Column

2019.08.14 9:30

【単独インタビュー】『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』ハンター役で注目の俳優アレックス・ローが語る、ティモシー・シャラメとの撮影秘話

  • Mitsuo

1991年、アメリカ北東部の海辺の街ケープコッドを舞台に展開される青春映画『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』。

愛する父親を亡くし、立ち直れない内気な少年ダニエル・ミドルトン(ティモシー・シャラメ)は、アメリカ北東部の海辺の街ケープコッドを訪れます。カリスマ的な魅力を放つ地元で有名なワルのハンター・ストロベリー(アレックス・ロー)との出会いをきっかけに、裏の仕事に手を染める一方で、街一番の美女マッケイラ(マイカ・モンロー)と初めての恋に溺れるダニエル。甘く、切なく、美しく、スリリングなひと夏の青春は、彼らの運命を狂わせていきます……。

『君の名前で僕を呼んで』でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたティモシー・シャラメや、『イット・フォローズ』のマイカ・モンローら若手実力派俳優が結集した本作で存在感を見せたのが、イギリス出身の新進俳優アレックス・ロー。粗暴な態度の裏に傷つきやすさと愛情を隠した、カリスマ的な魅力を放つハンターの光と影を見事に演じ切りました。

1990年、イギリス・ロンドン生まれのアレックス・ローは、幼少の頃から子役としてCMに主演。一方10代ではサッカー選手を志し、スペインでプレイしたことも。2000年に『ディアプロ 悪魔生誕』で映画デビューし、クロエ・グレース・モレッツ主演の『フィフス・ウェイブ』(16年)でハリウッド映画進出を果たしました。現在、シーズン2に突入した人魚伝説がモチーフのドラマシリーズ『Siren』で主役の海洋学者を演じています。

翌週からまた撮影に入るため、拠点としているLAでなるべくサーフィンを楽しむんだというアレックス。マリブでサーフィンをしていたところ、渋滞で間に合わないからと、そのままオープンカーに座って自身のスマホで爽やかにSkypeインタビューに応じてくれました。

──この映画にはどのような経緯で関わることになったのですか?
アトランタで別の撮影をしている時にこの映画の脚本を読んだのですが、その頃に目を通していた他の脚本とははまったく違った印象を覚えました。脚本と監督を手掛けたイライジャ・バイナムについて調べたり、彼の”ブラックリスト”(映画化が実現しなかった作品)入りしていた他の脚本も読んだりしました。とにかく脚本がよく練られていて、ハンターというキャラクターにとても惹かれました。ただの地元のドラッグディーラーだけではない深みがあり、幾重もの”皮”を映画の中で剥いでいける感じがしました。そしてオーディション用にデモ映像を送ったところ、気に入ってもらえました。

すでにキャストに決定していたマイカ・モンローとは、『フィフス・ウェイブ』(16年)で共演したことがあったので連絡をとったり、映画で使われた曲の多くはすでに脚本に記されていたので、その”サウンドトラック”を聞いて映画の雰囲気を感じとろうとしました。とにかく良い映画になる思いましたね。

ダニエル役のティモシー・シャラメ(左)とアレックス・ロー

──夏になると富裕層が訪れるケープコッドは、とてもアメリカ的な海辺の街ですが、このようなビーチタウンはイギリス人のあなたにとって馴染みのある場所だったのですか?
ビーチタウン自体は世界共通だと思います。1年のうちの1、2ヶ月だけ街の人口が突如400%、500%になる、労働の季節変動も激しいところです。自分は、そうした街に年中暮らしている人たちに興味を持ち、実際にケープコッドを訪れ1週間ほど過ごしたのですが、本当にたくさんの発見がありました。90年代にドラッグディーラーをしていた人と会うことができ、当時のケープコッドの様子など、たくさんのことを教えてもらいました。それから”タウニー”(後出”サマーバード”の対となる地元民)というのはとてもアメリカ的な概念だったので、ハンター役を演じるにあたり、それについても理解したいと思いました。

──実際にケープコッドに行ったのは、夏ですか?
夏でしたね。7月だったので、ちょうど映画の設定とも合っていました。地元の人と友だちになったのですが、バーに行ったりするとサマーバード(都会からバカンス目的で来たお金持ちの観光客)がいて、服装や振る舞いだけですぐにわかりました。こうしてサマーバードのイメージを掴んでおくのは、興味深い予習になりました。

──ハンターという人物に個人的に共感したところはありますか?
自信満々で、この世でなにも心配することがないといった感じの人がいますが、こうした人物の外面を剥がし、内面への理解を深めることに興味がありました。ハンターは、生き残るための手段として、男らしさや自信といったものが必要で、それが彼にとっての”力”だったのです。なぜ彼があのような歩き方をするのか、なぜあのような振る舞いをするのか、なぜあのような話し方をするのかを紐解くことが出来、良かったと思います。そして彼は、ティモシーが演じるダニエルという人物の無邪気さと知性に惹かれるわけで、二人は素晴らしいパートナーになりました。

──ハンターには、ダニエルや妹を守ろうとする仲間意識が強い面もありますが、これはどこから来るものだと思いますか?
ハンターの場合、母を失いアルコール依存気味の態度の悪い父親が残された中で、妹をかばうようになっていったのだと思います。そして15、16歳で家を出たことに罪悪感も感じていたため、妹との関係が悪くとも、離れたところからでも彼女を支えようと、お金を送っていたのだと思います。

私には実際に(15分歳下の)双子の妹がいるのですが、子ども時代は彼女に対して過保護気味で、私の友人は絶対に妹には近寄ることができませんでした。でも次第に、それが最良ではないということを学ばなければなりませんでした。

──プレイボーイ的な印象もあるハンターですが、エイミーと真面目に付き合うようになったのは、なぜだと思いますか?
それについては、エイミー役のマイア・ミッチェルと実際に話をしました。彼女には、ハンターを落ち着かせる力があったというか、彼女の純粋さがそうさせたのだと思います。激昂しがちなハンターを、和らげることができる存在ですね。それに彼女はとても美しいので(笑)。

マイア・ミッチェル演じるエイミー

──好きな俳優、ハンター役の参考にした俳優がいれば、教えてください。
ハンター役の参考にしたのは、昔の役者ではジェームズ・ディーンやマーロン・ブランド、最近ではその流れを受けたブラッド・ピットなどですね。『ファイト・クラブ』のピットの、あの自信あふれた傲慢な感じはハンターにピッタリで、非常に影響を受けました。

他に好きな俳優といえば、キリアン・マーフィーですね。マイケル・ファスベンダーも素晴らしいと思います。ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォードも最高ですし、ダニエル・デイ=ルイスは私も好きですが、ティモシーが敬愛する俳優でもあります。

──ティモシーとの共演も素晴らしく、とても息が合っていたと思います。アトランタで撮影が始まる前に、一緒に時間を過ごしたと聞きましたが。
アトランタはとても楽しい街ですよ。私は若かった頃セミプロのサッカー選手だったのですが、ティモシーもサッカー好きだったので、アトランタでチームを探して、一緒にプレイさせてもらいました。これが仲良くなる大きなきっかけの一つとなりましたね。

それからマイカ・モンローも含め3人で家を借りて住んでいたので、常に一緒でした。この仕事では、こうして見知らぬ土地に連れて来られることが付き物で、時には他のキャストは家族が一緒で自分だけ一人ぼっちということもあるのですが、今回は皆年齢も近く、仕事をしながら楽しい時間を共有している感じがしました。長い一日が終わった後には、テイクアウトした夕飯を、3人でテーブルを囲み食べたりしました。笑顔の絶えない時間でした。

マイカ・モンロー(左)

──クレイジーなことはなにかしましたか?
サッカー以外では特に……、当時ティモシーがまだ20歳だったので、外でクレイジーなことをするにはまだ制限があったんです。(※ジョージア州での飲酒可能年齢は21歳以上)

──撮影期間はどのくらいだったのですか?
2ヶ月弱ですね。先ほど話したようなプリプロダクションを含めると、2ヶ月か、もう少しかかったかもしれません。

──まさにひと夏の青春ですね!
そうなんです。本当にサマーキャンプのようでした。こんなに楽しい撮影の映画なら、あと100本でも撮りたいくらいです。

──ティモシーとはまだ連絡を取り合っているのですか?
もちろんです。ただ私はここ半年間、バンクーバーで撮影をしていたのですが、ティモシーはしばらくロンドンにいたりと、互いに忙しくて十分に顔を合わせられていませんがね。でもこれからもずっと友だちです。

──映画の中で、あなたとティモシーが”ビジネス”の成功を派手にお祝いしている写真が登場するシーンがありますが、撮影現場ではどのような感じだったのですか?
あれは本当に楽しかったです。完全に酔っ払った(ハイになった)ティモシーとハンターという体で、ぶっかける用のシャンパンや、燃やしたりばらまいたりする用のフェイクのお札が現場にあって。多くが即興だったのですが、徐々にエスカレートしていってトイレで吐いたティモシーの顔に落書きされるのがオチ、というのははっきりしていました。なので、そこへたどり着くよう、なんでも適当にやるといった感じでしたね。ティモシーの顔に〇〇〇を描いたのは、ネットか何かで以前に私が見て、とても面白いと思ったネタです。

──撮影中、実際に酔っ払っていたり、ハイだったことは?
撮影中に?ないですね。昔はよくあったことかもしれませんが、今ではあまり見かけないと思います。でも、私たちはプロなので、そうした状態を装いながら、楽しむことが出来ます。撮影に使われたマリファナも実はハーブタバコで、でっかい袋の中に1000本くらいの”ジョイント”が用意されていましたよ。

──映画の舞台となった1991年当時、マリファナは基本的に違法だったかと思いますが、今では一変、(お住まいの)カリフォルニアを含め、合法化が進んでいます。こうしてマリファナが社会に受け入れられていくことに対し、どのようにお考えですか?
それもこの映画の面白いところだと思います。当時はマリファナが違法なドラッグとして扱われていたために、2人の青年があれだけ危険な目に遭ったのですからね。でも節度をもって使う分には、アルコールと同じことだと思います。人間には、だいたいの場合、自分にとって適切なモノや量を判断する力があると思うので、機会は与えられるべきだと思います。

──これまで『フィフス・ウェイブ』や『ザ・リング/リバース』といった、本作に比べると規模の大きな作品にも出演されていますが、こうした作品と比べて今回の経験はいかがでしたか?
昔からインディーズ映画のファンだったのですが、こうした映画では登場人物の背景や関係性や重要に扱われるところが、私は大好きです。大規模な作品はこうしたところよりも、巨大な爆発や素晴らしいCGを売りにして、観客を映画館へ呼びがちというか。インディーズ映画では、なぜそのキャラクターはそうなのか、人物に対する理解を深めたり、人との関係性を深く掘り下げることが出来ますし、他の俳優と絆を築くことが出来ます。役者としては、この方がやりがいがありますよね。

──本作に出演したことで学んだこと、発見したことは?
新たな発見といえば……、今後自分が関わっていきたいタイプの映画がよくわかりました。これは私にとっては大きな学びでした。それから、今回あったような現場の雰囲気が大事だということも。キャラクターと人間関係にフォーカスした作品に、今後もぜひ出演していきたいと思います。

──あなたは10歳の時に子役としてデビューされていますが、そもそもどのように俳優業に興味を持つようになったのですか?
家族の知り合いが撮影に関わっていて現場を訪れたのですが、その雰囲気がもうカッコよくて。母に”自分もこれがやりたい”と言いました。一方でサッカーにのめり込んでいた時期も何度かあって…、多芸は無芸というか、本当にたくさんのことに興味があったのですが、こうして生涯続けられると思えるだけの熱意のある仕事に落ち着くことができて、ラッキーだと思います。

──今後ぜひ一緒に仕事をしてみたい監督はいますか。
ぜひ一緒に仕事をしたい監督は数人いますが、まずはスティーヴ・マックイーンですね。『ハンガー』、『SHAME -シェイム-』など、初期の頃から本当に素晴らしい映画を作っていると思います。もともとはマイケル・ファスベンダーが出演していたことで知った監督ですが、ぜひ一緒に仕事をしてみたいです。

それからポール・トーマス・アンダーソンも最高です。『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』は、明らかに彼の影響を受けていると思いますね。

他にも本当に何人もいますが、面白い視点やスタイルを持った新進監督とも仕事をしてみたいですね。それからもちろん、(『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』の)イライジャ・バイナム!素晴らしい監督で、彼の映画ならまた出たいです。

あと私生活はさておき、監督としてはタランティーノも素晴らしいと思います。またスタンリー・キューブリックの映画は、観れば観るほど好きになっていきます。

──ちなみに、ロンドンからLAに移住されて、いかがですか?
これまでの出演作はLAとは別の街で撮影されたものばかりなので、LAは撮影の合間に休息を得る場所になっています。マリブでサーフィンやロッククライミングをしたり、冬には数時間の運転で(スキーリゾートのある)ビッグベアに行けます。周りに自然があることが私にとってとても重要なことなので、これからもしばらくLAに留まっていると思います。

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『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』(原題:Hot Summer Nights)

監督・脚本/イライジャ・バイナム
出演/ティモシー・シャラメ、マイカ・モンロー、アレックス・ロー、ウィリアム・フィクナー
2018年/アメリカ/英語/107分/シネマスコープ/5.1ch/PG-12指定

日本公開/2019年8月16日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給/ハピネット
配給協力/コピアポア・フィルム
公式サイト
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