『グッドワン』監督オフィシャルインタビュー&本編シーン映像が到着!
- Fan's Voice Staff
第96回ナショナル・ボード・オブ・レビュー新人監督賞を受賞した『グッドワン』の本編シーン映像とインディア・ドナルドソン監督のオフィシャルインタビューが到着しました。
17歳の少女サムは、父クリスと彼の旧友マットとともに、ニューヨーク州キャッツキル山地へ2泊3日のキャンプに出かける。几帳面で支配的な父、人生に行き詰まる友人、そして二人のあいだで静かに空気を読み続ける娘。穏やかな自然の中で繰り広げられるささやかな会話と沈黙の時間のなかで、サムは“大人の不完全さ”に気づき、自分の内に芽生える違和感と向き合っていく──。
到着した映像は、3人が山へ向かう車内で過ごすひとときを切り取ったもの。ガールフレンドとメッセージでやり取りをしているサムの前で、離婚や結婚、家族との関係について語り続けるクリスとマット。その会話を、サムは意図せず聞く立場に置かれ、やがてマットから意見を向けると、「相手の気持ちを考えてみたら?」と応じるサム。途中、クリスのスマートフォンに仕事の連絡が入ると、サムに返信の代理を依頼。「電話すれば?」と提案するサムに、「了解」とだけ返すよう指示するクリス。大きな事件が起こるわけではなくとも、冗談めいたやり取りの積み重ねの中で、大人たちの価値観や距離感が浮かび上がり、その様子が淡々と映し出されていく場面となっています。

監督は、名匠ロジャー・ドナルドソン監督の娘としても知られるインディア・ドナルドソン。以下、日本公開に向けたオフィシャルインタビューが到着しています。
──脚本を書き始めたころ、どんな感情がいちばん強く動いていましたか?この映画の源泉にある気持ちを、改めて聞かせてください。
自分の若い頃のことをたくさん考えていました。もし今の自分が17歳の頃の自分に話しかけて、少しでも安心させてあげられたらいいのに、って。だからこの映画は、ある意味“彼女”のために書き始めたんだと思います。17歳だった頃の私。そして、その先の人生がどれくらい大きく変わるのか、まだ何も知らなかった頃の“自分”宛に。
──言葉が少ないサムですが、彼女の呼吸やまなざしからあふれる感情がとても鮮明です。制作のなかで、彼女をどのように見つめ、形づくっていきましたか?
まず、とても静かで、いろいろ内に秘めている人物をどうやって描くか、そして彼女をどうやって話の中心に沿えるかということに強く興味がありました。しかも彼女のまわりには、彼女よりずっと多くを喋る男性たちがいます。その中で、彼女の“沈黙”や“観察すること”“聞くこと”そのものを“動き”として昇華して、映画的なものにしたかったんです。
そのためには、「カメラをどこに置くか」、「シーンのどのタイミングで彼女の表情を映し出すか」が大事でした。編集段階でも常に意識していたのは、“サムの視点”を最優先にすること。彼女が周囲の言葉をどう受け止め、どう影響を受けているのかを伝えることを大切にしました。
制作過程でよく話していたのは、「台本に書かれた言葉そのものを強調しすぎない」ということです。あえて台詞をオフカメラで進めたり、話している人ではなく、“感じている側”にカメラを向けたりして、感情が表に浮かび上がる瞬間を捉えるようにしました。
そうしたさりげない演出の積み重ねによって、この物語を“サムの物語”として成立させていったんです。

──父親とその友人は不完全で、でもどこか憎めない存在です。その複雑さを描くうえで、監督が心の中で大切にしていた視点を教えてください。
私としては、「彼らのことを好きでいたい」という思いがありました。たとえ彼らがよくない振る舞いをしたとしても、彼らを書くのは本当に楽しかったのです。脚本を書いている間も、私は彼らと過ごす時間を楽しんでいましたし、観客にも「少なくとも時々は、この人たちを楽しんでほしい」と思っていました。
もちろん彼らは、観客をがっかりさせる存在ではあります。でも、もし私たちが彼らに親しみを感じて、楽しんで、彼らの弱さも感じ取ることができたなら、彼らがサムを失望させる瞬間は、より強く胸に響くはずだと思ったのです。最初からひどい人だったら、ひどい行動をとっても「まあ、そうだよね」で済んでしまいます。でも私は、「愛している人にこそ失望させられる」という部分に、より興味がありました。
またキャスティングに関しても、この2人には私が本当に大好きな俳優を選びました。実際、彼らと一緒に仕事をするのもとても楽しかったし、彼らが演じてくれたからこそ、私自身もそのキャラクターたちを愛することができました。キャスティングに依るところも大きかったと思います。
──小さな違和感を丁寧に積み重ねる演出が印象的です。俳優たちと、どんな言葉を交わしながら現場をつくっていきましたか?
俳優たちに対して一番大切にしていたのは、彼らの持ち合わせた感性で演じてもらって、それをこっちから決して咎めないことでした。彼らには、変に構えた芝居ではなく、とても自然な感覚で演じてもらうことを意識していました。
当然、物語の中には感情が大きく動く瞬間もあって、キャラクターたちは少しずつ自分の過去を私たちに明かしていきます。だから俳優たちは、そうした場面では本当にその感情を“感じる”必要がありました。でも基本的には、全員が「キャラクターとして自然体でいられる環境」をつくることを大事にしました。
特にリリー(サム役)には、この2人の男性のそばでちゃんと安心して、弱さを見せられるような空気をつくることがとても大事でした。彼女が彼らに対して心を開ける、そんな関係性が現場で自然に生まれることを一番意識していました。

──父と娘の関係を描くうえで“どうしても外したくなかった視点”はありますか?その関係の輪郭を描くうえで、監督が守り抜いた視点を聞かせてください。
たくさんありますが、まず最初に思い浮かぶのは、サムがキャンプが得意だということです。父親から全て教わったからこそ、すごく有能なのです。今では、父が彼女に多くのことを頼っている。でも私は、その彼女の“有能さ”が、父親にとって誇りである一方で、サムにとっては少し重荷にもなっている、という両面を描きたかったんです。
彼女が何でも上手にできてしまうからこそ、肉体的にも感情的にも、たくさんの責任を背負わされてしまう。そこがすごく重要でした。父親が自分の知っていること、愛していることを娘に受け渡していく、その行為自体はとても素敵なことなんですが、同時にそれは複雑さも含んでいます。というのも、私たちは必ずしも、親と同じ形でその“趣味”や“好きなもの”と向き合うわけではないからです。
たとえば、私の父も、自分の好きなものをたくさん私に教えてくれました。写真もそうですし、キャンプにも連れて行ってくれました。今でも私はそれらが大好きです。でも同時に、「自分なりのやり方」でそれをもう一度見つけ直す必要があったとも感じています。自分は何を撮りたいのか、といったように。
だから、サムとクリスの関係もまさにそうで、父親は自分の“好き”を娘に伝えようとするけれど、あくまでそれは「父のやり方」なんです。その距離感やズレを、とても大切に描きました。
──この映画には、説明せずに観客に委ねる余白があります。脚本や編集で「見せる・見せない」と決めるときの基準があれば教えてください。
それは制作のすべての段階で起こることだと思いますが、いちばん大きいのはやはり脚本の段階ですね。そこでまず、この映画がどういう土台の上に成り立つのかを組み立てていくので。
私自身がいちばん好きな映画って、「ああ、この作り手は観客を信頼してくれているな」と感じられる作品なんです。時には、あえて語らないことで、解釈の余地が広がって、そこからより深い意味を見つけられることがあると思っています。逆に、「今どう感じるべきか」「この人物は今こう思っている」とすべて説明されてしまうと、観客自身の体験が損なわれてしまうこともある。
だからこの作品では、「フラストレーションが溜まらないギリギリのところまで、できるだけ語らない」ことを意識しました。かといって、「何かを隠している」と感じさせてしまうほどにはしない。そのバランスを探りながら、観客それぞれが自分自身の体験を重ねて受け取れる余白を残したかったのです。

──脚本を書いたり、撮影を進めるなかで、ふと心に浮かんだ映画や、物語に寄り添ってくれた作品はありましたか?今回の物語づくりにどんな影響を与えたかも聞かせてください。
もう、本当にたくさんの映画がありました。ほんの一部を挙げると、まずよくインタビューでも名前が出てくるのが『オールド・ジョイ』(ケリー・ライカート監督)ですね。
あの映画は、森の中──確かオレゴン州だったと思うんですが──ごく少人数のクルーで、しかも短い日数で撮影されたと知って、どうやってあんなに親密で詩的な物語を自然の中で描いたのか、制作過程について書かれているものを片っ端から読みました。プロダクションの面でも、本当に刺激を受けました。
それから『35杯のラムショット』(クレール・ドニ監督)も大好きな作品で、人生の転換期にある父と娘の関係を描いた映画としては、これ以上ないほど素晴らしい一本だと思っています。あの作品で描かれる、関係性が少しずつ変化していく“さりげなさ”の表現には、ずっと影響を受けていました。
さらに、3人だけでバックパッキングの旅に出る映画で、そこで起きた“ある出来事”が関係性を根本から変えてしまう『ロンリエスト・プラネット 孤独な惑星』(ジュリア・ロクテフ監督)も意識していました。ある出来事が起きて、あるカップルの関係性を根本から変えてしまう物語で、それをとても簡潔で、でも驚くほど効果的な描き方をする作品だなと感じました。
ほかにも、屋外を舞台にした映画や、家族をテーマにした映画については本当にたくさん考えていました。……話たらキリがなさそうです(笑)。
──エンディングテーマのコニー・コンヴァースの「Talkin’ Like You (Two Tall Mountains)」を選曲した理由をお聞かせください。
あの楽曲に関しては、本当に音楽スーパーバイザーのテイラー・ロウリーの功績が大きいです。私たちはずっと、エンドクレジットにぴったり合う“完璧な一曲”を探していたんです。あれは、テイラーが作ってくれたプレイリストの中に入っていた曲で、最初に聴いた瞬間に、まず純粋にとても美しい曲だと思いましたし、歌詞があまりにも作品にぴったりだと感じたんです。冒頭の一節が「二つの高い山のあいだに…」というような内容で。
私はそれまでコニー・コンヴァースのことをほとんど知らなかったのですが、テイラーから彼女についていろいろ教えてもらって、ある時、彼女が忽然と姿を消したという事実を知りました。それが、この映画のテーマ、特にラストでサムが取る行動とどこか重なって感じられたんです。さらに、映画の中でも、キャンプファイヤーの場面で、かつて一緒にキャンプに行った女性が失踪した、という話が語られますよね。そうした要素とも自然に響き合っていると感じたのです。
作品作りというのは不思議なもので、感性の合った人たちとコラボレーションしていると、こうした“偶然”がたくさん起こるんですが、それは単なる偶然というより、みんなが同じ映画を作ろうとしているからこそ生まれる、意味のある兆候なんだと思っています。だからコニー・コンヴァースは、私たちにとって森の中から現実の世界へと導いてくれる、いわば“精神的な道しるべ”のような存在だったと思います。

──この作品が持つやさしさや痛みが、日本の観客にどう届くとうれしいですか?最後に、観客の方々へメッセージをお願いします。
この質問には、いつもあまり上手く答えられなくて……この答えがもしかしたら少しもどかしく感じられるかもしれないんですが、そこはごめんなさい。私はこの映画を、観客の皆さんに「こう感じてほしい」と押しつけたいというよりも、ただこの作品を差し出して、それぞれが感じた通りの体験をしてほしいと願っています。そして、その体験が何かしら心に響いてくれたら嬉しいです。
私は、この映画が他の人にとってどんな意味を持つのかを知ること自体が、今でもとても興味深くて。作品というのは、一度世の中に送り出された瞬間から、それを観た人たちのものになると思っていますし、それぞれの受け取り方や体験とともに、生きていくものだと思っています。だからこそ、日本の皆さんがこの映画をどう受け取り、どんな反応をされるのかを知るのが、とても楽しみで、すごく興味があります。
個人的な物語というのは、具体的でとても私的であるからこそ、逆により普遍的なものにもなり得ると私は信じています。なので、この映画のどこかに、日本の皆さんにとっても「どこか知っている」「少し身に覚えがある」と感じられる部分があったら嬉しいです。
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『グッドワン』(原題:Good One)
監督・脚本:インディア・ドナルドソン
出演:リリー・コリアス、ジェームズ・レグロス、ダニー・マッカーシー
2024年/アメリカ/英語/89分/2.00:1/5.1ch/カラー/日本語字幕:堀上香
日本公開:2026年1月16日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
提供:スターキャット
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
公式サイト
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