News

2023.12.30 7:00

【単独インタビュー】『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』ダニー&マイケル・フィリッポウ監督

  • Mitsuo

“A24ホラー史上最高興行収入”を記録する大ヒットを遂げた、人気双子YouTuber監督が放つ“最高にブッ飛べる”憑依体験ホラー『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』が12月22日(金)に日本公開されました。

母を亡くした女子高校生がSNSで流行りの「#90秒憑依チャレンジ」に参加し、そのスリルと快感にのめり込んでしまったことから、かつてない事態に発展していく本作。2023年のサンダンス国際映画祭で上映されるや大きな話題を呼び、アリ・アスター、ジョーダン・ピール、サム・ライミ、スティーブン・スピルバーグ、スティーブン・キングらが大絶賛。世界中の配給会社がこぞって手を挙げた中、A24が北米配給権を勝ち取り、『ミッドサマー』や『ヘレディタリー/継承』を超える“A24ホラー史上最高興行収入”となる大ヒットを記録しました。

監督を務めたダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟は、オーストラリア出身で現在31歳の超人気双子YouTuber。二人のYouTubeチャンネル「RackaRacka(ラッカラッカ)」は、ブラックで尖ったコメディや、日本アニメの自家製実写版など個性的でエッジの効いた動画が高評価を集め、2015年第6回ストリーミー・アワードで国際YouTubeチャンネル賞受賞、2016年にはバラエティ誌が選んだ期待の新人に選ばれ、現在約680万人のチャンネル登録者数を誇ります。

さらに、本作の続編『Talk 2 Me』(原題)に加え、すでに『ストリートファイター』の実写映画化を手掛けることも決定しています。

日本公開に先立ち来日を果たしたダニー&マイケル・フィリッポウ監督が、Fan’s Voiceのインタビューに応じてくれました。

マイケル・フィリッポウ、ダニー・フィリッポウ

──お二人の声が本当に似ていますね。後で文字起こしをする時に迷いそうです(笑)。
ダニー そうそう、よく似た変な声(笑)。話す前にダニーと言うようにします。

マイケル 賢そうな発言は、きっとマイケルのだよ。

ダニー そんなことない!

──YouTube動画は、冒頭で一気に視聴者を惹き込むことが重要になってくるかと思いますが、この映画はキャッチーなオープニングで幕を開け、その後にしっかりドラマを描いていく形になっていますね。あなたの感覚的には、YouTube動画と比べて、この映画の執筆はどれほど違ったものだったのでしょうか?
ダニー キャラクター間の会話をじっくりと描き、僕らなりに深掘りした表現をするのは、今回が初めてでした。そうした描き方は、ずっと前からやりたいとは思っていたのですが、YouTubeだと視聴者を飽きさせてしまうのではないかと心配で、できませんでした。今回の映画でそれは絶対にやりたかったことで、ゆったりとしたシーンもありますが、常に(物語は)動きのある、進み続けるものにしました。

マイケル そう、とにかく観客を飽きさせてしまわないかが心配でした。だから映画全体の尺も90分と、始まってすぐ終わるようにしました。

ダニー もともとの尺は今より20分長かったのですが、もっと早く話が進むようにカットしました。

──どんなシーンを削ったのですか?
マイケル 主にドラマのシーンですね。キャラクター間の関係性を描いた部分とか。僕らとしては、撮っていて特に楽しかった部分ですがね…。結局のところ、物語を進めることに関係のないシーンはどんどんカットしていきました。

ダニー とある過激なホラーのシーンも、(大幅に)カットせざるを得ませんでした。2分30秒にわたり“地獄”が続くシーンだったのですが、長すぎると感じたので、15秒に削りました。

マイケル ヤバい描写がいろいろあったのですが…、ヤバすぎました(笑)

二人 (笑)

──ここ数年、尺の長い映画がさらに増えてきているように感じます。
ダニー スタジオは“イベント化”できる映画を作りたがっていると思うし、莫大な予算をかけて、現実から逃避できるような映画を作ることで、観客が映画館に来てくれると考えていると思います。でも、ホラーに関しては昔からずっと、観客によく浸透していたと思います。どんな長さのどんな規模の作品でも、劇場に足を運んでくれました。今の映画は主に、特大の予算をかけた超大作か、(小規模の)インディーズという2つに分けられるような気がします。その間の中規模作品が戻ってきてくれると、とても良いと思います。

──実際に映画を作っている時は、YouTube動画を作っている時と異なる感じがしましたか?
マイケル 僕らはあらゆることを自分でやるのに慣れていたので、ある意味では解放されました。下準備やスタント、撮影、片付けまで、本当に全部を自分たちがやっていたのが、今回はそれぞれの分野に長けたチームが参加してくれて、それぞれの技を持ち寄って彼らなりのアレンジを加えてくれるので、気が楽でした。

例えば音響デザインでは、僕が20時間かけて効果音を作る代わりに、やってくれる人がいた。作ってくれた音にコメントを付けて返すと、それに合わせた音にしてくれる。最高でした。でもマイナス面もあって…いや、マイナス面とは言えないかもしれないけれど、映画の撮影は(YouTube動画と比べて)とてもゆっくりで、時間がかかりました。大勢の人が関わっていますからね。線路で撮影するとなったら、RackaRackaなら現場に行って勝手に撮ってしまうけど、映画で撮影するには、自治体の許可、警察の許可、交通規制、道路封鎖など、大変なプロセスです。

ダニー でも、さまざまなアーティストとのコラボレーションにより一つのビジョンを実現するというのは、映画作りの素晴らしいところです。僕が映画制作で一番好きなのは、この大きなコラボレーションです。

──あなた方は過去にも映画の撮影現場での経験があると伺っていますが、今回のように大勢のクルーを指揮する経験はあったのですか?
マイケル はい。映画と比べると小規模ですが、ノルウェーでCM撮影を監督したりしました。それから、South Australian Film CorporationやScreen Australiaが、僕らが映画製作に進めるように資金を提供してくれて、5分ほどの作品を3つ作ることができました。その時も大勢のクルーがいたし、それから、40分ほどのドラマを2週間で撮ったりもしました。

ダニー 実際の撮影現場でも、自然な感じがしました。YouTubeの動画作りでもう10年間やっていた感じがして、とてもリラックスして臨めました。

──お二人の個人的な経験は、この物語にどれほど影響を与えているのですか?YouTubeでの作品と比べると、ダークな話ですよね。
ダニー 映画は可能な限り個人的なものであるべきだと思います。それが独創性を生み、あなたにしか作れないものになります。だからこの映画には、個人的なエピソードや経験がたくさん織り込まれています。

──この映画では、手をつなぐことや“繋がる”ことがテーマとなっている一方で、みんな手元のスマートフォンを見てばかりで、その場ではそれぞれが孤立しているようにも見えます。この対比は、特に意識して描きたかったものですか?
ダニー はい。何かが起きているところで、カメラの前に携帯が入り、(観客は)その画面を通して観る、というシーンもあったと思います。その場にいながらもその場にいないかのような、距離を置く一つの手段というか。現場で撮影をしている時も、自分はそこにいない感じがするというか、そこにいる人たちとの隔たりを感じます。最初にミアがパーティーに行った時も、ジョスは携帯を見ていて、ミアが話しかけようとしても、妙な距離が生まれます。SNSでは、幸せだった頃に浸ったり、他人の私生活を覗き見ることができますが、そうすると、みじめな感じもしてくるわけです。現代社会の興味深い部分ですよね。

マイケル その“繋がり”というテーマはまさに、今作の脚本で一貫して描かれていることです。繋がること、真の繋がり、偽りの繋がり──様々なレイヤーで、様々な方法で、映画に反映されています。

ダニー 脚本の初稿段階では、何がホラーの要素となるのかすらわかっていませんでした。“手”ではなく、ただの「恐い物体」でした。でも物語を通して見ると、“手”や“触れ合うこと”、“繋がり”というのが繰り返し登場するモチーフで、ホラーの要素とするのにふさわしいと感じました。

──そうやって、今回の“手”のアイディアが決まったのですね?
二人 そうです。

マイケル それに気がついたときは、「ああ、それこそこの映画のテーマだよね」と。今回のテーマを物理的に体現したもので、とても良いと思いました。

──“手”のデザインは、どのように作り上げたのですか?
マイケル コンセプトアートを作って、本当にたくさんの型を作りました。最初は「手なら簡単だな」と思っていたのですが、実際のところ、難しいんですよ。最初は真っ直ぐな形だったのですが、上手くいかず、いろんな人の、いろんな形の手を試しました。何十も。

ダニー とにかく、歴史を感じさせつつ、重みもあって惹かれるようで、絶望的な感じを出したかった。

マイケル “手”に書いてある文字は、幾度となく受け継がれてきた印象を持ってもらうため。世界中の様々な場所を辿ってきたものとして。

ダニー あの“手”には、今後の映画で展開できるような隠しごともたくさん込めてあります。特大のルービックキューブのようなものです(笑)。

──目の前で大変なことが起きているのを、自分の携帯で録画してSNSに投稿するという行動は、今の時代ではある意味では当たり前となってしまっていますが、あなた方はそうした行動に対して、批判的なのでしょうか?
マイケル 単にそういう時代なのだと思います。今、若者の映画を作るのであれば、SNSやスマートフォンなしでは作れません。それが、僕らが生まれた、僕らがわかる世界だから。今おっしゃったような描写も、若者を題材にした映画を書いたり、監督したりする時には当然出てくるものです。その是非について特に意見したかったつもりはありませんでしたが、無意識のうちにはしていたのかもしれません。

──撮影において、予期していなかった特に大きな困難は何でしたか?
マイケル 最も大きな困難は、撮影ではなくポストプロダクションで直面しました。もともと依頼していた作曲家がこの映画とは上手く合わず、ちょうど良い作曲家を探すのが本当に大変でした。

そこでの学びと言えば、もっと早くから音楽の準備を進めること。プリプロダクションの段階で、脚本を書く時からその骨格に音楽を入れ込むこと。最後のポストプロダクションの段階ではなくね。

ぴったりと合う音を見つけるのは本当に大変でした。僕らは音楽や音に駆り立てられるところが大きく、ましてや今回は初めての長編映画だったので、絶対に妥協できませんでした。次回はもっと早くから音楽に取り組むよう、心がけたいです。

ダニー 特に僕らは撮影中に編集することが多くて、数日撮ったらもう編集を始めてしまいます。音楽に合わせて編集ができると、音楽に合わせて映画を形作っていくことが出来て、本当に効果的なやり方となります。

──今回の曲選びについてもお話しいただけますか?
マイケル まず、オーストラリアの曲がたくさん入っています。ヒップホップとかね。シーアの「シャンデリア」も入っていますが、彼女は僕らが育ったアデレード出身ですし、この映画のテーマを歌った曲でもあります。

ダニー そう、「シャンデリア」はパーティーに逃避する女の子についての曲で、明るく楽しい曲調なのに、とてもダークな雰囲気があって、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』と合っていると思いました。

マイケル モンタージュのシーンには、数百曲のリミックスやラップのようなビートを聴いて、エディット・ピアフのリミックスを見つけました。とても古い曲の新たなリミックスで、このシーンにはピッタリだと思いました。新たな世代がよくわからずに昔のもので遊んでいるというのは、このシーンに出てくる若者のようです。しかも、シーンの中で若者たちは楽しんでいるようで、ヘイリーはスペイン語で泣き叫んでいたりと暗い面もあるのが、対比となっていると思います。

──あなた方の似ている部分、そして異なる部分は?
マイケル 全般的に、僕はカメラの前にいて、ダニーはカメラの後ろにいました。僕はスタントをたくさんして、ダニーがそれを撮影する。「マイケル、ちょっと車に轢かれてきて。僕はこっちから安全に撮影するから」といった具合に。それから、ダニーの方が家にいるのを好むかな。(ダニーに向かって)外に出たり旅行に行くのは、好きじゃないよね?

ダニー 車に轢かれて脳細胞が減ってしまうかもしれないからね(笑)。

マイケル 僕の方が体を動かすタイプかな。ダニーの方が賢いのかも…

ダニー そうそう。

マイケル いや、違う!

──マイケルの方が賢いんでしたっけ(笑)?
マイケル そう!でも僕はもう車に轢かれてしまっているからね(笑)。

──二人の意見が最も合わなかった部分は?
ダニー 確実に編集ですね。編集スタジオに入る段階で、僕が編集したバージョンと、マイケルが編集したバージョンと、エディターが編集したバージョンの映画があって、どれが良いかずっと言い争っていました。

マイケル 特に大きな論争になったのは、フォーリーの音量でした。動きにあわせて後からつける効果音。僕はもっと小さな音にしたかったのに、ダニーは大きくしたかった。

ダニー そう。効果音の音量だったり本当に細かな編集といった些細なことで、僕らの意見が合いませんでした。ので、二人のバージョンそれぞれの映像を、どちらが誰のかを言わずに友人や仲の良い映画関係の人に送って、どちらが良いか聞いたりしたのですが、

マイケル 誰もその違いがわからない(笑)。2フレームの違いだったりするので。

ダニー そうそう(笑)。

──最終的に完成した映画について、お二人とも満足しているのですか?
ダニー はい、とてもとても満足しています。もっと良く出来たと思うシーンはいくつもありますが、だからこそ、次作では今回の経験を踏まえて、僕らの表現をより鋭くしていけるのが楽しみです。

マイケル 僕らとしての完成度でいえば、96%くらいですね。本当に細かいことですが、音について気になるところがあったりしますが、全体としては非常に満足しています。

──お二人とも、特に音にこだわりがあるのですね。
ダニー はい。特にマイケルが。

マイケル セリフでも、別々のテイクから単語ごとに組み合わせてもらったり…音響チームは本当に申し訳なく思います(笑)。

──この映画はサンダンス映画祭で注目を集め、米国公開時には大ヒットとなりましたが、何が人々を惹きつけたのだと思いますか?
ダニー とても良い問いですね。この映画を作っている時は、どちらかといえばオーストラリアに特化したものを作っていると感じていました。でも、多くの登場人物や作品のテーマが多くの観客に届き、普遍的なものとして繋がることができたのは、とても素晴らしいことだと思います。インスタグラムでタグ付けしてくれる人もいれば、5回も6回も繰り返し観て、その度に新たな発見をする人もいます。この映画には何度も観る楽しみがあると思います。

マイケル 最初はハリウッドのスタジオと組むつもりだったのですが、クリエイティブ面でどうしても折り合いがつきませんでした。僕らにクリエイティブ面で最終的な決定権がなく、スタジオが好き勝手変えてしまえるなんていう状況は、想像もつかない。もしその道を選んだら、どれだけ違った作品になっていただろうと思います。僕らはインディーズの道を選び、自分たちが誇れる映画を作ろうと決めました。リスクはありましたが、なるようになればいい、と。だから、サンダンス映画祭に選出されたことは、とても喜ばしいことでした。どんな評価を受けるか、まったくわかりませんでしたからね。

ダニー この映画は最初にカンヌのフィルムマーケットに持って行ったのですが、その時はまだ3分のプロモ映像しかありませんでした。プロデューサーは、映画を売るのは大変なことで、2つか3つのテリトリーになら売れるかもね、と言っていたのですが、結局のところ、初期段階で全世界の80%に売ることができました。

マイケル みんな映画を観ないで買ってしまったわけです。完全なゴミ映画になったかもしれないのに(笑)。その時のプロモ映像がとても良かったんです(笑)。

ダニー 本当に予告映像だけだったから、緊張しました。誰も脚本すら読んでいないのに映画を売ってしまって。僕らの次の映画もそうなったのですがね。「脚本を読んだらどんな反応をされるだろう?良い反応だといいけど…」と。

──スタジオの話が出たのでA24の話もできればと思いますが、今回は撮影をしている時にもう、「A24の映画みたいだ」と言っていたそうですね。
マイケル 冗談でね。「そんなにショットをダラダラ長引かせるなんて、A24っぽくないよ!」とか(笑)。

ダニー サンダンスも同じようにネタにしていました。「それはサンダンスらしくないね」と。そうやって冗談を言いながら、自分たちのハードルを無理やり上げていたら、本当にA24がアプローチしてくれて、信じられませんでした。

マイケル A24は本当に名門で、いまだに自分たちがその一員になった実感がわきません。A24の監督や俳優が集まるパーティに参加したときも、「僕らはなんでここにいるんだ」という感じで、隅っこにいました。

ダニー みんな洗練されていて、賢くて。その一方で、僕らはバカだなあと。

──あなた方と話していると、ダニエルズを思い出します(笑)。
ダニー あの二人は本当に才能があって、大好きです。

マイケル そういえば、ダニエルズももともとは音楽ビデオを作っていましたね。とても良い人たちです。

──お二人から見た、“A24っぽい映画”とは?
ダニー
 芸術的で、スタジオカットではなく監督主導の、洗練された映画。本当に私的な作品が多く、それが映画を芸術的で格調高く、人々に響くものにしていると思います。

マイケル 確固たるビジョンもあります。つまり、僕らにないもの全て(笑)。

ダニー A24はアーティストを本当に応援してくれるスタジオだと思います。だから、よりパーソナルな物語ができあがる。IP目当てに人を集めるのとは真逆ですよね。

──その一方でちょうど最近、A24が著名IPやアクション作品に興味を持っているニュースがありましたね。
ダニー はい。本当に興味深いことだと思いますし、どんなものができあがるのか楽しみです。A24なら、単なる仕事として報酬目当てにやりたいと言う人ではなく、本当にその作品に共感し、大切にする人を見つけてくると思います。

マイケル 『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』についても、A24としては商業的に売ることができる作品であると同時に、A24らしいリスクを背負った映画作りであったことに惹かれたそうです。彼らが好む2つの要素が合わさっていて、とても気に入ったと。

──お二人はそうしたIP作品の監督に興味はありますか?
ダニー リメイクはやりたくない。(既存作品の)続編もやりたくない。本当に素晴らしい映画のリメイクなんて、常にプレッシャーに押しつぶされてしまいそうな気がします。それに、続編作りはよくわからない世界というか、脚本を書くには、本当に個人的なレベルでその作品に深いつながりがないといけないと思います。「死霊館」の続編を作ったりするよりも、僕らなりの“死霊映画”を作ってIPにする方が、ワクワクします。

──今作にカンガルーが印象的に登場しますが、それも個人的な経験をふまえたものですか?
ダニー はい。確か19歳の時だったか、カンガルー島という場所に連れて行かれたことがあります。ドキュメンタリーを撮るために行ったのですが、プロデューサーは、フットボールを通じて絆を深めるという合宿に来ていた子どもたちと一緒に、僕を滞在させました。この子どもたちが本当に狂っていて、ドラッグを摂取したり、互いを押さえつけて羊用の毛刈り機で頭を剃ったりしていました。そして、「“パパ”にカンガルーを見せに行こう」と言って、僕をピックアップトラックの後ろに乗せて、何百匹ものカンガルーがいる大平原を走りだしました。あんな光景は見たこともありませんでした。子どもたちは車でカンガルーを追いまわして、車から降りてカンガルーたちを襲い、ひどい暴行を加えていました。その時のカンガルーの悲痛な鳴き声が、僕の脳裏に焼き付いていて、その体験、そしてカンガルーを、映画に繰り返し登場するモチーフとするのは、とても力強い描写になると思いました。

それから、道端で動物が死んでいるというのは、ホラーの典型的なパターンなので、それをオーストラリア風に描くことにもワクワクしました。

テーマ的には、道端で苦しんでいるシーンと結びついていると思います。苦しんでいる相手を、その苦しみから“救う”べきかという道徳的なジレンマは、主人公の苦悩と関連しています。

マイケル 僕はそんなヤバいカンガルー島には行かなかったよ。

──映画中で「もう一つの手」が言及されますが、それは続編で期待できるものですか?
ダニー まだ書き終えていないので、誰にもわかりません(笑)。

マイケル 今、2つの脚本を準備しているところです。2つの異なる物語。

ダニー 2作目については、2つの別々のアプローチで模索しているところです。両方を詰めていって、どちらが強く感じられるか、ということですね。

マイケル 実は、この“手”の出どころや、これまで経てきた場所を記した長い歴史書を書き上げました。「バイブル」と呼んでいますが、今回の映画では若者たちが“手”自体に夢中だったので、ヒントを出すくらいしか触れませんでしたが、深く描いても良いかなと思っています。

ダニー “バイブル”はとても広範にわたり、若者たちが繋がってきた霊のひとつ一つについて詳しく説明されています。なぜその霊と繋がったのかも。とにかく書き続けました。

マイケル “バイブル”を書くのに夢中になりすぎて、「そろそろ脚本を書くのに戻ってくれる?」と言われたこともあります(笑)。それから、脚本の改稿の締切が来て、前回と同じ稿を提出した時もありました。「でもほら、“バイブル”ができたよ!」と言ってね(笑)。実際に映画の中で登場させることはないのに(笑)。作るのはとても楽しかったです。

ダニー 手に書かれた文字の背景とか、本当に細かなことですが、絶対に外には出しません!

マイケル いや、そのうち出すかな。

──今作で気に入っているシーンは?
ダニー
 とても小さなシーンですが、ミアが寝室で、とある人と繋がろうとするシーンです。彼女がその人に寄り添い、少しでも近づきたいとする瞬間。この瞬間は、映画の中で時間が止まったような感じがして、とても好きなシーンです。

あと、モンタージュのシークエンスもとても楽しかったし、特殊メイクの撮影もとても楽しかった。劇場で、そうしたシーンへの観客の反応を見るのは本当に楽しいです。

──映画監督になりたいという思いは、いつからあったのですか?
ダニー 子どもの頃からです。クリエイティブな仕事に就きたいと思った最初のきっかけは、R・L・スタインの「グースバンプス」シリーズでした。これだけの物語が、一人の作者から生まれたなんて信じられませんでした。様々な世界観やホラーシーンを創り出したというのにワクワクして、とても刺激されました。

マイケル 映画にまつわるあらゆることに夢中でした。おもちゃを使って映画のシーンを演じたり、ビジュアルを描いたり、あと、映画のレーティングにも夢中でした。古い映画から新作に繋がったシリーズものも大好きでした。例えば『サイコ』は、もともとは白黒だったのが、カラーになっていったので、僕らも昔っぽく白黒で撮って、その後にカラーで撮ったりしていました。

ダニー 小学校で暴力的な絵を描いて、しばらく出席できなかったこともありました(笑)。

──YouTuberとしての活動は、映画監督になるための一つのステップだったのですか?
マイケル YouTuberになりたいとは全く思っていませんでした。もともと、100本近いエピソードと5本の映画を作っていたのですが、アップロードはしていませんでした。その時々の流行りネタをイジったりしていた時に、Facebookにフェイクのハプニング動画(失敗動画)をアップロードしたら、すごい反応がつきました。YouTubeをやっている友だちが、誰が作っているのかわかるようにYouTubeにアップロードしたほうがいいよ、と言ってくれて、YouTubeチャンネルを作りました。そうしたら、1年も経たないうちに人気となりました。

ダニー 僕らのプロジェクトの資金源になって、いろいろと試せるようになりました。スタントコーディネーターを起用したり、VFXアーティストと初めて仕事をしたりして、映画監督としてのスキルを磨くことができました。

──ここしばらくは、あまりYouTubeへの投稿がないようですね…。
二人 ああ、はい、そうなんです…。

マイケル 以前はメインでYouTube動画を作り、サブで映画を作っていましたが、これからは映画作りがメインになっていくと思います。でも、今後もYouTubeにアップはしていくつもりです。熱心で最高なフォロワーが新たな動画を心待ちにしてくれているので。でも、今は映画に集中する必要があると感じているので、今後YouTubeでどのくらいの存在感を示せるかは、わかりません。

──TikTokといった、さらに尺の短い動画については、どのようにお考えですか?
ダニー インスタグラムのリールクリエイターやTiktokクリエイターの中には、本当に賢くて面白い人がいると思います。次のクリエイティブを見ることができるというか、今まさにスタートラインにいる映像作家を見ることができる。ただ短い動画を適当に作っているのではなく、多くの手間をかけて、真剣に取り組んでいるのがわかるので、とても楽しみです。

マイケル 僕らに対しても、偏見がありました。YouTuberに映画なんて撮れない、と。でも、もしあなたがストーリーテラーなのであれば、あなたはストーリーテラーです。どんな媒体の出身かは関係ありません。僕らが大好きな大物監督だって、もし今のSNSとYouTubeの時代で育ったなら、アップロードしていたでしょう。こうした媒体は単にアップロードするための手段にすぎません。映像作家を目指すのであれば、そうしたプラットフォームで自分のスタイルを作ればいい。だから、僕らはどんなプラットフォームも大好きです。

ダニー 世代というのは面白くて、映画の人たちはYouTuberを見下して、YouTuberはTikTokerを見下して、TikTokerはそのうち次の何かを見下して。世代の違いによるだけだと思いますが、僕はすべてのプラットフォームに期待しています。

──今後はどんな映画を作りたいですか?一緒に仕事をしてみたい俳優は?
ダニー オリヴィア・コールマン。一緒に何かできたなら、きっと素晴らしいものになると思います。

間違いなくホラー映画をもっと追求したいし、アクション大作も楽しみです。僕らはとても独特なアクションのスタイルを確立できていると思うので、それを大スクリーンに映し出すのが楽しみです。

ロマンティックコメディの脚本も書いてはあるのですが、まだ監督する勇気がありません。いつか気負いせずに作れる日が来れば…。

マイケル 僕も同じです。アクション大作は最高でしょうね。他にも12本の映画を開発中で、それぞれ進捗具合は異なりますが、どれが一番早く動き出すか。でも、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の続編は特に楽しみです。でも、その前に撮りたいものがあるから、どうなるかな。

──『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の続編は何本ほど考えているのですか?
ダニー 次の続編は僕らが作って、まだ続いて欲しいというのであれば、誰かに引き継いでもらうと思います。10本くらい作って、最後は宇宙に行ってほしい(笑)。様々な解釈もあるようなので、例えば日本の監督による『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』もあったらいいなと思います。

マイケル 頭の良い日本の監督と脚本家に、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』のストーリーをアレンジしてもらえたら、最高です。

ダニー いろいろなバージョンで世界的に広まるフランチャイズになったら最高です。

==

『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』(原題:Talk to Me)

母を亡くした高校生のミアは、気晴らしに仲間とSNSで話題の「#90秒憑依チャレンジ」に参加してみる。ルールは簡単。呪物の「手」を握り、「トーク・トゥ・ミー」と唱えると、霊が憑依する──ただし、必ず90秒以内に「手」を離すこと。ミアたちはそのスリルと快感にのめり込み、憑依チャレンジを繰り返してハイになっていくが、仲間の1人にミアの母の霊が憑依し──。

監督:ダニー・フィリッポウ&マイケル・フィリッポウ
出演:ソフィー・ワイルド、アレクサンドラ・ジェンセン、ジョー・バード

日本公開:2023年12月22日(金)丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ギャガ
© 2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia