Column

2023.03.12 18:00

【単独インタビュー】『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート監督(ダニエルズ)

  • Mitsuo

A24史上最大のヒットを記録したミシェル・ヨー主演『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が3月3日(金)に日本公開されました。

主人公は、破産寸前のコインランドリーを経営する中国系移民のエヴリン(ミシェル・ヨー)。ボケているのに頑固な父親・ゴンゴン(ジェームズ・ホン)、いつまでたっても反抗期の娘・ジョイ(ステファニー・スー)、優しいだけで頼りにならない夫・ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)を抱え、疲弊した日々を過ごしています。

税金申告の締め切りが迫りテンパりモードなエヴリンの前に、突如“別の宇宙(ユニバース)から来た”と名乗るウェイモンドが現れ、事態は急展開。「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と驚愕の使命を受け、ワケも分からずマルチバース(並行世界)にジャンプしたエヴリンは、カンフーマスターばりの身体能力も手に入れ、全人類の命運を掛けた壮大な闘いが幕を開けます──。

世界を救うヒーローとなるエヴリンを演じるのは、最近では『シャン・チー/テン・リングスの伝説』に出演したレジェンド俳優のミシェル・ヨー。スクリーンデビューから約40年、数々のアクション作品で披露してきた堂々たる姿とは一転、本作では人生崖っぷちのコインランドリー経営者を熱演しています。

監督は『スイス・アーミー・マン』で凄まじいセンスと才能を発揮したダニエル・シャイナート&ダニエル・クワン(通称:ダニエルズ)。製作には『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』の“ルッソ兄弟”ことアンソニー&ジョー・ルッソが名を連ねています。

全世界興収は1億ドルを突破し、A24史上最大のヒットを記録中の本作。本年度アカデミー賞では作品賞をはじめ最多10部門11ノミネートを果たし、受賞に王手をかけています。

公開に先立ち、監督・脚本を務めたダニエル・シャイナート&ダニエル・クワンが、Fan’s Voiceのオンラインインタビューに応じてくれました。

ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート

──賞レースでの大躍進、おめでとうございます。アカデミー賞でも最有力候補と言われていますが、批評家や観客からのこれだけの反応というのは、想像されていたのですか?
ダニエル・シャイナート 先日も冗談で話していたのですが、撮影中は各部門のリーダーに「僕たちはオスカー映画を撮っているのではない」と念を押すことにほとんどの時間を費やしたような気がします。この映画は低予算で、質ではなく量で、ジャンル映画で……と。美術部や撮影部に、「完璧で自然な描写を目指すお金はないんだ」と常に言い聞かせなければならず、大変でした。遊び心にあふれていることが大事なんだ、と。なので、賞レースに参加していることは本当に予想外のことで、僕たちにとっても初めてのことです。とても感謝に満ち溢れた気分の日もあれば、圧倒されて、混乱でいっぱいの日もあります。

ダニエル・クワン 僕たちは、非常にパーソナルで親密であると同時に、映画館のスクリーンで観たくなるような楽しい大作映画を、自由に作ろうと考えていました。こんな映画を観たいと思っていた映画ファンのためにね。その想いが多くの人に共感してもらえたことは、とても幸運だったと思います。「映画の大好きなところを一つに詰め込んだ映画だ」と言ってくれたり、年間ベストに挙げたりしてくれていますが、本当にすごいことですし、賞にノミネートされるなんて信じられないことです。

(賞レースの)初めの頃は、どうせ僕たちは数多くの候補の一つだろうと思っていて、その頃はとても楽しかったです。今は、予想以上に評価を受けるようになってきてちょっと吐きそうですが(笑)、大丈夫です。とても楽んでいます。一気に実感が湧いたのは、ゴールデングローブ賞で監督賞の候補に入った時ですね。

シャイナート そうですね、あのリストに僕らの名前が入ったというのは…

クワン ジェームズ・キャメロン、スティーヴン・スピルバーグ、バズ・ラーマン…

シャイナート マーティン・マクドナー。彼らは皆、僕らの大きなインスピレーションです。

クワン はい、ですからとても興奮もしますが、同時に怖ろしくもあり、謙虚な気持ちにもさせられます。

 

──今お話しにあったように、この映画は本当に多種多様な要素が組み合わさって成り立っていますが、物語の開発プロセスやお二人の共同作業についてお聞かせいただけますでしょうか。
シャイナート そうですね…その話をする時は、僕たちは最初に、ミュージックビデオや短編映画を一緒に作るところから始まったという話をするのですが、その頃に、画的に自分たちがワクワクするもの、さらには、編集作業が楽しそうなプロジェクトを追い求めていくという僕たちなりのやり方を見出していきました。難しいだろうけど、ピッタリな音楽も見つけて、自分たちで何とか仕上げる、というね。その経験が、今作の執筆や開発を進める上での大きな道標となりました。今回のプロジェクトは実験的で何年もかかることはわかっていたし、音楽やサウンドデザイン、編集段階で磨きをかけて、ちょうど良いバランスにたどり着くであろうこともわかっていました。僕たちはその部分の方が、いわゆる脚本作りよりも得意だと思っているので、楽しみにしていました。

クワン というのも、だいたいの場合、ひとつのアイディアが別のアイディアを取り込み始め、さらにそれが重力のように他の要素を吸い込んでいき、手に負えない野獣のような状態にまでなってしまいます。この映画も、最初はシンプルなマルチバースアクション映画として始まりました。別のバージョンと自分とがつながり、同じ記憶と同じ力を持ちつつも同時に2箇所に存在することができたら──それが最初のアイデアでした。でもそこから、「もしマルチバースが増えすぎたら…」「無限大になってしまったら…」と考えていくうちに収集がつかなくなり、映画が崩壊しました。「なるほど、これは面白い」と思いました。

シャイナート そこで哲学的な映画にもなりましたね。

クワン そうそう、突然哲学的にもなってきた。一方で、アジア系の家族の話にしたらどうか…移民の家族にすれば非常にパーソナルで特徴のあるものになるのでは…それならミシェル・ヨーを起用するのも良いのでは…というアイディアも出てきました。そして、また少しずつ、この大きなアイデアの塊のようなものができ始めたんです。映画を観ても、まるで雪だるまのように、どんどん話が大きくなっていくように感じると思います。一番大変だったのは、アイディアを出すことではなく、そうやってどんどん出てくるアイディアを編集して、一貫性があるようにまとめ上げることでした。

──そのカオスを繋ぐ最も大きな要素は何だとお考えですか?
シャイナート やはり「家族」ですね。初期の草稿段階では、この一家に限った物語というわけでもなかったのですが、家族の一員ではないキャラクターが登場するたびに、自然と脱落していきました。そのおかげで、お祖父ちゃん、お父さん、お母さん、娘に焦点が当たり、その関係性を軸に、どこへでも話を運べるようになりました。多くの人に共感してもらえるこの家族の物語が中心にあることで、話がどこへ行っても、戻ってくることができる。そしてそれを可能にしたのは、キャストたちでした。

──移民家族の崩壊の危機と再生の物語といえば、A24では『ミナリ』がありましたが、対局にあるアプローチをしていますね。制作時に、『ミナリ』はもうご覧になっていたのですか?
クワン いいえ、『ミナリ』が公開された時には、僕らの映画はもう編集段階で…、

シャイナート ほぼ完成していました。でも陰ながら応援していました。スティーヴン(・ユァン)とは何度か会ったことがあり…

クワン 『ミナリ』は大、大、大好きです。あのエンディングは本当に美しいと思いました。ただ、生きていく中で似たような経験をしていることで、互いの物語がこだまのように響き合うということがよく起きると思います。僕たちの映画が公開される1ヶ月ほど前に『私ときどきレッサーパンダ』が公開されたのですが、それを観て、「すごい、似ているところがたくさんある」と感じたのを覚えています。似たような物語が僕たち以外のところにも存在していたというのはとても素敵なことだし、より大きな意味のあることなのだと思わせてくれました。

──移民の物語ということで、一家の会話には中国語と英語が入り混じっていたりと、その点ではリアルに描かれていますが、中国系、アジア系移民の日常を劇中に反映するというのは、大事にされた点なのでしょうか?
クワン はい、それが最も自然だと思いました。アジア系移民の家族を描くのであれば、僕自身の人生から、つまり実体験を流用すればいいと思いました。でも、アジア系コミュニティ全体に「ああ、これは私を投影している」と感じてもらえるようにしたいとも思っておらず、ただこの家族にとって最も自然な姿を描こうと思いました。そうしたら、いろいろなことが起こり続けて……先ほどアイディアの“引力”の話がありましたが、この一家らしい姿を描こうと追求していけばいくほど、マルチバースと非常に上手く結びつくところが数多く出てきました。例えば今おっしゃった言語のことも、日本語字幕ではどのように表現されているかはわかりませんが、彼らは常に言語も切り替えながら話していて、おじいちゃんのゴンゴンは広東語しか話さない一方で、エヴリンは夫と話すときは北京語で、娘と話すときは“チングリッシュ”(中国式英語)。相手によっていつも言語を使い分けるというのは、それぞれが別の世界にいて、互いに完全にコミュニケーションをとることができないということ。マルチバースの世界観に通じる感じがして、とても興味深く思いました。

それから、移民の物語というのは、分岐していく人生の物語ということでもありますよね。もし移住せずに残っていたらどんな人生を歩んでいただろう?何が起こっただろう?という話は、マルチバースの物語に完璧にフィットします。アジア系移民の物語をリアルに描こうとすることで、マルチバースの物語がさらに面白くなるという、まさにウィンウィンな関係で、非常に楽しかったです。

Photo Courtesy of A24

──ダニエル・シャイナート監督は前作『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』公開時にお話しした際、「故郷のアラバマをリアルに撮った映画を作りたかった」とおっしゃっていましたが、今回、この映画にとってのリアリティとは何なのでしょうか?
シャイナート 今回は巨大なオフィスビルで実際に撮影したので、セットだったところほとんどなく…アパートぐらいかな。ダンの祖父母のアパートを含め、たくさんの部屋の写真を参考用に集めました。映画の舞台は南カリフォルニアとして、アジア系コミュニティからできるだけ多くの人に来てもらいました。もしきちんと描けなかったらどうしようという不安はありました。『ディック・ロング〜』のインスピレーションとなったのもまさにその点だったので、今回の作品にも大きく影響しています。だから監督としては、細かなディテールまでいちいち自分で決めたいとも思いません。実体験のある人が一人でも多くチームに参加してくれれば、その方が良い。どのキャストも自身の物語をそれぞれの“選択”に込めてくれました。クルーについても、監督としては「自分は適切な人を選んで、あとはみんなを鼓舞すればいい」と思ってやっていたので、気が楽でした。

クワン それと、悪役や悪者に私たちが投影された作品を書いているときの方が、興味が惹かれます。ある意味、ジョブ・トゥパキは私たちの分身のような存在です。人々の中にある内なる悪魔を引き出して、敵の力に変えていく方がずっと面白いですね。

──『アベンジャーズ/エンドゲーム』等のルッソ兄弟がプロデューサーとして参加していますが、どのような経緯で、どんな関わりをしたのでしょうか?
シャイナート コンビの監督というのはなかなか珍しいので、互いに連絡を取り合ったりしていて、ルッソ兄弟とは『スイス・アーミー・マン』が公開された頃にお会いました。初期の脚本開発に参加してくれて、この映画をA24に売り込んでもくれました。僕たちもA24とは何度も一緒に仕事をしてきたし、今回も外には出さずいつもの“ファミリー”で進めることになりました。A24はとても協力的で、再び一緒に仕事をするのは運命的だったように感じました。

──マルチバースという概念は、劇中で説明するには複雑なところもあるかもしれませんが、最近ではMCUがこの概念を広く認知させてくれましたね。そのことが、今作におけるマルチバースの導入や描写に影響を与えた部分はありますか?
クワン 実際の描き方にどれほど影響したかはわかりませんが、マルチバースを扱うことに対する僕たちの気持ちを和らげてくれたところは確実にあります。というのも、最初に脚本を書き始めたのは、MCUでマルチバースが本格的に出てくる前、『スパイダーマン:スパイダーバース』もまだ公開されていない頃でした。この概念を自分たちの映画で一般観客に紹介することになると思っていたところ、マーベルが先陣を切ってくれて、本当に気持ちが軽くなりました。今回の映画の中でマルチバースのことを理解してもらえなくとも、事前に知識があるだろうから、きっとわかってくれるだろう、とね。

──ビジュアルエフェクトについてもお伺いしたいのですが、とあるインタビューでは「担当したのは8人」とあったり、VFXスーパーバイザーのザック・ストルツの「5人で視覚効果の80%を作業することになった」という発言も目にしました。そんな少ない人数で、どうやったのですか?
シャイナート はい、本当に小さなチームでした。ミュージックビデオを作る中で知り合った友人たちですね。ミュージックビデオを作るときは、大量の作業を…

クワン 予算もないので…

シャイナート みんな一緒に集まって、ピザを食べながら徹夜して…

クワン お互いに教え合ったり、お互いのプロジェクトやファイル等を渡し合ったりしていました。

シャイナート 今回は、「とりあえずそのやり方で始めてみよう。もしかすると後で大きな会社に依頼することになるかもしれないけど…」と言って始めてみたら、それまでのチームでとても上手くいったので、そのまま進めました。僕たち自身に視覚効果の経験が豊富にあったことで、描きたい描写の想像もついたし、撮影で、どうすれば後で面倒なことにならないのか、ということもわかって撮影することができました(笑)。

クワン そうです。僕たちは視覚効果となると本当に“面倒くさがり”なんです。なぜなら、あまり得意ではないから(笑)。一般的に、視覚効果にかかる費用を監督が理解していないことが多いように思います。その要求は大きな負荷がかかるものなのか、些細なものなのか。僕たちは、視覚効果の段階で大変になるようなことは、常に意識しながら決断しています。

シャイナート それから、この映画では写実的でリアルな描写を求めていないということも、観ていてわかるようになっていると思います。

クワン そう、完璧なものにしなくて良いというね(笑)。

シャイナート ほとんどの視覚効果は、リアリスティックに見えることを狙ったものではありません。ベーグルが、カトゥーンのように見えてもいい。結果的にとても上手くいったと思います。クリエイティブ面でも、世界中に散らばる全く知らないアーティストたちとではなく、自分たちが知っている信頼できるアーティストたちと仕事ができて、夢のようでしたね。

クワン もうひとつ、この記事を読んでいる方の中に、どうやったらこんなことが出来るのかと思っている映画制作者がいたらお伝えしておこうと思うのは、僕らは自分でビジュアルエフェクトもやれるので、誰かに頼んだ部分が上手くいかなかったり、デザインが違っていたり、指示書だけでは伝わりきらず手間取っていたら、僕らがその部分を引き取ってやってしまいます。何度もやり取りを繰り返すよりも、本当に時間の節約になります。僕らにとっては、撮影に加えてビジュアルエフェクトもやらなければならず作業量は一気に増えることにはなりますが、多くの場合はかなりの時間の節約になります。

シャイナート それにその方が、仕事量的にも少なく感じることもあります。他の人への指示書を書くのは本当に大変だし、楽しくない。それよりも「もうこっちにちょうだい、僕にやらせて、こんな風にしたいんだ」とやってしまう方が楽だったり。

クワン だから、映画監督を目指すなら、ビジュアルエフェクトを勉強しましょう。今どき、映画には必ずと言っていいほど視覚効果が入っています。カメラの使い方を学ぶようなものです。良い映画監督になりたければ、視覚効果についての理解は必須です。

シャイナート あるいは、『aftersun/アフターサン』のような本当に美しい映画を撮るという道もあります。確かあの作品は視覚効果がなかったはず……あれ、少しだけあったかな……?(注:若干名が視覚効果にクレジットされています)

──もし今作でもっと多くの制作費や制作期間があれば、ここを変えていたと思う部分はありますか?
シャイナート そうですね〜…、作曲家にはもっと多くのギャラをお渡ししたでしょうね。本当に尽力してくれましたから。

今作はなんかこう、上手くいったというか、制作費もちょうど良い規模だったと感じました。僕らとしては、以前よりもみんなにしっかりとギャラを払うことができ、とても気持ちが良かったです。というのも、インディーズ映画作りでは、困った時にいろんな人に“お願い”をせざるを得ないことがあります。あまり話題にされないことですが、十分にギャラを払えないというのは、気持ちの良いことではありません。今回の作品ではさまざまな挑戦があり、難しい決断を迫られることもありましたが、それが映画をより良いものにしてくれました。制作費にもっと余裕があったら、視覚効果に友人を雇おうとすらしなかったかもしれません。制約があったからこそ、この映画がこの形で出来ました。他になにかある?

クワン うん、わからない(笑)。正直なところ、制約があるからこそ良い。だから次の作品でもっと大きな予算があると、その使い方を考えるのが難しそうですね。

──この作品の中には『花様年華』や『2001年宇宙の旅』、『レミーのおいしいレストラン(原題:Ratatouille)』といった多くの映画等へのレファレンスがありますが、そうした部分はストーリーを作ってから入れ込んでいったのか、もともと入れたい作品があり、それに合わせてストーリーを作ったのですか?
シャイナート 『Ratatouille(ラタトゥイー)』は日本ではなんと呼ばれているのですか?

──“Remy’s Delicious Restaurant”(レミーのおいしいレストラン)ですね。
クワン ああ、それは面白いですね。

シャイナート そのジョークが他の言語にどう翻訳されるのか気になっていました。

クワン ラカクーニ…ラタトゥイー…意味がわからないよね(笑)。

シャイナート タヌカクーニという名前の、日本のタヌキにしようかと思ったりもしたのですが、そうしていたらもっと変だったでしょうね…(笑)。

クワン 意図としては、観客がどのユニバースにいるのかがすぐにわかるような、視覚的なヒントを用意することでした。そうすれば、いちいちどこにいるかを説明する必要がなくなるのでね。レファレンスをたくさん入れたかったというわけでもなく、シェフのユニバースやホットドッグのユニバース、それぞれの違いをどうやって見せていくかと考えていき、その中で具体的なレファレンスを選んでいきました。僕たちとしてもそこは楽しんだ部分ですね。

シャイナート そうしたレファレンスを入れることについては少々心配していたのですが、実生活の会話ではいろいろな本や音楽、映画についての話が当然のように出てくるので、それなしに物語を描くのも不自然なように感じました。

──ダニエル・シャイナート監督は前作『ディック・ロング〜』ではディック役を演じ、それは有名俳優に頼んでも誰もその“恥ずかしい役”を受けてくれなかったからとのことでしたが、今作でもまた、ちょっと恥ずかしい役で登場していますね。
クワン 面白いトリビアで、彼の名前は「リチャード・ロング」というんです。(注:リチャードの愛称がディック)

シャイナート ネームプレートに書いてあって。美術スタッフのアイディアでした。

二人 同じキャラクターなんです。

──ということは、この映画での出来事は『ディック・ロング〜』よりも前のことだったり…(笑)?
クワン そうかな…(笑)

シャイナート 別のユニバースかな…(笑)。僕たちが本当に気に入っているカメオ出演は、クルーやキャストが本当に楽しんで、元気をもらえた場面です。映画作りは本当に疲れるものですからね。そのお尻を叩かれる男の役も、誰がやるといいか考えていたところ、僕がやる案をプロデューサーが強く推したのだったと思います。そのシーンをミシェル・ヨーと撮るのに、相手がよくわからない会ったこともない人ではなく、彼女に何週間もずっと様々な苦労を強いてきた監督の僕だったら、仕返しになって楽しんでもらえるのはないかと。でも僕は、思ったより楽しめず、すごくストレスが溜まりました(笑)。

クワン ダニエル以外はみんな最高に楽しんでいたよ。ミシェルなんて何度もこのシーンをやり直したいと言って(笑)。

──お時間がきてしまいました。ありがとうございます。今後の賞レースでも幸運をお祈りしています。
シャイナート ありがとう。ようやく日本でも映画が公開されて、本当に嬉しいです。

クワン 日本の皆さん、待っていてくれてありがとう(笑)。

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『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(原題:Everything Everywhere All at Once)

監督/ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート
出演/ミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン、ステファニー・スー、ジェイミー・リー・カーティス

日本公開/2023年3月3日(金)TOHOシネマズ 日比谷 他 全国ロードショー
配給/ギャガ
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