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2019.02.09 7:00

【来日インタビュー】ライアン・ゴズリングとデイミアン・チャゼル監督が『ファースト・マン』を語る

  • Mitsuo

アカデミー賞で同時ノミネートされた他作品を圧倒し、世界各国でも大絶賛が巻き起こった『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督と主演ライアン・ゴズリングが再びタッグを組んだ待望の最新作『ファースト・マン』が2月8日(金)に公開されました。

史上最も危険なミッションである月面着陸計画に人生を捧げ、命がけで成功へと導いた実在の宇宙飛行士、アポロ11号船長ニール・アームストロング。全人類の夢であり未来を切り開いた偉業のすべてを、賞レース常連の実力派監督、脚本家、俳優らが集結し、当時の記録に基づく綿密な研究と持ち前の手腕によって圧巻のリアリティと臨場感たっぷりに描かれる本作。

公開に先駆け、『ラ・ラ・ランド』でゴールデングローブ賞映画部門主演男優賞(ミュージカル/コメディ部門)を受賞し、本作でニール・アームストロングを演じるライアン・ゴズリングと、最年少記録でアカデミー賞監督賞を受賞したデイミアン・チャゼル監督が来日。インタビューに応じてくれました。

Photo: Kazuhiko Okuno

──来日会見イベントでは、ニールの当時の妻ジャネットや子どもたちと会ったと話されていましたが、彼らはニールはどんな人だったと話していましたか?

ゴズリング「ニールはとてもユーモアのある人物で、いかに彼が聡明であったかを語ってくれました。様々なエピソードを話してくれましたが、ニールのことを”グーグルのような人”と表現していたのが面白いと思いました。彼は本当に博識だったのです。帰還後の世界ツアーでイタリアの博物館に立ち寄ったとき、案内ガイドの人が現れなかったので、ニールは代わりに博物館のガイドツアーをしてしまったそうです。もちろん直接映画に反映できることではありませんが、このような話は、特にニールのような、プライベートでほとんど人柄が知られていない人物を知る上で、非常に参考になりました」

──ニールの息子たちがこの映画を観ることを非常に心配していたそうですが、結果的に彼らは6回も作品を観て、泣いたとか。

ゴズリング「彼らがこの映画をそのように受け止めてくれたことは、私にとって、これ以上ないほどの成功です。本当にほっとしましたし、努力してよかったと思えました」

チャゼル「はい、ほっとしました。彼らは、本作の製作プロセスを通じて様々な助言をくれたりと、協力してくれていたので、それはとても意味深いことでした。彼らのサポートの結果を観てもらうことができ、彼らがそうした反応を示してくれたことは、本当によかったです」

──この映画は『ラ・ラ・ランド』とかなり違います。70年代か80年代の名作映画を観ている気がしました。それに、戦争映画のような印象も受けました。

チャゼル「そうですね」

──それはなぜでしょうか?どの辺がそうした印象を与えるのでしょうか?

チャゼル「数々の戦争映画を観ましたし、これまでのSF映画で描かれてきた宇宙よりも、”戦車や第二次大戦中の潜水艦が宇宙に行った”ような感じを出したかったのです。ドキュメンタリーやアーカイブ映像はたくさん研究しましたが、それ以外の宇宙を扱った映画はあまり観すぎないようにして、他からインスピレーションを得るようにしました。宇宙に関するドキュメンタリーだけでなく、当時のドキュメンタリー、家族のドキュメンタリーなど、いろいろなものをお互い見せ合いましたよ。もちろん『U・ボート』(81年)などの一部の戦争映画も話題に上りましたし、家族関係を描く作品としてテレンス・マリックやイングマール・ベルイマンの映画など、幅広く様々なものを参考にしました。宇宙と関係のないものがほとんどでしたね」

──ニールはいわば兵士だったのですね。

ゴズリング「そうですね、彼は朝鮮戦争を経験していますし、強い愛国心のある人物でした。そして国家に必要とされ、その使命を見事に果たしたわけです」

──ニールの感情を微妙な表情の変化などだけで演じる必要があったわけですが、彼の人間らしさはいかにして表現したのでしょうか?

ゴズリング「私にとっては挑戦でしたよ。観客との繋がりをつくるために、彼の人物像を変えてしまうようなことをしたくはありませんでしたからね。ですが、彼の家族や友人の助けにより、彼は根本的にどんな情緒性を持つ人物だったのか、詳しく知ることができました。それにデイミアンは、表情の変化が伝わる程の寄りのカットで撮影したので、感情的にも物理的にも、ニールの辿った旅を追うことができたのだと思います」

──月への出発前、ダイニングテーブルでニールが息子たちに話をするシーンがありますが、映画を観た彼らはどのような反応を示しましたか?

チャゼル「あのシーンの大部分は、彼らの記憶から再現されたもので、おかげでニールのミッションが彼らにとってどのようなものだったのか、非常に鮮明に描けた気がします。これに限らず、彼らは製作プロセスを通じて非常に協力的で、脚本の草稿を読んでくれたり、撮影現場に来てくれたりしました。彼らにはまず最初に映画も観てもらいましたし、先に述べたような反応を彼らが示してくれたのは、肩の荷が下りた感じがしました」

──アポロ11号の司令船の小さな窓から見える外の様子、空の色の変化や炎の描写などは非常に鮮明でした。どのようにして撮影したのでしょうか?

チャゼル「ほとんどは、ほぼ実寸大のレプリカを使用して撮影しました。ライアンが乗り込んで、司令船を取り囲むように設置したLEDスクリーンに窓を向けてね。なので、窓の外の描写は、グリーンバックで撮影して合成したのではなく、実際にスクリーンに映されていたものです。ライアンは、完成版の映画にあるような風景を、撮影時に見ていたわけです。火の描写も本物で、実際に窓の外で火炎放射器を使いました。なるべくリアルな要素を使って表現しようとしました。機体を実際に揺らしていたので、中にいたライアンは揺れているフリをしなくて済みましたしね」

──CG技術が発展している中で、なぜそこまでリアルな描写にこだわったのでしょうか?

チャゼル「わずかですが、その違いがわかってしまうからです。どんなに素晴らしいCGでも、作り物感が残ってしまうのは否めず、この映画にはふさわしくありませんでした。もちろんこの映画では、先ほど話したLEDスクリーンに映した映像のように、それなりの量のCGを使っていますが、その映像を16ミリカメラで撮っていたわけです。揺れる機体の汚い窓ごしにね。なので、デジタルだったものも、フィルムに記録されるまでにアナログになっていました。これが、私たちがこの映画全体に与えたかったトーンで、60年代に作られてもおかしくないと思う映画であってほしかったのです」

──技術面で最も困難だったことはなんでしょうか?

チャゼル「たった今話したことですね。よく覚えているのが、映画冒頭のライアンのX-15のフライトのシーンの撮影初日。あのシーンの1/3を初日に撮り終える予定だったのですが、あらゆることが上手くいかず、実際には全く撮影できませんでした。翌日もほとんど状況は変わらず、その後はずっと遅れを取り戻そうとしていました。撮影では、映画序盤のいわゆるドラマのシーンをまず撮って、その後にスタジオに入ったのですが、撮影セットがあった時のリアルさや新鮮味を維持したまま、技術的に非常に手の込んだ撮影に移行するのは、特に難しかったです」

──コックピットでは無数のボタンがありますが、どれを押せばいいのか、迷ったりしませんでしたか?

ゴズリング「いつも迷っていましたよ(笑)。それぞれのミッションの撮影では、実際にそのミッションに携わった技術者が現場にいて、イヤホン型の無線を通じて指示を出してくれました。もし私の手が変な位置にあったり、緊急脱出ボタンを押しそうになっていたらね(笑)。耳元に彼らがいてくれたことは非常によかったですし、私からマイクを通じて話すことも出来たので。機体の中には何時間もいましたが、とてもおもしろい撮影手法でしたよ」

──機体の制御を失いスピンするシーンもありましたが、いかがでしたか?実際に恐怖を感じたりしましたか?

ゴズリング「すごく好きでした。特等席をもらった感じで、ほとんどが本当に楽しい時間でした。誰も私に話しかけてこなかったし、私から誰かに話す必要もなかったし。話をしたくない気分になると、ヘルメットのバイザーを下ろすだけでよかったので、最高でした。恋しいです」

チャゼル「だからライアンはニール・アームストロング役にぴったりなんですよ(笑)」

Photo: Kazuhiko Okuno

──あなたたちがこの映画について初めて会話したとき、デイミアンは「ミッション遂行」の映画だと表現し、ライアンは「喪失」「犠牲」の映画と話したそうですね。

ゴズリング「どちらがどちらと言えるものではなかったと思います。これは非常に奥深く複雑なテーマで、映画化に値する解釈の仕方がいくつもあると思います。リサーチ段階で、お互いに発見したものを持ち寄ってデイミアンのビジョンに当てはめたり、直接的に映画では使えなくても、クリエイティブ面で参考にするのが面白かったです。俳優としてはもちろんですが、父親として、家族面のストーリーには特に心を動かされましたし、繋がりを感じました。それから、デイミアンにははじめから、ミッションの撮影の仕方、宇宙空間のリアルを追求した表現、コックピットに座って月へ連れて行くような感じを観客に与えることに、こだわりがありました。またこの物語では、宇宙飛行士は極端に異なる2つの状況に置かれていて、ロケットのてっぺんに縛られて宇宙に飛ばされ探検するかと思えば、家に帰ると、ゴミを出したりプールを掃除したりするわけです。地球を離れても残された家族の生活は続くという、いわば2つの世界が同時に存在する中で、この2つの適切なバランスを探るのは、とてもワクワクするチャレンジでした」

──月面着陸はアメリカでは未来の象徴であったのとは対照的に、作中では反対派の姿も描かれていますね。

チャゼル「あまり知られていませんが、実際に議論が起こっていたのです。私もはじめは知らなかったのですが、60年代当時、アメリカ国民が宇宙開発を優先すべきと一様に考えていたという認識は間違っているのです。議論の内容を実際に見てみると、特にコスト面で非常に説得力のある主張がありました。金銭的コストだけではなく、人的コストという面で。映画で取り上げるだけの価値のあることだと思いました。それから、ライアンが見つけたギル・スコット・ヘロンの「ホワイティ・オン・ザ・ムーン」という曲は、当時の宇宙開発プログラムにまつわる論争を、非常に説得力のある形でひとつの曲にまとめていて、映画のほとんどは、宇宙開発に沸くヒューストンが舞台となりますが、その”蚊帳の外”では、それほど熱狂していないアメリカも存在していたという当時を描く切り口になりました」

──月面着陸時の有名なニールの言葉についてですが、なぜ彼は「アメリカにとって」ではなく「人類にとって」と言ったのだと思いますか?

ゴズリング「ニールが語ったあらゆる言葉の背景を、私は知っているフリをするつもりはありませんが、ミクロとマクロ、両方の視点から同時に物事を見る素晴らしい才能が彼にはあったのだと思います。彼は、「小さな一歩」に「偉大な飛躍」を見出すことができたのですから。祖国の代表であると同時に、人類の代表であったことを、彼は認識出来ていたのです。ユニークな視点を持った聡明な人物で、その言葉(”これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である”)は歴史上最も有名な言葉の一つではありますが、彼はほとんど考えることなく発したそうです。月面に着陸したとき、彼は何を言おうか特に考えていなかったそうですが、この言葉は、彼自身について一切触れていないのに、非常に彼らしい言葉でもあるのが、興味深く思います」

──米国公開時に、アメリカ国旗について論争が沸き起こりましたが、これは予期していましたか?

ゴズリング、チャゼル同時に「いいえ」

チャゼル「この映画から沸き起こりそうなあらゆる議論について事前に考えていましたが、”ポールが地面に刺さること”にあれほど人々が固執するとは思っていませんでした。私は国旗が月に立っていることが大事だと思っていましたし、アメリカ国旗が月面に独りで立っているのは、印象に残ると同時に興味深い、画的に美しい描写だと思いました。でも、実際にその国旗が地面に打ち込まれる瞬間を人々が見る必要があったというのは、私にとって驚きでした。今日でも人々が月面着陸に対し強い感情を抱いているのは素晴らしいことだと、ポジティブに捉えるようにしています」

──ベネチア国際映画祭でのプレミア上映後、アメリカ公開前に本編の一部を編集したという噂がありましたが、実際のところどうなのでしょうか?

チャゼル「その噂は他の方にも指摘されましたが、特に編集はしていません。ベネチア後、トロントでの上映前に、IMAXバージョンを製作したのですが、その際に、撮影機材が映り込んだりしないよう、月面シーンの一部をリフレームする必要があったので、それが誤解を招いたのかもしれません。月面での画像の1,2枚だけで、編集は行っていません」

──ありがとうございました。

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『ファースト・マン』(原題:First Man)

監督/デイミアン・チャゼル
出演/ライアン・ゴズリング、クレア・フォイ、ほか
脚本/ジョシュ・シンガー
原作/「ファーストマン:ニール・アームストロングの人生」(ジェイムズ・R・ハンセン)
全米公開/2018年10月12日

日本公開/2019年2月8日(金)全国ロードショー!
配給宣伝/東宝東和
©Universal Pictures and DreamWorks Pictures
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