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2023.09.10 6:00

第80回ベネチア国際映画祭 コンペティション部門 受賞結果

  • Fan's Voice Staff

第80回ベネチア国際映画祭の授賞式がイタリア現地時間9月9日(土)夜に開催され、23本が競ったコンペティション部門の受賞結果が発表されました。

『哀れなるものたち』ヨルゴス・ランティモス監督

最高作品賞にあたる金獅子賞は、ヨルゴス・ランティモス監督の『哀れなるものたち』が受賞。

天才外科医(ウィレム・デフォー)により胎児の脳を移植され、世慣れた男ダンカン(マーク・ラファロ)とともに愛と自由を求めて世界を旅する若き女性ベラ(エマ・ストーン)の奇想天外な物語。アラスター・グレイ著のゴシック小説を原作とした本作は、おどろおどろしい描写がありながらも、愛と性と人生の真実を探求する主人公の強烈な生き方を通じて、フェミニズムやダイバーシティといった今日的なテーマを模索します。

『哀れなるものたち』© 2023 20th Century Studios All Rights Reserved.

ギリシャ出身のランティモス監督は『聖なる鹿殺し』(17年)より英語映画を作り続けていますが、前作『女王陛下のお気に入り』(18年)に続き本作でもハリウッドメジャーのディズニーのレーベル「サーチライト・ピクチャーズ」とタッグ。ベネチア映画祭では2011年に『アルプス』で脚本賞、2018年の『女王陛下のお気に入り』で銀獅子賞(審査員大賞)を受賞し、本作でついに最高賞を手にしました。

『悪は存在しない』濱口竜介監督、大美賀均

銀獅子賞(審査員大賞)に輝いたのは、濱口竜介監督の『悪は存在しない』。カンヌ国際映画祭脚本賞、アカデミー国際長編映画賞を受賞した前作『ドライブ・マイ・カー』(21年)に続く本作は、音楽家の石橋英子とのコラボレーションにより生まれた作品。グランピング施設の開業計画に揺れる長野の自然が豊かな小さな村を巡る人間ドラマです。

小さな出来事を普遍的なテーマへと有機的に押し広げる物語構造、一言も無駄のないセリフなどの脚本を中心に、これまでの映画手法をさらに推し進めた感があり、その完成度の高さは上映後すぐに現地メディアでも話題となりました。

『悪は存在しない』© 2023 NEOPA / Fictive

村の“なんでも屋”として生計を立てる主人公・巧を演じたのは、濱口監督の『偶然と想像』や『ドライブ・マイ・カー』に制作スタッフとして参加していた大美賀均。

濱口監督の三大映画祭への参加および受賞は、初の商業長編映画である『寝ても覚めても』(18年)が第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出、次作の『偶然と想像』(21年)が第71回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞、『ドライブ・マイ・カー』(21年)が第74回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で脚本賞(大江崇允と共同執筆)を受賞しています。ベネチア映画祭には監督としては初参加となりますが、共同脚本を手掛けた黒沢清監督の『スパイの妻』(20年)が第77回で銀獅子賞(監督賞)を受賞しています。

『Me Captain』マッテオ・ガローネ監督、セドゥ・サー(Foto ASAC)

監督賞は、イタリアの巨匠マッテオ・ガローネの『Me Captain』(英題)。自由で豊かな人生を求めて、母国セネガルを離れてヨーロッパへと向かう16歳の少年の過酷な旅を描いたドラマ。ヨーロッパにおける大きな社会問題である不法移民の問題を、当事者に寄り添い娯楽大作として描いた本作は、本国イタリアのメディアで絶賛されました。また、主人公を演じたセドゥ・サーは、新人俳優賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞。

『Green Border』

審査員特別賞は、ポーランドのアグニェシュカ・ホランド監督による『Green Border』(英題)が受賞。不法に越境しようとする移民を巡り緊張が続くポーランドとベラルーシの国境地帯を舞台に、移民、兵士、移民たちをサポートしようとする活動家といった人々の視点から、その複雑な現実を描く社会派人間ドラマです。2時間半に及ぶ圧巻のモノクロ作品は、プレミア後に現地のジャーナリストたちから最も高い評価を得た作品のひとつでした。

『伯爵』Photo Credit: Pablo Larrain / Netflix © 2023

脚本賞は、チリの異才パブロ・ララインの『伯爵』。ケネディ米大統領暗殺時の妻ジャッキーに焦点を当てた『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』(16年)やダイアナ元皇太子妃の離婚を決意の瞬間を描く『スペンサー ダイアナの決意』(21年)などスター俳優を起用した英語映画も手掛けるララインが、Netflixから資金を得て、チリの軍事政権を主導したピノチェト大統領をモチーフに描く、モノクロのSFゴシックホラーです。

女優賞はソフィア・コッポラ監督の『Priscilla』に主演したケイリー・スピーニー。伝説的スター、エルヴィス・プレスリーに10代で出会い結婚したプリシラの自伝を元にした伝記映画です。女性が主人公の作品が少なめだった本年度において、国際的にはほとんど無名の新進女優が栄冠を手にしました。

『Priscilla』ケイリー・スピーニー(Foto ASAC)

『Ferrari』のアダム・ドライバー、『Dogman』のケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、『マエストロ:その音楽と愛と』のブラッドリー・クーパー、『Lubo』のフランツ・ロゴフスキなど主演男優が際立った作品が多く混戦となった男優賞を獲得したのは、メキシコの気鋭ミシェル・フランコ監督の『Memory』のピーター・サースガード。ジェシカ・チャステイン演じるソーシャルワーカーの女性と久々に再会し、それぞれに影響を与え合っていくという、メンタルヘルスに問題を抱える男性を好演しました。

『Memory』ピーター・サースガード(Foto ASAC)

受賞結果は以下の通りです。

金獅子賞

©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

哀れなるものたち』ヨルゴス・ランティモス監督

銀獅子賞(審査員大賞)

© 2023 NEOPA / Fictive

悪は存在しない』濱口竜介監督

銀獅子賞(監督賞)

Photo credit: Greta De Lazzaris

マッテオ・ガローネ『Me Captain』

男優賞

ピーター・サースガード『Memory』(ミシェル・フランコ監督)

女優賞

ケイリー・スピーニー『Priscilla』(ソフィア・コッポラ監督)

脚本賞

ギレルモ・カルデロン、パブロ・ラライン『伯爵』

審査員特別賞

Green Border』アグニェシュカ・ホランド監督

マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)

Photo credit: Greta De Lazzaris

セドゥ・サー『Me Captain』(マッテオ・ガローネ監督)

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©Lorenzo Mattotti per La Biennale di Venezia – Foto ASAC

第80回ベネチア国際映画祭

会期:2023年8月30日(水)〜9月9日(土)
開催地:イタリア・ヴェネチア
フェスティバル・ディレクター:アルベルト・バルベラ
© Asac – La Biennale di Venezia.