【単独インタビュー】『SISU/シス 不死身の男』で不屈の魂を体現したヨルマ・トンミラのフィンランド愛
- Atsuko Tatsuta
伝説の兵士がナチス戦車隊を血祭りにあげてゆく北欧フィンランド発の痛快バイオレンスアクション『SISU/シス 不死身の男』が10月27日(金)日本公開されました。
第二次大戦末期の1944年、ナチスの侵攻に焦土と化したフィンランド。愛犬ウッコを連れて荒野を旅する老兵アアタミ・コルピ(ヨルマ・トンミラ)は、掘り当てた金塊を運ぶ途中で、ブルーノ・ヘルドルフ中尉(アクセル・ヘニー)率いるナチスの戦車隊に目をつけられ、追われる身に。アアタミは金塊堀に使ったツルハシ1本を武器に、多勢に立ち向かう──。
『レア・エクスポーツ 囚われのサンタクロース』(10年)やサミュエル・L・ジャクソンを主演に迎えた『ビッグゲーム 大統領と少年ハンター』(14年)などで知られるフィンランドの異才ヤルマリ・ヘランダーの最新作。フィンランドに伝わる不屈の魂を体現する“絶対に死なない”戦士を主人公にした、壮絶なバトルアクション・エンターテインメントです。
日本公開に際し、ヘランダー監督の朋友で、主人公アアタミ・コルピを演じたヨルマ・トンミラが、Fan’s Voiceのオンラインインタビューに応じてくれました。
──アドレナリン全開の凄まじい作品でしたね!ヘランダー監督とあなたは旧知の仲ですが、この屈強な主人公アアタミを演じることになった経緯から教えてください。
ヤルマリ・ヘランダーは、この映画の構想を思いついた時点で私に連絡してきました。“こういう案があるんだけど…”という感じで簡単に説明してくれて、「この役をやりたいか?」と問われ、私は「関心がある」と答えました。3ヶ月後、脚本が完成し、ミーティングをしました。肉体的にタフな役になるなと感じましたが、「喜んで、やる」と答えました(笑)。問題だったのは、現在私は演劇を中心に活動をしているので、劇場との契約でした。もし劇場以外で役者として仕事をする場合、劇場を休むことになるので半年前に許可を取らなければならなかったのですが、それも結構上手くアレンジできました。そんな感じで、すべてがトントン拍子に進み、最初に電話をもらってから1年後には撮影が終わっていました。
──アアタミ・コルピという強烈なキャラクターを演じる上で、最も魅力を感じたところは?
私が小さい頃はまだ、第二次世界大戦の退役軍人がたくさん生きていました。アアタミは、そうした男性たちを代表するキャラクターです。子どもたちが憧れていた戦争の英雄。当時は、アアタミのような精神や雰囲気を醸し出している退役軍人たちがいたのです。子どもの頃はよく理解していませんでしたが、漠然とそういう人々に魅力を感じていました。この役柄を演じるとなった時に、あの憧れていた男たちのような人物を演じるのだと、感慨深く思いました。実際に私の父も退役軍人でした。残念ながら私が4歳の頃に亡くなってしまいましたけれども。もちろん、他にも戦争に従軍した人々は周りにたくさんいましたよ。
──娯楽作品として作られていますが、その背景にあるフィンランドという国の歴史の重みも感じさせます。フィンランドは、これまでの戦争で幾度となく侵略されてきたわけですが、それでもフィンランド人は、不屈の精神を持って生き抜いてきた。そのフィンランド人の魂のようなものが描かれていますね。
アアタミは架空の人物ですが、非常に尊敬できる人物だと感じました。そういった人物を演じることは、役者としてハードルが高くなりますがね。
私が子どもの頃は、フィンランドはまだ発展途上にありました。60〜70年代、人々は今とは違う生活をしていました。私の家族は父が早くに亡くなったので、母親が子どもたちを養っていました。生活が厳しかった時期もあります。だんだんとフィンランドも経済的に発展し、生活水準が向上していき、現在はとても良い暮らしができていますが、私は、辛い時期があったことを忘れずにいたいとも思います。フィンランドが、どんな戦いをすることを余儀なくされてきたのか。その不屈の精神というか粘り強さを表現した言葉が、いわゆる“sisu”です。特に若い人たちは、戦争、とくに最近の戦争でどれだけの人々が命の犠牲を払ったのか、心に留めておく必要があると思います。
この映画が、フィンランドがかつてどんな状況であったのか、人々がどう生きてきたのかを伝えられていればと思います。特に、ドイツ軍がラップランド全域を焼き払っていったラップランド戦争。そういったことが私にとっては大切です。
──フィンランドは大変美しい国で、サンタクロースとムーミンという印象を漠然と持っていました。この映画では、ラップランドというものすごく荒涼とした土地が舞台となっていますが、この土地は、あなたにとってのフィンランドたるものを象徴していると言えるのでしょうか?
部分的にはそうだと言えます。フィンランドは南北に長い国で、森林もあります。南部に行けばまた違う風景も見られます。映画の舞台になったラップランド北部は、木があまりない荒涼とした土地ですが、戦時中という設定であることもあり、過酷さが強調されているとは思います。もちろん、国としてみれば過酷な方かもしれません。夏は短いですし、冬は厳しく、地球温暖化や気候変動の影響もあり、住むには厳しい環境だと思います。私からすると、この映画はそういったものを表現しているともいえます。また、“sisu”は、そうした厳しい環境の中から出てきた概念だと思いますし、また、“sisu”が生まれた場所でもあると思います。これが、映画で描かれている風景ですね。フィンランド人のある種、心象風景でもあるかもしれません。
──“sisu”という言葉は、あなたはどのように知ったのですか?そしてご自身では、“sisu”とはどういうものだと解釈しているのでしょうか?
“sisu”という言葉は、私が生まれたときから耳にしている言葉です。これにはいろいろな説明や定義があります。ひとつは、枯れたままの立ち木ですね。つまり、枯れた後も倒れずに立ったままの木。フィンランドにはそういった木がたくさんあります。死んだ後も倒れることがなく、そこに存在し続けているというものと私は解釈しています。
──荒涼とした土地で、アクションシーンも多く、撮影はかなり過酷だったのではないでしょうか?
過酷といえば、なんといっても天候です。強風がすごい。北極圏に近い場所ですしね。天候はすぐに変わります。太陽が出たと思うと、すぐ雨が降ってきたり。北極圏からの風は冷たく湿っているので、身体に堪えます。撮っているうちに秋から冬へと移り変わり、撮影後半では氷点下になり、雪も降りました。秋に撮影したシーンと雰囲気を変えたくなかったので、除雪しなければなりませんでした。雪は嫌いではありませんが、この映画では歓迎されませんでした。特に、撮影の最後の1週間は真冬並の気候で、厳しかったですね。吹きさらしの中で、強風に耐えなければなりませんでした。
──アアタミはツルハシを武器として使いますが、なぜツルハシだったのでしょうか?
これも、いろいろありますね。一つは、人間は自分の手元にある道具──限られた道具で、なんとかやっていく必要があるということ。実際に、かつては武器は、すべて自分の手作りでした。歴史を振り返ると、必ずしも戦うための武器で戦ったのではなく、例えば農具を武器にしたこともあります。戦うための武器を作るための資金も能力もなかったけれど、その必要もなかったということですね。例えば、ヴァイキングが略奪のために攻撃をしてきたときに、フィンランドの農民たちは斧やシャベル、クワなど、いろいろな農具で対抗しました。
──私はこの作品をアアタミと愛犬ウッコとのバディムービーとしても楽しみました。あなたは、アアタミとウッコの関係性をどのように解釈したのでしょうか?
戦争により孤独な生活を強いられている状況で、アアタミは、人間とは共に生きていきたくなかったのではないかと思います。人間は必ずしも信頼できないけれど、動物は信頼がおける友となりますよね。ということで、犬はアアタミにとって非常に大切な存在だったのだと思います。
(カメラ位置を移動し、傍らのソファーに座っていた愛犬を映し出す)
──あなたの愛犬ですか!?ウッコは、あなたが愛犬家ということで設定されたのでしょうか?
監督は、脚本を書いているときに、私にさまざまな参考写真を用意するように依頼してきました。例えば、ヒゲをちょっと伸ばして、どういうキャラクターにするかということのためにですね。それらの写真の中、このスロという私の犬が後ろで映っていました。それを見た監督は犬が良いのではないかと思いついて、ウッコが生まれました。しかも、わざわざどこかから他の犬を連れてくる必要もなく、スロは私の愛犬ですし、お互いに信頼し合っているので、スロが出演することは自然な流れでした。
──犬種はなんですか?
テリアですね。ベドリントン・テリア。
──スロさんにお会いできてよかったです。ありがとうございました!
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『SISU/シス 不死身の男』(原題:Sisu)
監督・脚本:ヤルマリ・ヘランダー
キャスト:ヨルマ・トンミラ、アクセル・ヘニー、ジャック・ドゥーラン、ミモサ・ヴィッラモ、オンニ・トンミラ
フィンランド/英語、フィンランド語/91分/R15+
日本公開:10月27日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト
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