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2025.02.15 7:00

『ベイビーガール』最速試写会レポート!山中瑶子&森直人が語る、エロティックスリラーの現在地

  • Fan's Voice Staff

第81回ベネチア国際映画祭女優賞を獲得したニコール・キッドマン主演のA24製作映画『ベイビーガール』のFan’s Voice独占最速試写会が2月13日(木)に都内で開催され、上映後のトークイベントに、第77回カンヌ国際映画祭に選出された『ナミビアの砂漠』で国際批評家連盟賞を受賞した映画監督の山中瑶子と、映画評論家・ライターの森直人が登壇しました。

山中瑶子(映画監督)、森直人(映画評論家・ライター)

『ベイビーガール』のロゴ入りスウェットを着こなして登壇した山中。「観ている間は、私も一緒に翻弄されて感情をかき乱されてばかりの、ジェットコースターのような作品で面白かったです。皆さんの感想を聞きたくなる、誰かとすごく話をしたくなって盛り上がれる作品だと思いました」と感想を交えて挨拶。

1975年生まれ、オランダ出身のハリナ・ライン監督はもともと俳優として活躍し、鬼才ポール・ヴァーホーヴェン監督の『ブラックブック』(06年)に出演するなど、同監督の門下生といっても過言ではない経歴の持ち主。「誰が撮っているかによって見え方も変わる作品だと思いました」という森はその点に触れながら、本作を最初に観た時に『エル ELLE』(16年)を想起したそう。「支配と服従の権力関係を逆転させていきながら、女性の視点から描いており、(『ベイビーガール』は)それをさらに女性主体にしようとしたようにも感じました。本能と欲望のドラマを、男性ではなく女性の監督が描く、作品自体の主体のあり方を決定的に変える意図が大きかったのでは」

進行を務めた映画ジャーナリストの立田敦子は、『ナイン・ハーフ』(85年)『危険な情事』(88年)『幸福の条件』(93年)をも想起させるエロティックスリラーというジャンルに触れ、「当時これらの作品が男性目線で描かれていたことに監督が違和感をもち、そのカウンターとして、皮肉や批評も込めて『ベイビーガール』を撮ったように感じられた」とコメント。

これに対し山中は、「最近は女性監督にしか撮れないディティールがいっぱいあると実感していますが、この映画においては、サミュエル(ハリス・ディキンソン)の在り方ですよね」「サミュエルのようにかっこよく、時に女性をコロコロと転がすような余裕ある男性はなかなかいない。女性の理想が詰まったような男性像をここまで描いた映画も今までなかった。少女漫画の登場人物みたいですよね。クッキーで犬を落ち着かせるあの登場シーンは完璧で最高!」と評価。

そのサミュエルについて、立田は「バックストーリーが描かれておらず、謎のある存在でもある」と話すと、山中監督と森は、サミュエルはファンタジックな、ロミーの妄想のキャラクターでもあるのでは、という解釈を披露。立田も「今まで男性監督が描いてきた、ファムファタールやロリータのような男性視点による理想の女性像を逆転した、女性視線の理想の男性像でもあるのでは」と分析。

山中は、本作が高校生の時に観た『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(15年)の逆転にも感じたといい、森は『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』の原作者も監督も女性であることから、「あの作品も女性主体の仮想的な作品だったのかな」と振り返り、「ハリナ・ライン監督の念頭にもきっと浮かんでいた作品ではないか」と推測。その上で、「『ベイビーガール』は高尚なテーマがあるわけではなく、本能と欲望を撮りたかったという、シンプルな作品ではないかと思う」と作品のテーマに言及すると、ハリナ・ライン監督に実際にインタビューをした立田も、「監督は90年代のエロティックスリラーを観ていた時にダークな欲望に目覚めたが、当時は、女性がそういうことを考えてはいけないんだという、自身が育ってきた時代の道徳観により自ら縛られて、どこか後ろめたかったと思っていたと話していた」とコメント。さらに、それらの作品で「最終的に女性たちが不幸になる結末を迎えることが気に入らないと思っていた。自身が監督になった時には女性の視点からもっと、解放される女性を描いてみたいと話していた」と付け加えました。

さらに、親日家であるハリナ・ライン監督が泣く泣く諦めたという日本で撮りたかったラストシーンの秘話を明かすと会場は爆笑の渦に。

ハリス・ディキンソン、ハリナ・ライン監督、ニコール・キッドマン(第81回ベネチア国際映画祭にて)© Foto ASAC

続いて山中が、「女性のCEOとして、権力を持つ立場として、社会的な皮を被った自分と、本当は支配されたいという、矛盾したひとつの個体を描いている部分がすごく面白い」と本作の魅力を語ると、森も「表面的な人格と本当の自分を描いている部分が面白い」と話し、「『TAR/ター』(22年)でも描かれているが、今、社会的な成功者や権力者はクリーンであることをすごく求められる社会風潮の中で、『ベイビーガール』のロミーも社会的立場としては同じようにクリーンであることを求められながらも、自身の中の動物的なる欲望の部分を解消できないという本音の部分を描いているところが新しいと思う。#MeToo運動以降の新しい流れの中で生まれた作品であるように感じた。人間の根源に関わる欲望と、社会的な人格がどう関わるのかについては、まだあまり議論されていないようにも感じた」と語りました。

最後に、自身が監督した『ナミビアの砂漠』を「権力闘争の映画」と表現していた山中が、『ベイビーガール』もある種、権力闘争についての映画なのではと問われると、「本当にそう思いましたね。感情を繕ったり出したり、大変忙しい映画でした」と自作との共通点を語り、「女性の本音と欲望を描くという部分では、とても理解できる。バカバカしい部分もあり、思わず笑ってしまう映画だと思います。みなさんの感想が楽しみです!」と締めくくりました。

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『ベイビーガール』(原題:Babygirl)

NYで女性CEOとして、大成功を収めるロミー。舞台演出家の優しい夫ジェイコブと子供たちと、誰もが憧れる暮らしを送っていた。ある時、ロミーは一人のインターンから目が離せなくなる。彼の名はサミュエル、ロミーの中に眠る秘密の欲望を見抜き、きわどい挑発を仕掛けてくるのだ。行き過ぎた駆け引きをやめさせるためにサミュエルに会いに行くが、逆に主導権を握られ2人のパワーバランスが逆転していく──。

監督・脚本:ハリナ・ライン
キャスト:ニコール・キッドマン、ハリス・ディキンソン、アントニオ・バンデラス、ソフィー・ワイルド
2024年/アメリカ/ビスタ/5.1ch/114分/PG12/字幕翻訳:松浦美奈

2025年3月28日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか 全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト
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