを殺すんだ…」と思ってしまうことでしょう。それから前作では、鉛筆を使いましたよね。ペンや鉛筆も、誰もが手に持つものです。『チャプター2』を観た後は、鉛筆を持つ度にジョン・ウィックのことを思い出してしまうでしょうね。銃を撃ったことがある人や、ショットガンのクアッドロード(※)を実際にやったことがある人は、限られています。でも本や鉛筆は誰もが触れたことがあるわけで、そうした意味で、ものすごくシンプルにしたわけです。
一方で、すごい動きを見せて観客を魅了したくなる時もあります。”ガン・フー”や拳銃、クアッドロード、柔術、合気道といったものは、一つの動作ではなく、シーン全体での見え方が大事になってきます。大きなダンスパフォーマンスのようなものですね。時には1人、時には50人、時には1つの動作、時には全体の美しさ、時には音楽、時にはバイオレンス、時には美しさ──ひとつひとつのアクションシークエンスにはそれぞれのテーマがあって、これは他のアーティストが絵画や音楽、書き物で表現する時と同じだと思います。一連のアクションに合う、自分なりのリズムやテンポ、そしてインスピレーションとなるテーマを探し出すのです。「銃撃戦にしよう」「ナイフを使った戦いにしよう」「柔道の戦いにしよう」と言うのは簡単ですが、その表現を通して伝えようとしていることは、コレオグラファーチーム、監督、そしてもちろんキアヌにとって、非常にパーソナルなものです。少なくとも……私はこうして考えて、インスパイアされています。単にパンチ、キック、パンチ、キックしているように見えるかもしれませんが、コレオグラファーとしては、何かしらのアイディアから考えを発展させていく必要がありますからね。
──最近ではジョン・ウィックやマトリックスもゲーム化され、アクション映画とビデオゲームは深い関係があると思いますが、そうしたつながりをどのように見ていますか?
非常におもしろい関係にあると思います。私自身はほとんどゲームをしませんが、友達や甥、家族の中にもゲーマーがいます。「フォートナイト」やFPS(=一人称視点シューティングゲーム)のゲーム画面を見ていて、とてもおもしろい文化だと思いました。
アニメやビデオゲーム、映画において、クリエイティビティのリードをとる分野は、時代によって変化すると思います。アニメが映画に影響を与えていた時期もあるし、今度は多くの映画が新たなアニメのインスピレーション源になっていると思います。またゲーム「アサシン クリード」が登場して、(映画でも)パルクールやフリーランニングといったものに注目が集まりました。現状では、「フォートナイト」や数々の人気FPSゲームがリードをとっていて、その魅力や中毒性に、映画を含むエンターテイメント業界が追いつこうとしているのだと思います。非常に興味深いことですね。
ゲームではとんでもなくいろいろなことが出来て、一人称から三人称へ、視点を変えることだって出来ます。映画では非常に難しいことで、こうした表現に挑戦した作品もあるのですが、どういうわけか観客は、他人の第一者視点を観たがりません。自分自身がその第一者でありたいのです。そういう意味で『ジョン・ウィック』は、FPSのように感じるところもあれば、観客がジョンの行動を目撃しているところもあって、ちょっとしたクロスオーバーになっていると思います。その中に、新しいアイディアも混ぜ込みながらね。
「フォートナイト」や『ジョン・ウィック』のゲームなどでは、ゲーム会社の方から我々がアプローチを受けることもあります。このゲーム版「ジョン・ウィック」までは、私たちがシューティングゲームに影響を与えてきたと思いたいですね。『ジョン・ウィック』からネタを盗用したり借用したりするほどの影響をゲーム業界に与えた、私たちはそれだけの時間と労力を『ジョン・ウィック』にかけた、と思いたいです。(ネタを使われることは)私たちにとって誇りになる素晴らしいことで、ゲーム会社の人には『パラベラム』を観てアイディアを膨らませ、私たちが考えるよりももっと素晴らしいゲームを作り出してほしいと思います。さらには、クリエイティブなアイディアを提案してくる人が、あなた(=筆者)のような方の中から出てくるかも知れません。そうして出来たビデオゲームを今度は私が見て、「とても面白いアイディアだね」と言ったりすることもあるでしょう。
私にとって、音楽、ゲーム、アニメ、漫画など、どんな形態のエンターテイメントも興味深いものです。アクションであれ、演技であれ、空想で作った世界観であれ、誰かのクリエイティビティを触発するインスピレーションになる──それこそが私がこの仕事をする理由です。人を楽しませ、インスパイアさせること。他に理由が見つかりません(笑)。私が人生に求めるものと言えば、インスパイアされて、楽しませてもらいたいということですからね。もしキアヌと私が「よし、我々は映画を作った。今度はもっと良いなにかを誰かが作る番だ」と駆り立てることができるのなら、素晴らしいことです。これこそが(質問にあった)”関係”だと思います。様々なメディアのクリエイティブな人たちが、楽しさや感動、インスピレーションを与えようとすることです。
──インスピレーションの話が多く出ましたが、本作では特に日本からの影響も強く受けています。これは監督とキアヌ共通の興味なのですか?
二人ともですね。おわかりでしょうが黒澤明監督は大好きですし、セルジオ・レオーネやスピルバーグ、アニメも大好きです。『マトリックス』でキアヌも私も”ウォシャウスキー映画学校”に通ったようなものですが、この二人は日本から本当に強い影響を受けていて、フィルムメイカーとしての私のDNAにも埋め込まれている気がします。それからジョン・ウィックは、スティーブ・マックイーン、リー・モーガン、三船敏郎、あと70年代のアクションスターをミックスしたものがモデルになっていますし、殺し屋との規範も、かなりひねりを効かせた武士道のようなものがベースになっています。それからもちろん、格闘スタイルも非常に日本的で、柔道や剣道、合気道、柔術などが見られます。ジョン・ウィックのDNAの大部分は、日本からの直接的な影響を受けていると確実に言えますね。
──最後に短く数問。今後も『ジョン・ウィック』の監督は続けますか?
『ジョン・ウィック』が儲かっている間は、続けると思います(笑)。
──キアヌもう50代半ばですが…
体力的にはまだまだ良い状態ですよ!
──あなた自身は出演しないのですか?
それはないですね。私は裏方でうまくやっていますから。
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『ジョン・ウィック:パラベラム』(原題:John Wick: Chapter 3 – Parabellum)
裏社会の聖域:コンチネンタルホテルでの不殺の掟を破った伝説の殺し屋、ジョン・ウィック。全てを奪ったマフィアへの壮絶な復讐の先に待っていたのは、裏社会の秩序を厳守する組織からの粛清だった。1,400万ドルの賞金首となった男に襲いくる、膨大な数の刺客たち。満身創痍となったジョンは、生き残りをかけて、かつて“血の誓印”を交わした女、ソフィアに協力を求めモロッコへ飛ぶ。しかし最強の暗殺集団を従えた組織は、追及の手をコンチネンタルホテルまで伸ばしていた……。
監督/チャド・スタエルスキ
出演/キアヌ・リーブス、ハル・ベリー、イアン・マクシェーン、ローレンス・フィッシュバーン、アンジェリカ・ヒューストン
2019年/アメリカ/R-15
日本公開/2019年10月4日(金)全国ロードショー
配給/ポニーキャニオン
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