Column

2017.06.05 22:45

受け継がれる絆 〜『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』で描かれた”家族“のビジョン〜

  • Shake Salmon

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(以下、GotG)を制作している間「毎日午前3時に目覚めては、自分は奇妙で変わった、誰にも理解してもらえない作品を作っているのではないか、失敗するのではないかと心配していた」と語るジェームズ・ガン監督。それは同作が、彼ならではの世界観を自由に表現しきった、非常にパーソナルな映画だったからであろう。

心血を注ぎ、お互いに情熱を持って接し、苦楽を共にしながら歩んでいくガーディアンズはまさに家族そのものであり、またガン監督とGotGという映画の関係もまさに“父と子”であると言える。彼はまた、GotGは自身とキャストたちにとっての“自叙伝”のようなものであるとも語っている。それぞれが己を、そして彼らの絆を投影したことで、これだけの傑作が誕生したのかもしれない。

〜以下、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』のネタバレが含まれます〜

ここからは、最新作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』の魅力、そして同作における“家族”というものの描かれ方について語っていこう。

まず何より筆者が注目したのは、彼らのファッションだ。マーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)では、それぞれ作品のテイストに合わせて衣装がデザインされている。その中でも、外宇宙のヒーローチームであるガーディアンズは他作品とは一線を画し、いかにもスペースオペラ的な、それでいて現実的な説得力のあるデザインの衣装を身に付けていた。

©Marvel Studios 2017

まずはガーディアンズのリーダーであり、本作の主人公スター・ロードことピーター・クイル。他のMCU作品のキャラクターたちの衣装が、続編になると大きくデザインが変わることが多い中、彼のビジュアルはさほど変わっていないように見える。なぜなら彼のトレードマークともいえる赤いロングコートやジャケットは、宇宙海賊ラヴェジャーズに所属していた頃の名残だからである。ピーターがラヴェジャーズを抜けても同様の衣装を身に付けているのは、彼のルーツを象徴的に示すために意図されているのだろう。もちろん各所にはディテールアップが施され、よりヒーロー然とした印象を与えるようになっている。

© 2016 MVLFFLLC. TM & © 2016 Marvel

前作から特に変化がないように見えるドラックスは、あの特徴的で複雑なメイクにかかる時間を3時間以上短縮することに成功し、演者であるデイヴ・バウティスタもエネルギーを温存して演技に臨めたようだ。

©Marvel Studios 2017

ロケットの衣装はロックンロールをテーマとして構想を練られたらしい。グルートはとにかく可愛らしく、そしてダンス向きなビジュアルになるよう要望があったとデザイナーが語っている。(ちなみに、ダンスシーンのモーションキャプチャーはガン監督が自ら行っている。)

©Marvel Studios 2017

©Marvel Studios 2017

今回、最も雰囲気が変わったのはガモーラではないだろうか。地に足のついた、落ち着いた雰囲気を主軸にデザインされた彼女の衣装。裾がダメージカットされたタンクトップはゾーイのアイディア、80年代を意識した切り返しの多いジャケットは監督のお気に入りであるという。ヒーロー、あるいは暗殺者の雰囲気を極力排除した衣装を指示した理由として、サノスのもとから離れたガモーラが、暗殺者というポジションからも足を洗い自由になった、という点を強調したかったと語られている。

©Marvel Studios 2017

コミックのように、全員が統一された制服を着て登場するのではないかと期待するファンもいるが、ガン監督はそれをしようとはしない。なぜなら、ガーディアンズは様々な境遇の中を生きてきた、独立した一人一人によって形成されているチームだからである。お互いの違いを尊重しながら共に生きていくことを表すため、同じような衣服に身を包むようなことはしないのだろう。

次に注目したのは、本作のキーパーソンであるラヴェジャーズの船長、ヨンドゥ・ウドンタだ。

©Marvel Studios 2017

母親を亡くし、実の父親を知らずに育ったピーターと、彼の育ての父であるヨンドゥ。この二人の関係は、今回さらに深く掘り下げられていた。愛情表現を得意とせず、不器用ながらも幼いピーターを育てるために奮闘していたであろうヨンドゥだが、彼もかつては他者との関係や絆に乏しい環境で生きてきた、愛に飢えた人物であった。

しかし、そんな彼に家族というものを教えてくれたのはラヴェジャーズのリーダー、スタカー・オゴルド。スタカーを通じて“家族“を知ったヨンドゥだが、同時に自分の帰る場所を失う辛さを知っているからか、彼はピーターに何度裏切られようと、いつでも帰って来られるように彼を許し、その居場所を大事に取って置いておいてくれたのであろう。

『痩せていて盗みに丁度良い』『お前を食わないでいてやる』は、彼なりの遠回しの愛情表現を含んだ、キツい冗談だった。個人的には、前者の台詞には盗賊として=盗賊集団の長ならではのジョークであり、ピーターが彼にとって欠かせない存在だからこそ「お前には居場所があるぞ」という意味を含ませて言っていたように感じた。また後者は、自分の子供が可愛くてしょうがない親がよく子供に対して「食べたいぐらいに愛おしい」と言うあの感覚に近いのではないだろうか。

前作の冒頭にて、ピーターの母メレディスは「あなたのお父さんは、光り輝く天使のような人」と語っていたが、奇しくもそれは本作終盤におけるヨンドゥの姿と重なるようにも感じられた。

罵倒されていても辛く当たられていても、実は常に愛情が裏にあったと知ったピーター。そして彼はまた、成(生)長していくグルートにとっても父にあたる存在になっていくのだろうか。

そして、今作においてヨンドゥと最も近くで接していたロケット。彼はまさにヨンドゥの写し鏡のようなキャラクターである。幼い頃から辛い時を過ごし、誰にも頼れず、愛に触れる機会も無く、孤独を味わいながら広大な宇宙の無法者として生きてきた。そんな境遇を抱える両者がぶつかり合い、互いを受け入れる場面は、まさに絆が生まれる瞬間だった。ふたりはついにお互いの理解者と遭遇できたのだ。似ているからこそ、お互いの見栄も嘘も孤独も瞬時に察知してしまう。そんなロケットを見て、ヨンドゥは若い頃の自分を思い出していた。ピーターも、そしてロケットもまた、自分の分身(子供)であると分かっていたのだろう。

©Marvel Studios 2017

見た目や遺伝的な繋がりはなくても“家族”になれることを私たちに教えてくれる『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』。

本作のアートブック『Marvel’s Guardians of the Galaxy Vol. 2: The Art of the Movie』(国内未発売)には、そういったそれぞれの人物関係や、様々な惑星、そしてキャラクターたちの設定がボリュームのあるページと美しいアートの数々と共に楽しめる。映画を観たあとに読めば、新たな発見も多いだろう。

そろそろ上映は終了してしまうが、その前にもう一度、あなたの大事な人や家族と一緒に、劇場に足を運んでみることをオススメしたい。

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©2017 Marvel

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』

ならず者たちが行きがかり上、チームを結成し銀河系の危機を救うハメに! マーベル・シネマティック・ユニバースの中でも異色の”ヒーロー”たちが活躍するアクション・アドベンチャー映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(14年)の第2弾。ピーター・クイル役のクリス・プラットを始めとするおなじみのキャストに加えて、カート・ラッセル、シルベスタ・スタローンなど大物スターも参戦。

監督/ジェームズ・ガン

製作/ケヴィン・ファイギ

出演/クリス・プラット、ゾーイ・サルダナ、デイヴ・バウティスタ、ヴィン・ディーゼル(声)、ブラッドリー・クーパー(声)他

配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン

公開/2017年5月12日

公式サイト