【単独インタビュー】『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』で豆原一成が体現する言葉にすることの難しさと大切さ
- Atsuko Tatsuta
豆原一成(JO1)と市毛良枝がダブル主演を務める映画『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』が10月24日(金)より公開中です。

大学生の拓磨(豆原一成)は、祖父が他界し一人暮らしをしている祖母・文子(市毛良枝)と同居することになった。文子は“若いころの夢”を叶えるため、拓磨と同じ大学に通い始める。そんな二人は、富士山が好きだった亡き祖父が遺した“謎の数式”を見つけ──。
『サイレントラブ』(24年)のまなべゆきこが脚本を手掛け、中井貴一主演『大河への道』(22年)などで知られる中西健二が監督を務める、やさしさに満ちた家族の物語。
孫の拓磨役に抜擢されたのは、JO1の最年少メンバーの豆原一成。近年、TBS日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」での好演や映画『BADBOYS -THE MOVIE-』で初主演を務めるなど、俳優としての活躍が注目される豆原が、祖母との日々のなかで夢を見つけていく、ちょっと頼りなくて優しい大学生の孫を演じきりました。
文子役には、本作で『青葉学園物語』(81年)以来44年ぶりに映画主演を務める市毛良枝。ピュアな好奇心を解き放ち、若い頃の夢だった「学び」を楽しんで世界を広げていくチャーミングな祖母をいきいきと演じています。
公開に先立ち、豆原一成がFan’s Voiceの単独インタビューに応じてくれました。

──『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』をとても興味深く拝観しました。基本的な質問になりますが、脚本を読んだ時の印象からお聞かせいただけますでしょうか。
まず、率直にほっこりするお話だと感じましたが、一方で心が踊ったというか、とてもワクワクし、引き込まれました。最後のシーンは、脚本を読んでいるだけで涙が出そうになりました。また、読みながら、拓磨という役を演じるにあたって、どういうふうにこの作品の中に存在すればいいのかなと、すぐに考え始めました。
──祖母と孫という二つの世代の交流は、映画ではこれまであまり主題になってこなかったかもしれません。豆原さんご自身は、祖父母との交流はある方ですか?
僕はおばあちゃん子でした。小さい頃から結構おばあちゃんやおじいちゃんと長く過ごすことが多かった。この作品の撮影中も、自分も昔はこんな風だったのかなと思い出したりもしました。僕は田舎育ちなので、登下校の時とかも友だちのおばあちゃんが送ってくれたりとか、そういうこともよくあったので、世代の異なる人との関わりがあったし、身近な存在でした。
──祖母役の市毛良枝さんとは、本物の家族に見えるように、準備段階で一緒に過ごしたりしたのですか?
祖母役が大ベテランの市毛さんということで、現場に入る前はとても緊張しました。市毛さんのような方の孫をどんな風に演じたらいいのだろうと心配だったのですが、現場入ってから、市毛さんと僕のマネージャー、プロデューサーと4人でご飯を食べに行ったり、撮影の合間の休憩中も楽屋で一緒にお話ししたりして、緊張が解けていきました。自分から無理に仲良くなろうとしたわけでもなく、市毛さんがとても優しい方ということもあり、自然と親しい雰囲気のある関係性が築けたのかなと思います。
(撮影後も)取材でご一緒したりもしたのですが、市毛さんと会うと撮影の頃の感覚が戻ってきて、日常のさりげない会話をさせていただくことが多くて。作品に関して深いことはまだお話しできていないのですが、改めてお話ししたいです。

──拓磨はコーヒーに魅せられますが、今回はコーヒー豆について学んだり、淹れ方を練習したりしたのですか?
僕自身、コーヒーが結構好きです。でも、知識があったわけではないし、自分で本格的にコーヒーを淹れて楽しむということではありませんでした。とりあえず、美味しく飲むという(笑)。拓磨はコーヒーが大好きな大学生で、コーヒー店でバイトしているという設定だったので、コーヒーに関する知識をある程度持っていないといけなかった。なので、専門の方に、コーヒーの淹れ方をはじめ、豆のブレンドの仕方や、ブレンドによってどのように味や風味が変わるのかという細かいことまで、いろいろと教えていただきました。コーヒーを淹れたりする時の手際の良さも大事なので、撮影期間中は毎朝、家で練習していました。おかげでコーヒーに関する理解度は結構深まったと思います。
──今でもご自身でコーヒーを淹れるのですか?
そうですね。時間がある時に、朝ちょっとコーヒーを淹れてみようかなという時はあります。

──拓磨がコーヒーを仕事にしたいと思うことは、ある意味、趣味を仕事にしているとも言えますね。一方、祖母の文子も「学びたい」という若い頃の夢を叶える。この映画では、自分の本当に好きなことをすることの大切さも描いています。豆原さんも、好きなことを職業にされていると思いますが、拓磨や文子が体現しているような生き方についてどう考えていますか?
すごく素敵だなと思います。趣味とか好きなことは、実は意外と見つけづらいのかなと思うところもあって。これがやりたい、これが好きという感情は、大人になってくるとだんだん持ちづらくなってくるような気がします。時間がないとか、いろいろなしがらみがある中で、自分が好きだと思う気持ちを貫いて、趣味の時間を持ったり、好きなことを仕事にすることは、とても素晴らしいことだと思います。やっぱり、好きなことや興味があることは、人生をちょっと楽しくしてくれる。少しの時間でも、束の間のリフレッシュになったりもしますよね。僕はそういう趣味の時間、好きなことを見つけて夢中になれる時間というのは、とても良いなと思います。
──この作品のもうひとつの素晴らしさは、いわゆる世代間の断絶という問題に関して、希望の光を与えているところです。祖父母世代も、拓磨世代も共感を持つ物語です。豆原さん自身はこの作品を通して、学んだことや得たことはありますか?
そうですね。この作品は、人が目標や夢に向かって頑張ることや、人との繋がりがそれを支えることの大切さを描いていて、本当に素晴らしいと思いました。そして何より、言葉にすることの大切さも感じました。拓磨は自分の夢について、母親になかなか言えない。けれど、「本当は俺はカフェやりたい」と言えるようになる。そういう思い一つひとつを言葉にすることによって、家族の歯車が動いていくよう思えました。言いたいこと、モヤッとしていることがあるなら、言葉で伝えることが大事だと学びました。

──コーヒーを学ぶ以外では、どのような役作りをしたのですか?
本読みの段階で監督と話している時に、「自然体」というのがキーワードのひとつだったので、よりナチュラルに演じるにはどうしたら良いかを考えました。今回は脚本をめちゃめちゃ読み込んで、拓磨にはどういう目標があるのか、そのバックボーンは何なのだろうとか、自分で様々に分析して、体に叩き込んでから撮影に臨みました。
──中西監督からはどのような演技指導や演出があったのですか?
今回は日常というか、人生のある瞬間を切り取ったような映画なので、不自然なことを見せたくないと中西監督からずっと言われていました。僕もそこが一番、お芝居をする上で難しかったし、意識していた部分でもあります。
──その“細やかな感情表現”や“自然な演技”こそ、実は演技力が必要とされますよね。このプロジェクトに挑むにあたって、一番のチャレンジだったこと、大変だったことは何ですか?
この素晴らしい俳優さんたちの中で、僕が市毛さんとご一緒にW主演で出演させていただくことこそが、最大の挑戦だったと思っています。自分の演技の出来が作品自体に影響を与えるのかと思うと、撮影中もプレッシャーを感じ続けていましたが、同時に、とても良い経験もさせていただいているという実感がありました。

──完成した映画を観た時の最初の感想は?
意外とあるようでない、日常を描いた映画で新鮮でしたし、誰もが一度は直面するであろう夢や家族についての葛藤を垣間見たような気がしました。自分で拓磨を演じたわけですが、なんとなく拓磨が可愛く見えた。俯瞰して拓磨というキャラクターを見れたというか。それが嬉しかったです。頑張った作品が出来上がったことも誇らしく、本当にたくさんの人に観てもらいたいなという気持ちでした。
──豆原さんの世代にもぜひ観ていただきたいですよね。
そうですね。20代になると、10代の頃のアグレッシブな感じを徐々に忘れて、現実を突きつけられたりする。もう無理かなとか諦めてしまうような部分が自分にもある。でも、そういう世代でもまだ挑戦して良いし、挑戦する権利もあるということが伝われば良いと思います。映画というものには賛否やいろいろな意見があるのは当然だし、その反応は気になるところではありますが、僕としてはこの作品に対して全力を注ぎ込んだので、多くの方々に観て欲しいと思います。

──豆原さんは歌やダンスでも自己表現をされていますが、ご自身にとって演技はどのような意味を持つ表現手段なのでしょうか?
演技は、普段のアーティスト活動とは全く別物ですね。普段のアーティスト活動では、いかに自分をカッコよく見せるのかを追求していくという側面がありますが、役者はその作品の中の一人として存在していなければならない。拓磨は主人公で、彼が軸となって話は進むかもしれないけれど、作品は拓磨だけで成り立っているわけではなく、周囲の人々との関係性があってこそ成り立つ。周囲にも目を配りながら、共演者の方々とキャッチボールをしながらシーンを組み立てていく。映画はそういう風に成り立っているエンターテインメントなのかなと思っています。なので、そのキャッチボールをもっともっと上手くできるようにならなければいけないと改めて感じます。
──では、お芝居に対する欲と言いますか、もっと上手く演じたい、もっと色々なことができるようになりたいという欲求が出てきたという感じですか?
そうですね。以前よりももっと頑張りたいという気持ちが、作品を重ねていく毎に出てきています。もう少しこうしたいとか、もう少しこうすればよかったなと思うことも結構あります。それはやっぱり自分にとってすごく発見だし、言ってみれば成長途中なのかなと思います。

──ご自身が出演した映画は、公開時に劇場に観に行きますか?
はい、観に行くほうです。以前の出演作の時もそうでしたが、基本的には一人で後ろの端の方で観ます。映画館のスクリーンで自分の演技を観たいというのもあります。どういう演技をしていたのかを改めて確認したり、分析したい。そして、観客の方々がどんな反応するのかも気になります。試写会で観る時より映画館で観る時の方が、その雰囲気をダイレクトに体で感じられる気がして。今回も楽しみにしています。
──もっとこうすればよかったと反省したりもする方ですか?
出来上がった作品に関しては、出来上がったものがその時の「正解」だと思います。でも、作品としては素晴らしいけれど、僕個人としてはこういうことも出来たかもしれないとか、アイデアや選択肢が増えていくという感覚ですね。

──これからさらに俳優としての活躍の場も増えていくと思いますが、ロールモデルはいますか?
好きな俳優さんは山田裕貴さんです。エモいお芝居をする方ですよね。主演以外で出演されることもありますが、その役割をしっかり担っているというか、目的がブレていない。そういうお芝居をしているのが、すごくカッコいいと思います。
Photography by Takahiro Idenoshita
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『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』
主演:豆原一成(JO1)、市毛良枝
出演:酒井美紀、八木莉可子、市川笑三郎、福田歩汰(DXTEEN)、藤田玲、星田英利、長塚京三
監督:中西健二
脚本:まなべゆきこ
音楽:安川午朗
制作プロダクション:PADMA
原案:島田依史子 「信用はデパートで売っていない 教え子とともに歩んだ女性の物語」(講談社エディトリアル刊)
原案総責任:島田昌和
日本公開:2025年10月24日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー
配給:ギャガ
公式サイト
©2025「富士山と、コーヒーと、しあわせの数式」







