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2023.10.13 8:00

小辻陽平監督『曖昧な楽園』11月18日公開決定!

  • Fan's Voice Staff

第36回東京国際映画祭コンペティション部門に選出された小辻陽平監督の⻑編デビュー作『曖昧な楽園』が、11月18日(土)より全国順次公開されることが決定し、ポスタービジュアルと場面写真7点が解禁されました。

交通量調査員をしながら、同居する母の介助をする達也と、宇宙基地のような巨大団地に住む植物状態の老人を世話するクラゲ──決して交わることのない生と死をめぐる2つの物語を、SF映画のような独特の雰囲気で映し出す167分のロードムービー。

無機質な都市の風景のなか、生と死をめぐる旅、そしてそれぞれの抱える家族の物語を描いたのは、これが初長編映画となる小辻陽平監督。ツァイ・ミンリャン監督をこよなく愛する小辻監督は、孤独さを抱えて生きる人々の姿を静かな筆致で映し出します。

実験的アプローチによって、監督と俳優との関係を捉え直す「曖昧で不確かな瞬間をこそ映したい」という小辻監督の信念のもと、脚本作りから演出まで「即興」を重視した手法が採用された本作。事前の打ち合わせから、リハーサル、撮影現場まで、監督と俳優たちはつねに対話を重ね、共同作業によって物語を構築。準備段階から撮影現場まで、どこまで作り手の想像を超えたものを映画に取り入れられるかという実験的アプローチであり、監督と俳優との関係性を捉え直すための取り組みでもあったといいます。

以下、著名人より称賛コメントが到着しています。

諏訪敦彦(映画監督)
あなたがカメラの前に立ってくれて、私がそれを撮影する。あなたが映画のなかに存在することの感動。他には何もいらない。ただそれだけで奇跡的なことなんだ…。映画を撮っていてそう思えた瞬間があったことを思い出した。物語ることよりも大切な瞬間がある。死んでいることと生きていることの隙間を彷徨う者たちの静止したような時間が重ねられる中で、映画は彼らが「存在すること」と出逢おうとする。交通量調査をする達也にとって無為な時間に堆積する母親の抑圧が感情に点火する瞬間が訪れるが、雨とクラゲの場合、発火する感情もないまま死に接近し、生きているものと死にゆくものとの存在の差を測定するように彼岸への道行きを開始する。彼らは孤独であり、世界と断絶した闇の中にいるのかもしれないが、『曖昧な楽園』は希望を捨てない。映画=カメラはそれが誰であれそこに写る者を決して否定しない奇跡的な装置であることをこの映画がよく知っているからだと思う。この果敢な挑戦を讃えたい。

月永理絵(ライター、編集者)
時が止まったような巨大な団地。足元でかすかに点滅する光。車が行き交う灰色の道路。まるで遠い星のどこかを映したような無機質さにまず引き込まれた。そしてそこを行き交う人々はみなぼんやりと輪郭を失っていて、なるほどこれはSF映画なのだと確信したが、その確信は間違いだったかもしれない。でもたしかにここに映るのは、どこかには存在するがどこにも存在しない場所であり、私はその曖昧さに惹かれたのだ。

やまだないと(漫画家)
現実を生きる為の非現実。哀しみのない世界を夢みて悲しみを受け入れる。

髙橋泉(脚本家)
生きていない生。死んでいない死。その曖昧な時間が見事に紡がれる。
時折り青く燃え上がり、音を立ててパチパチと弾ける。送り火を見守っている時のように、気持ちが澄んでいく。
好みを超えて食らってしまった。

小川あん(俳優)
実体を掴もうとするほど、するすると零れ落ちていく。思いを口にすると、自分の言葉じゃなくなってしまう。そんな時、内に残るのは“曖昧”な感覚。私は一生この感覚から逃れられないでいる。けれど、この映画はそんな“曖昧”が溶けていく。溶けて、音を立てず静かに消えていく。情緒の流れるところに。

仙頭武則(映画プロデューサー)
『曖昧な楽園』には映画づくりに対する真摯な姿勢が映っている。それは、小辻陽平の日々を生きる姿。

小原治(ポレポレ東中野)
生も死も、交わらない2つの物語も、翳りの中でスペクトラムに関わり合っている。

ショットの一つ一つ、その一秒一秒が、目の前からはぐれてしまった世界との関わりを取り戻そうとするかのように。

そこに映画の呼吸が生まれている。

全10,063秒。こんな呼吸を共にするために映画館の暗闇がある。

『曖昧な楽園』を映画館で味わってほしい。

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『曖昧な楽園』

交通量調査員として働く達也(奥津裕也)は、身体の不自由になってきた母(矢島康美)と、一軒家で二人暮らしをしている。夜毎、母からのトイレを報せる呼び出しブザーが鳴り、日常的な介助に応じている達也。行き交う人々の数をかぞえて記録するばかりの仕事にも、カプセルホテルで過ごす夜にも、どこにも居場所を見出せずにいる。クラゲ(リー正敏)は、顔見知りだった独居老人(トム・キラン)の部屋へ毎日のように通い、植物状態の老人の世話をしている。だが、老人の住む団地は老朽化によりもうすぐ取り壊されようとしていた。ある日、久しぶりに再会した幼馴染の雨(内藤春)を老人の部屋に案内するクラゲ。ささやかな交流を深めていくなかで、団地の取り壊し期日は迫っていく。やがてクラゲと雨は、老人を連れてバンで旅に出るが……。それぞれの抱える家族についてたどる旅の物語。

2023年/カラー/167分

日本公開:2023年11月18日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
公式サイト