Column

2025.03.16 21:00

【インタビュー】Netflix映画『エレクトリック・ステイト』でルッソ兄弟が掘り下げるテクノロジーと人間性の共存

  • Itsuko Hirai

『アベンジャーズ/エンドゲーム』のアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟による野心的なSF冒険映画『エレクトリック・ステイト』が3月14日(金)よりNetflixにて世界独占配信されています。

© 2024 Netflix.

1990年代のアメリカ、VR技術が引き起こした災害後の世界。ミシェル(ミリー・ボビー・ブラウン)は行方不明になった弟のクリストファーを探すために、どこか彼を思わせるロボットのコスモと旅に出る。道中で出会った密輸業者キーツ(クリス・プラット)と、その相棒ロボット・ハーマン(声:アンソニー・マッキー)と共に西海岸を横断することに。ユニークで個性様々なロボットの仲間たちとの出会いがある中、クリストファー失踪の背後には想像を超える巨悪の存在があることを知り──。

原作は、2018年に出版され、独特の美学と世界観でSFファンを魅了したスウェーデンのアーティスト、シモン・ストーレンハーグによる同名のグラフィックノベル。ストーレンハーグ原作の映像化では、2020年にAmazon Prime Videoで配信された『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』があり、“レトロフューチャリズム”と呼ばれる、ノスタルジアと近未来的な要素を融合させた独自のスタイルが特徴です。

Photo Credit: Paul Abell, ©2024 Netflix, Inc.

主人公のミシェル役に『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のミリー・ボビー・ブラウン、旅の同行者となるキーツ役に『ガーディアン・オブ・ザ・ギャラクシー』のクリス・プラット、さらに『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のキー・ホイ・クァン、『ブレイキング・バッド』『ベター・コール・ソウル』のジャンカルロ・エスポジートと、豪華キャストが名を連ねています。

配信に先立ち、ロサンゼルス現地時間2月24日(月)に行われたワールドプレミアに続き、監督のルッソ兄弟、ミリー・ボビー・ブラウン、クリス・プラット、キー・ホイ・クァン、そしてジャンカルロ・エスポジートがインタビューに応じてくれました。

Photo by Roger Kisby/Getty Images for Netflix

イラストレーションで物語を展開させ、視覚的なストーリーテリングで言葉よりも鮮烈にイメージを伝えるグラフィックノベル。今作もストーレンハーグ作品が持つ美しくも退廃的なイメージを見事に映像化し、今よりも少し前の世界、90年代のアメリカの風景に巨大ロボットや荒廃した産業廃棄物が共存する世界を描き出しています。

アンソニー・ルッソ監督、ジョー・ルッソ監督 Photo by Matt Winkelmeyer/Getty Images for Netflix

原作のグラフィックノベルに傾倒し、ルッソ兄弟に映画化をもちかけたのは、脚本を手掛けたクリストファー・マルクス。ジョー・ルッソ監督は、「シモンが描いたグラフィックノベルのテーマは、とても複雑な方法で、不健全なテクノロジー中毒に警鐘を鳴らしています。彼が描く幽玄的なイメージが、雄弁に語りかけてきました。そして、このメッセージに最も敏感で、最も伝えたいのは若い観客だと思いました。なぜなら、彼らは完全にテクノロジーに没頭しているから。そこで、映画のトーンを幅広い層へのアプローチにしました」

さらにジョー・ルッソ監督は今作を「最も気に入っている作品」とし、その理由を、「これは子どもたちへのラブレターなんです。私たち兄弟には合計6人の子どもがいて、私たちが育った時代とは全く異なる成長過程を歩んでいます。テクノロジーが生活の全てに侵食していて、簡単に中毒になってしまいます。朝起きて真っ先に手に取るのが携帯電話なんて、おかしな話でしょう?この映画のテーマはとても個人的で、子どもたちにとっても馴染み深いものなので、多くの人々に響くと考えました。ユーモアと心温まる部分のバランスが絶妙で、単純ではなく複雑な解決策を提示するラストが気に入っています。私がまだ若く、映画を楽しんでいた観客だった頃は、挑戦的な映画が好きでした。40年経った今でも覚えているのは、とても深く考えさせられたり、泣かされたり、感情的に揺さぶられた映画でした」と、今作に込めた思いを述べています。

クリス・プラット、ミリー・ボビー・ブラウン Photo by Matt Winkelmeyer/Getty Images for Netflix

ミリー・ボビー・ブラウンは、原作のグラフィックノベルがあったことで「映画の完成形を想像しやすかったので、役に臨む良い動機づけになりました。『こんなの見たことない!』というような作品で、絶対にこの役をやりたいと思いました。全ての映像作品にグラフィックノベルがあれば、すぐにその世界に入っていけるのに……」

クリス・プラットも、「ストーレンハーグの見事に視覚化されたアートワークによって、この作品のトーンを感じることができました。そのトーンが映画全体を通して、美しいフレームに収められています。電線に吊るされた巨大なロボットや、廃棄されたデータサーバー、そしてそれらをつなぐ電線──このデジタルとアナログの世界の組み合わせは、ディストピア、つまりロボットが支配する世界で衝突を起こします」と、グラフィックノベルの存在が、世界観を理解し役作りに活かすことが容易になったと語っています。

Cr. Paul Abell/Netflix ©2025

『ストレンジャー・シングス 未知の世界』でも80年代を舞台にしたディストピアの物語に慣れているミリー・ボビー・ブラウンは、SF作品のおもしろさを「現実からの逃避行」と説明。「私は同じようなSFぽい世界に長くいたので、原作のグラフィックノベルが描く大きな世界観に惹かれました。私がSFが好きなのは、そうした世界が実際に存在するかも、と信じさせてくれるから。ある意味、現実からの逃避行と言えるかもしれませんが」

キー・ホイ・クァン Photo by Roger Kisby/Getty Images for Netflix

監督のルッソ兄弟は『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のプロデューサーを務めた縁で、キー・ホイ・クァンとは旧知の仲。キー・ホイ・クァンは今回のドクター・アマースト役をオファーされたときも、「イエス」と即答したそう。「私はこのような大作SF映画の撮影に立ち会ったことがなかったので、子どものような好奇心で、ルッソ兄弟の作品制作を学びたいと思いました。この種の映画が大好きです。最近のハリウッドでは、このような映画は年に何本も作られませんよね。ダニエルズとも映画を作ったので、コンビ監督の現場には慣れているんですよ(笑)。ルッソ兄弟は、一人が前の席、もう一人が後ろの席に座り、二人が同時に演出をつけることはありません。その協力的なコラボレーションのプロセスを見られるだけで満足でした」

Photo by Matt Winkelmeyer/Getty Images for Netflix

マーベルスタジオ最新作『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』にも出演しているジャンカルロ・エスポジートは、ルッソ兄弟の演出をこう評します。「彼らはまさに、“素晴らしい監督”の素質を兼ね備えているような二人です。良い監督とは、自分の強みを理解し、他の人をも引き立てること。とても謙虚で、映画制作を愛しています。彼らは常に冷静でリラックスしていて、直感に忠実。余計なことは言わないし、非常に協力的です。私たちが想像するハリウッドの映画監督って、エゴがすごそうですよね。『俺はこうやる、ああやる。俺は全部わかってるんだ』みたいな。彼らは全くそうじゃない。素晴らしいエンターテインメント作品を作るという最終目標に達するためには、私たち全員がどう貢献するべきかと、本心から考えているんです」

ジャンカルロ・エスポジート Photo by Matt Winkelmeyer/Getty Images for Netflix

その『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』で主演を務めたアンソニー・マッキーは、キーツの相棒ロボット、ハーマンの声を担当。その起用理由について、アンソニー・ルッソ監督は、「アンソニー・マッキーは今までこんな役を演じたことがないだろうし、誰も彼がロボットの声をやっているなんて気づかないかもしれません。それは、彼にとって素晴らしいチャンスです。ジョーと私はアンソニーと何度も仕事をしていて、彼は映画で見せる顔だけでなく、幾通りもの色を持つ役者だと知っています。誰がアンソニーにあの役をオファーするでしょうか?役者にとっては、今までやったことのない役に挑戦できる上に、私たちは常に何か特別なおもしろいことを探しています。アンサンブル・ストーリーテリングが大好きです。ほんの小さな役でも、ほんの少しの出演時間でも、観客の記憶に残る特別な瞬間を生み出すことができると信じています」

映画全体を通じて繊細かつ力強く描かれるのは、記憶と現実の関係、テクノロジーと人間性の共存、そして喪失と再生というテーマ。技術的な完成度の高さだけでなく、人間的な温かさと希望のメッセージが、この不確かな時代に響く、非常に現代的な作品となっています。

ルッソ兄弟は、映画の配信に続き今作のゲームの開発も手掛けていると認めています。「この世界の中でもっとたくさんの物語が観たいと決めるのは観客のみなさんです。今はこの世界観をさらに深めるゲームを開発しているところで、トランスメディアの力を信じています。つまり、あるメディアで物語を語り、それを別のメディアで展開し、ユーザーがどのメディアを主なインターフェースとして選ぶかを可能にする仕組みです。原作でシモンが作り出した世界は非常に豊かなものですから、この世界で語られるべき物語はまだまだたくさんありそうです。観客のみなさんの反応を見守りながら決定を下すつもりです」(ジョー・ルッソ監督)

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Netflix映画『エレクトリック・ステイト』(原題:The Electric State)

監督:アンソニー・ルッソ&ジョー・ルッソ
原作:シモン・ストーレンハーグ
キャスト:ミリー・ボビー・ブラウン、クリス・プラット、キー・ホイ・クァン、ジェイソン・アレクサンダー、ジャンカルロ・エスポジート、スタンリー・トゥッチ
ボイスキャスト:ウディ・ハレルソン、アンソニー・マッキー、ブライアン・コックス

2025年3月14日(金)より世界独占配信